【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉 作:生徒会副長
電子情報が描画する竹林の中、筋骨隆々とした男が私──藤丸立香に対して、大剣を振りかざす。
なんとも直線的な大振り。よくもまぁそんな単調な攻撃でこのランクまで上がってきたもんだな、と思ってしまう。
軽やかに、そして紙一重で私がそれを避けると、浅葱の隊服が風になびいた。そして私は、自分が出来うる限り最短最速の動きで、両手に持つ二刀を振るう。
これがツクヨミで流行している対戦ゲームだからって、ちょっと格好つけた台詞まで言っちゃいながら。
「形無きが故に無形。流れるが故に無限。故に我が剣は……無敵っ!!」
まぁこれ、ゲームだから流派も何もない……というだけの話なんだけど。
ともかく、対戦相手の男は私に斬り刻まれ、体力ゲージを喪失させた。
《銀級5段 ぐだ子 あなたの勝利です》
《あと1勝で金級初段》
そんなメッセージウィンドウが目の前に表示される。ぐだ子というのは、私のアカウント名。
「対戦ありがとうございましたー!」
「くっそー、降格しちまった! まぁ……対戦ありがとな。ちぃ……」
悔しいそうな言葉と共に、対戦相手のアバターは桜の花弁に変換されて消え去っていく。
私がいま遊んでいるのは、仮想空間『ツクヨミ』で流行っているゲームの一つ、『KASSEN/SETSUNAモード』のランクマッチ戦だ。金級初段というのは、プロゲーマーや彩葉ちゃんに比べれば別に凄くないけど、とりあえず私とマシュが目標にしているランクである。
ランクは月初めになると一定ラインまでリセットされて戻される。私とマシュは月末までに金級に滑り込み、来月は銀級初段からランクマッチを登りたい……といった具合だ。
今日は7月25日。次の一戦で勝って金級に上がれれば、残りの日はのんびり遊べる。
(まぁ、そこまで本気でもないけどね……?)
昇格賞金と動画配信で仮想通貨『ふじゅー』がちょびっと手に入るのと、プライドの問題でしかないから。あくまで私の本業はパン屋経営だ。
《連戦しますか? 一旦休みますか?》
そんなメッセージウィンドウに対し、私は《連戦》のボタンを押して答える。いま快勝した勢いのまま、金級に上がりたいからね。
周囲の風景が電子コードの波によって掻き消されて切り替わる。
新たに描画されたのは、満月の夜に照らされた砂浜だ。スマコンとツクヨミは嗅覚を再現するだけの技術こそまだ無いが、視覚と聴覚は完璧である。向かって左手に広がる昏く蒼い海と水平線。そこから聞こえるさざ波の音は、本物と遜色ない。
『次の試合は、銀級5段・ぐだ子さんと、銀級5段・かぐやさんの対戦です。試合前の挨拶を行ってください』
そんなシステムアナウンスが聞こえたかと思うと、私の目の前に光輪が現れ、その中から女の子が飛び出してきた。
金糸の髪にウサミミを垂らし、赤く露出多めな着物を着た女の子だ。
(おぉー、可愛いな!?)
私の第一印象はそれだった。
ツクヨミではアバターを自由に作れるので、もちろん全体としては美男子や美少女が多い。しかし元の現実の身体と違いがあり過ぎると酷いVR酔いに見舞われる。それに美的センスの問題もあるので、目を引く程の美人さんには中々お目にかかれない。数少ない例外の一人が、目の前にいる少女──かぐやちゃんということだ。
「かぐやっほー! 月から来たかぐやだよー! かぐやはヤチヨカップ優勝を狙っててぇー、今は『SETSUNAのランクマで金級5段になるまで眠れません!』っていう企画の最中なんだ! よろしくね、ぐだ子さん!」
おぉっと、見惚れていたら相手から先に挨拶されてしまった。いかんいかん、私にはマシュがいるというのに。
気を取り直し、私もにこやかに挨拶をする。
「かぐやちゃんか。よろしくね! 私はぐだぐだチャンネルとパン屋さんを経営してる、ぐだ子っていうんだ! 楽しく対戦しよう!」
ぐだぐだチャンネルでやってる動画配信もこのゲームも、実はパン屋の宣伝を少し兼ねている。『SETSUNA』の試合は公式が撮影しているし、かぐやちゃんのような動画配信者が編集してネットにアップロードすることもある。
『試合開始まで、あと15秒です』
そのアナウンスに合わせ、私は二刀を構え、前傾姿勢を取る。対戦相手のかぐやちゃんが構えているのは巨大なハンマーだ。4本の太い竹筒を赤い紐で編んで作られているらしい。
重量級の相手なら、さっきの対戦のように華麗に斬り刻んでやろう……などと私は試合運びを予想する。
『3、2、1……スタート!』
試合開始と共に、私とかぐやちゃんは肉薄した──。
──※──
試合開始から1分。
私は砂浜を駆け抜けて、かぐやちゃんから距離を取っていた。
何せ、かぐやちゃんはまだ体力半分ぐらい残ってるのに、こっちはあと3発食らったら体力無くなるぐらい追い詰められてるので!
