彩葉のバイト先の店長は前作主人公感漂う藤丸立香です(旧題:パン屋のぐだ子とバイトの彩葉)   作:生徒会副長

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㉘ダビデとヤチヨのおとぎ話

 

 

 やぁ、ここからはこの僕ダビデが語り部となって、昔話を聞かせよう!

 

 万能の願望機を巡る、7人の魔術師(マスター)と英霊(サーヴァント)による殺し合いの物語さ。

 

 時は2004年、場所は冬木市。ここで開催された聖杯戦争に勝利するべく、マリスビリー・アニムスフィアは最高の触媒を用意した。

 

 そう、魔術王ソロモンの指輪さ。

 

 そうして行われた英霊召喚で、彼はアーチャーのダビデを召喚したんだ。

 彼はずっと首を傾げていたよ。『なぜソロモン王ではなくダビデが召喚されたのか』とね。

 しかしソロモンの指輪を触媒に召喚されたダビデ──ややこしいな、“僕”ってことにさせてもらうね? うん。ソロモンの指輪を触媒に召喚された僕には、微弱な千里眼が備わった。その結果僕は、なんとなく悟ることが出来たんだ。

 

『僕が召喚されたのは、ソロモンが英霊の座から退去したからだ』

『ソロモンの退去や、カルデアの善き旅人たちの長く苦しい戦い……その全ての元凶は、このマリスビリー・アニムスフィアだ』

 

 とね。

 

 その後僕は、マリスビリーと表面上良好な関係を構築して、聖杯戦争を戦い抜いていった。

 

 え? なんでその場でマリスビリーを裏切らなかったのかって?

 

 ははは! そんなバーサーカーみたいなことはしないよ。僕は誠実な男だからね。それに、あくまで『なんとなく悟った』だけだから、明確な敵意や殺意を抱くほどじゃなかった。

 あとは、7つの陣営の中でマリスビリーが一番マシっていう可能性や、マリスビリーが改心する可能性もゼロではなかったからね。

 

 まぁそんなこんなで聖杯戦争を勝ち進んでいく内に、僕は夜の酒場で、あるサーヴァントと出会ったんだ。

 彼は僕と同様、マスターから離れて自由行動をするだけの余裕と権利と関係性を手に入れていた。

 そのサーヴァントとは……キャスターのギルガメッシュ王だ。

 

 ははは! 驚いた君たちアビシャグの顔も可愛らしいね!

 

 ギルガメッシュ王は僕にこう言ったんだよ。

 

『此度の聖杯戦争、どの陣営が勝ち誰が聖杯を手にしようとロクな結果にはならぬ』

 

『これからを生きる人類に神や万能の願望器など不要の長物。よって我(オレ)は、聖杯を破壊する。この2004年の戦いを、冬木で行われる最後の聖杯戦争とする』

 

『手を貸すがいい、ソロモン王の父、ダビデ王よ。二度も自らの力を捨て去ったソロモン王の偉業に、二度も矮小なる命を賭けて世界を救ったあの小娘達の度胸に、一度くらいは報いてやる勇気は無いか?』

 

『無論報酬はある。聖杯が破壊されてから退去に至るまでの僅かな時間、我(オレ)と共に酒を飲み交わすことを赦す』

 

『格別なる報酬であろう? 全ての戦いが終わった後、晴れ渡る青空を肴に宴をする猶予すらなかったカルデアの善き旅人たちと比べればな』

 

『共に美味い酒を飲もうではないか、ダビデ王』

 

 僕は快く、ギルガメッシュ王の誘いを受けたよ!

