【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉   作:生徒会副長

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⑬酒寄紅葉の複製

 

 諸々の挨拶や連絡交換が終わり、ミーティングルームに最後まで残ったのは3人。

 私とマシュ、そして帝アキラだ。

 

「藤丸店長、マシュ副店長。改めて……彩葉を傍で支えてくれて……マジで感謝してる。ありがとう」

 

 穏やかな笑みで、素直に帝は礼を述べる。私たち藤丸ベーカリーとしては特別なことをしたつもりはないので、照れくさくなってしまう。

 

「支えるだなんて大袈裟な……。私たちと彩葉ちゃんは、一緒に同じパン屋さんで働く仲間ってだけです」

「えぇ。藤丸ベーカリーこそ、酒寄さんに何度助けられたことか! シフトの穴埋め、新人教育、混雑時のテキパキとした対応などなど……」

「いやぁ……ただのバイト先の上司じゃないだろ」

 

 そう言って帝は首を振るけれど、彼が否定したのは私たちが藤丸ベーカリーで彩葉ちゃんと過ごした時間のことではなかった。

 

「友達や家族はともかく、こんなファンタジーで命懸けなことに、バイト先の店長は巻き込まねぇよ、普通なら。なんならアレだろ? 従業員を自分に都合のいい空っぽな人形として使い潰す経営者なんて、世の中にいくらでもいるだろう?」

 

 それはまぁ、経営者として色々なお店を見て回ったり、判例を勉強したりして知っていることだ。従業員は労働をし、経営者はそれに賃金を払う。効率を考えれば、それ以上の中身など従業員と経営者の間に無くてもいいのだ。私はそう思っていないけどね。

 だって人間だからね。私も彩葉ちゃんも。

 そして帝も、同じ想いを持っていたようだった。

 

「ただの偶然かもしれねぇけど……俺はこの出会いに感謝してる。一人の中身のある人間として彩葉を見て、支えて、助けてくれる。そんな人と一緒に働いて縁を結べたんなら、彩葉は幸せ者だ」

 

 ふふふと、私とマシュと帝は笑みを交わす。それで緊張が和らいだのか、マシュが帝に訊ねた。

 

「あの……アキラさん? 差し支えなければ、一つお聞きしていいですか?」

「ん? なんだ?」

「どうして酒寄さんは、今まで一人で頑張ることに固執していたのでしょうか? 我々は最近まで、酒寄さんにお兄さんがいることすら知りませんでした。」

 

 確かに。緊急連絡先も紅葉さんだった。お兄さんのほうが経済的にも地理的にも緊急連絡先として良さそうなのに。

 身バレ対策だけでは説明できない気がする。

 どうも彩葉ちゃんは、敢えて自分から茨の道を選んでいるように見える。誰にも頼れないし頼れない、孤独な茨の道だ。

 

「私の目には……自立や自己実現、躾や社会経験といった域を超えているように思えて仕方ないのです。言い辛いのなら、構いませんが……」

 

 ごく一瞬、帝は目を泳がせたが……

 

「……いや、話そう。これから月の軍勢と戦ってくれる仲間なんだしな」

 

 そう決断してくれた。

 

「さて、どこから話すか……。あぁ、俺達の母さんについて、どこまで知ってる?」

 

 あぁ、やっぱり紅葉さんが全ての始まりなんだ……。マシュは一瞬目を逸らし、言葉を選んで言った。

 

「……母親としても弁護士としても、とても厳格な方、という印象です」

「あと……おもしれー女」

 

 私がそう言うと、マシュは目をぎょっとさせ、帝は大笑いしてしまった。

 

「ぷっ……ハッハハハハハハ! いやいやいや! あの母さんが『おもしれー女』はさすがにねーよ!」

「この前、楽しく電話はさせてもらったよ?」

「マジで!? いやぁ……信じられん」

 

 確かに紅葉さんと仲良くなるのは一筋縄ではいかないと思う。しかしその分、仲良くなるまでの過程や、仲良くなった後の日常を考えると、やっぱり『おもしれー女』ってことでいい気がする。

 もちろん、こんな語彙が使えるのはノリが軽そうな帝の前だから……だけどね。

 うんうんと唸りながら、帝はある人物のことを口にした。

 

「シラフでそんなことを言う奴が、父さん以外に居るとは思ってなかった……」

 

 彩葉ちゃんの、お父さん……?