(やばいやばいやばい! 強いぞこの子!?)
竹筒で出来たハンマーは重量級ながら、中にジェット機関が組み込まれていることで高速高火力な攻撃を繰り出すことも出来るのだ。パリィもガードもカウンターも全然タイミングが合わない! ブツがデカいので盾のような使われ方をするとこっちの攻撃通らないし!
状況をどう打開するか考えながら、私は逃げ回る。するとかぐやちゃんは、ハンマーを肩に担いだ。まるでロケットランチャーのような構え方──と思ったら。
「喰らえー! 火鼠キャノン、発射!」
かぐやちゃんの掛け声とともに、竹筒を固定していた木蓋が開き、ハンマーはまさしくロケットランチャーと化した。そして4発のロケット砲が私に向けて発射される。
「え、ちょ……!」
私(のアバター)が前転して回避行動を取ると、ドゴォォォォンという爆発が起こり、熱風で私の体力ゲージが削られる。
火鼠の皮衣を武器のネーミングに使うとは、設定が作り込まれてて好きぃ……じゃなくて!
(このまま距離取り続けてても負けるじゃん!)
時間稼ぎをやめ、私はかぐやちゃんに接近する。そして私は手に持つ二刀を……かぐやちゃんに向けてぶん投げた!
「喰らえ! 鶴翼連斬!」
投げた瞬間、私の刀は短くなり、ブーメランのような弧を描きつつかぐやちゃんに迫る。
「おぉっと!」
かぐやちゃんは身体を反らせて避ける。その隙に、私は腰から新たに二刀を抜き払ってかぐやちゃんに迫った。
鶴翼連斬は、二刀を投げることで一撃、新たに抜いた二刀で二撃目、投げた二刀がブーメランのように返ってくることで三撃目、合計3回の攻撃を仕掛ける技だ。特に二撃目と三撃目は前後からの挟撃となるため、回避も防御もほぼ不可能。
この鶴翼連斬でかぐやちゃんの体力を削り切れる訳ではないが、ひとまずダメージを稼ぎつつ有利な体勢に持っていきたい!
前から迫る私、後ろから迫る二刀に対し、かぐやちゃんは──。
「ほっ!」
自分の武器を手放し、身体をエビ反りにして──飛んできた二刀を掴み取った!?
「ウソォ!?」
ゲームだから、現実では無理そうな動作でも理論上はできる。
しかしあんなの、もし動作が1フレームでもズレたら、二刀を掴み取れずに大ダメージが入ったはずだ。
「えいっ!」
私が驚いた刹那、かぐやちゃんは右手で掴んだ一刀を私に投げつけてきた。これはかぐやちゃんの攻撃として判定されるので、当たれば私がダメージを受ける。たとえ元が私の武器だったとしても、だ。
「くっ!」
私はかぐやちゃんへの攻撃モーションをキャンセルし、手に持つ二刀でその攻撃を弾く。しかしかぐやちゃんは、その隙を逃さなかった。
「もーらいっ!」
忍刀のような構えから、かぐやちゃんは私の腹部に斬りかかる。ツクヨミは痛覚を再現しないので痛みこそなかったが、私の体力ゲージはとうとう狩り尽くされてしまった……。
《銀級5段 ぐだ子 あなたの敗北です》
膝をついた私の前に、そんなメッセージウィンドウが目の前に表示される。
(うーん、あと1勝で金級に上がれたのに〜! くやしい〜〜!)
