【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉 作:生徒会副長
戦闘能力活性アンプル:ver16.8──。
これが私達の奥の手。ツクヨミのプログラムと使用者の神経に干渉し、攻撃力・防御力・敏捷性を劇的に上昇させるチートプラグイン。そのリスクとして挙げられるのは、視覚障害、聴覚障害、記憶障害などなど……。
そして何よりのリスクが……ツクヨミのシステム、デジタルの神による、アカウントの抹消。
素材を苦労して集めて鍛えた装備とか……。
色んなゲームで積み重ねた戦績とか……。
私とマシュのぐだぐだチャンネルをきっかけに、歴史に興味を持ってくれた人がいたりとか……。
アカペラやダンスや寸劇をフォロワーの皆が楽しんでくれて、スパチャやコメントを受け取ったりとか……。
アカウントもろとも、それらツクヨミでの思い出が全て──消えてしまうかもしれない。
だから女子高生3人──彩葉ちゃん、芦花ちゃん、真実ちゃんには秘密にしつつ準備していたのだ。
しかし──。
私の背を押すように、歌声が響いた──。
──── 私が視てる未来はひとつだけ────
──── 永遠など少しも欲しくはない────
──── 一秒一瞬が愛おしい────
──── あなたがいる世界に私も生きてる────
心に燻る焔がある。
こんな歌を唄っておきながら、永遠なる月の世界へ旅立とうとしているかぐやちゃんは──。
こんな歌を聴いておきながら、彼女と一緒に歌うことも、一緒に戦うこともできない彩葉ちゃんは──。
(……解釈違いもいいところだ!!)
最後の覚悟を決めた私は力強く宣言した。
「……戦闘能力活性アンプル、承認!」
すると……私の世界は塗り替えられた。
視覚と聴覚を覆う、情報の氾濫。混沌としたデータの大洪水。
チートプラグインの副作用だろうか。一瞬という時間が無限に引き延ばされる感覚の中で──。
私は、優しい
──※──
優しい
その物語の舞台は、どこかのログハウスのようだ。窓ガラスは割れ、部屋の隅には瓦礫の山ができている。これが『三匹の子豚』の一幕なら、オオカミが入ってくるまで秒読みといったところか。
そこで私の前に立っていたのは、星の無い夜空を切り取ったように真っ黒な外套を纏った美青年だった。
『立香、君がこんなものを使わないと救えない世界だの特異点だの村だのなんて、いっそ潔く滅びてしまった方がいいんじゃないのかい? ほら、花は散るからこそ美しいって言葉も、君の国にはあるだろう?』
そう言う彼の手には注射器が3本あった。私は直感で、それが【戦闘能力活性アンプル:ver16.8】と似た効果のもの、あるいはこの
『オベロンの言うことは極論としてもな?』
そう言葉を発したのは、白い美青年──オベロンの横に立つ、背広を着た背の高い男性だった。
『最強無敵の
しかし──。
『この
ニッコニコしながら、このコヤンスカヤと名乗る美女はそう言った。すぐ傍に立つはじめちゃんとオベロンに睨まれることにも意に介さず。