 別にダビデが聖人君子だったとか、マリスビリーへの義理よりソロモンへの親子愛が勝(まさ)ったとか、そういう話じゃない。

 ただギルガメッシュ王の方が、マリスビリーよりビジネストークが上手かった……それだけの話なんだよ。

 

 というわけでその後。マリスビリーはギルガメッシュ王の手で抹殺された。僕はその後も、単独行動スキルで現界を続けたけどね。

 ギルガメッシュ王は魔杖の力でマスターとの契約を破棄したり、その後の現界を保ったりしていたよ。

 後はギルガメッシュ王主導で冬木の霊脈を損壊させ、そして聖杯も破壊……という流れだね。

 

 あぁ、損壊された冬木の霊脈が一般人に災厄を及ぼす心配なら不要だよ。治水工事で例えるなら、人的被害が出ない箇所の堤防に大きめの罅を入れて回ったようなものさ。

 ただ、冬木の霊脈の管理者でギルガメッシュ王のマスターだった男は、その後散々な目に遭ったことだろうね! あのボロボロになった霊脈の修繕にかかる費用なんて考えたくもない! 見届けるより前に退去することになってしまったけれど……まぁ死ななかっただけマシと思ってもらうことにしよう。

 

 懲りずにもう一度冬木で聖杯戦争をやろうと思ったら……百年後ぐらいになるんじゃないかな? まぁ僕とギルガメッシュ王は『流石にコストパフォーマンスが悪過ぎるから、諦めて大聖杯の解体作業をする羽目になるだろう』と予想しているよ。

 

 まぁそんなこんなでやるべきことを済ませた僕達は、酒場で素晴らしいアビシャグ達に囲まれながら、座に退去するまで酒を飲み交わしたよ。その場にいたアビシャグ達の顔、ギルガメッシュ王と話した内容なんかは、覚えていない。

 しかし飲み交わした酒が格別に旨かったことだけは……よく覚えているね!

 

──※──

 

「……という訳で。聖なる杯を巡る殺し合いの物語は、ギルガメッシュ王とダビデ王が、旨い酒をガラスの杯で愉しく飲んで終わったのさ。めでたしめでたし……。さてこの物語、楽しんで頂けたかな?」

「……うん。すごく……すごく良かったよ……」

 

 私とマシュは、涙を流しながら小さい拍手を送った。

 2004年当時の私は6歳だし、カルデアの記憶を失っていた。冬木聖杯戦争に参加したマリスビリーに対して、手の打ちようがなかった。

 あの偉大なるウルクの王が、わざわざ骨を折ってくれたのだ。

 

 私達の旅路(いままで)に対する、慰めと弔いとして。

 私達の未来(これから)に対する、道標として。

 

 まぁもし、賢王様の前で言ってしまえば、

 

『たわけ。貴様の為などではないわ。王として当然の責務を果たしたまでよ』

 

 と、返されるだろうけど。

 

「もう、私達は、本当に……冬木の聖杯がもたらす運命に翻弄されずに、生きていけるのですね……」

 

 しみじみとそう呟くマシュに、私もダビデも深く頷き返す。

 私達は2004年からの人類史を正しいルートに戻したつもりだったけれど、実際はマリスビリーとカルデアスのルートを否定しただけだったのだ。

 ちゃんと人類史が正しいルートに戻るよう、ダビデと賢王様が取り計らってくれたのだ。感謝してもしきれないとは、まさにこのことだな……。

 

 ただ……“あの”疑問については、振り出しに戻ってしまった。

 

「ところで……結局この特異点はマリスビリーと関係ないし、賢王様も予見できなかった特異点ってコト?」

 

 涙が止まった頃合いを見計らって、私は疑問を呈した。

 

 ダビデにもこの特異点や彩葉ちゃんについて聞いてみたが、ほとんど何も知らないようだった。むしろこっちが事情をダビデに教えた形と言える。

 

 ただ、手がかりは傍にある。

 

「……マスター。あそこで燃えている赤黒い炎は、もしかすると特異点Fの“影”のように、触れれば情報を取得できるモノなのでは?」

 

 サーヴァント戦やらマシュとの会話やらで忙しくて話題に挙げていなかったけれど……シャドウ・ライダーとシャドウ・ランサーが倒された箇所で、血のように赤黒い炎が燃えている。

 このモノクロの世界で、色彩を持つものは少ない。この恐ろしさを醸し出す“色彩”も、マシュの言うような何らかの手掛かりの可能性はある。

 

「……罠(トラップ)の可能性もあるけどね……」

 

 カルデアのマスターだった頃は毒耐性があったし、簡易召喚で解呪や回復の能力を持つサーヴァントを召喚すればどうにかなったけど、今は……。

 

 今は……。

 

 ……おや?

