【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉 作:生徒会副長
9月6日金曜日の深夜。私とマシュはツクヨミにログインしていた。
とある人物とKASSENのトレーニングに励んで、月の軍勢との戦いに備えるためである。
その人というのは、ツクヨミユーザーの間ではヤチヨに次ぐ知名度を持っていると言っても過言ではない殿方だ。
月に照らされた高原のフィールドで、マシュがその彼──ブラック・オニキスの帝アキラに突撃する。
「やぁぁああああっ!」
巨大な盾を鈍器のように振りかざすマシュだが、
「動きが固くて直線的ィ! 解釈違い!」
帝が持つ金棒で、その打撃は軽々と受け流されてしまう。マシュが盾に振り回され、帝に踊らされているかのようだった。
「あんたはもっと、軽やかで面白そうな感じだったはずなんだがなぁ!」
帝の言う事に思い当たる節はある。いつものマシュは足技だって使うし、盾をもっとしなやかに扱う。和風ファンタジーで出てくる巨大手裏剣……がイメージとして近いのが、普段の彼女の盾だ。
そんな様子をすぐ傍から見ている私は、大技を繰り出した後の硬直の真っ最中。だがそれももう終わり!
「いくよ、帝!」
背の低い草が生える地面を蹴り、二刀を手に、私は帝に肉薄する。
今はKASSENのトレーニングモード中で、そのトレーニング内容は『2対1で帝アキラに挑む』というもの。
かぐやちゃんと彩葉ちゃんは同じ条件で帝アキラに勝った。
なら、私とマシュだって──!
「喰らえっ!!」
マシュに致命的な一撃を叩き込もうとする帝の背中に、私は右手の刀を投げつける。
しかし帝は後ろに目でも付いているかのように、その刀をはらりと避けた。
「安易な飛び道具に頼っちゃダーメ!」
私が跳躍しながら繰り出した一刀流の斬撃と、帝がタイミングよく繰り出したパリィの動作がぶつかる────ことはなかった。
「むっ?」
帝が小さく疑問の声を上げる。
無理もない。私の斬撃が勢いよく空を切ったのだから。
パリィされると分かっていてお行儀良く攻撃してやる道理はない。
攻撃が空振りに終わった慣性をそのまま活かし、私は空中で前転するかのように、連続で回転しながら斬撃を繰り出した。
「はぁぁああああっっ!!」
猶予3フレームの、連続空中回転斬り。私のような凡才の素人は、乃依くんのような猶予1フレーム技など今更覚えられる気がしないから、猶予3フレーム技を少しでも覚えてやる!
そして今、帝にせめて一矢だけでも報いて──。
「……7回転か。アマチュアにしちゃ続いた方だな」
7連撃全てをガードしきった帝がそう呟くと、確かに8回転目は繋がらず、慣性が途絶えてしまった。攻撃終了後の硬直で動けない私に対し、帝は悠々と金棒を叩き込んだ。私のアバターが攻撃を受けて高原に転がっていく。
「ぐっ……!」
ツクヨミに痛覚は無いが、それでも反射的に苦悶の声を私は上げてしまう。
「別に俺や彩葉より弱くても構わねぇさ、サブリーダー! ……気迫は合格なんでな」
月を背に、ニヤリと口角を上げる帝アキラ。
この瞬間だけは、彼を推して推して推しまくる真実ちゃんの気持ちが、ちょっぴり分かる気がしたのだった──。
──※──
帝とのトレーニングを終えてログアウトした後──。
私とマシュはベッドの上で正座になり、顔を向き合わせていた。
「さーて、マシュ? 白状してもらっていいかな? 私に……何か隠してるよね?」
「…………」
私と目を合わせようとせず、俯き気味になるマシュ。どうやら、話すか否か迷っているらしい。
今日の帝とのトレーニングで調子が悪かったのは、疲労が原因ではない。帝はプロゲーマーとして、私はマシュの相棒として、それを看破した。
(何を隠してるのかなぁ……)
ログアウトする前に、帝から念を押されてしまった。『決戦の前にわだかまりは解消しておいた方がいい』と。
まぁ実際、相棒であるマシュの手綱すら握れていないようでは、サブリーダーとして他のメンバーに示しがつかない。
うーむ、黙っていても埒が明かない気がする。
どうすれば白状してくれるのか……。
(いや、待てよ……?)
そもそもコレ……白状させる必要ないかも?