 私は彩葉ちゃんとそれなりに仲良くさせて貰っているけれど、それでも彩葉ちゃんのお父さんの話はてんで聞かない。何故なら……

 

「酒寄さんのお父さんは確か……十年前に亡くなられた、と……」

 

 私とマシュがそれを知ったのは、彩葉ちゃんを雇ったときのことだ。根掘り葉掘り聞く気がなくても、それぐらいのことは親権者同意書や税金の書類などを出してもらうときに知ってしまうものだ。

 帝は、しみじみと語った。

 

「あぁ、いい父さんだったよ。名前は酒寄朝久。作曲家の仕事をしていて、優しく、俺たち家族を包み込んでくれる人だった。よく父さんと彩葉は電子ピアノやパソコンで作曲とか演奏をして遊んでてさ……。ガキの頃は、彩葉に父さんを取られたみたいで、ヤキモチしてたっけな……」

 

 そんな帝の……いや、酒寄朝日さんの言葉だけで、なんとなく、温かな家庭のイメージが頭に浮かび上がってくるようだった。

 リビングにいるときも、出かけるときも、酒寄家の中心には朝久さんがいて、家族の心を繋いでいたのだろう。厳格な弁護士の母親と、優しい作曲家の父親。それに才気に溢れ容姿端麗な兄と妹。おとぎ話のように理想的な家庭だ。

 しかし──。

 

「でも父さんが事故でいなくなってから、酒寄家は……母さんは……おかしくなっちまった。まぁ母さんは半分演技もあるかもだが……もう半分は本気(マジ)だ」

 

 そこから朝日さんは、かい摘んで話してくれた。

 元々紅葉さんは、親に捨てられた後に京都大学に現役合格するほどの女傑だったということ。しかも4人の弟や妹を養いながら。

 そんな過去を根拠に持ち出して、正論と皮肉という言葉の刃を突き立てる紅葉さん。

 一方で、あまりにも未熟で脆くて、甘くて心優しい彩葉ちゃん。

 そんな二人を見て、朝日さんは──。

 

「俺は俺なりに、父さんの代わりにやれることはやったつもりだ。母さんがヒートアップしそうになったら間に入る感じでな。彩葉を守る盾であり、母さんの刃を納める鞘。実際にやってみて、初めて父さんの苦労が分かったよ。生きてる内に、父さんの気苦労をもっと察していればよかった。俺に作曲の才能はなかったから、代わりによく彩葉とゲームをして遊んだもんさ」

「そんな生活が終わったのは……アキラさんの負担が大きすぎたせい、ですか?」

 

 マシュがそう聞くのも当然だ。友人なりバイト先の上司なりという立場なら私でもこなせそうだけど、家族として24時間365日というのは……流石に厳しいものがありそうだ。

 朝日さんは少しだけ後ろめたそうに目線をずらしてから言った。

 

「心の奥底ではそんな気持ちもあったかもだが……。そうじゃないって見栄は張りたい。いやな? そんな生活をしている内に、彩葉が俺をアテにし過ぎるようになり始めたんだ。縋るような目で俺を見てさ……」

「お兄ちゃん無しでは生きられない女の子に育ちそうだった感じ?」

 

 演劇部やらパン屋の仕事やらで人付き合いしていると、心当たりはいくらでもある。先輩に教えて貰わないと台詞一つ覚えられない後輩とか、上司の指示がないと呆然と立ち尽くしてしまう部下とか。念の為言っておくが、マシュやみおちゃんは当てはまらない。

 朝日さんが答えた。

 

「それもあるし、俺は自分や彩葉の可能性を信じたかった。優しかった父さんの思い出とか、母さんの厳しい教えとかに縛られず、俺たち兄妹は羽ばたいていけるはずだって。彩葉を守る盾じゃなく、彩葉が前へ進むための旗印になりたかったのさ」

 

 その目論見は、かぐやちゃんのお陰で成就したと言えるだろう。朝日さんが──帝アキラが敵役を演じなければ、彩葉ちゃんが殻を破ることも、かぐやちゃんがヤチヨカップで優勝することもなかっただろう。

 

「まぁ……母さんが反抗期待ちだったからとか、あの母さんと四六時中一緒にいると息苦しいからとかって理由も、そりゃ正直に言えばあるんだがな?」

「強くて逞しい一家なんですね」

 

 マシュがそう言うと、朝日さんは少しはにかんだ。

 

「まぁそこは……強い子に産み育ててくれた母さんに感謝だな」

 

