【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉   作:生徒会副長

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※感想や評価はいつでもお待ちしています。


⑯最後のトリプルコラボ配信

 

 

 

 

 

 

 パン屋さんにおいて、午後2時過ぎというのは一番空いている時間帯だ。昼のラッシュが終わり、夕方のラッシュまでにはまだ時間がある。

 そんな時間帯を利用し、今日は動画撮影である。ただし私──ぐだぐだチャンネルのぐだ子一人で行う撮影ではない。

 

「かぐやっほー! 月から来たかぐやだよ〜! 今日は激アツのトリプルコラボ配信! まみまみアーンド藤丸てんちょーと一緒に、藤丸ベーカリーの新作パンを紹介するよ〜〜!!」

 

 そんな元気なかぐやちゃんの声と共に、藤丸ベーカリーの一角──窓際の端の席で、動画撮影は始まった。

 

「みんなおはよー! グルメ系インフルエンサーのまみまみだよー! まだまだ暑い日が続くけど、秋らしい新作パンが食べられるってことで、お腹が空いてたまりませーん!」

「ぐだぐだハロー☆ツクヨミ! ぐだぐだチャンネルのぐだ子にして、藤丸ベーカリー店長の、藤丸立香でーす! 今日はこの動画をご視聴の皆さんに、一足早く新商品情報と秋のかほりをお届けしまーす!」

 

 真実ちゃんと私も、カメラに向かってそう元気よく挨拶をする。

 今日は9月8日の日曜日。かぐやちゃんの卒業ライブまで──あと4日だ。

 そして今日は、以前約束していた『さつまいも黒蜜デニッシュ』の宣伝コラボ動画の撮影をしているところ。

 ちなみに生配信(ライブ)ではない。かぐやちゃんは生のほうが良かったみたいだけど、私としては店の看板を掲げて生配信というリスクは取れない。そこはまぁなんとか……藤丸立香お得意の口八丁でかぐやちゃんを説得した。

 とはいえ、大物ライバー2人と、現役の店長にして元演劇部の私という面子だ。撮影はほとんどリテイクもなく順調に進む。

 

「ところでお二人は、去年の秋、大学芋って食べました〜?」

「だいがくいもぉ……? かぐやまだ地球に来て2カ月だから、そもそも大学芋って何か知らなーい! なになに? 大学の形をしたお芋っ!? おいも・ザ・ハイスクール!」

 

 私の質問の後、かぐやちゃんが上半身を伸ばして大学(?)を表現する。それに対して「ハイスクールだと高校だよっ!」と真実ちゃんがツッコミを入れる。

 『さつまいも黒蜜デニッシュ』を作ろうと思ったきっかけは、去年の秋に大学芋を一度も食べていなかったことに思い至ったからだ。そして開発中最大の苦労といえば、水分量の調整。さつまいもの水分でデニッシュのサクサク感や多層構造が壊れないよう、さつまいもペーストを焼く工程を入れている。そんな誕生秘話を、真実ちゃんはグルメ系インフルエンサーとして聞き入り、かぐやちゃんは愉しそうに目を輝かせて聞き惚れていた。

 

「次は製造工程のVTRをご覧いただきましょう!」

 

 次は、事前に撮っておいた製造工程のVTRを元に、パン屋さんが解説をして、ライバーの反応を楽しむコーナー。ここは後の編集で、VTRのバックで私たちの声が流れるようにする。

 このコーナーだけは、声の出演者が5人に増える。その内の一人──マシュが、生地を仕込む様子を解説をしてくれる。

 

「簡単にやっているように見えるかもしれませんが、とても繊細な作業です。室温や生地温度、バター温度や作業台の温度を見ながら作業しています」

「かといってパソコンみたいに、数字だけ見てればいいって訳でもないんだよねー。生地の発酵具合とか、伸び縮みの具合とか見極めないといけなくて……」

 

 リバースシーターという、生地を均一に伸ばす機械を見て、かぐやちゃんは宝物を見つけた子どものように興奮しながら言った。

 

「いろP〜! あれ欲しい!! かぐやもパン作る!」

「……駄目だからね?」

 

 ジト目で彩葉ちゃんがそう返事をする。

 マシュも彩葉ちゃんも、今回の撮影では声だけの出演となる。撮影で顔を出す負担がない分、店内の業務をやってもらっている。

 

「えー! やだやだー! ほーしーいー!」

 

 口ではそう言って駄々をこねるかぐやちゃん。しかし……。

 

(…………芝居?)

