【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉 作:生徒会副長
「……悩まない方が正しいんじゃないですか?」
彩葉ちゃんとの禁断の恋に悩む芦花ちゃんは、私にそう聞いてきた。
「道具や兵器なら、ね。ボタンを押せば電流が流れる。引き金を引けば銃弾が飛び出す。それが道具や兵器にとっての正しさだね。でも人間だとそうじゃない」
従業員を道具としか思っていない、兵士を兵器としか思っていない人からすれば、芦花ちゃんは『不良品』なのだろう。しかし私は絶対違う。
「何が正義で何が悪か悩んで苦しんで……結局分からない──っていうのが正しい姿だと思うな。恋愛でも戦争でも、勝ったほうには『続き』があるってだけ。負けた側はただ否定された、終わってしまっただけで、悪なんかじゃないよ。そう思っとかないと、自分に敗北や終わりが訪れたとき、良い気分じゃないでしょ?」
「だったら……」
そう言いかけて、芦花ちゃんは口を噤んでしまう。
「いいよ。遠慮しないで言ってごらん」
私がそう促すと、やっと彼女は口を開いた。
「……私の恋心は、どうすれば良い気分で終われるんでしょうか?」
言ってから、彼女はふるふると力なく首を振る。
「ごめんなさい……。そんなの、私以外に分かりっこないですよね……」
「まぁねぇ……」
ふと、アニムスフィア家の魔術師なら未来も分かってしまうんだろうか……なんてことを思った。
「私は魔術師でも占い師でもなく、しがないパン屋だからなぁ……」
嗚呼──でも──。
しがないパン屋だからこそ、伝えられることって、あるな……。
「……じゃあさ。分からないんならさ」
それは、とても勇気と根性が要ることだけど……。
いつの時代でも、世界中どこでも、数多の人々が続けてきたことだ。
「分かる
天啓を得たかのように、芦花ちゃんは呆然と、私を見つめていた。
「今日ここに至るまでも、芦花ちゃんは芦花ちゃんなりに──頑張ってきたんでしょ?」
私が知る限りでも、彼女は彩葉ちゃんとかぐやちゃんの物語に欠かせない役者だ。
彩葉ちゃんと海に行ったりとか、テスト対策勉強会の後にご飯を食べに行ったりとか。
かぐやちゃんとKASSENの配信をしたりとか、美容コスメの配信をしたりとか……。
「だからさ。ここまで積み上げてきた自分自身とか、それを受け継ぐ誰かとかに胸を張れる──そんな未来を目指したら、どうかな?」
「……胸を。胸を張れるかどうか、ですか……」
私の言葉を何度も反芻しながら、彼女はどこか遠くを見つめた。きっとその目は、今まで彼女が積み重ねてきた過去と、まだ見ぬ未来を、見つめようとしている……。
数秒経ってから、その目のまま芦花ちゃんが口を開いた。
「じゃあ藤丸さん……お聞きしていいですか」
「うん。何?」
「私がヤチヨやかぐやちゃんだったら、彩葉を虜にできたんでしょうか」
人間なんてどこまでいっても不完全な存在だから、その憧れは理解できる。
でも──。
「無理な話だね、それは」
配られた
そして今まで勝負してきたんだ。私もマシュも、彩葉ちゃんも芦花ちゃんも。
だから私は告げる──。
「
恋心をひた隠し、ひたむきに『友達』を演じてきたお姫様に、精一杯の喝采を!
その声は、彼女の心、彼女の中身に、しっかり届いたようだった。
「そっか……。そうですよね!」
私の方を向いた彼女は──大舞台に臨むベテラン女優のような、凛々しい笑顔を見せてくれた。
「藤丸さん。腑抜けたことを言って、すみませんでした。私……ちゃんと戦います! たとえ勝てなくても──。たとえ報われなくても──。昨日までの自分に、恥じないように! 明日の彩葉やかぐやちゃん、藤丸さんやヤチヨに、誇れるように!」
「うん、頼りにしてるよ! 一緒に頑張ろう!」
「はい!」
私達2人は、笑顔でガッツポーズをした。
すると、そこへ──。
「だらららら──ドジョウ☆」
月見ヤチヨが急接近する──。
瞬きする暇もなく、呼吸する暇もなく──。
……うーん、ツクヨミの管理者権限でも使ったのかな?
