【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉 作:生徒会副長
2030年9月1日の日曜日。
ランチタイムに照りつける太陽はまだまだゴキゲンで、「夏はまだまだ続くぜ!」とでも言いたげである。藤丸ベーカリーはそんな日差しから逃げてきた営業マンや観光客、午後のお仕事に向けて英気を養う会社員さん達が詰めかけて大繁盛だ。
あのライブから2日が経っているが、結局のところ街は平和そのものだ。通信障害のニュースは多少話題になったものの、ヤチヨとかぐやちゃんといろPによるライブの素晴らしさが、そのニュースを上書きしてしまった。あとは、学生の夏休みが終わるだの、新学期が始まるだのといった季節の移り変わりを告げるニュースの方が、一時的な通信障害やツクヨミの異常より世間の興味を惹くらしい。
(彩葉ちゃんもみおちゃんも、今日が夏休み最終日かぁ……)
年齢的に高校生であろうお客さん4人組を「ありがとうございました!」と笑顔で見送りながら、私はしみじみそんなことを思う。
去年には「夏休みの宿題を徹夜で終わらせるのでバイト休みたいです」なんて言った甘ちゃんも居たよねぇ。彩葉ちゃんに急遽フォローで入ってもらって事なきを得たけど。
なお、今年は問題ない。彩葉ちゃんもみおちゃんも、夏休みの宿題はもう終わらせたと言っていた。
厨房の奥ではマシュが美味しいパンを次々に焼いていき、彩葉ちゃんが厨房の手前側でドリンクや軽食を用意してくれている。みおちゃんは私と共に接客をしつつ、要所要所のサポートだ。
「はい。5番テーブルのアイスカフェラテ4つね!」
彩葉ちゃんが用意してくれたそれに、私は違和感を覚えた。だが先に指摘してくれたのは、それをまさに運ぼうとしていたみおちゃんだ。
「……酒寄先輩? 5番テーブルのお客様のオーダーはアイスコーヒー4つですよ?」
ラグったコンピューターのように、彩葉ちゃんが一瞬固まった。
「注文を受けたのは私なので間違いないです。ほら」
みおちゃんは固まっている彩葉ちゃんに伝票を見せた。
うーむ。みおちゃんも中々どうして成長したものだ。少し前のみおちゃんなら「私がアイスコーヒーとアイスカフェラテを聞き間違えたのかも……」と自信を無くしたり、気づかずに持っていてお客さんに怒られたりしているところだった。
「……ご、ごめん、みおちゃん! えーっと、あの……」
「9番テーブルと11番テーブルでアイスカフェラテが4つ要るので、持っていきますね。その間にアイスコーヒー4つお願いします!」
「あ、う、うん! 了解!」
ドギマギする彩葉ちゃんのミスを、落ち着いてみおちゃんがフォローする。今までの藤丸ベーカリーと逆の光景が広がっていた。
(うーん、いいね。この助け合い)
みおちゃんの成長は喜ばしいものだ。しかし──。
(彩葉ちゃんが確認ミス? 珍しいな……?)
アイスコーヒーを用意する手つきも、何だかぎこちない。まるで小学生のような手つきになっている。
そもそも、午前中の仕事もなんとなく違和感があった。手が乾燥でもしてるのかと言いたくなるほどお札を数えるのが遅くなっていたり、お客さんの注文を復唱するときに間違えていたり……。
やっぱりツクヨミで起こったあの異変のことを、気にしているのだろうか。『コラボライブ最高だったよー!』って話を私がしても、ぎこちない社交辞令しか返ってこなかったし。
「……こっちのサラダセットの注文、私がやるね。少しの間ならみおちゃん一人でホール大丈夫そうな雰囲気だし」
私はそう言って、スッと彩葉ちゃんのそば、厨房の一角に立った。
「……あ、ありがとうございます!」
「大丈夫、彩葉ちゃん? 疲れてない?」
返事が即答で返ってこない。まるで通信状態が悪い場所でネットを使っているかのような間があった。
「……大丈夫です!」
そう返事する彩葉ちゃんの笑顔は……
はて。かぐやちゃんのお陰で、彩葉ちゃんは本物の笑顔を見せてくれるようになったはずなんだけどな。
あの彩葉ちゃんの本当の笑顔、私は好きだったんだけどな。
(……なんでだろう)
その謎は、日中は明らかにならなかった。彩葉ちゃんが昼のラッシュの後に退勤しても。夕陽が沈んでも。
しかし──。
その日の夜、寝る直前になってから、その謎はネットニュースで解き明かされた……。
『ツクヨミに現れた超☆新星ライバー・かぐや、まさかの引退表明!? 卒業ライブは9月12日開催か!?』
翌朝になってから、私は彩葉ちゃんにメッセージで訊ねずにはいられなかった。
『おはよう、彩葉ちゃん! ネットニュースで知ったんだけど、かぐやちゃん引退しちゃうの?