 

「ねぇダビデ。もし私が何らかの精神汚染を受けたら、治癒の竪琴を奏でてくれる?」

「そりゃあもちろん使うとも!」

 

 早速竪琴を出して、ダビデは快く返事をしてくれた。

 彼の竪琴には悪霊祓いの逸話があり、グランドオーダーの初期からずいぶんお世話になったもの。

 じゃあ最低限の保険はある訳だ。

 

「よーし、じゃあ触ってみるかぁー」

「マスター……お気をつけて」

「おっけーおっけー。ヤバそうだったら手を引っ張るなり叩き起こすなりしてね、マシュ」

 

 首をコキコキ鳴らして、私は覚悟を決める。

 恐怖がないと言えば嘘になるけど、まぁ初めてゲイザーの目玉を食べた日よりは遥かにマシだ。

 寒い日に暖を取るように、しゃがんでシャドウ・ランサーが遺した方の炎に手を近づけていく。

 熱は全く感じない。やはりこれは只の炎ではないらしい。

 そして遂に私の手のひらが炎に触れた──その瞬間。

 

「うわっ!?」

 

 ブワッと、赤黒い炎が広がる。私の視界いっぱいに広がるように。

 赤黒い色彩はスクリーンのように、マシュやダビデにも見えるほど広がった後──。

 

『……今は昔──』

 

 聞き慣れた声が聴こえると共に、自然な色彩のホログラムを投影した。

 声の主、いま私の目の前に立体映像として現れているのは──。

 

「────ヤチヨ?」

 

 多分、ツクヨミのどこか。高台にあるプライベートスペースで、ヤチヨがおとぎ話を聞かせている場面のようだった。

 

(……あれ? ヤチヨが髪を下ろしているなんて珍しいな……)

 

 ……そのおとぎ話の観客は、ただ一人。

 

「彩葉ちゃん……!!」

 

 この特異点で救うべき相手。藤丸ベーカリーの大切な仲間、彩葉ちゃんが、映像に出演していた。

 この映像がいつのモノなのか、そしてその内容はどうか?

 私は僅かな情報も逃さないよう、目を凝らし、耳を澄ませた──。

 

『月に帰ってバリバリ社畜してたえらえらかぐや姫のところに、歌が届きました。その歌は、かぐや姫の為に作られた素敵な歌。かぐや姫がずっと“続き”を待ち望んでいた歌でしたから、それを聴いたかぐや姫はばっちり、地球や彩葉のことを思い出しました』

 

 あぁ……彩葉ちゃん……。あの歌……完成させたんだね……。

 『かぐやと一緒にいたい』って想いを込めた歌。まだ題名はなく、ワンコーラスだけで終わってしまっていた歌。その続きを……。

 

 …………ん?

 待て待て待て……。

 

 なんでヤチヨがあの歌のことを知っている?

 なんでヤチヨが月の世界のことを知っている?

 

 そういえば、今のヤチヨの髪型と、卒業ライブのときのかぐやちゃんの髪型って……。

 ヤチヨが私を、“藤丸店長”って呼んだのって……。

 

 まさか……まさか……!

 

『それでかぐや姫は、もっぺん地球へ行こ〜〜って思って、お仕事爆速で終わらせて引き継ぎも完了。ただ、地球の時間では大遅刻。でも安心。月の超テクノロジーは、時間も越えられます』

 

 ………………は?

 

『特製の宇宙船──もと光る竹に乗って、時間を超えて地球へ向かうかぐや姫。でもその途中で、でっかーい石に当たっちゃってね。制御を失った船がなんとか不時着したのは、ざっと八千年も前の地球。壊れた船の僅かな力で、同行していた犬DOGEだけが、ウミウシの身体を得ました』

 

 …………八千年?