「うぁっ、ヤチヨ!?」
芦花ちゃんが急なヤチヨの登場に慌てふためくが、
「おっ、ヤチヨじゃーん! ヤオヨロー!」
私は平静を装って、ごく普通に明るく挨拶をする。
ここでドギマギして内緒話を怪しまれるのが、ありがちな筋書きだからね。
「ヤオヨロー! ねぇねぇ、いま何の話してたのかにゃぁー? ヤッチョも混ぜてー☆」
そら来た。ヤチヨの問いに芦花ちゃんはビクッと怯えたような反応をするが、私は大丈夫だ。芦花ちゃんの秘密は私が守る。
今してた話は、彩葉ちゃんの推しであるヤチヨに聞かれるとややこしくなる。悪いけど隠させてもらう。
「コスメの話とー、決戦前に芦花ちゃんを元気付けてたのとー、あとは家老マシュの法螺貝って最高だなーって話をしてたぐらいだよ」
芦花ちゃんが目を点にするけど、これは私なりのライフハックのひとつなのだ。家老マシュの法螺貝が持つインパクトの大きさとシュールさは、何かを隠したいときにうってつけだ。
まぁ「マシュは最高」という話も一応してはいたので、そこまで悪質な嘘ではない。
そのライフハックは、ヤチヨにも通じたようだ。
「あぁー、家老マシュの法螺貝って良いよねぇ〜。本格的で士気が上がるっていうか〜。大坂夏の陣の真田隊も顔負けっていうか〜」
うまい具合に、話題は法螺貝の方へ移っていった。
もしかすると、ヤチヨなりに心中を察してくれただけかもしれないけど。
まぁ念の為、更に話題を芦花ちゃん──の恋心から遠ざけつつ、少し気になっていた話を聞いてみるとしよう。
「ヤチヨって本当に8000歳で、本当に大坂夏の陣も見たことがあるってこと〜? じゃあさー、豊臣秀頼生存説についてどう思うか教えてよ」
私は人並みかそれ以上に、歴史ミステリーや歴史ロマンが好きである。新選組の原田左之助生存説とか、古代メソポタミア文明の史跡調査とか、古今東西気になることは多い。豊臣秀頼生存説もその一つだ。
もちろん、ヤチヨが本当に八千歳だとは思っていないが、どこまで“それらしい”話ができるかは気になる。
ヤチヨがニコニコしながら言った。
「おっ、いいねぇ〜☆ 豊臣秀頼生存説の根拠ってアレだよね〜? 九州に残ってる史跡とかー。あとはあの有名な童唄だよね」
スゥっ……と彼女が目を閉じると、それだけで最高の歌姫が持つカリスマが私達を包み込む。まるでここだけ、ライブステージと化したようだ。
そのステージで、観客二人を相手に、歌姫ヤチヨは唄った──。
「花のようなる秀頼さまを♪ 鬼のようなる真田がつれて♪ 退きも退きたり加護島へ〜♪」
「「おぉ〜〜!」」
パチパチパチと、私と芦花ちゃんはつい拍手してしまう。
ほんの短い童唄だが、やはりヤチヨほどの歌姫が唄うと一味も二味も違う。ただ音声を広げているのではなく、一人一人の心に届けて響かせるような、深みのある歌声だ。
「えへへっ。つい歌っちゃった☆ ヤッチョもこの歌好きなんだ〜。人間ってば、呆気なく終わっちゃったものには『続き』を求めがちだからね〜。ワンモアタイムっていうか〜、つぶあん☆こしあん☆アンコールっていうか〜」
どこか悟ったようなヤチヨの声色に対して、芦花ちゃんが淡々と言った。
「あ、じゃあ教科書どおりで合ってるんですね? 豊臣秀頼と淀殿は、大坂夏の陣のときに自刃したっていう……」
「うーん、やっぱり? 自分で聞いといてなんだけど、まぁそんな気はしてたかなぁ……」
私は腕を組んで唸ってしまう。
まぁ知ってたよ? 大坂夏の陣に至るまでの、豊臣家と徳川家の確執とか? 淀殿こと茶々様の態度とかはね?
「茶々様のプライド的に、最後に逃げの一手は無いよねやっぱ。ただ私としては、自称8000歳の歌姫による、目撃証言が欲しいんだけど?」
YESかNOかという結果じゃなく、ヤチヨしか知らないような過程とか物語とか裏話とかを私は聞きたかったのだ。
すると──。
ほんの一瞬……ヤチヨが真顔になった気がした。そして、0.1秒にも満たない沈黙があった。
その後、ヤチヨはアメリカンクラッカーみたいにコミカルな涙粒を揺らしつつ、“わざとらしい”嘘泣きをしながら言った──。
「ヨヨヨ〜〜! ヤッチョが八千年生きてるのは本当なんだけどぉ〜〜! そんな都合よく歴史的瞬間に立ち会ったり歴史的偉人と話したりしてるとは限らないのです〜〜!」
「今のヤチヨってアレだぁ〜。肝心なときにガス欠とか言い出すイタコさんみたーい」
「芦花〜〜。正論パンチしないで〜〜」
「やめなーい。シュッシュ!」
仲良くじゃれつくヤチヨと芦花ちゃんを見ながら、私は“あり得ない”仮説について考えを巡らせている──。
(……いまの、ヤチヨの、ウソのつき方って……?)
