彩葉のバイト先の店長は前作主人公感漂う藤丸立香です(旧題:パン屋のぐだ子とバイトの彩葉)   作:生徒会副長

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ハーメルンの章分け機能、今まで使ってなかったんでいい加減使います(汗)

さぁ、カルデアのマスターの再演だ!


カルデアのマスター再演編
㉖再演の時きたれり、其は未来を選び取るもの


 

 

 

 

 気分が悪い。息苦しい。吐き気がする。

 そんな感覚を覚えながら、私はうつ伏せになっている身体を起こそうとする。

 

(……あれ? なんでうつ伏せなんだろ? なんで布団被ってないんだろ?)

 

 寝相が悪くて、ベッドから転げ落ちたのかな?

 それともヒュドラの尾に打ち据えられて気絶でもしたかな?

 

(今日は……今は……何しなきゃいけないんだっけ……?)

 

 2回目の土曜日を迎えても売れ行き絶好調なさつまいも黒蜜デニッシュを、朝からたくさん焼かないと……。

 いやいやそんなことより、彦斎さんと一緒にシミュレーターに潜って、凶骨を集めないと……。

 

(────え? は?)

 

 私の脳に、2つの記憶がある……?

 そう認識した、次の瞬間──。

 

「あっ……ガッ……うがぁぁあああああああ!!」

 

 頭蓋を万力で思い切り締めつけられられるような──。

 或いは、脳血管に溶岩を流し込まれたような──。

 そんな激痛、そんな灼熱の地獄が、何分続いたか。

 4分? 4時間? 或いは──。

 

(4年間……! 4年間も……! 私は……!!)

 

 あぁ──思い出した──。

 私は──かつて──。

 

「────人類最後のマスターだった……」

 

 人理焼却事件、数え切れないほどの特異点、地球白紙化現象──。

 それら人類滅亡の危機に立ち向かって、最期にはカルデアの旅路や記憶、仲間や居場所を失う覚悟を決めて、私達なりのハッピーエンドに辿り着いた──。

 

「…………あれ?」

 

 え? あれ? 2つの藤丸立香の人生を比べてみたら……。

 どっちの私も、凄過ぎない?

 

「うっ……ひぐっ……うぅ……」

 

 パン屋さんの私から見たら……凄い、本当に凄いよ、カルデアの私。

 何度も何度も死にそうになって、絶望して、涙を流して。

 それでも立ち上がって、吼えて、虚勢を張って。

 人類史に名を刻んだ英雄と戦ったり、絆を結んだり。

 人類悪(ビースト)や異聞帯の王を倒したり、一緒にパンを焼いたり。

 カルデアの私(あなた)のお陰で、2030年の世界がある。藤丸ベーカリーがあって、歴史の浪漫や未来への希望があって、仮想空間ツクヨミがある。そんな世界が。

 ありがとう、カルデアの私……! 未来を残してくれて、本当にありがとう……!

 

「あ……あぁっ……うぅ……」

 

 でもカルデアの私から見たら……パン屋さんの私だって凄い、本当に凄い。

 ちゃんと2015年の東京駅で、マシュに声を掛けることができた。マシュとまた、最高の相棒として、最高の後輩として、一緒に勉強したり、ゲームしたり、パン屋さんで働いたりすることができた。

 そして、『好きな人とパン屋を開く』って夢──。

 カルデアに来る前ののほほんとした私だったら、夢を諦めて、テキトーにそれっぽい会社で働いて、忘れてしまっていたかもしれない。

 カルデアのマスターとして罪を背負った私だったら、笑顔でパンを焼けなかったかもしれない。

 でも2030年の私、ちゃんとパン屋さんやれてるじゃん。彩葉ちゃんやみおちゃんの人生の先輩として、ちゃんとやれてるじゃん。かぐやちゃん、芦花ちゃん、真実ちゃんに、美味しいパンを食べさせてあげられたじゃん。

 ありがとう、パン屋さんになった私……! 未来を繋いでくれて、本当にありがとう……!

