【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉 作:生徒会副長
草が夜風に揺れ、川が穏やかに流れる合戦場。
そこに建つ天守閣にスポットライトが当てられると、彼女の愛らしい容貌が照らし出された。
兎の耳を垂らした、月のように輝く金の髪。
白い肌が眩しい、ミニスカの紅い着物。
蓬莱の玉の枝のようなその瞳には、どこか大人びた覚悟や強さが宿っているように見えた。
みんなの、ツクヨミの、私達のお姫様──かぐやちゃんだ。
「みんなーー!! 今まで応援してくれて……卒業ライブを観に来てくれて……本当にありがとーーーー!!」
あくまでも元気に、彼女は自分を見る全ての人に声を届けた──いや、届けようとしている。
「今日でお別れみたいなんだけど、悲しくはしたくないんだっ。みんなでお見送りして……ハッピーに卒業させてっ!」
うん、それ、無理。
ライバーとしての卒業はいいけど、この
だって……私に言わせれば、まだまだだもん。
彩葉ちゃんの成長も、かぐやちゃんの作り笑いも。こんなんじゃ、ハッピーな卒業なんて無理だから。
私の意見を肯定するように、一条の流星がツクヨミの空を駆けた。
いや、流星ではない。それは空飛ぶ桃だった。
天守閣のすぐそばに落ちた桃の中から現れたのは、巨大な盾を持つ女性──。
「パンケーキ防衛隊隊員、マシュ・家老・キリエライト! 勝手ながら、KASSEN開始の法螺貝を吹かせていただきます!!」
かぐやちゃんは「パンケーキ……防衛隊?」と呟きを漏らして呆然とする。それを尻目に、私の頼れる後輩、パンケーキ防衛隊のシールダーは、アイテムボックスから取り出した法螺貝を吹き鳴らした。
ぶぉぉぉぉおおおおーーーーん……。
除夜の鐘を思わせる、絶妙な響き。卒業ライブの切ない雰囲気は壊さず、それでいて私達の闘志を静かに燃え上がらせる、最高の法螺貝だ。
その音色に呼ばれて、私達は七つの流星、七つの桃となって空を駆けた。
マシュの周りに、私達八人は揃い踏みした。
「よぉ子ウサギども! かぐやちゃんを攫いに滅茶苦茶つえー月の軍勢ってのが来るらしいからよぉ……。かぐやちゃんを守る『パンケーキ防衛隊』の隊長としてッ! お前らの帝様が来たぜ!!」
ツクヨミが誇る最強のプロゲーマーにしてライバー『ブラックオニキス』の登場に、観客が沸き立った。
「どうもー! パンケーキ防衛隊副隊長の、ぐだ子こと藤丸立香でーす! 観客の皆の分まで全力で戦うから! かぐやちゃんのついでに、応援よろしくっ!!」
私も観客に向けてそう声を上げる。黒鬼に比べればマイナーな
そして彩葉ちゃんは……かぐやちゃん唯一人に向けて言う。
「どう? かぐや! これがライブの余興! 私のサプライズ──パンケーキ防衛隊! 私達は私達で、精一杯やるからさ!」
彩葉ちゃんは、ささやかな、しかし都合が良くて、可愛らしくて、尊い願望を口にした。
「奇跡が起こって勝っちゃったら──ドンキで買い出しして、パンケーキ作ろ!」
普通の女の子の、普通の願い。
私もマシュも、帝も乃依くんも雷さんも、芦花ちゃんも真実ちゃんも。
正義や効率なんかのためじゃなく、こういうものを守る為にこそ、ここへ来ている──。
「奇跡は起こるものじゃなくてさ。起こすもんでしょ!」
「ああそうだな藤丸! 最高のハッピーエンドの夢を、見せてやるぜっ!!」
目に涙の粒を溜めながら、かぐやちゃんは叫んだ。目の前に広がる色彩を……証明……いや、『全力で推す』かのように──。
「……みんな、自由だーーーーっっ!!」
その声に応えるように。
その声を制するかのように。
ツクヨミの空が震える。
星空に、宇宙の深淵を思わせるかのような昏い輝きの渦が、広がっていく。
その渦の中から、とうとうヤツらが姿を現した──。
「敵性体、
「あれが……かぐやの……」
その姿は──完成された彫刻、正確に動く絡繰人形のような黄金比と機能美を感じさせる。筋骨隆々とした身体つきで、肌は漂白したように真っ白だった。装飾は七福神のように美しく神々しさはあるが、人間の営みや心はどうにも感じられなかった。