そう思い至った私は、マシュにある提案をすることにした。
「マシュ。話したくないなら……話さなくてもいいよ」
マシュは返事をしない。顔を逸らしたままだった。
「そりゃマシュだって、辛いとか疲れたとか、調子が悪いとか、色々あるでしょ。だから……」
それは我ながら……優しく残酷な提案だった。
「月の軍勢となんか、戦わなくてもいいよ」
マシュがハッと、私の顔を見つめた。紫色の綺麗な瞳を潤ませて。
「先輩……。そんなこと……」
構わず、私は言葉を続けた。
「月の軍勢と戦ったらどうなるかなんて、誰にも分からない。ゲームの世界で死んじゃったら現実の世界でも死に至るなんて、SFだとよくあるでしょ?」
考え得る限り最悪の結末。それは、私もマシュも、ブラックオニキスも芦花ちゃんも真実ちゃんも彩葉ちゃんも、全てが月の軍勢によって皆殺しにされた上で、かぐやちゃんが月に帰ってしまうことだ。
正真正銘、何も続かないし何も残らない最悪のバッドエンド。
しかしその気になれば、マシュと藤丸ベーカリーだけは残せるのだ。
「月の軍勢と戦わずに、ここで藤丸ベーカリーの留守を守ってくれるなら、それはそれで──」
しかし、彼女は訴えかけた。涙を堪えながら……。
「いいえ……いいえ! 一緒に戦わせてください! ちゃんと話しますので! 先輩の……隣に立つ者として!」
無論……一芝居打った訳ではない。
マシュや藤丸ベーカリーを守りたいというのは、私の本心だ。
それでも──。
(ああ、そうだった……)
やっぱりマシュは最高の相棒だ。私も、本当は──マシュと一緒に戦いたかった。
私の目の前にひとつの結末が迫ってくるというのなら、マシュが傍にいて欲しかった。最期の一瞬まで──。
「ただ……」
それでもまだ、マシュには越えられない一線があるらしく、少しトーンを落とした声で彼女は囁いた。
「これから私が話すことは、絶対に誰にも言わないでくださいね。絶対ですよ?」
「OK。二人だけの秘密ね」
私はそう言って微笑んだが、マシュはまだ不安らしい。室内をキョロキョロと見渡してから、咳払いを2,3回繰り返す。そうしてやっと、マシュは口を開いた。
「……アニムスフィア家のことなのですが」
……ほぅ。とうとう、話してくれるときが来たんだ……。
今までは、アニムスフィア家の話題に移ろうとするとあからさまにはぐらかすし、そんなこと根掘り葉掘り聞かなくてもマシュはマシュだから、聞かなかったけど……。
「私はアニムスフィア家の人間ではありますが、アニムスフィア家の血筋ではない……そう話したことがありましたね?」
「うん、聞いた」
ロンドンの、すっごいお金持ちの、貴族の家。それが私が知るアニムスフィア家の全てだ。
しかし、真相はもっと根深いものだった──。
「先輩。私が……アニムスフィア家の魔術師によって生み出されたデザインベビーだと言ったら……信じますか?」
…………うん?
マシュが……デザインベビー?
デザインベビーってアレか。SF映画とかで出てくる、遺伝子操作で生み出された人間……みたいな。
「……ん〜〜……」
顎に手を当て、マシュの顔をちらりと観察する。
お人形さんみたいに、色素が薄く端正な顔立ち。片目隠れの髪は、サラサラで桜色をしている。この可愛らしい顔貌や美しい髪の毛も、遺伝子操作で造られたものなのだろうか?
そんな髪から覗くアメジストの瞳は真剣そのものだ。マシュは嘘をつくのが彩葉ちゃん並みに下手である。よっていま、彼女が本音で喋っていることは理解る。
なので、私は……。
「……信じるよ」
そう答える他なかった。
ただ、まだまだ分からないことだらけだ。ホッと胸を撫で下ろすマシュに対し、私は堪らず質問をぶつける。
「じゃあさ。アニムスフィア家の魔術師って何をやってるの? 正義の味方? 悪の結社?」
するとマシュは、困ったようにまた表情を曇らせてしまった。その後、躊躇いがちに言ったのは、
「そこまで話すのはご勘弁を……。魔術の世界には『神秘の秘匿』という鉄の掟があります。これを無闇に破ると命の危険すらありますので……知らない方がよろしいかと……」
「りょ、了解……。まぁマシュが悪者のはずもないしね。触れないで置こうかな……」
とは言ってもなぁ……。
このまま『神秘の秘匿』で誤魔化されると、結局マシュの過去って何も分からないんだよなぁ……。
魔術を一般人から隠さなきゃいけないっていうのは、何となく分かるんだけどね?