 単純に数字で測るものではないにしても……。

 ベディヴィエールの旅路で1000年だよ?

 ゲーティアの計画が始まったのって3000年前だよ?

 ギルガメッシュ王の時代って6500年前だよ?

 それより……前……?

 

『それからのかぐや姫は、ウミウシの身体を通してだけ、世界と交流を持てました』

 

 え? なに? じゃあ……。

 ウミウシの身体を通してかぐやちゃんは、卑弥呼さんや茶々様と会ったことがあるの……? それともないの……?

 カルデアで『喋るウミウシ』の話なんて聞いたこと無いけど……。

 そんなにも長い時間を、生きて、生き永らえて、死に損ねて……。

 全て……彩葉ちゃんと……もう一度会う為に……?

 

『やがて時は経ち。人は見えないものを形にし、多くの人と繋がる力を手に入れた。それは月の世界と少し似ていて、かぐやは初めて、魂だけの自分が世界と関われる可能性を知りました。そしてかぐやは“仮想空間ツクヨミ”を創造し、電子の歌姫“月見(ルナミ)ヤチヨ”の役を羽織って、再び彩葉と出会うことができたのです』

 

『……ってぇ、これじゃーめでたし〜めでたし〜とはならないかっ! あははははっ!』

 

 かぐやちゃん──いや、ヤチヨは笑っている。

 月見ヤチヨとして。いつも通りに。それが当然の役割として。

 

(……私と、同じ笑顔だ……)

 

 人類最後のマスターが泣いてばかりだと、サーヴァントの皆が不安や疑念を持ってしまうから。

 人類の未来に希望はあるのかと。このグランドオーダーに完遂させる価値はあるのかと。

 だから私はカルデアで、なるべく笑うようにしていた。時には心を透明にしてでも。

 

(かぐやちゃん……。その笑顔を、その笑い方を覚えるまでに、どれほどの辛苦を……絶望を……味わってきたの……?)

 

 私がそんな問いを思い浮かべた一方、彩葉ちゃんが口にした問いは──。

 

『……私と居たかぐやは……?』

 

 う……あぁ……彩葉……ちゃん……。

 

(それは……彩葉ちゃんの口から言っちゃ駄目だよ……)

 

 今ここにいるダビデや、カルデアのマンドリカルドのように、本人から言い出した場合は構わないだろう。

 しかし彩葉ちゃんが今言ったのは、『月見ヤチヨは私と居たかぐやとは別人だ』という意味に捉えられかねない。

 それは、すごく悲しいことで……寂しいことで……。

 

『……今もまた、同じ輪廻を巡ってる。私達は、その輪から外れることは……できない』

 

 にもかかわらず、ヤチヨは少し笑みを解いただけだった。

 

『じゃあ……。私とかぐやがお別れしたのは……正しいことだったの? 必要なことだったの?』

 

 ん……?

 これは……何が起こっている? 私は……何を見せられている……?

 

『ヤチヨとか……仮想空間ツクヨミとか……21世紀の日本とかが……生まれる為に……? タイムパラドックスで、消えちゃわないように……? わかんない……何が正しいのか……分かんないよ……っ!』

 

 突然のことで気が動転しているのか。

 作曲の疲れで頭が回っていないのか。

 彩葉ちゃんが放つ正論の刃で、かぐやちゃんの胸が抉られる──そんな光景を、私は幻視した。

 

『ただのおとぎ話っ! あんまり深く考えないで〜。さ、とにかく今は……再会をお祝いしましょ☆』

 

 それでもかぐやちゃんはなお、優しいツクヨミの女神──月見ヤチヨを演じて続けているように見える。

 彩葉ちゃんを傷つけないように。悲しませないように。

 私なりにかぐやちゃんを推していた身としては……すごく寂しいことだった。

 遠慮のない二人の距離感、彩葉ちゃんとかぐやちゃんの屈託ない笑顔が……私は好きだったのに……。

 ヤチヨに手を引かれ、彩葉ちゃんがホログラム映像という舞台から退場して消えていく。

 するとそこへ──声が響いた。

 

 ──そうだよね。彩葉が好きなのは、キラキラのかぐや姫。

 ──『この輪廻から外れられない』なんて、ウソ。

 

 声の主は……かぐやちゃん?