歯軋りする私の前に、白い手が差し出された。
かぐやちゃんだった。
「対戦ありがとう! かぐや、この調子で金級5段まで駆け上がるし、ヤチヨカップも絶対優勝する! 応援してくれたら嬉しいな!」
満月のように優しく輝く笑み。
うぉぉ……なんだこれ……!? 見てるだけで癒される感じ……! 元気が出てきて全部許しちゃいそうになる感じ……!
「う、うん! 応援してる。かぐやちゃんも頑張ってね!」
かぐやちゃんの手を取って立ち上がった私は、ついそう言って微笑み返してしまった。
《連戦しますか? 一旦休みますか?》
そんなメッセージウィンドウに対し、私は《休息》のボタンを押して答える。ちょっと今晩はもう金級まで上がれる気がしないし……かぐやちゃんのことが少し気になる。
(ヤチヨカップ優勝ねぇ……。私が知らないだけで、有名なライバーさんなのかな?)
ヤチヨカップとは、ツクヨミの管理人にしてAIライバーにして彩葉ちゃんの推しである『月見ヤチヨ』とのコラボライブの権利を巡る人気争いだ。7月18日からの1ヶ月間に最も多く新規ファンを獲得した人が優勝となる。
SETSUNAのバトルフィールドから退去された私は、休憩所でマシュのランクマが終わるのを待つのだった──。
──※──
現実世界における、私とマシュの寝室にて。
ツクヨミからログアウトした私とマシュは、同じ布団に包まりながら、二人で1つのスマホを眺めていた。
お目当ては当然かぐやちゃんである。マシュもランクマッチでかぐやちゃんと当たったらしく、健闘むなしく負けてしまったらしい。
二人でかぐやちゃんについて調べていると──。
「えっ!? アカウント作ってまだ5日!?」
かぐやちゃんは、7月20日に初配信を行った新人ライバーだった。ライバー歴だけだったら、私とマシュの方がよっぽど長いということになる。
ちなみに私とマシュが
……まぁ、ヤチヨカップ優勝とか狙ってないよ? パン屋が本業だし。
「いや、でも先輩……。ライバーデビュー5日にしては、動画数多くないですか!? それに短期間で編集技術上がりすぎじゃないですか!?」
「同感!!」
初配信動画では、落書きが動いているような謎の画面、不協和音のジングルBGM、配信を切るタイミングが分かっていなくてリアルの顔を晒すなど、初心者感丸出しというか、よちよち歩きの赤ちゃんライバーといった感じだ。
(これはこれで謎の中毒性と見守りたくなる微笑ましさがあるけども……)
ところがそこから編集技術は凄まじく進化している。ツクヨミと同じアバターでちゃんと配信するようになったし、UIや字幕や背景も『竹取物語』をモチーフにした統一感のあるものになっている。
また彼女は、懐かしの名曲やイマドキの流行歌などを片っ端から歌って踊っている。この投稿ペースだと……まさか一発撮り!? 練習なしのぶっつけ本番でこんな活き活き歌って踊れるとかあり得る!?
しかもオリジナル曲も何曲か混ざってる。作曲者は……いろP? かぐやちゃんの他の動画でも名前が出てて、その正体は謎に包まれている。き、気になるなぁ……。正体を隠されると探りたくなるのが人の性だよね……。
あ、料理動画も撮ってるんだ。これも一発撮りっぽい。安くて美味しそうな料理が目白押し……。ちょ、ちょっとぐらい料理動画も観ていいかな……。新メニューの参考に……。
「駄目です。もうだいぶ遅い時間ですよ? そもそも何の為にかぐやさんの動画チャンネル見てるんでしたか?」
「あーっと、元々は、かぐやちゃんのSETSUNAのランクマッチが気になって……」
「はい。それだけ確認したらもう寝ませんか?」
咎めるようなマシュの言葉に従い、スマホで時刻を見ると……もう0時半過ぎ!? やばいやばいやばい! パン屋の朝は早いのに!