かぐやちゃんが卒業ライブで歌う曲の調べが、儚く寂しげに響いている。私の視界の端では、KASSENの始まりを告げるメッセージウィンドウが中空に表示されていた。
──※──
バトルロイヤルモード
《パンケーキ防衛隊》残機5
●リーダー
帝アキラ
●サブリーダー
ぐだ子
●チームメンバー
家老マシュ/雷/乃依
ROKA/まみまみ
いろP/かぐや
《?????》残機5
●リーダー
メインシステム
●サブリーダー
ルーラー
●チームメンバー
セイバー/アーチャー
ランサー/ライダー
アサシン/キャスター
バーサーカー
──※──
「盛り上げていこうぜ!」
「私達の全力を、見せてつけてやろう!」
帝と私の号令を合図に、各々が作戦を開始した。
見張り台に立った乃依くんが、溜め動作が長い代わりに超強力な、氷属性の射撃を行う。
頭部が提灯で出来ている月人の
そして私とマシュ、芦花ちゃんと真実ちゃんの4人は
「はぁぁぁぁっ!!」
私は二刀流で、ミニオン達を次々に斬り捨てていく。雪崩のように押し寄せるミニオンのうちの1体が、私の背中にも迫る──が。
「やぁぁぁぁっ!!」
マシュが盾で攻撃を防いでから、完璧なカウンターを決める。吹き飛ばされたミニオンはビリヤードのように他のミニオンと激突し、撃破数を伸ばしていく。
「この調子で行くよ、マシュ!」
「お守りします! マスター!」
チラリと目を見遣れば、真実ちゃんが巨大フォークで敵を次々に斬り刻み、芦花ちゃんのネイルから放たれる七色の光が、次々に敵を焼き払っていた。
敵の軍勢と攻撃が銀河のように瞬く中、私達は戦いながら駆け抜ける。その背中を、かぐやちゃんの歌が押してくれていた。
「もっと衝動的な音で──もっと感情的な歌で──」
すごいね、かぐやちゃん。
イントロはバラードのように切なかったのに、Bメロが始まってしまえば、とっても楽しそう。
だけどね、かぐやちゃん。
貴女が納得できていても、遺された人達は納得できてない。
彩葉ちゃんだって、芦花ちゃんだって……納得できる答えを、見つけていない。
だから私は、まだまだ闘う。
死や断絶、別離や終焉に立ち向かえる答えを、あの子達が見つけられるように。
バッドエンドになんか、させない──。
──※──
東洋風の白い竜に跨った敵将『ライダー』。そいつが突進してくる迫力と相対したマシュは──。
「──そこっ!」
完璧なタイミングで『シールドバッシュ』をキメた。ドスンッと重く鈍い音の後、トスされたバレーボールのように、ライダーは中空に打ち上がる。
マシュが作ってくれたその隙を、見逃す私ではない。
「もらった!」
帝とのトレーニングでモノにした、空中で前転しながらの回転斬り。ヨーヨーのように高速で回転しながら繰り出す斬撃は、ライダーの苦し紛れの防御もこじ開け、HPを削り取っていく。
そしてついに7回目の斬撃で、ライダーのアバターとHPゲージ──その両方を斬り捨てることができた。
「お見事です、マスター!」
大技を終えて
「真実! いまの隙に!」
「おっけぇ!!」
芦花ちゃんの声がした方に目を向けると、偃月刀を持つ白い大男──ランサーが、芦花ちゃんのネイルから放たれる幾条もの光線で動きを止められていた。その隙に、真実ちゃんがフォークを振りかざす。
「たぁーーっっ!!」
巨大フォークの先端は巨大いちごに刺さっており、さながらハンマーのようだ。重い一撃を受けて、ランサーのアバターは光の粒子となって消滅した。
「よし! みんな、その調子で連携して戦おう!」
私はウィンドウをチラリと見て、改めて戦況を確認する。
>>帝アキラがセイバーを撃破しました。
▶まみまみがライダーに撃破されました。
▶ROKAがランサーに撃破されました。
>>いろPがバーサーカーを撃破しました。
>>雷がアサシンを撃破しました。
>>帝アキラがキャスターを撃破しました。
>>ぐだ子がライダーを撃破しました。
>>まみまみがランサーを撃破しました。
(うん、いい感じ!)
