【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉   作:生徒会副長

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※彩葉が高校2年生の4月1日、かぐやを拾うより前を想定しています。


【四月の嘘】ぐだ子「彩葉ちゃんを藤丸ベーカリー2号店の店長にします!」

 

 

 東京都内の住宅地に位置する、パン屋兼喫茶店『藤丸ベーカリー』のバックヤード。

 今日のラストメンバーは、店長の藤丸立香さん、副店長のマシュ・キリエライトさん、そしてアルバイトの酒寄彩葉──つまり私、以上の3人だった。

 今は着替えも終わって20時30分。この3人で閉店作業をする日が一番早く帰れる。ちょっと早く帰れる分、予習や復習やヤチヨの推し活に費やす時間が作れるから助かるというものだ。

 帰宅する為に、私が鞄に手を掛けたときのことだった。

 

「彩葉ちゃん! あなたに大事なお知らせがあります」

「はいっ」

 

 椅子に腰掛ける藤丸店長から声がかかる。

 私が藤丸ベーカリーで働き始めたのは高校1年生の4月中旬で、今日は4月1日だ。もうすぐ勤続1年になるから、何か待遇が変わるのだろうか? それとも、新年度で何か法律や制度が変わるのだろうか?

 藤丸店長が、いたずらっぽく、そして人懐っこそうな笑みを浮かべて言った。

 

「なんと! このたび! 彩葉ちゃんを藤丸ベーカリー2号店の店長に任命することになりました〜! おめでとう!」

 

 パチパチパチ……と、藤丸店長とマシュさんが私に拍手を送る。

 

「おめでとうございます、彩葉さん。改めて、これからよろしくお願いしますね!」

「え? ……えぇっ?」

 

 ど、どういうこと……?

 お、落ち着け、酒寄彩葉。藤丸ベーカリーに2号店なんて絶対ないはずだ。計画すら聞いたことがない。藤丸ベーカリーは藤丸店長とマシュさんがゼロから始めたお店だから、姉妹店も絶対ない。

 

「何がなんだか……」

 

 無い店の店長をどうやってやれというのか。

 戸惑う私を余所に、藤丸店長はしみじみと言う。

 

「いやぁ、良かったねぇ彩葉ちゃん。彩葉ちゃんはパン屋さんになる夢が叶うし、私は2号店を出す夢が叶うし! これこそまさにハッピーエンドにしてWin-Winだよね! うんうん!」

 

 藤丸店長?

 そもそも私、パン屋さんの店長なんてやりたいって言ったことないですよ……?

 しかし藤丸店長の話に、マシュさんがニコニコしながら乗った。

 

「まだまだこれからですよ、店長(マスター)。この調子で3号店、4号店と事業を拡大し、いずれは世界藤丸ベーカリー計画を……」

「そこまでしなくていいってば」

 

 そんな夫婦漫才を見ている内に、私はある可能性に思い至った。

 

「もしかして……エイプリルフール?」

 

 4月1日は嘘をついてもいい日、エイプリルフールだ。この私の推理は図星だったらしく……。

 

「あっちゃー、バレちゃったか」

「マスターは十分迫真の演技をなさっていたと思うのですが……」

 

 私を騙し足りなかったのか、藤丸店長とマシュさんはしょぼんとしてしまった。

 

(もうちょっとノッてあげたら良かったかな……?)

 

 などと思う好きもなく、藤丸店長は気を取り直し、笑顔を私に向けた。

 

「でも面白かったし、楽しそうな嘘じゃなかった? 彩葉ちゃん、仕事覚えるの早いし、シフトの穴埋めもよくしてくれるし、接客も上手いからさ。彩葉ちゃんさえ本気なら、こっちも本気でパン屋と喫茶店のノウハウを色々教えるよ? どう? 飲食業に興味はない?」

 

 藤丸店長が私を見つめる眼は──本気に見えた。嘘じゃなさそうだった。

 藤丸店長は凄くいい人だ。素直に明るくお客さんや従業員と接しているし、私のことも凄く褒めてくれる。私がシフトの穴を埋めると、地獄で仏に会ったかのように感謝する。もちろん藤丸店長が作るパンや賄いだって凄く美味しい。私の貧乏飯とは大違いだ。

 例えばだけど、勉強なんてやらず、フリーターなり店長なりとして藤丸ベーカリーで働くだけの生活があるとしたら……それはちょっと……いや凄く……魅力的な気もする。パン屋さんを経営する上で覚えなければならないことは多々あるだろうけど、東京大学に入学するほど難しくはない……と思う。

 しかし──。

 

『都合のいい話は毒や』

『水は低きに流れ、人は易きに流れるって言うやろ?』

 

 脳裏に母の言葉が響いたとき、私は甘い誘惑を断ち切った。

 

「ありがたいお誘いですが、遠慮させていただきます」

「うーん。理由を聞いてもいいかな?」

 

 藤丸店長は、私を困らせたり、惑わせたりしたくて聞いている訳では無い。善意100%で私に訊ねている。

 しかし、私が困ってしまったのは事実だった。

 

「……母が、認めてくれるとは思えないので」

 

 私は、そう答えるのがやっとだった。

 

「彩葉さんのお母さんは確か、弁護士でしたね。弁護士事務所の後を継ぐように言われているのですか?」

「いや、そうじゃなくて……」

 

 マシュさんの予想を、すかさず私は否定する。

 母は私に『弁護士になれ』なんて言ったことはない。ただひたすらに、言い回しは都度変わるが、手を抜くなと、努力し続けろと、甘えるなと躾けるばかりだった。

 だから私はその通りにしている。そして母の背中を追い続けている。ここで飲食業を、藤丸ベーカリーを、藤丸店長を選ぶのは、母が最も禁忌とするであろう『逃避』だと思う。

 