 

「うわぁぁぁぁん…………」

 

 自分に対する誇らしい気持ちとか、二つの人生の中で見てきた幸せとか奇跡とか……。

 そういう色彩が万華鏡のように溢れ出して、私はしばし、熱い涙を流し続けた……。

 

──※──

 

 涙を流し終え、自分のことでいっぱいいっぱいだった時間が終わると、私は自分がいる場所──瓦礫の街の異質さに気づいた。

 瓦礫に背を預ける。そして落ち着いて思考を巡らせ、周囲を観察する。

 

「ここどこ? 特異点……かな……?」

 

 瓦礫と化した街というのは、カルデアのマスターとして幾度となく目にしている。わずかに残った道路の舗装、炭化した木造住宅、砕けた看板の文字などを見るに、大正から昭和初期までの日本……だと思う。

 この破壊の原因が、正常な歴史上で起こった出来事だとすれば……関東大震災や第二次世界大戦あたりが疑わしいかな。

 しかし妙なのは……。

 

「……匂いがしないし、彩度もない」

 

 まるでモノクロ映画の世界に迷い込んでしまったかのように、彩度を持っているのは私自身だけだった。そして僅かに燻る煙は見えているのに、物が焦げる臭いがしない。

 上を見上げれば曇天で、月も太陽もない。しかし星が一つだけ煌めいている。あれが一番星なら夜なのだろうか? それとも時刻という概念がない、固有結界のような場所なのだろうか?

 目が醒めたときから、何故か私は決戦用カルデア制服を着ていた。太ももの肌触りや手の皺を見るに、身体はカルデアの藤丸立香がベースになっている気がするけど……鏡を見てみたいものだ。

 手鏡かスマホがポケットに入っていればと思い探ってみると……何かの紙片を指で感じた。それは──。

 

「……手紙?」

 

 丁寧に折られたそれを開くと、長い文(ふみ)が綴られていた。必死に急いで書きつつも、読む人を気遣うような筆跡。その内容、手紙の主は──。

 

 

『拝啓 マスPさん』

 

『お久しぶりです。かつて貴女様にお救い頂いた鶴です。もとい、キャスターのミス・クレーンです』

 

『この手紙をマスPさんが読んでいる頃、マスPさんはカルデアの記憶を取り戻し、私はもう座に退去していることでしょう』

 

 

「ミス・クレーン!? そん、な……!」

 

 カルデアの記憶を持ち越したミス・クレーンが召喚されたという奇跡と、これが彼女の遺言であるという事実に、私は驚かざるをえなかった。

 だが私は、更に驚かされることになる──。

 

 

『マスPさんがいま居る場所は、ある人物の精神世界に出来た廃棄孔が、仮想空間ツクヨミを呑み込んで、特異点として変質してしまった場所です』

 

『私には千里眼などのスキルがないので、何故“彼女”が特異点の核になってしまったのかは分かりませんが──』

 

『その人物、この特異点の核とはズバリ……いろPこと、酒寄彩葉です』

 

『私を召喚した抑止力からのオーダーは、特異点の核である酒寄彩葉を抹殺することによる、特異点修正でした』

 

『しかし私には、どうしてもそんなことは出来ませんでした。長い長い人類史から見れば、いろPは取るに足らないただの女子高生、ただの配信者(ライバー)なのかもしれません。しかし私は、いろPの幸せな笑顔が、いろPの物語の続きが見たかったのです』

 

「は……? え……? 彩葉ちゃん……が……!」

 

 なんで……彩葉ちゃんの精神世界に、廃棄孔が……!?