月人は六騎倒されて残機5つを使い切った。もはや、ランサーを復活させるチーム残機が無い。
対するこちらは、真実ちゃんと芦花ちゃんが倒されたときに残機2つを失っただけ。
気になる点があるとすれば……。
『……三騎、天守閣付近から動かないな』
チーム内チャットに、雷さんの冷静な分析の声が流れた。
『アーチャー』はまだ分かる。乃依くんと同じように遠距離射撃という役割があるから。しかし相手の『メインシステム』と『ルーラー』がほぼ棒立ちなのは不可解だ。
もしかして……こっちのかぐやちゃんが卒業ライブで動けないのと、何か関係してる? かぐやちゃんに配慮して、
『攻撃できない代わりにミニオンを出しまくるって能力なら釣り合い取れてるかもー? そうじゃなかったらチートじゃね? このミニオンの数☆』
乃依くんが舐めプ以外の可能性と、もう一つの懸念点についてチャットで言及してくれた。
こちらのミニオンはほぼ全滅しているのに、月人のミニオンはまるで減らない。倒しても倒しても波のように押し寄せてくる。
『アキラ。ここからどうする? 地雷はあらかた設置したから、俺と乃依が前に出る手もあるぞ』
『んじゃ、雷の言う通りプランDで──』
帝と雷さんが、そんなやり取りをしているときだった。
月人チームのメンバー……脱落したランサーを除く八騎が……『脱皮』を始めた。
「…………は?」
間抜けな声が漏れてしまうが、仕方ない。蛇や蟹が脱皮して大きく育つように、蛹から蝶が羽ばたくように、月人達も姿を変えていく。姿を変えるという点から言えば、『脱皮』より『羽化』や『進化』、『変身』とでも言った方がいいのか。
打刀を右手に持っていたセイバーは、武器を大太刀の二刀流に変えて、身長が私の倍ぐらいに。
ライダーの乗騎である白き竜、その首が増えて三つに。
獅子舞のような姿をしていたバーサーカーは、ケンタウロスのような獣人の姿に。
各々変身を終えた月人達が、私達に迫ってくる。
そんな中、卒業ライブをしているかぐやちゃんは、2曲目を歌い始めていた──。
────ひとりになると聞こえるの────
────苦しいならやめていいと────
────ブラックホールみたいに深く────
────怖くて魅力的な甘い声が────
(嗚呼、そんな……。この歌は……)
私もマシュも大好きな曲──『色彩』。
まさに、確かに、竹取物語や卒業ライブに相応しい名曲。
そして──。
(かぐやちゃんには……まるで似合わない曲だ!!!)
両の刀を力強く握り締めて。
奥歯をぎぃっと食いしばって。
私は言葉に発せない想いを、目の前に迫るライダーにぶつけることにした──。
──※──
かぐやちゃんが歌う『色彩』が美しく響く中、私達はどんどん追い詰められていく。
(ああ……気に入らない……気に入らないな……!)
ますます増えていくミニオンに囲まれることも、強くなったライダーにマシュと二人がかりでなお手を焼いていることも気に入らない。
だがそれ以上に……かぐやちゃんと『色彩』の相性が悪い意味で良すぎるのが気に入らない!
────あなたの口癖を真似て────
────なんでもないと言ってみる────
────それが嘘でもかまわない────
────立ち続ける動機になれば────
(……本音で話してあげたの!? 彩葉ちゃんとかぐやちゃん……二人で一緒に過ごしてきた日々の終わりが、嘘や芝居で幕を下ろすなんて解釈違いもいいところだ!)