 

 ──本当は、この輪廻から外れる勇気がなかっただけ。

 ──私はわざと、月人との戦いで、パンケーキ防衛隊を……過去の自分を……彩葉を……見捨てた。

 ──もしかぐやが月に帰らなかったらどうなるか、予想できなかった。想像するのが怖かった。

 ──この八千年。こんなことばかり。

 ──力がなかったから。知識がなかったから。勇気がなかったから。日本の未来のためだから。彩葉のためだから。

 ──そんな言い訳を並べて、どれだけの人を、死地や地獄へ送り出してしまっただろう。

 

──『私と居たかぐやは』って?

──そうだね。ヤチヨは臆病で優柔不断、料理なんて作れないしパンケーキも食べられない、電子の海を彷徨うおばあちゃん。

──彩葉の好きな、彩葉と一緒にいた、かぐやじゃない。

──破天荒でまっすぐで、料理を作るのが大好きでパンケーキを食べるのも大好きな、キュートな悪童じゃない。

 

 ──かぐやと彩葉がお別れしたのが、正しいかどうかって?

 ──人間はそんな単純なものじゃないって……分かってるけど……分かったつもりだったけど……。

 

 ──ああ、いっそ……。

 ──誰かが『正しい』って言ってくれたら、私は……楽になれるのかな……。

 

 

──※──

 

 映像の物語は、そこで終わった。かぐやちゃんの絶望の声と共に。

 

「なに……これ……」

 

 私が零した呟きだけが、モノクロの世界に響く。マシュもダビデも口を開かない。開けない。

 愛しい人に会いたい一心で素敵な歌を作った結果始まったのが……八千年の孤独な旅路……?

 八千年、愛しい人に会いたい一心で旅をしてきて、その結果が……コレ……?

 

(私が……悪かったのかな……)

 

 私が彩葉ちゃんの背中を押したせいで……かぐやちゃんは──。

 ……という昏い思考を、私は必死に頭から振り払った。

 

(バカバカバカ! バカ立香! 何が正しくて誰が悪かったとか、今はそんなのどうでもいい!)

 

 悪を倒すためではなく、誰かを救うために戦ってこその私だ。藤丸立香だ。人類最後のマスターだ。

 なら、『救う』ために何が必要か。うん、それは現状の分析と把握だ。

 私は沈黙を破って、マシュとダビデに言った。

 

「……今の映像で、彩葉ちゃんの精神世界に廃棄孔が出来た原因は……何となく分かった気がしない?」

「……そうですね。人類史八千年を舞台にした、輪廻(ループ)する物語。その主役である酒寄さんは、廃棄孔を精神世界に形成する素質があると言えそうです」

 

 マシュがそう同意し、補足する。

 この輪廻(ループ)においては、重要な起点がいくつかある。人類史のターニングポイントのように。

 例えば、彩葉ちゃんがかぐやちゃんを拾って育てること。

 例えば、彩葉ちゃんが月にいるかぐやちゃんに歌を届けること。

 1回1回の輪廻(ループ)を比べると、多分ターニングポイント以外のところで、微妙にズレている箇所もあるのだろう。

 

「この八千年の輪廻(ループ)を何度も繰り返す中で、許容すると都合が悪い齟齬、憎悪、憤怒、想念といった悪性情報が、多く発生したことだろう。その受け入れ先──廃棄孔として、彩葉という少女の精神世界は、素質があったと言えるかもしれないね」

 

 ダビデの言うとおりだ。

 彩葉ちゃんが藤丸ベーカリーに入店しない世界線もあるかもしれないし、かぐやちゃんが製麺機を買わない世界線もあったかもしれない。

 多少の誤差は、抑止力や世界の修正力がうまく帳尻を合わせたのだろう。

 ん……? ということは……。

 