昨日の仕事中も若干調子悪そうだったけど……大丈夫? 何か困ってることがあるなら相談に乗るよ!』
返信は、私がパン屋としての仕事に取り掛かるより前に来た。
『おはようございます。ご心配をおかけしてすみません。そして、今までかぐやや私を応援してくれてありがとうございました。
何も問題はありません。大丈夫です。今日の夕方からのバイトも頑張りますのでよろしくお願いします』
教科書通りの、綺麗な定型文が返ってくる。しかし明らかにおかしな点が一つあり、それは訂正しておいた。
『今日のシフトに彩葉ちゃんは入ってないよ?
大丈夫ならいいけど、明後日からまたよろしくね。相談したいことがあったらいつでも言ってね!』
『私が勘違いしてました、すみません。明後日からまたよろしくお願いします』
うん。やっぱりおかしい。
彩葉ちゃんがシフトの確認ミスをしたことなんて、今まで無かったのに。
生じたモヤモヤは頭の片隅に追いやって、私はマシュや他の従業員と一緒にパン屋のお仕事に励む。パンを焼いたり、他店にパンを卸したり。接客したり、軽食やドリンクを提供したり、仕込みをしたり……。
そうして1日の仕事が終わった、21時過ぎ。リビングで寛いでいた私の元に、彩葉ちゃんから新しいメッセージが届く。
その内容は──。
『申し訳ないです、藤丸店長。私、全然大丈夫じゃありませんでした。
かぐやの引退について、とても大事なお話があります。
今からおよそ3時間後、0時15分に、ツクヨミのミーティングスペースに来てくれませんか?
藤丸店長とマシュさんが毎朝早くからお仕事をされているのは分かっています。それでも私は、お二人に聞いて欲しいと思っています。可能であれば来て頂きたいです。よろしくお願いします。
詳しい座標と時間は──』
『分かった! 勇気を出して話す気になってくれてありがとう! 絶対行くね!』
私は即座に返信をしていた。マシュに相談するよりも早く。
そこへ、お風呂から上がったマシュが、バスタオルで髪を拭きながら入ってくる。
「先輩、お風呂空きましたよ。あと、酒寄さんからメッセージが……」
どうやらマシュにもほぼ同じ文面のメッセージが届いていたようだ。
「ごめん、マシュ。マシュに相談せずに、行くって約束しちゃった」
一瞬だけマシュの瞳孔が開いたが、すぐにマシュは穏やかな笑顔を浮かべた。
「いいえ、謝らないでください。むしろ安心しました。困っている人や苦しんでいる人には、善悪や損得を抜きにして、まずは手を差し伸べる。私は、先輩のそういうところが好きなのですから」
「うん、マシュにそう言ってもらえると嬉しいよ」
そう言ってから、改めてタイムスケジュールを考えてみる。彩葉ちゃんがどんな話をするつもりかは分からないけど、おそらく5分や10分で済む話ではないだろう。今日の就寝はけっこう遅くなりそうだね。明日に響かないようにするには……。
「彩葉ちゃんと会うまでに……仮眠は無理だけど、ちょっとリラックスするぐらいは出来るかな?」
「はい。夕食は軽めに済ませて、少しでも身体を休めてから行きましょう!」
──※──
日付が変わって数分ほど経った深夜。
私とマシュは、彩葉ちゃんが指定した座標にあるツクヨミのミーティングスペースにやってきた。見た目はヒノキの良い香りがしそうな木造の建物だが、ツクヨミは嗅覚を再現できないのでそんな香りはしない。その代わり──ではないけれど、ツクヨミではこういったスペースを無料で借りることが出来る。
私とマシュは檜で出来た襖を開け、待ち合わせ場所に入る。そこでソファーに座って待っていた一人の先客は、海をイメージした着物を羽織る銀髪の美女──。
「ぐだ子さん、マシュさん、ヤオヨロー!」