……うん、いや、本当になんか色々凄い美女だな? 傾国の美女ってヤツ? 狐耳と狐の尻尾は彩葉ちゃんのアバターの3割増しのもっふもふ具合。艶めかしく光る黒のエナメルスーツが、女の私でも見惚れるほどの爆乳と美脚を更に強調する。こんな可愛さと美しさとカッコ良さを兼ね備えた女スパイに甘い声で誘惑されたら、世の99%の社長は簡単に機密情報をゲロってしまうんじゃなかろうか。
そしてその甘い声が、私の背を押す為に使われた
『確かに? そこな
瞬間、
『……殺す気も力もないクセに、やんちゃなオオカミさんですねぇ。それともワンちゃんでしたかぁ?』
『へぇ。そういうアンタこそ、ワンちゃんがちょっとじゃれついただけで小粋なトークを中断しちまうとは、ずいぶん臆病なもので』
『
そう馴れた口調で二人の諍いを止めに入ったのは──
『オベロンのお誘いも、
その台詞を発する時だけ、現実の私と
「使うよ、私は」
現実ではチートを。
「出し惜しみをしたせいで、救えるはずのものを救えなかったら……それこそ私は、
『特異点での出来事は、特異点が修正されれば綺麗さっぱり消え去る。夏の夜の夢のように。そうだとしても……か?』
オベロンの問いに、
『所詮ただのおとぎ話だから、道中で登場人物がどんな筋書きをなぞろうがどうでもいい──。そういうの、オベロンが一番嫌いなヤツでしょ?』
『へぇ〜、名探偵にでもなったつもりか? なら二番目に嫌いなヤツを言ってやろうか? そうやって楽屋裏を覗いてくる奴だよ』
『オベロンの戸締まりが甘いだけじゃないかなぁ〜?』
彩葉ちゃんが聞いていたらフリーズしそうな程ハイレベルな皮肉の応酬。それを
『……まぁ。そういう目ぇしたマスターちゃんが折れないのは分かってるし? そういうマスターちゃんだからこそ沖田ちゃんも召喚に応じたんだろうし? ここは僕が折れときますかね……』
……沖田? それにハジメ? オオカミ?
(…………何なの? この
もしかしてこの人……新選組三番隊組長の……斎藤
それにオベロンって……『夏の夜の夢』の、妖精王オベロン……?
どういう設定の
分からないけれど……分からないまま……
『だがなマスター。それを使ったからには、注射1回分以上の痛み、注射針1本分以上の傷は、お前には背負わせない。それが俺に出来る最大限の譲歩であり……俺の誠だ』
『……うん。ありがとう、
そんなやり取りを聞き終えたオベロンが口を開いた。
『それじゃ、サクッと活性アンプルを打つとしようか』
『サンキュ、オベロン』
『礼なんて要らないねぇ』
そう言ったオベロンは、黒い笑みを浮べていた。
『むしろ酷い副作用が出たら、俺を恨めばいいんじゃない? 恨まれて痛む心なんて俺にはないし?』
『とか言いつつ汚れ役を買って出て好感度を稼ぐオベロンなのであった』
『無駄口もそこまでにしておけよ』
空想と現実は、再び入れ替わった──。
──※──
現実……というか、パンケーキ防衛隊が戦う合戦場に戻ると、私の眼前に月人が2体迫っていた。軍配を振りかざす彼らに対して──。
「────はッ!」
二刀を投げつけて首を刎ねる。すかさず腰から抜いた二刀を構えて、新たな三体の月人へ向かっていく。
私が繰り出す斬撃2つと、ブーメランのように返ってきた刀2本が、完璧なタイミングで月人2体を挟撃する!
そして残った月人を、新たに抜いた二刀で十文字に斬り裂く──!