しかしその怒りは、私の力をもたらす火にはならなかった。
▶雷がセイバーに撃破されました。
▶乃依がアサシンに撃破されました。
私とマシュがライダーに押されている隙に、セイバーとアサシンに
>>ROKAがライダーを撃破しました。
芦花ちゃんも加わって、3人がかりでなんとかライダーを倒す。真実ちゃんは天守閣防衛のために
しかし、固まって行動している私達3人を、アーチャーが狙う。アーチャーは先程まで弓道で使う程度の大きさの弓を使っていたのだが……変身を機に、そいつは4mを超す巨大な弓を使うようになっていた。
(あ……やば──)
気がついたときには、星を焼くかのような光と熱量が、私達の目前まで迫っていた。
死という概念がない
マシュだった。私のマシュが、
「くっ…………ああああああ────っ!!!」
「マシュっ!!」
「マシュさんっ!!」
三人まとめて倒す算段で撃たれたであろう攻撃。マシュは強く、誇り高く、それを一人で受け止めた。
しかし、その代償として──。
「ま……しゅ…………?」
▶家老マシュがアーチャーに撃破されました。
マシュのHPがゼロになった。
あぁ、そうだ。所詮ゲームの数値が変化しただけ。現実のマシュは今も、私の隣にいる。
私の大事なマシュ・キリエライトが、死んだ訳ではない。
死んだ訳ではないが……。
「すぐ……リスポーン……しますのでっ……!」
そんな眼前のマシュの声は、聞こえなくなっていた。桜が散る
代わりに、鮮烈なイメージが私の脳裏で再生される。
それは──。
『私は、守られてばかりだったから──。最後に一度ぐらいは、先輩のお役に、立ちたかった──』
時間が止まったような感覚の中、怖ろしいほど綺麗な歌声が、その幻像に彩りと現実感を与える──。
────すべての命に終わりがあるのに────
────どうして人は怯え嘆くのだろう────
────いつかは失うと知ってるから────
────当たり前の日々は何より美しい────
(なん……だ……? コレ……?)
こんな光景は見たことがないはずなのに……。
マシュが死ぬなんて、ありえないのに……。
何故だろうか……。これが『マシュの最期』ということだけは……はっきり……分かって……。
『マスター! アキラさん!』
リスポーンして間もなくボイスチャットで話し掛けてきたマシュの声で、私の意識はハッと現実に返る。戻ると同時に眼前に迫っていた月人のミニオンを刀で吹っ飛ばす。
『月人の攻撃力・防御力・敏捷性のいずれも、大きく上昇しています! このままでは天守閣が落ちるのも時間の問題かと!』
『ならよぉ……』
マシュの報告を聞いた帝が、ボイスチャットで呼びかける。
『雷、乃依、藤丸、マシュ。アレを使うぞ。覚悟は……いいか?』
『リーダーの命令は絶対だ』
『ブラック・オニキスは一蓮托生♡』
帝の言葉に、雷さんと乃依くんが即答した。愚問だとでも言いたげに。
「……OK! やろう!」
「……はい! アキラさん、お願いします!」
一拍遅れて、私とマシュも快諾した。
「藤丸さん。『アレ』って……何のことですか……?」
背中を預けている芦花ちゃんが、そう問いかけてくる。
ちょうどそのとき、いかにも怪しげなメッセージウィンドウが私の前に表示された。
《アカウント名 [ma6ikk1aid6roa] より、機能拡張プラグイン【戦闘能力活性アンプル:ver16.8】が提示されました。本プラグインの適用を承認しますか?》
《ALERT! セーフティロック作動。本プラグインの適用は、アバターデータおよびマスターアカウントのシステム定義に深刻な不具合を発生させる可能性があります!》
ここまでお読み頂きありがとうございました!
感想や評価はいつでもお待ちしています!
Q:この世界には『色彩』あるの?
A:あるという設定で考えています。実は第1話で一瞬出ています……。
Q:月人のチーム名とリーダー名……。
《?????》
●リーダー
メインシステム
これもしかしてカルデアス!?
A:違います……。
プロットの段階では『月の正体は藤丸立香が敗北した並行世界のカルデアス』っていうのもアイデアとしてはありましたが、設定の整合性取れないのでやめました……。
サーヴァントが出てくるの遅くて申し訳ねぇです。
でも次回は