 私の精神世界にも廃棄孔はあったけど、あれはどんな人間の精神世界にも在るような代物じゃない。

 私の場合は、主に──。

 1つ、人類最後のマスターだったこと。

 2つ、古今東西、英霊も反英霊も含めて、400騎近い数のサーヴァントと契約したこと。

 3つ、数多の特異点や異聞帯で戦いを繰り広げたこと。

 これらが廃棄孔形成の要因だったはず。

 ただ単に彩葉ちゃんが悪性情報──悲嘆、憎悪、憤怒、絶望など──を抱え込んだだけでは、廃棄孔なんて形成されないし、特異点になるなんてそれこそあり得ない。

 

(……でも実際、特異点は出来てるし……)

 

 私は手紙の続きを読む──。

 

『いろPを救いつつ特異点を修復するにはマスPさんの力が必要! そう考えた私はマスPさんへの真心を込めて、我が宝具で一着、織らせて頂きました』

 

『時間も素材もないので、おとぎ話と同じように、自分の霊基(からだ)を素材に織らせて頂きました。久しぶりの決戦用カルデア制服の着心地はいかがでしょうか?』

 

『着心地のご感想を聞くこともできず、マスPさんがいろPを救う勇姿を見ることもできない。それは未練ですけれど、後悔はしていません。私は希望を紡ぎ、残すことが出来ましたから』

 

『危険を承知でお願い致します。私の分まで、いろPを救って、推して、笑顔にしてください。そしてマスPさんもいろPも、ハッピーエンドに辿り着いてください』

 

『そしていつかまた再会できたときには、私が仕立てた服の感想を、その服を羽織って駆け抜けた物語を、お聞かせください』

『かつてマスター藤丸立香に仕えたキャスター、ミス・クレーンより』

「うぅ……んぐ……あぁぁぁぁ…………!」

 

 大切な手紙が濡れてしまうことが分かっていても、涙が止まらなかった。

 ミス・クレーンの宝具──“天衣無縫・鶴恩惜別歌(つるのえにしなみだのわかれ)”。

 十分な時間や素材があれば別だが、無い場合は自爆宝具になってしまう──。

 どうしてもっと早く目を醒まさなかったんだろう。そうすれば一言でも、お礼言えたかもしれないのに。一目でも、再会が叶ったかもしれないのに。

 

(……いや、後悔してる場合じゃない)

 

「……最高の着心地だよ。ありがとう……ミス・クレーン……」

 

 気持ちを切り替えた私は、空に向けてそう感謝を述べる。

 辛くても悲しくても前を向くクソ度胸だけが、私の強みだ。

 だから、託された責務は果たさないと。ミス・クレーンから受け取った希望は、私が形にしないといけないんだ!

 

(彩葉ちゃんが死んで、世界が救われる──そんなバッドエンドになんか、させない!)

 

 妖精國で、オベロンだって言ってたじゃないか。

 

『“ただいるだけの傍観者”で何が悪い! 観客にだって意地がある!』

『最後の最後で、神様だって予想していなかった大活躍を見せてやれ!』

『運命の鼻を明かしてやるのは、たぶんすっごく楽しいぞぅ!』

 

 あぁ、そうだ──。

 『かぐや姫』において、『かぐや姫を拾った人が働くパン屋の店長』なんて、傍観者もいいところだ。おとぎ話の主題なんかじゃない。

 しかし、誰だか分からないけれど、特異点を作って全てをぶち壊そうとしている何かがいる。

 そういう事件を解決するのが──カルデアのマスター(わたし)の役回りだ。

 

「……上等だ、やってやる!」

 

 ミス・クレーン手紙を折り畳んで仕舞い込み、手袋をはめ直す。

 右手の甲には、三画の令呪もある。ミス・クレーンが遺してくれたのか、はたまた抑止力からのサービスか。

 ともあれ、いよいよ──。

 

「……カルデアのマスター、藤丸立香の再演だ!」

 

 そう覚悟を決めた──ちょうどその時だった。

 

 ブロロロロ……と、エンジン音が聞こえた。微かな音だったそれは、段々近づいているような気がする。

 私は、背を預けていた瓦礫から僅かに顔を覗かせた。すると──真っ黒なバイクの影がこちらに迫っているのが見えた。あれは──。

 

「シャドウサーヴァントの……金時さん!?」

 

 遠目でも真っ黒でもゴールデンに見えてしまうあのジャケットと髪型の輪郭は、間違いなくそうだ。

 

(どうする……?)