 なるほど……ね。

 彩葉ちゃんは弁護士って職業だけじゃなく、親の助けを借りずに生き抜くことや、名門大学に合格することまで含めて、紅葉さんの人生をなぞろうとしてたんだ。

 

『お母さんは酒寄紅葉(じぶん)のことが好きやろ? せやったら、私が酒寄紅葉(おかあさん)複製(コピー)になれば、お母さんは私を認めてくれるやんな……?』

 

 そんな彩葉ちゃんの、幼く切ない声が聞こえてくるようだった。そんなはずはないにもかかわらず。

 その定められたレールから外れた場所に、楽しさや面白さがあるって教えてくれたのが……。

 

「かぐやちゃんと出会って、酒寄さんは成長しましたね」

 

 マシュの言葉を、私と朝日さんは穏やかな目線で肯定した。

 続けてマシュが、しみじみと話す。

 

「今しがたのように、自分の弱みを曝け出して、人に助けを乞う。それは、とても勇気や我欲の要ることですから」

「マシュも結構抱え込む方だよね。彩葉ちゃんほどじゃないけど」

 

 彩葉ちゃんが話す『お母さん語録』に、こんな言葉がある。

 

──隙を見せたらいつでも背中から撃たれる。それがこの世界の定めや。

 

 私やかぐやちゃんが無防備に背中を晒す回数に比べれば、マシュや彩葉ちゃんが背中を晒す回数は、少ないに違いない。

 

「それに対して、先輩やかぐやさんは甘え上手ですよね。私にとって先輩がかけがえのない人であるように、彩葉さんにとってかぐやさんはかけがえのない人のはずです。一緒にいると明るくなれる人と言いますか、世界の色彩を教えてくれた人と言いますか……」

 

 少し恥ずかしげにポツポツそう言うマシュは、とても可愛らしい。その可愛らしさは、人形のように完成されたものではなく、花や鳥のように、世界の豊かさを教えてくれるものだ。

 似た可愛らしさを、朝日さんも彩葉ちゃんから感じたことがあったのだろうか。遠くを見つめるような目をしてから、朝日さん──いや、最強のプロゲーマー、帝アキラが決意を込めて言った。

 

「そうだな。じゃ、もうしばらく彩葉の傍にいてくれなきゃ困るな。かぐやちゃんにはよ!」

 

 帝が握り拳を軽く突き出してくる。それに対し、私も拳をぶつけて応じる。リアルで拳を突き合わせたときとは異なる、オブジェクトと衝突した感触が、いまこの場における同盟の証だった。

 

「ぜってー勝つぞ、藤丸!」

「おう! よろしく、帝!」

 

 生まれも育ちも、性別も年齢も違うけど、帝と心で繋がることができた。ヤチヨが創りたかったのは、こういう世界だったのだろうか。

 私に続いてマシュも、帝と拳を突き合わせる。

 

「よろしくな、マシュ」

「よろしくお願いします、アキラさん。かぐやさんも彩葉さんもマスターも……全てを私の盾で、守ってみせます!」

「法螺貝もよろしくな☆」

 

 マシュの法螺貝は、一部界隈で熱狂的な人気がある。“一部界隈”に留まっているのは、本業のライバーに比べて配信頻度が低いからだ。帝はマシュの法螺貝のファンだったらしい。

 無論私も、マシュの法螺貝が大好きだ。

 

「はいっ! お任せください! マシュ・家老・キリエライト、全力で法螺貝を吹かせていただきますっ!」

「いやいや、主役はかぐやちゃんだから、いい塩梅に加減してくれ」

「はっ! そうですね! では、控えめな全力で!!」

(…………うん?)

 

 いつもマシュと一緒にいる私だから知覚できた違和感。それが、帝とマシュの会話を聞く私の胸に、小枝のように引っかかった。

 なんか今日の家老マシュ、元気過ぎない?

 例えるなら、空元気とか──。

 何かを隠して誤魔化すための演技とか──。

 

(……気の所為かな?)

 

 帝が家老マシュのファンだったから、嬉しかっただけ? 単なる照れ隠し?

 しかし後日──。

 私はこの違和感が、気の所為ではなかったと知ることになる──。

 

 




次回はいよいよアニムスフィア家とマシュの過去話!
感想お待ちしています。

書き溜めがある(設定が固まっている)ので展開予想してもいいですよー。外れても責任は取りませんが!

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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