 

 画面越しなら気づかなかったであろう、僅かな違和感だけど……。

 いつも……いや、引退発表をする以前のかぐやちゃんとは違う駄々のこね方に見えた。大袈裟というか。断られることを前提とした頼み方という

か。

 彩葉ちゃんはそれに対し正論で返す。

 

「引っ越ししてキッチンが広くなったと言っても限度があるからさぁ……。こないだ製麺機買ったところでしょ? せめてそれ使い潰してからにしてよね」

 

 正論で返すといっても、『製麺機を使い潰した後ならリバースシーターを買ってもいい』と解釈できる余地があった。

 そうそう。住所変更届で知ったのだが、彩葉ちゃんはアパートの一室から──なんとタワーマンションに引っ越しをしている。いちいち家賃が幾らかなんて聞きはしないけど、到底藤丸ベーカリー(ウチ)のアルバイトとしてフルタイムで働いても、その手取りが家賃に届くことはあるまい。

 

(流石、かぐや姫だなぁ……)

 

 竹取物語では、竹取の翁が切った竹から金銀財宝が出てくる。そして竹取の翁は豪邸で暮らすようになる。

 目の前にいる彩葉ちゃんとかぐやちゃんの場合は、かぐやちゃんがネットアイドルとしてバズり散らかしてアホほど収益化し、彩葉ちゃんはタワーマンションで暮らすようになったというワケだ。

 そして古典と現代で違う点は──。

 

「よーし! じゃあかぐや、イタリアンレストランやる! かぐやのパスタと藤丸ベーカリーのパンで、世界をウルトラハッピィに征服するっ!」

 

 この陽キャっぷり、へこたれなさ、積極性。

 彼女が宇宙人なのはもう信じているけれど、彼女がおとぎ話のかぐや姫と同様に月へ帰るというのは……信じたくないなぁ。

 

「いいですねかぐやさん! 店長(マスター)のカリスマとかぐやさんの料理の才能があれば、世界藤丸ベーカリー計画もいよいよクライマックスです!」

「マシュ〜!? クライマックスどころかオープニングすらしてないから! まだ2号店も開店出来てないから!」

 

 マシュとかぐやちゃんという風呂敷を広げるのが好きな二人を、私は常識人ポジとしてツッコミを入れて制する。

 ……あくまで常識人ポジとしてだ。かぐやちゃんに迫る“終わりの気配”に屈したワケではない。 そんな考えを笑顔の下に隠した私を映しながら、撮影は進んでいく。

 

「お待たせしました〜! こちらが焼き上がった品! さつまいも黒蜜デニッシュです!」

 

 食欲を抑えきれないような真実ちゃんとかぐやちゃんの前に、私は焼きたてホヤホヤの『さつまいも黒蜜デニッシュ』を持ってきた。さつまいもと黒蜜──2種類の甘く香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。いや、デニッシュ生地そのもの美味しさや全体のハーモニーも含めれば、2とか3とかの数字で語るのがバカバカしくなりそうだ。

 味のベースとなる蜜芋ペーストだけでは見た目に秋らしさがなく、硬い方の食感が足りないので、さつまいもチップを上に乗せて秋らしさと蜜を帯びた硬さを担保している一品である。

 

『『いただきまーす!』』

 

 3人で手を合わせて、芳しい匂いのデニッシュにかぶりつく。3人とも口が大きいので画面映えがよい。俗に言う『いっぱい食べる君が好き』というヤツだ。

 

「んまーーーー♡♡」

「うーーん!! 美味しいですねぇ!!」

「はっはっは! そうでしょうそうでしょう!」

 

 美味しさのあまり踊り出すかぐやちゃんと、顔を蕩けさせる真実ちゃんを見ていると、やっぱり作って良かったなと思うし、パン屋さんやってて良かったなと思う。

 無論、何度も試行錯誤して味を知っている私にとっても……うん! やっぱり美味しい!