 

 令呪はあるけど、魔力のパスが感じられない。

 このまま何もしなければ、ベアー号に轢殺されて一巻の終わりだ。

 エンジン音はどんどん近づいてきてる。しかし私のごとき凡人の足で走っても逃げられない。

 

(なら……もっと引きつける!)

 

 膝立ちになり、逃げ出したくなる足腰に活を入れ、その刻を待つ。

 エンジン音から距離を推し測って、あと3秒! 2、1──。

 

(今だ!)

 

 瓦礫の影から躍り出た私は、迫りくるライダーを見据え、礼装を起動する──!

 

「ガンドッッ!!」

 

 私の指から撃ち出される、黒い光弾。

 狙いはライダーの胸元だが──相手の反応の方が早い!

 ハンドルを鋭く切って、ライダーはガンドを躱す!

 ベアー号が私に肉薄した──その時!

 

「────はぁっ!」

 

 ベアー号が轢殺したのは、私の残像と瓦礫だった。

 魔術礼装による緊急回避──これが私に残された、最後の手札だ。

 

「くっ……」

 

 ライダーはすぐUターンして戻ってくる。

 救世主だの、人類最後のマスターだのと言っても、私個人の魔術戦は、所詮この程度。味方のサーヴァントがいないと、時間稼ぎすら覚束ない。

 そう──。

 味方の、サーヴァントがいない限り──。

 そんなことを考え、ライダーを見据えていた、まさにその時だった!

 

「キリエライト・タックルっっ!!」

 

 パワフルな掛け声と共に鮮やかな光が、ライダーの横っ腹に激突した!

 今更名前など確認する必要はない。しかし私は、その世界一可愛くて、世界一美しくて、世界一かっこいい彼女の名を呼ぶだけで、無限に勇気と元気が湧いてくるのだ────!

 

「……マシュ!!」

「はいっ、マスター! シールダー・パラディーン──マシュ・キリエライト! 状況はいまひとつ把握できていませんが、マスターをお護りします!」

 

 うおぁぁぁぁーーーーっっ!? 久しぶりに見るカルデアの聖騎士! 改めて見つめ合うと……私の相棒で後輩で恋人でファーストサーヴァントのマシュが最高すぎる!!

 白銀に輝くマシュの鎧は、太陽のような色彩と温もりを宿している。このモノクロの世界に在る虚無としての白とは訳が違う。前掛けや裾に用いられた蒼い意匠は、晴れ渡った青空のよう。

 メカクレのショートヘアはサラサラで、肌はカルデアにいた頃と同じすべすべのもち肌。よし、求婚しよ。あ、もうしてたわ。

 

「……マスター?」

「あ、ごめん! マシュが最高すぎて見惚れてた!」

 

 マシュの頬がほんのり朱に染まるが、しかしすぐさま彼女は気を取り直した。

 

「嬉しいお言葉、ありがとうございます! しかしまだ戦闘中ですので! 指示をお願いします!」

「お、おっけい! とりあえず、パスを繋ぎ直すよ!」

 

 互いに駆け寄り、私は自分の両手で、マシュの両手を包むように握る。

 右手の甲に刻まれていた令呪に魔力が奔り、今度こそ私はマスターとして復帰を果たした。

 

「……相手はライダー金時さんのシャドウサーヴァント! 宝具は温存して欲しいけど、それ以外はフルパワーでやっちゃって!」

「はい! マシュ・キリエライト、いきますっ!」

 