そんな筈はない。常識的に考えて。
ヤチヨのウソが『8000歳』の方ではなく──『ヤチヨは茶々様に会ったことがない』──の方だなんて。
普通に考えれば『8000歳』の方がウソだ。芦花ちゃんの反応の方が自然だ。『ヤチヨは茶々様に会ったことがある』なんてあり得ない。
(私の観察眼が外れてる可能性の方が高いでしょ、まったく……。SF映画の見過ぎ──)
──と思おうとしたが、しかし。
かぐやちゃんは、ゲーミング電柱から生まれたかぐや姫だったではないか。
マシュは、イギリスの魔術師が生み出したデザイナーベビーだったではないか。
なら……月見ヤチヨが8000歳というのも──。
「よぉ藤丸! いよいよだなぁ!」
「藤丸店長、お疲れ様です」
そんな声が耳に入って、私は思考の海から脱した。
声の主は帝と彩葉ちゃん。その後ろには、帝と共にログインしたであろう雷さんや乃依くん、お喋りを終えたであろうマシュと真実ちゃんもいる。
つまり、パンケーキ防衛隊全員集合という訳だ。
「お疲れー! 帝に彩葉ちゃん、乃依くんに雷さん! みんな調子良さそうだね!」
本当のことを言えば、彩葉ちゃんはかなり緊張していそうだ。無理をして笑みを作っている感じがする。それでも私は敢えて『調子良さそう』と言った。まぁ一種の暗示のようなものだ。
各々が決戦前の挨拶を交わし合う中で、私も思考回路を切り替えていった。
(SFミステリーに浸っている場合じゃないな……。まずは目の前の……月人とのゲームに勝たないとね!)
そんな中、真実ちゃんと芦花ちゃんの会話が私の耳に入った。
「芦花〜。まだ緊張してる? イケそう?」
「さっきはありがと、真実。藤丸さんと真実のおかげで、もう大丈夫! やるからには全力でやるよ!」
うんうん。これで芦花ちゃんは大丈夫そうだね。
そして、雑談する余裕も無くなるほど決戦の刻が迫ったとき、帝が号令した。
「1分後、忠犬オタ公とかぐやちゃんの挨拶が終わったら、いよいよ俺らの出陣だ! 月人とかぐやちゃんと子ウサギどもに、目に物見せてやろうぜ!」
55、54、53……というカウントダウンの表示を見つめながら、全員その刻が来るのを待つ。私の隣に立つマシュの顔は、凛々しくてカッコよかった。雷さんは目を閉じて精神を集中させている。
そんな中、ヤチヨがススっと私の傍に寄って、耳元で囁いた。
「藤丸店長」
「……なに?」
返事をしながら、私は違和感を覚えていた。
何故アカウント名の“ぐだ子”ではなく、藤丸店長と私を呼ぶ……?
その疑問を口にするより、ヤチヨが言葉を紡ぐ方が早かった。
「彩葉のこと、よろしくね」
「……かぐやちゃんじゃなくて?」
「ふふっ。かぐやならぜーんぶ大丈夫! ヤッチョには分かっちゃうんだ〜☆」
「それって、どういう──」
私の思考回路が、再びSFミステリーに向けて回り出そうとしたが──
「キタキタ来たぁーーーー!! なんという急展開! ツクヨミに突如現れたフリーダム! 超新星かぐやの卒業ライブ、スタートだぁぁーーーー!! 司会の、忠犬オタ公だぜぇぇーーーーっ!!」
「なんかついでで喚ばれた、
カウントダウンはヤチヨと話している間に終わっていて、忠犬オタ公が『最初からクライマックス』なハイテンションで開幕を告げていた。
「ここだけの話──。ド派手で前代未聞! 驚天動地なサプライズ演出もあるって情報が入ってきてるぞ! もうコレは泣いたりくよくよしたりしてる場合じゃないっ!」
ああ、そうだ。難しいことをくよくよ考えるのは後だ。
ヤチヨの謎なんてのは、明日さつまいも黒蜜デニッシュでも食べながら考えればいいんだ。
「最後のファンサだぁ! 目に焼き付けろぉ!!」
かぐやちゃん、彩葉ちゃん、観客達、月人達──。
全員の目に、私達『パンケーキ防衛隊』の、人間の色彩って奴を、焼き付けてやる──。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
なんか色々調べてみると、「花のようなる秀頼様を……」という童唄、別に有名じゃない(知名度低い)みたいですね!?
私の創作じゃなくてマジで存在する童唄なんですが……。
「花のようなる秀頼様を……」とタイトルどっちにするか迷った……。
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