「カルデアで喋るウミウシの話なんて聞いたことなかったけど……。それはカルデアのサーヴァントの皆が、かぐやちゃんがタイムスリップするより前の世界線の出身だったり、かぐやちゃんと出会わなかった世界線の人生を送ってから英霊になったりしてたから……ってことなのかな?」

「うむ! まぁだからこそ、遥かなる時を旅したウミウシ、かぐやの話題が分かるサーヴァントなんぞ、古今東西の英霊が集うカルデアでも、ワシぐらいのものであろうなぁ!」

 

 私の推察に口を出したのは、マシュでもダビデでもない。

 私が振り向いたとき背後に居たのは、地獄の焔のように紅く鋭い眼光の少女。

 しかし黒い軍服の上から赤いマントを羽織ったその威風堂々たる姿、迸る圧倒的なカリスマの前には、男女の差など些細なものに見えるほどで……。

 でも私としては、グランドオーダーの初期から、仲良くぐだぐだ一緒に戦ってきた、大切な仲間で……。

 

「ぬははははは! なーに鳩が三千世界(さんだんうち)食らったような顔をしとるんじゃ、立香にマシュ! 魔神柱をバッサバッサとへし切ってた頃の覇気はどうしたのじゃ? あぁアレか? 久々に見るワシの可憐さとカッコ良さに見惚れたか? まぁワシってばビジュアルも人気も最強な第六天魔王じゃから、是非もないよネ!」

「ノッブーーーーっっ!!」

「信長さん! 信長さん!!」

 

 私とマシュは同時に駆け出した。消え去ったはずのカルデアの旅路。その大切な仲間と熱い抱擁を交わす為に。

 

「はっはっは! 泣くほど嬉しいか? いやー辛いわー。ワシってばマジで愛され過ぎて辛いわー」

「カルデアのノッブだよね!? アヴェンジャーのノッブだよね!?」

「うむ! カルデアの信長、男の信長、未来で配信者(ライバー)やっとる信長! 過去・現在・未来の全ての可能性を宿すワシこそいかにも、第六天魔王・織田信長よ!!」

 

 私とマシュの涙がノッブの軍服を濡らし続ける。しかしノッブはそんなことを気にせず、私達の髪をくしゃくしゃにしながら、頭を撫でてくれたのだった……。

 

 そして……。

 

「……なんで藤丸店長と、家老マシュが、ここに……?」

 

 ノッブの肩には小さなウミウシのFUSHIが乗っていたのだが、私とマシュがそれに構う余裕は、しばらくなかった……。

 

 

 




【あとがき(独自設定の言い訳)】
●ダビデ側の話
 マリスビリーがダビデを召喚した聖杯戦争で、賢王ギルガメッシュを召喚したのは当然遠坂時臣です。
 賢王様はガチの千里眼と、「マリスビリーが参加しているがソロモンを従えていない」辺りから事情を察知して動いてくれた感じ。
 死ななかっただけzeroよりマシな末路を辿っています。
 キャスターがマスターを裏切って勝手な行動をするのはメディアさんにも出来たことなので賢王様にも出来るはずです。

●ヤチヨ側の話
 人理の安定を最優先に考えればタイムトラベラーは抹殺すべきでしょうが……。「タイムトラベラーのせいで人類史にズレが生じる度に抑止力が対症療法みたいに介入する」といった解釈を(話の都合で)させて貰いました。
 例えばウミウシかぐやのせいで死ぬべき100人が生存してしまった場合、その100人を殺す為にエミヤのようなものが派遣される。
 ウミウシかぐやのせいで生きるべき人が死んでしまった場合、抑止力の介入で別の人が死を免れたり、生きるべき人が果たすはずだった役目を別の人が果たしたり……など。

 ここまでお読みいただきありがとうございました。
 感想などいつでもお待ちしております。
 次回の更新は9月27日(日)です。

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