 マシュと私が目を向けると、ライダーはバイクのベアー号に再び跨って、こちらに突貫を仕掛けてくるところだった。

 ライダーの金時さんは、シンプルイズベストでゴールデンなサーヴァントだ。パワーとスピードでゴリ押しするタイプで、搦め手や飛び道具として使うのは雷撃。味方なら勿論頼もしいサーヴァントだが、シャドウサーヴァントとして現れた敵として見れば──。

 

「この程度で、私の盾を砕けると思わないことです!」

 

 到底マシュの敵ではない! マシュは斜めに向けた盾で衝撃を受け流しつつ、ライダーの姿勢を崩す。そこへマシュの華麗な蹴りが入り、ライダーは地面を抉りながらぶっ飛ばされた。

 

「これで──終わりですっ!!」

 

 地面にめり込んで動けないライダーにマシュが迫る。聖剣を限定解除し、ベディヴィエールの宝具のような構えから、マシュは光の斬撃をぶつけにいく!

 

「たぁーーーーっっ!!」

 

 掛け声と共に繰り出された攻撃に、私も礼装の効果で魔力を込めた。それは対人宝具にも匹敵する威力を発揮し、ライダーの身体を両断したのだった──。

 

「マシュ、お疲れ様!」

「はい! 久しぶりのサーヴァント戦、久しぶりのパラディーンでしたが、無事に戦闘終了です。 そう、久しぶり、の…………」

「……マシュ?」

 

 勝利の達成感で晴れ渡っていた彼女の顔が、不安によって曇っていく。口も閉ざしてしまう……。

 

「あの……先輩?」

「ん?」

 

 やっと口を開いたマシュは、質問をぶつけると共に、私の肩を揺さぶってきた!

 

「先輩と一緒にパン屋さんを営む素敵な日常は、汎人類史の2030年の出来事ということで宜しいのでしょうかーーーー!?」

「はい、よろしいと思いますっっ!!」

 

 半ば反射的にそう答えるしかない私。いやまぁ実際そうだろうし?

 

「そうですよね。2015年の東京駅で先輩と出会ったこと、2028年に藤丸ベーカリーをオープンしたこと、かぐやさんを巡る一連のドタバタ、そして明日の朝焼く予定のさつまいも黒蜜デニッシュの数に至るまで──克明に覚えています。夢ではないですね」

「どっちかと言えば夢みたいな扱いを受けてるのは、カルデアの日々の方だね……」

「はい。アニムスフィアの冠位指定(グランドオーダー)である、ロストベルト・ナンバーゼロは、私達が終止符を打ちました」

 

 そう。『汎人類史を取り戻せば2004年以降の人生は無かったことになる』という絶望と、『汎人類史を見捨てればカルデアの皆と旅を続けられる』という誘惑に、私達は打ち勝ったのだ。

 

「人類史は2004年から正しいルートに戻り、その結果、南極にカルデア基地は増築されませんでした。先輩がスカウトされてカルデア基地を訪れた事も、マスターとして縦横無尽の大活躍をした事実も『無かった事』になりました。ガッデムです」

「……マシュ?」

 

 ガッデム? なんか火力高いな??

 

「しかし、この特異点のようにも見える謎の空間でパラディーンとして目を覚ました私は、ひとまずあの星の方角に進んでいたところ、ライダーに襲われている先輩を発見し、たった今サーヴァント戦を終えた──という状況です。『ファーストサーヴァントは譲れない。』、そんな小説を執筆しかねないマシュ・キリエライトです」

 

 うん?? めちゃくちゃ読みたいな? その小説。

 それはともかくとしてだ。

 

「この空間って東西南北の概念無さそうだから、とりあえずあの星を北ってことにしようか」

 

 私は曇天を見上げて、そこに輝く唯一の星を指差す。白い星のはずだが、不思議と時折、七色の煌めきが見える気がするのだ。

 