でもかぐやちゃんのランクマの様子だけ見ときたい!
スマホを操作し、かぐやちゃんのSETSUNAランクマ企画がどうなっているか確認する。
すると……。
「えっ? もう金級5段になってる!?」
どんなペースで連勝すればそうなる……!?
私とマシュなんか1ヶ月かけて銀級初段から金級初段までランクマ登ってるのに、かぐやちゃんは初陣から1日足らずで金級5段まで登っている……。
しかも忙しい人向けのまとめショート動画まで作ってる。こんなまとめ動画、何時何分にどんな相手と戦ったか覚えてないとこんな速さで作れないはず……。ていうか編集速度速すぎだし……。
「……彩葉さんとはまたベクトルの違う天才ですね……」
「なんでこんな才能あるのに今までツクヨミとも動画配信とも無縁だったんだろ……」
恐るべき成長速度。謎多き奇才。リアルでもツクヨミでも可愛い容姿。つまらない月から楽しい地球へ遊びに来たという凝った設定とキャラ付け。こ、これは……。
「とりあえずチャンネル登録しなきゃだ、これは」
「まぁ……この子は伸びそうですね。竹のように。縦に」
僅かに口ごもるマシュを尻目に、私はチャンネル登録ボタンを押す。すると同時に、メールが1件着信する。
もう寝るつもりだったので普通のメールだったら無視して明日確認するところだ。
しかしその送り主の名を、私とマシュは無視できなかった。
『From:かぐやいろPチャンネル』
すかさず私とマシュは顔を見合わせる。
チャンネル登録したらメールが届くシステム……なんて無いはず。
とりあえず開封してみると、内容は次のとおりだった。
──※──
かぐやっほー! 月から来たかぐやだよー!
ぐだ子さんもマシュさんも、今日のSETSUNAランクマでは対戦ありがとう!
おかげで無事に、金級5段まで上がれたよー☆
ランクマ終わった後、急いでぐだぐだチャンネルや二人がやってるパン屋さんについて調べて、メールさせてもらったんだー★
仲良し2人でパン屋さんやってるのいいなー! かぐやもいろPと一緒に仲良くライバー頑張ってるよ!
かぐやは本気でヤチヨカップ優勝してハッピーエンド目指してるから、おすすめの配信のネタとか、コラボのお誘いとかお返事してくれたら、とっても嬉しくなっちゃう!
また会ったりお話したり、メールのお返事してくれるのを待ってるよ!
これからも応援よろしくね!
PS,藤丸ベーカリーのパン、どれも美味そうでどれから食べたらいいか迷っちゃう〜☆ おすすめも教えてね♡
──※──
か、かわいい……。そして素直……。
すかさず私は返信メールを作ろうとする、が。
「ステイ! ステイです、先輩! もう寝ましょう! それの返信メールを書いてたら1時過ぎとかになりますので!」
「……はっ! 危ないところだった……。危うく理性を失うところだった……」
お、恐るべし、かぐやちゃん……。
ていうか手際が良すぎるし体力がバケモノ過ぎるでしょ。ランクマの激戦を勝ち抜いた後に、このメール書いたの? ぐだぐだチャンネルや藤丸ベーカリーのこともちゃんと調べて?
「はい! 正気に戻ったところで、もう寝ましょう! おやすみなさい! 電気消しますよ!」
マシュが何やら強めの語気で、ササッとリモコンを操作する。部屋は暗闇に包まれた。
同じ布団に入っているのに、マシュは私に背を向けていた。
(……なんか、違和感が。もしかして……?)