「最低でも東京大学ぐらいは行かないと、認めてくれるとは、許してくれるとは思えなくて……」

 

 東京大学の話をすると、今までの学友や先生は『凄いね!』と讃えてくれることが多かった。

 

 しかし、藤丸店長とマシュさんは違った。

 

 寂しげな眼で、私自身すら目を背けている心の奥底まで見通しているかのような、藤丸店長。

 目を見開き、息を止め、呆然とするマシュさん。

 この藤丸ベーカリーのバックヤードでは、東京大学の栄光は、私を英雄として照らし出してはくれなかった。なんだか、虚しい舞台に一人放り出された気分だった──。

 

「……ま、家庭の事情も将来の夢も、人それぞれだよね」

 

 そんな藤丸店長の言葉で話を終わらせたくなくて、私はつい聞いてしまった。

 或いは、醜い私の反撃だったのかもしれないが。

 

「藤丸店長は、どうしてパン屋さんになったんですか?」

「ん? 私?」

 

 椅子を数回揺らして「うーん……」と考え込んでから、藤丸店長は答えた。

 

「大した話じゃないんだけど……。なーんか私、子どもの頃、夢見が悪いときがあってさ。何の夢を見てたか覚えてないけど、朝起きたら凄く悲しい気持ちやら寂しい気持ちやらになってることが、何度もあったんだよね」

 

 マシュさんも深く頷いているけれど、私には当てはまらない不思議な話だ。幽霊か何かのイタズラか。はたまた藤丸店長の前世なり過去なりの記憶なのか。

 

「でもそんな朝でも、パンを食べたら結局身体は動いちゃってるんだ。前を見て、笑って歩けてるんだ。それでまぁ、当たり前に、自由に、楽しくパンを食べられる日常ってヤツが好きで、その当たり前な幸せを誰かに届ける仕事がしたかったんだよね」

「食品工場や食品メーカーに就職しなかったのは、何故ですか?」

 

 これじゃあ私が面接官みたいだ。しかし藤丸店長は快く答えてくれた。

 

「私が作ったものを食べる人の顔が見えないところで、食べ物を何千食も何万食も効率化された機械で作り続けて、売上高だの稼働率だのっていう数字を追う仕事は、あんまり心惹かれなかったなぁ。そりゃ効率化は大事だけど、『外見や結果さえ素晴らしければ、中身や過程なんてどうでもいいだろう?』って考え方は、好きじゃないんだよね」

 

 難しく、そして深い話だ。

 外見と中身。結果と過程。母はどっちが大事なのだろう。どっちも大事だと答えそうな気もするし、私のどちらも見てくれていない気もしてくる。

 

「あとアレですよね、マスター。高校生のときに私と東京駅で会ってからというもの、トントン拍子で『一緒にパン屋さんをやろう』って話に進んでましたよね」

「あー。アレは良い意味で変な感覚だったね! 初めて会った気がしないぐらい話が弾んだよね!」

 

 マシュさんと藤丸店長が、馴れ初めの思い出話に花を咲かせる。

 それを見て私は──。

 

「いいなぁ……」

 

 ついポツリと、そう呟いてしまう。

 さっきの結果と過程の話に近いものがあるけど──中学までの私にとっては、遊びも友達も、それ自体が目的と化していた。

 

『真のエリートは遊びも交友関係も疎かにしない』

 

 またも結局、母の言葉の受け売りだ。だから母を説得して上京するときも、地元の友達と離れ離れになることを惜しいとは思わなかった。東京で新しい友達を作ればいいだけだから。

 しかし、もしも私にも、藤丸店長に対するマシュさんのような、全てを遠慮なく曝け出せる相棒がいたら、どれだけ心地よいことだろう。

 

「あげないよ? 私のマシュだもん」

 

 ギュッと、藤丸さんがマシュさんに抱きつき、その仲の良さを私に見せつけてくる。

 ……え? 私に?

 

「あっ。すみません! 声に出てました!?」

 

 二人の仲の良さに憧れ呟きが、聞こえてしまっていたみたいだ。

 

「まぁ彩葉ちゃんも、そのうち良い出会いがあるんじゃない? 割に合わないとか自信がないとか、そんな弱音が振り切れちゃうような夢とか人とか、そのうち見つかるよ。きっと」

「……だと、いいんですが」

 

 ぎこちない笑みで、私ははにかんだ。

 少なくとも、母はその人ではない。

 今後一生、私は母を好きになれる気はしない。かといって、嫌いになることもできそうにない。

 今の私は、半端な覚悟で、そんな母の人生をなぞろうとしている。そのレールから外れないように、必死にしがみついている。

 

「藤丸ベーカリーが彩葉ちゃんにとっての“それ”になれなかったのは、ちょーっと悔しいけどね!」

「すみません、せっかく雇って貰ってるのに……」

「まぁ目の前が真っ黒なり真っ白なりになっちゃったら、私を頼っていいよ。それこそ、2号店の店長っていう居場所だって、将来的にはあり得るんだから。嘘から出たまことって言葉もあるんだし!」

「ははは……」

 

 ニコニコする藤丸店長とマシュさんに、私は愛想笑いで返す。

 こんな甘い話に乗ってはいけないと、私の脳裏に宿る母の言葉達は囁くものの……。

 藤丸ベーカリーは確かに、私にとって大切な居場所のひとつだった──。

 

 

 

 

 




ぐだ子がパン屋目指してる理由って実際のところFGO本編で語られてないんですけど、こんな感じでいいのかなーと想像しながら書きました。

あと本作(本シリーズ)中々ご好評頂いてるので、「1話で終わりじゃないですよ」アピールも込みで。

そろそろかぐやちゃん出したいところですね。

感想や評価お待ちしています。
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