「はい、それは良いですね。このモノクロの世界で、あの星の光にだけは温かな色彩が宿っているように見えますから。ところで、先輩はこの空間が何なのかご存知なのですか?」

「実は……」

 

 私はミス・クレーンの手紙を見せる。そして知り得る限りのことと、私の推測をマシュに話した。

 私が記憶を、マシュがパラディーンの盾を取り戻したのは、疑似サーヴァントに近い現象ではないかと思う。オガワハイムの特異点の式さんが似たような状態だった。

 

「そんな……。ミス・クレーンが……。酒寄さんが……」

 

 ショックを受けた後、マシュは同じ疑問へ至った上で、更に一歩踏み込んだ。

 

「……なぜ酒寄さんの精神世界に廃棄孔があるのでしょう? マリスビリーやマリス・カルデアスの陰謀なのでしょうか……」

「えっ? いやいや、それは流石に無い──」

 

 ……とは言い切れない? まぁだって、藤丸立香とかいう普通の女子高生が、マリスビリーの陰謀をひっくり返した訳だし?

 ジャガーマンの依代の人って、冬木市の高校で働く普通の先生だったらしいし?

 「うーん……」と唸りながら考え込む私とマシュだったが──。

 

「……ん?」

 

 私とマシュが、同時に殺気と魔力と足音を感じ取る。

 隠し切れない足音というよりは、武の達人として自然と身に付いた足運びのような……。

 

「マスター、西方向から……」

「……そうだね」

 

 早速“星”を基準とした方角で、マシュが言い、私が頷く。

 西方向を見遣ると、槍を持つシャドウサーヴァントがこっちに迫ってきていた。

 つまりまぁ……いつものアレだね!

 

「「話の途中だがシャドウサーヴァントだ!!」」

 

 いつぞやのロマニの台詞をハモりながら、私とマシュは戦闘に備える。

 

 ──かくして、私とマシュの物語には、思いがけない『続き』がもたらされた。

 喩えるなら、読み終えた本の巻末に空白のページがあったような。

 心に響く音楽が残した余韻のような。

 

 やること自体はいつもと同じ、特異点の修復。

 ただ、いつもと違うことがあるとすれば──。

 

『彩葉のこと、よろしくなっ』

『彩葉のこと、よろしくね』

『……藤丸店長になら、安心して任せられるよ。ねぇ、芦花』

『うん……。藤丸さんなら……。うんっ……』

『彩葉のこと、これからもよろしくお願い致します』

『私の分まで、いろPを救って、推して、笑顔にしてください』

 

 任されちゃったから。かぐやちゃん、ヤチヨ、真実ちゃん、芦花ちゃん、紅葉さん、ミス・クレーンから……彩葉ちゃんのこと。

 見捨てたくないから。私もマシュも……彩葉ちゃんのこと。

 

 最初の所長のときは手が届かなかった。

 最後の所長のときは腕を持ち上げられなかった。

 

(でも……今日は違う。彩葉ちゃんは違う)

 

 さぁ、一緒にパン屋さんで働く大切な仲間の彩葉ちゃんを救うついでに、推しのプロデューサーであるいろPを救うついでに──

 

(サクッと、世界を救っちゃおうじゃないか!)

 

 得意げに口角を上げて、私はマシュと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 




【あとがき】
ここまでお読み頂きありがとうございます!
色々書こうかとも思いましたが、感想欄で答える方がいいのかなぁ……という気もしたので長々書くのはやめときます。

マシュ以外のサーヴァントもちゃんと出るのでお楽しみに!

追記
ミス・クレーンは以下のスキル+英霊の座からツクヨミの配信を観てたイメージで考えてます。
○千年の報恩:A
受けた恩義への感謝を忘れない。
たとえ千年が過ぎようと、その想いは消えず、歪まず、あの日のまま「ここ」にある。
今こそ、己が身を献じて恩に報いる時。


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