このまま寝るのはなんか違う気がして、マシュの背中に語りかけた。
「マシュ? もしかして……妬いてる?」
「……妬いてないです」
絶対嘘じゃん。
もう10年以上の付き合いだし、私は嘘や芝居を見抜くの得意だし、マシュは嘘や芝居が下手だし。
「……推しと愛する人は別モノだからさ。許して欲しいなーと、思うんだけど……」
「……私にも、かぐやちゃんのような時期は、あったと思います」
ボソボソと、マシュは暗闇の中で話していた。
「純真無垢で、見るもの全てが新鮮で、自分自身も目に映る世界もキラキラしていた時期が。今のマシュ・キリエライトがそうだと言い張るほど、私は乙女でもなければ子どもでもありません……」
「……まぁ、色々あったもんね。あの日東京駅で出会ってから店を開くまで。そして出会った後も」
飲食業の道を歩んでいれば、世界や人間の暗部を見ることなんて幾らでもある。
矛盾してるようにしか聞こえない指導をしてくる師匠とか、店を開いたはいいけど1年経たずに閉店する羽目になった先輩とか。
理不尽なクレームやオーダーをしてくるお客さんとか取引先とか。せっかく雇ったのにバックレちゃったアルバイトとか。発注ミスとか廃棄パンの山とか……。
今となっては私もマシュも、バリバリ働くアラサーの女性だ。ちょっと息抜きに動画配信したりゲームしたりするぐらいの、ね。
「先輩は昔の私やかぐやさんみたいな……純真無垢で、キラキラした女の子が好きなんじゃないですか?」
「今のマシュが昔のマシュやかぐやちゃんに劣ってるなんて、全く思ってないよ?」
マシュの肩に顔をうずめ、私は語りかけた。マシュが使ってるシャンプーの香りが、微かに鼻腔をくすぐる。
「年を重ねることや、真っ白なキャンパスに黒い色彩が乗ることは、悪いことじゃないよ。まして私と一緒に積み重ねてきたんだし」
嫉妬という黒い色彩だって、加減を間違えなければ可愛らしいものだと思う。実際まぁ、今のヤキモチ妬いてるマシュ、ちょっとかわいいし……。
「私と好きなものが違っていても、これから先お婆ちゃんになっちゃっても、私はマシュのこと好きだよ?」
「……私も、先輩のこと、好きです。今までも、これからも」
くるんと寝返りをして、マシュがこちらを向く。暗闇の中、マシュの薄紫色の瞳が、私の瞳と重なる。
やや目線を下げてから、マシュは言う。
「すみません。かぐやさんに過去の自分を重ねて……つい熱くなってしまいました」
「いや、私こそゴメンね。明日もまたマシュと一緒にパンを焼く日常が待ってるのに、ライバーに夢中になって夜更かしなんかしちゃってさ」
啄むように、私はマシュのおでこに口づけをする。
おやすみのキスで唇を奪うと、寝られなくなりそうだから。
「おやすみ、マシュ。明日もよろしくね」
「おやすみなさい、先輩。明日も、いい日になるといいですね」
私とマシュは、1つの布団に2人で丸まり、夢の中へと潜っていく。
今日もいい1日だった。明日もこんな日常が続けばいいなと、私とマシュは夢見ていた──。
──※──
SIDE:三人称目線
翌朝、未だ陽が昇りきらぬ午前6時。
パン屋を営む立香とマシュ程ではないにせよ、ボロアパートの一室で暮らす彩葉とかぐやも、夏休みの若人にしては十分早起きをしていた。
彩葉は朝活で勉強をする為、かぐやは動画配信と朝食作りの為である。
動画撮影も兼ねた料理『安くて美味しいあんかけレタスチャーハン』に舌鼓を打ちつつ、かぐやが話を切り出した。
「彩葉がバイトしてるところってさ、藤丸ベーカリーだっけ?」
「うん、そうだけど」
「SETSUNAのランクマッチで当たったよー。藤丸ベーカリーの人」
チャーハンを口へ運ぶ彩葉の手が、凍りついてしまった。
「は……? え……? 誰……?」
聞き間違いか人違いであって欲しいと、彩葉は願うが……。
「ぐだぐだチャンネルのねー。ぐだ子さんと家老マシュさん!」
「うちの店長と副店長じゃんっ!!」
店員なので、彩葉は立香とマシュのアカウント名を知っていた。チャーハンを載せていたスプーンを皿に落とし、彩葉は絶望する。
かぐやが次に言い出すことの予想がついたからだ。
「ねーねー彩葉ー。今度動画でさー、藤丸ベーカ」
「ダメダメダメッ! コラボも撮影も絶対ダメーーーーっっ!!