 

「同じさつまいもなのに、噛むたびに甘さも食感も全然ちがーう!」

 

 焼かれた硬さと蜜の柔らかさを同時に持ったさつまいもチップ、サクサクのデニッシュ生地、しっとりとした蜜芋ペーストという食感も甘さも多種多様な一品に、かぐやちゃんは感動してくれている。

 

「黒蜜と、絶妙な薄さのさつまいもチップを使ったことで、メイラード反応が──」

「そうなんだよねぇ。焼けてないのも駄目、焦げ臭くなるのも駄目で、何度も試行錯誤をして──」

 

 グルメ系インフルエンサーとして知識と経験がある真実ちゃんは、レベルの高い感想を述べてくれる。

 完璧超人の彩葉ちゃんのせいで忘れそうになるが、この子や芦花ちゃんだって名門・武蔵川高校の生徒なのだ。地頭がいい──どころの話ではなく、中学時代は神童だったに違いない。

 プロであるこちらとしても、反応したくなる、作った甲斐がある食レポをしてくれて嬉しい。

 

「「ごちそうさまでしたー!」」

 

 濃い時間はあっと言う間に過ぎて、美味しく完食。残すは動画を締める雑談タイムの撮影のみ。話題は当然、かぐやちゃんの引退についてだ。

 

「さつまいも黒蜜デニッシュの発売は、9月13日金曜日です。 そしてその前日が──」

「はーい! かぐやの卒業ライブは、9月12日の21時30分からだよー! だから、現実(リアル)でのコラボ配信企画は、これがラストなんだー。人が作ったものを食べるのもコレで最後かもなー。残りの日に食べる料理は、かぐやが作ってぇ、いろPと二人で食べるから!」

 

 “ラスト”や“最後”という語彙を、99%の視聴者は『配信者(ライバー)として』という意味でしか捉えないだろう。

 しかし実際は違う。実際は『地球で暮らす生命として最後』という意味だ。

 

「一応聞くけど、引退の撤回ってしないのー?」

 

 真実ちゃんが“脚本通りの台詞”で訊ねると、かぐやちゃんは綺麗な整った笑顔で答えた。

 

「月でやらなきゃいけないことができたからなー。撤回はしないっ! でもその分、最後まで超楽しく、地球で遊び尽くすっ! 卒業ライブも最高のライブにするよ☆ あとねー! いろPもサプライズを用意してくれてるらしいんだよねー! 何なのかな〜?」

 

 締めの雑談タイムの収録のため、再びカメラ外で立っている彩葉ちゃんに対し、かぐやちゃんは目をチラリと向けた。

 

「かぐや相手でも言わなーい。当日まで何があっても秘密」

「今晩のメニューが絶品ボロネーゼでも〜〜?」

「言わないったら言わない。この動画をご視聴の皆様も、4日後を楽しみにしててくださいっ」

 

 このサプライズとは、月の軍勢に私達──パンケーキ防衛隊が立ち向かうことだ。ご覧の通りかぐやちゃんは月に帰る覚悟を決めてしまっているので、彩葉ちゃんはこの決戦を彼女に隠しているらしい。

 

(……どうも引っかかるね。日本史が好きな身としては)

 

 豊臣秀頼が出陣しなかった大坂夏の陣や、徳川慶喜に戦意がなかった戊辰戦争が頭をよぎる。かぐやちゃん本人に『勝って、生きて、ここに残る』という意思がなければ、勝てる戦も勝てないのでは……。

 

(まぁそれでも、やれることをやるしかないんだけどさ)

 

 パンケーキ防衛隊の皆とは密に連絡を取り合っている。ブラック・オニキスが直々にKASSENの立ち回りを教えてくれたのもその一環だ。何とも贅沢な話である、さつまいも黒蜜デニッシュに負けないぐらいね。

 

「──それでは! 4日後のかぐやちゃんの卒業ライブも、5日後のさつまいも黒蜜デニッシュ発売も楽しみだなってところで、今回の配信は終了させて頂きます!」

「みんなー! 今日もかぐや達の配信見てくれてありがとー!」

「「ばいばーい!!」」

 

 そんな明るい挨拶と共に、撮影は終幕した。

 

 ここからは楽しいアフタータイムである。まぁ私と彩葉ちゃんには仕事があるし、マシュを待たせてもいるから、あんまりのんびりし過ぎない程度に。

 