「────鶴翼三連ッ!!」
私が名付けた……訳ではない。この技の名を、いま思い出した。いつ誰が教えてくれたか思い出せないのに。
今まで私が使っていた技『鶴翼連斬』は牽制を織り込んだ単なる連続攻撃。
しかし『鶴翼三連』は……。
『牽制は無い。最初の投擲、続く三連続の斬撃──その全てに必殺の威力を込めてこそ、これは私の切り札たりえるのでね』
顔も名前も思い出せない誰かが、そう話していた気がするのだ。
「藤丸……さん……? そ、その強さは……? その……顔の模様は!?」
芦花ちゃんと、そして観客の驚愕に対して、実況席の忠犬オタ公と
「あーっと、琴さん! 黒鬼とぐだ子とマシュが使ってるのはっ! いわゆるチートモードではないでしょうかっ!? これってアリなんですかっ!?」
「……Eスポーツ的にはナシでしょうねぇ……。サッカーを例に考えてみてくださいよ。誰が相手でどんなルールだろうと、ハンドがOKだったらもうそれはサッカーじゃないでしょう……」
観客席にもざわめきが走る。このチートが善か悪か。応援するべきか非難すべきか。
そんな中──。
「でもねぇ……!」
琴さんは──涙交じりの声で言ってくれた。
「でもこれは……愛ですよ! 愛! ちょっとやそっとのルールだの常識だの! 垢BANのリスクだのより! あの5人は推しへの愛を選んだんですよ!! つーわけで
「なに私を巻き込んでんだ! いやまぁ、そう熱弁されたら私も応援しちゃうけどっ! いけーーっ! 勝てーーっ! パンケーキ防衛隊!!」
忠犬オタ公と
「頑張れー! 帝ー!」
「全速前進DA!!」
「負けるなー! いろPー!」
「止まるんじゃねぇぞ……!」
歓声が、応援が、拍手が響く。私達に──勇気を分け与えてくれている──。
『ま……そういう訳でな!』
帝がボイスチャットで指示を出した。
『ここからはプロと大人の時間だ! チーター5人、最速最強の動きで天守閣を落とす! 芦花と真実は天守閣の防衛を頼む! 彩葉は……好きにしろ!』
『アキラさん!!』
帝の作戦に異を唱えたのは──芦花……ちゃん……?
『私も、
彼女の、潤んだ、そして真剣な眼差し。
この戦いが始まる前、私に悩みを打ち明けたときとは全くの別人のようだ。
たとえ報われなくても、たとえ勝てなくても、全力で駆け抜けるんだって。
だから私は──。
「マシュっ!!」
『はい! マスター!』
一番の相棒に、ボイスチャットで託した。
「護りは任せた!!」
──君が彼女を尊重し、対等の相手と思うのなら、心配するんじゃなくて信頼するべきだ──。
一呼吸置いてから、
『お任せください! 芦花さんとマスターは、存分に!』
マシュは力強い言葉で、私の信頼に応えてくれた。ならあとは、前へ進むだけ!
「いくよ、芦花ちゃん!」
「はい、藤丸さん!」
私達を励ますように、卒業ライブの3曲目が始まった。
心が弾けるような、ポップで爽快なリズムのイントロ。私達はそれをバックミュージックに、音ゲーでも愉しむかのような軽やかさで月人を蹴散らしていく──。
『帝やるじゃん、バーサーカー死にかけ♡ もう
『やっちまえ! 乃依!』
流石は帝。チートを使ってなお手強い敵将クラスを相手に、既に致命傷を負わせていたらしい。
向かって左方向で、バーサーカーの巨体が宙に浮く様子が見えた。
『じゃ、殺すね☆』
乃依くんがやや後方から放ったであろう雷の矢が、電撃の網でバーサーカーと数十体のミニオンを焼く。大漁旗でも振りたくなるほど見事な戦果だ。電流が止むと、代わりにバーサーカーが散らせた桜が風に運ばれていき……。
>>乃依がバーサーカーを撃破しました。
そんな勝利の通知が、ウィンドウに表示された。
(こっちも負けてられないな……!)
私と芦花ちゃんは、大量のミニオンとセイバーに足止めされている最中。いい加減道を空けないと……!
「芦花ちゃん、伏せて!」
セイバーと戦っていた芦花ちゃんがサッとしゃがむと同時に、私は左手の剣を投擲し、セイバーの胸元に刺し穿った。
そして右手の刀で、大技を放つ──。
『以蔵は確かに強いが、ビームが出せないのでは
今回の特異点修復には向いていないだろう。私は出せるが』
『というかイゾー、ビームの出し方ぐらい幕末の頃から覚えとけよな』
『アホか! 普通は剣からそんなもん出んがじゃ!』
今は令和で、ここは仮想空間ツクヨミなので、なんと私みたいな一般人でも剣からビームが出る。
名前は、そう──空想《ユメ》の中での誰かから拝借して──!