直感というか? 既視感……みたいなもので?
いや、なんで既視感なんて覚えてるんだろう私は。魔術師の知り合いなんていないのに。なんかの映画の設定と混合しているんだろうか。
私がそんなことを思っていると、マシュがポツポツと話し始めた。
「私が何の目的で造られた生命なのかは……私自身にも分からないんです。私を生み出した魔術師──マリスビリー・アニムスフィア氏は、私が5歳とき──2004年に、魔術師同士の争いに参戦して、亡くなってしまいましたから」
「あ、そうなんだ……」
マシュが直接そう言わないだけで、多分マリスビリー氏は他の魔術師に殺害されたのだろう。
魔術師同士の殺し合いにデザインベビー。本当に倫理や一般世俗から隔絶した世界が広がっているのだと、感じ取ってしまった。
「じゃあアレ? マリスビリー氏は、弟子とか家族に引き継ぎや遺言も無しに亡くなったってコト?」
コクリと、マシュは私の質問に対して首肯した。
「2004年当時、マリスビリー氏には、オルガマリー・アニムスフィアという長女がいました。ただ、オルガマリー氏は当時まだ11歳で、私の存在すら当時知らされていませんでした」
(…………オルガマリー……ねぇ……)
また謎の既視感が頭をよぎる。なんだかすごく慣れ親しんだ名前のような気がしてしまう。なんとなく銀髪で気が強くて可愛い女性をイメージしてしまうが、実際のところはどうなんだろうか。
「そして私も、所有者にして製造者であるマリスビリー氏が亡くなったことで、いつ廃棄されてもおかしくない立場でした。そんなアニムスフィア家と私の窮地を、マリスビリー氏の一番弟子の方が助けてくれたんです」
「その人の名前は……?」
と聞いてしまってから、『答えてくれないかも』と私は思った。しかし人名ぐらいなら神秘の秘匿としてギリギリセーフなのか、マシュは答えてくれた。
「キリシュタリア・ヴォーダイムという方です。キリシュタリアさんは当時まだ16歳でしたが、天才魔術師として凄まじい名声と実力を有しておられました。キリシュタリアさんはアニムスフィア家の建て直しに奔走し、その過程で私のことも助け出し、育ててくれました。私からすれば、キリシュタリアさんが兄代わりのような存在で、オルガマリー当主が姉代わりのような存在でした」
「じゃあその二人は優しかったの? マリスビリーは外道な面もあったみたいだけど」
するとマシュは、どこか懐かしげで温かな笑みを浮かべて話してくれた。
「魔術師が全員非情な人間という訳ではありませんよ。キリシュタリアさんは優しく賢く、冗談もよく言う素敵な方でした。オルガマリー当主は……その……」
言葉を選ぶように目を泳がせるマシュだけれど、そこに苦痛や嫌悪の感情は無さそうだった。どちらかと言えば……同情するような感じだ。
マシュがやっと、選び終えた言葉で再び話し始めた。
「決して悪党ではないのですが……。アレですね。経営者で例えると、本人は真面目に頑張っているものの、従業員から陰口を言われて悪循環に陥ってしまうタイプの悪人と言いますか……」
「あー、いるいる、そういう人。なんか無理してキャラ作ってそう」
やっぱりオルガマリー当主って、銀髪で気が強くて可愛い女性なんじゃない? もし会えたらからかって遊びたいなぁ〜。
「そして、キリシュタリアさんとオルガマリー当主の保護下ですくすく育った私は……2015年の夏、東京駅で、ついに運命的な出会いを果たしたのです」
「あぁ……
マシュが語ってくれた過去。その昔話は、とうとう私の
《おまけ》
主要キャラの名前/生年/2015年の年齢/2030年の年齢
(※本作独自設定、1歳のズレは誕生日の都合でご容赦を)
藤丸立香/1998年/17歳/32歳
マシュ・キリエライト/1999年/16歳/31歳
キリシュタリア・ヴォーダイム/1988年/27歳/42歳
オルガマリー・アニムスフィア/1993年/22歳/37歳
酒寄彩葉(および芦花、真実)/2013年/2歳/17歳
酒寄朝日/2007年/8歳/23歳
駒沢雷/2011年/4歳/19歳
駒沢乃依/2014年/1歳/16歳
酒寄紅葉/1982年/33歳/48歳
年齢一覧を見るだけでも感慨深いものがありますよね……。
なんか一部に飛天御剣流でもやってんのかってぐらい若作りな人がいますねぇ……。
感想や評価お待ちしております。