「え? ヤチヨ……さん? ヤオヨロです! ほ、ホンモノ……!?」
「ヤチヨじゃん! ヤオヨロー!」
かぐやちゃんがブラックオニキスとのKASSENのときにやっていたように、私もヤチヨとハイタッチする。ツクヨミは触感を再現できないものの、音だけは乾いた良い音を鳴らすことができた。
「ヤチヨ〜。コラボライブめっちゃ良かったよー! 感極まって泣いちゃったし、勢いそのままマシュにプロポーズしちゃった〜!」
「おぉ〜! それはそれは……いと大儀〜!」
扇を大袈裟に、どことなくいつも以上に大袈裟に振るって、ヤチヨは私たちの愛を祝福してくれているようだ。
まぁ私は彩葉ちゃんほど月見ヤチヨ道に詳しくないので、実際はいつもこんなもんかもしれない。
ふわふわとクリオネのように宙を舞いながら、ヤチヨは言う。
「静かな場所で思いを打ち明けるのも良いけど、華やかな場所で思いを伝えるのもいいよねぇ〜。ライブとか〜、花火大会とか! 華やかな光が言いにくい気持ちに背を押してくれたり、逆に楽しさが言いにくい本音を隠してくれたりするんだよねぇ〜」
「うん! マシュとパン屋さんやるのが楽しくって中々結婚とかの話は出来なかったんだけど、話せて良かったよ〜」
そんな話をしていると、檜の襖をおそるおそる開くような音がした。私が振り返ると、鹿の角を生やして……いるけれど、それ以上に目を引くモデル体型と鼻筋の通った美貌を持つ少女が、部屋に入ろうとしていた。
あーっと? かぐやちゃんの配信で見た覚えがあるな? 確か……。
「ROKAちゃんだっけ? はじめまして、ぐだ子です。彩葉ちゃんのバイト先で店長をやってます。よろしくね!」
「あー、ROKAじゃん! ヤオヨロー!」
「あ、はい……。はじめまして、ヤチヨと……ぐだ子さん」
苦笑を浮かべながら、ROKAちゃんはたどたどしく挨拶した。うーん? ちょっと馴れ馴れし過ぎたかな? 特にヤチヨが。
「ROKAさんですか。はじめまして、酒寄さんのアルバイト先の副店長、マシュです。よろしくお願いしますね」
「あ、はい。マシュ……さん? よろしくお願いします」
一方マシュは、ROKAちゃんと礼儀正しい、ビジネスのお手本のような挨拶を交わし合っていた。
「……先輩? やっぱりコレ、先輩とヤチヨさんの距離感がおかしいんですよね? まるで既知の友達に会ったかのようで……」
私とヤチヨが爆速でヤチヨと距離感を詰めたのが気になったのか、マシュがそう訊ねてくる。
「いやまぁ、ヤッチョGPTでプライベートはどうせバレてるし、かぐやちゃんが気さくに話してたから、私もこんなノリでいいかなぁって」
「ぐだ子〜。ヤッチョはこんなノリでいいよ〜。全然ウェルカーム! っていうかもう友達ってコトでいいよねー!」
「「ねー!」」
紅葉さんみたいに気難しい人とちょっとずつ仲良くなるのもいいけれど、気さくな人と一瞬で意気投合するのも楽しい。仲良しの証としてもう一回おまけで「いぇーい!」とハイタッチしておいた。
「……とりあえずぐだ子さんとヤチヨさんがコミュ力お化け同士なのは分かりました。彩葉から頼られるのも納得というか」
ROKAちゃんの呟きは……褒め言葉と受け取っておこう!
そこへ、新たに3人が堂々と入室してくる。
筋骨隆々とした赤髪の男性と、ローブを纏った落ち着いた雰囲気の男性。それに、地雷系ファッションの男の娘。
プロゲーマーグループのブラックオニキスが、3人勢揃いしていた。
「よーっす! あれ? ヤチヨちゃんも彩葉に呼ばれたクチ?」
ヤチヨの二次創作するのたのしー!
なぜなら「どんな気持ちでこの会話してんだ!」ってなるから!
お気軽に感想書いて頂ければ幸いです。