「────
黒く輝くビームが、轟音と共に道を切り開き、月人達を虚無へ還す。セイバーの月人は……倒し切れなかったが、遥か遠くに吹き飛ばすことが出来た。後は良い脚があれば……。
「藤丸さん、乗ってください!」
「おおっ! 芦花ちゃんナイス!」
私が大技で月人を蹴散らしている間に、芦花ちゃんは乗騎を召喚していた。二人なら余裕で乗れそうな、神々しい白鹿だ。
乗騎に乗りながら戦うのはリスクと難易度が高い。しかし二人乗りによって速度を落としつつ突破力を上げ、さらに私のチートも加われば……。
(……うん! イケる!!)
私は白鹿に素早く飛び乗る。そのとき、右手方向を駆け抜ける彩葉ちゃんとすれ違った。かぐやちゃんの元へ向かう気なのだろう。
────芦花! あとは、お願いね!
彼女の目は、そう訴えかけているようだった。私じゃなく、芦花ちゃんに。
一秒の余裕もない、一瞬の猶予も許されない中、私とアイコンタクトを交わす時間すら惜しんで──。
彩葉ちゃんは、芦花ちゃんと目で会話することを選んだようだ──。
「……来た甲斐、あったでしょ?」
「……そうですねっ!!」
モーセのように、私が黒いビームが切り開いた道を、白鹿が走っていく。
しかしその間にも、状況はじわじわ悪化していった──。
『……すまん! 落ちる!』
『……オレの分まで走れよ、帝』
▶雷がアーチャーに撃破されました。
▶乃依が自爆しました。
>>乃依がアーチャーを撃破しました。
はるか左前方にいたはずのアーチャーが、爆炎の矢の直撃を受けて消滅していた。乃依くんの、最後にして最強の攻撃だったのだろう。
それは、まるで──。
『この渾身の一射を放ちし後に──我が強靱の五体、即座に砕け散るであろう!』
乃依くんだけではない。
『芦花……彩葉……ごめん……』
『……申し訳ありません! マシュ・キリエライト、最後の意地を見せてから、戦線を離脱します!』
▶まみまみがアサシンに撃破されました。
▶家老マシュが自爆しました。
>>家老マシュがアサシンを撃破しました。
アーチャーとアサシンの2騎を倒す為に、こちらは4人脱落した。
残った敵は無傷のメインシステムとルーラー、重傷のセイバーと軽傷のキャスター。あと大量のミニオン。
残った味方は芦花ちゃんと私、帝と彩葉ちゃん。それと、天守閣で歌っている最中のかぐやちゃん。
────この一瞬が最高のパーティーなんだ────
────全部ぎゅっと覚えていようよ まぶしい日を────
彼女の歌声に励まされ、いくらでも前へ進める気がしていたのだけれど……。
「くっ……!」
『
もう敵の天守閣と、その前に立つルーラーとメインシステムが、目の鼻の先だっていうのに……!
「藤丸さん! 乗り捨ててください!」
芦花ちゃんのその言葉の意味を、私は瞬時に理解してしまった。
彼女は、私がどこぞの配管工のように、この白鹿と芦花ちゃんを踏み台にして跳んで征くことを望んでいる──。
「……っ! ごめんっ!!」
もはや迷う時間が惜しかった。マシュが脱落した今、彩葉ちゃん1人では天守閣を守り切れないだろう……。
(……やられる前にやるしかない!)
小さく跳んで、白鹿の大きな角を踏む。
丈夫な角がしなるほど弾みをつけ、今度は大きく跳んだ──。
「はぁああああああ────っっ!!」
月まで届きそうなほど速く高い跳躍で、月人の包囲を脱し──。
いよいよ私は、敵の天守閣に迫る──。
【あとがき】
いつも感想等ありがとうございます。
一応本作は毎週日曜日更新を目標(目安)にしているのですが、せっかくの盆休みなので、8月12日(水)も更新いたします。
書き溜め自体はもうちょっとあるのですが、週2回更新にするほどの余裕はない、といったところです。
また感想等送ってくださると励みになります!