身を乗り出し、彩葉は顔の圧力と眼力でかぐやを制する。
しかしその効果は、かぐやの顔を僅かに逸らさせる程度のものでしかなかった。
「い、いやいや。かぐやは宇宙人だけど、彩葉は地球人だから正体バレても解剖されないでしょー?」
「解剖されるの! どんな学生かとか交友関係とか出身地とか根掘り葉掘り解剖されちゃうの! プライバシーがっ!!」
「でもさぁ……マシュさんはいい感じの返事してくれたよ〜?」
「は???」
かぐやは自慢げに、スマホでメール履歴を彩葉に見せる。
礼儀も作法も何もない、ギャルい感じでふわふわ軽そうなメールの送信元がかぐやいろPチャンネルで、送信先がぐだぐだチャンネルである事実に、彩葉は目眩がした。
それでもなんとか、彩葉はマシュからの返信メールを読んだ……。
──※──
ご連絡ありがとうございます。
ぐだぐだチャンネルにて動画配信を行っております、家老マシュと申します。
このたびは明るく素敵なメールをお送りいただき、誠にありがとうございます。
また、SETSUNAランクマッチ金級5段到達とのこと、心よりお祝い申し上げます。
先日の対戦も、私およびぐだ子にとって大変良い経験となりました。
さて、ご提案いただきましたコラボおよび藤丸ベーカリーでの撮影につきまして、もし具体的な企画内容や進行イメージ等がございましたら、お聞かせいただけますと幸いです。
内容を拝見のうえ、前向きに検討させていただきたく存じます。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
ぐだぐだチャンネル運営 家老マシュ
追記
藤丸ベーカリーでは、夏季限定の「爽やかレモンクリームパン」がおすすめでございます。ご来店の際は、ぜひお試しください。
──※──
(マシュさんのガチなビジネスメールじゃん!! あとお試しくださいも何も、厨房で焼いたこともレジで売ったこともあるよ!! 私が!!)
彩葉は机に突っ伏し、心の内で、全力でツッコミを入れざるを得なかった。
「ねー彩葉〜。藤丸ベーカリーで……」
「それやったらマジで追い出すからね??」
顔を上げた彩葉の“本気”の目線は、かぐやが勝手にスマコンを買ったとき以上だった。故に、流石のかぐやも押し黙る羽目になった。
「ま、まぁ……? 配信のネタはまだまだあるし〜? ヤチヨカップは始まったばかりだし〜? 彩葉のバイト先っていう切り札は、まだ使わなくてもいいかもねぇ〜?」
「切り札言うな。ナシ寄りのナシだから。マジで」
このとき、彩葉はまだ知らなかった。
いろPの正体が酒寄彩葉だと藤丸立香にバレるまで、もはや数日の猶予しかないということなど……。
【おまけのQ&Aコーナー】
Q:SETSUNAランクマッチなんて超かぐや姫になかったような?
A:作者(生徒会副長)オリジナル設定です。
「せっかくツクヨミのアカウントを持っているのに、ゲーム配信がかなり遅いのは(海水浴より後なのは)なんか不自然じゃないか?」と思って独自に今回の『SETSUNAランクマッチ』の設定を考えました。
Q:藤丸立香(ぐだ子)って戦闘できないんじゃないの?
A:あくまでゲームの中だけ……という設定で考えています。ちなみに立香のツクヨミにおける戦闘スタイルの元になっているのは、エミヤ・斎藤一・武蔵ちゃんなどの二刀流サーヴァント達、というイメージで考えています。
Q:家老マシュって?
A:マシュのアカウント名です。ちなみに藤丸立香のアカウント名はぐだ子。
家老マシュ「おぼろげながら浮かんできたんです、家老という言葉が……」
ぐだ子「ちなみにマシュはツクヨミで戦うとき、法螺貝を吹き鳴らしながら盾で進軍するよ!」
帝「法螺貝吹いてたら盾使えへんやろ。ぶっ壊れてんな……?」
ここまでお読み頂きありがとうございました。感想などお待ちしております。