「お疲れ様ー!」

「順調な撮影でしたね〜」

「おつ〜」

 

 主演三人でドリンクを飲みつつ語り合う。私はブラックのアイスコーヒーで、かぐやちゃんと真実ちゃんはアップルジュース。若いなぁ。さつまいも黒蜜デニッシュを完食した後に甘~いジュースを飲むってのは、アラサーの私には少しキツイ。

 

「かぐやー。この後まっすぐ帰るの?」

 

 彩葉ちゃんがそう訊ねた。

 

「買い出しにスーパー寄ってから帰る〜。あ、今ならボロネーゼからメニュー変えてもいいよー。和風でも中華でも彩葉のお望みのままー♡」

 

 小悪魔的可愛さでウインクするかぐやちゃんに対し、彩葉ちゃんは何故か恥ずかしげに答えた。

 

「ボロネーゼでいい……いや、ボロネーゼがいいな……」

「おっけー☆ かぐやに任せてっ!」

 

 うーむ……。あざとい、そして優しい。

 出会った当初は、かぐやちゃんの世話を彩葉ちゃんが焼いていたはず。でも今は逆みたい。かぐやちゃんがお金を稼ぎ、かぐやちゃんが料理を作り、彩葉ちゃんが世話を焼かれている。

 もしそんなかぐやちゃんが月に帰ってしまったら、彩葉ちゃんの心は無事で済むのだろうか……。

 ……。

 ……あー……違う違う。

 

『申し訳ないです、藤丸店長。私、全然大丈夫じゃありませんでした』

 

 大丈夫じゃないから、彩葉ちゃんは大丈夫じゃないから、あの日私や帝に助けを求めたんだ。

 

(やっぱり、勝つしかないか……)

 

 しかし、彩葉ちゃんが一足先にパン屋の業務へ戻った後、かぐやちゃんが私に言ってきた。

 

「藤丸てんちょー」

「んー? なに? かぐやちゃん」

 

 完成された絵画のような、慈悲深い笑顔で──。

 

「……彩葉のこと、よろしくなっ」

 

 強い眼で、勇ましい表情を作って、私は答えた。

 

「……もちろん!」

 

 ねぇ……かぐやちゃん。

 貴女はきっと、自分が月へ帰った後のことを『よろしく』と言ったんだよね。

 でも、ごめん。それはちょっぴり荷が重いし、彩葉ちゃんにはまだ早い。

 私は、貴女を月へ帰さない為に戦う。

 例えそれが、秩序やおとぎ話の筋書きに背く行為だとしても。

 言い終えてから、私は残りのアイスコーヒーを飲み干した。

 冷たくほろ苦いその味は、私の意志を覚醒させるのにちょうど良いものだった──。

 

 そしていよいよ──。

 

 2030年9月12日が訪れる。

 






 《あとがき》
 隙あらば自分語りなのですが、私は司馬遼太郎先生の『燃えよ剣』が好きです。
 『燃えよ剣』の主人公・土方歳三は、鳥羽・伏見の戦いが始まる際に徳川慶喜が大坂城入りしたことに対し、「嫌な気配がする」と言った主旨のことを思っています。
 慶喜の姿と秀頼の逸話がダブって見えた訳です。
 実際土方の不安は的中し、鳥羽・伏見の戦いの後、慶喜は京都・大坂の将兵を捨てて海路で江戸に帰ってしまいます。
 この辺のエトセトラはFGOでも超かぐや姫でも扱われていませんね。私はこの辺のエトセトラが好きなので本作でちょっと出させてもらいました。
 FGOでは慶喜や薩摩藩幹部がNPCとしてすら実装されていません。せいぜい勝海舟がチラッと「幕府は近藤勇を助けようとしなかった」といった主旨のことを話した程度ですっけ。
 超かぐや姫の無量空処シーンでも、幕末はすっ飛ばされましたね……。ヤチヨが話していた「松ちゃん」が吉田松陰って程度のことですか。
 藤丸立香やかぐや(ヤチヨ)から見た戊辰戦争の景色、いつか何らかのイベントやスピンオフや二次創作で見てみたいものですね。

 ここまでお読み頂き、ありがとうございました。感想やコメントお待ちしております。

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