彩葉のバイト先の店長は前作主人公感漂う藤丸立香です(旧題:パン屋のぐだ子とバイトの彩葉)   作:生徒会副長

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㉙ダビデ、お前を追放するっ!(嘘)

 

 

 私とマシュはひとしきり泣いてから、ノッブと話をした。もちろんダビデも仲間外れにはしていない。

 カルデアの思い出。藤丸ベーカリーのこと。彩葉ちゃんとかぐやちゃんのこと。いま私達がいる特異点について。

 

「信長さんがカルデアのこと覚えてるのは忘却補正スキルのおかげ。 安土桃山時代にウミウシのかぐやさんと出会ったのは本物の信長さん。この特異点に信長さんが来られたのは信長さんの名前を使う配信者(ライバー)さんたちが縁となったから……。これで間違いないですか?」

「うむ、流石家老マシュ。うまくまとめてくれたのぅ」

「はい! ツクヨミでもぐだぐだチャンネルの家老マシュとして配信をしていましたので!」

「え? マジ? なんでカルデアのこと忘れたクセに家老のことは覚えとるの? 新手のホラー?」

「カルデア家家老のことは忘れていましたが……おぼろげながら浮かんできたのです……。アカウント名を決めるとき……家老という言葉が……」

 

 恐ろしいほど素早い、マシュによるノッブの解析。私じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 まぁ忘却補正スキルでカルデアのこと覚えてたのは分かるよ? 耀星(ようせい)のハサンっていう前例もあるし?

 あの(解像度の低い)本物信長、かぐやちゃんと会ったことあるんかい! そういうフェイトだのファンタジーだのはノッブにやらせなよ!

 そんで織田信長の名前を使う配信者(ライバー)が召喚の縁になったぁ!? そんなんで英霊・織田信長が召喚できてたまるか!

 

「FUSHIさんと信長さんは、どういう経緯で合流したのでしょうか?」

 

 さて。ノッブの事情に関する話はおしまい。今度はこの特異点における重要参考人(?)のFUSHIについてマシュが訊ねる。

 ノッブが、いつもはヤチヨの肩口にいるはずのFUSHIを肩に乗せながら答えてくれた。

 

「いやな? ワシが現界した直後、視界の端でのそのそ動くコイツが見えてな? 最初は警戒されとったんじゃが、本物信長の知識を披露したら信用してくれてこの通りじゃ」

「……ボクとヤチヨも、信長や淀殿にはお世話になったからね……。いやまさか、並行世界には女性の信長もいるだなんて、驚いたよ」

「なんか此奴ワシと声色似とるし、まぁちびノブの代わりと思えば悪い気はせんのう! つーかそもそも本物信長とかぐやはズッ友だったんじゃから是非もないよネ!」

 

 うーん。なんか急にぐだぐだしてきたな……。本物信長だの声色が似てるだの、色々メタい……。

 一方のFUSHIは、あまり元気がなさそうだ。それを尻目にか、或いは元気づけるためか、ダビデが爽やかな顔で言った。

 

「ノッブと言ったかな? 確かに君は可愛らしい声をしているね! その黒髪のキューティクルも見事だし、君は中々のアビシャグだね。どうだろう? この戦いが終わったら僕と一緒に藤丸ベーカリーでデートでもどうかな?」

「あー。このダビデ、マジでカルデアの記憶無いんじゃね。デート代は鉛玉一発払いでいいかのう?」

「ノッブもダビデも、ステイステイステイ!」

 

 ノッブがダビデに火縄銃を構え始めたので、慌てて私は止めに入る。

 まぁこんなやり取りはカルデアでは日常茶飯事。なんだか懐かしいなぁ……。

 

「……藤丸店長は、すごいね。人類史の英雄とも友達だなんて。パンケーキ防衛隊の副隊長として、皆をまとめられたのも納得だ。藤丸店長なら、彩葉とヤチヨを……救えるかもしれない……」

 

 ポツリとそう呟いたのはFUSHI──かつてかぐやちゃんの傍にいた犬型AIの犬DOGEが、ウミウシの身体を得た姿だ。

 

「FUSHI」

 

 私はノッブの肩に乗っていたその小さな体を優しく手に取って、語りかけた。

 

「なんでこのおかしな空間──特異点ができちゃったのか、そのきっかけについて知っていたら、教えて欲しいな。こう見えて聖杯探索と特異点修復には一家言(いっかげん)あるんだ」

「はい。先輩こそ、私が知る限り最高のマスターです。地球を滅ぼす宇宙大怪獣が相手でも怯まない御仁ですので! 遠慮なく話してください!」

 

 私とマシュから促され、FUSHIはついに頷いた。

 

「……分かった。じゃあ……今から見せる映像を観て欲しい。悪いのは……全部、ボクなんだ……」

 

 FUSHIの目が、車のライトのようにピカッと光る。プロジェクターのようにFUSHIは、ある映像を見せた。

 その映像はどうやら、先ほど私が見た彩葉ちゃんとヤチヨの邂逅の続きらしかった──。

 

 

──※──

 

 

 ツクヨミの夜景が一望できるバルコニーに、ヤチヨと彩葉ちゃんが立っている。

 二人とも、寂しさや悲しさを必死に抑えて、遠慮して、表情を強張らせていた。

 沈黙を破って、ヤチヨが静かに言う。

 

『……彩葉。もし知りたくなかったなら、忘れてもいいよ。FUSHIには人の記憶を司る能力があるから、そういうことも出来──』

『ヤチヨっっ!!』

 

 演技の仮面を全て吹き飛ばすような声量は、彩葉ちゃんの口から出た。そのまま彩葉ちゃんは、灯りに満ちた屋内へ歩き出す。

 ドスッと座ってから、凛とした眼で彼女は言う。

 

『聞かせてよ』

『……えっ?』

『八千年! あったこと全部聞かせてよ! 私、寝ないから!!』

 

 すると八千歳のツクヨミの女神は……

 

『……無茶言うねぇ!』

 

 笑って、明るい室内に歩き出した。

 私がマシュに見せるような。

 マシュが私に見せるような。

 そんな、八千歳より若返ったような笑顔で──。

 

『えいっ!』

 

 ヤチヨがスワイプするように手を払うと、一面の光景はガラリと変わっていた。

 古いアパートの一室らしい。六畳間の部屋の真ん中に机があって、そこには駄菓子やコーラが並んでいた。

 もしかして、ここは……。

 

『あの伝説が始まったポロアパートを再現してみたよー☆ 彩葉からすれば久々って程でもないかもしれないけど……ヤッチョにとっては八千年ぶりなんだ。外見だけで中身空っぽな、嘘っぱちだけどねー☆』

『ボロアパート言うなっ! 嬉々として居候してたのはそっちじゃん!』

 

 そう話す二人の服装も様変わりしている。彩葉ちゃんはパジャマで、ヤチヨが着ているのは黒いワンピースだ。確か彩葉ちゃんがセ●ストで買ったとかいう……。

 

『んじゃ、まずは縄文人と魚とった話から。よく覚えてるのが、ナガツノだっけな。髭がめっちゃ長い海老がマジで貴重でね! それがさ──』

 

 すると、映像が加速した。映像を今流しているFUSHIの仕業だ。

 

「ちょっとここは早送りさせてもらうね」

 

 早送りの最中も、ヤチヨはまだ喋り続けていた。

 楽しそうに、かぐやちゃんだった頃に似た様子で。

 だけど少し、やっぱり、かぐやちゃんだった頃とは違って表と裏があるようにも思えて……。

 

(まぁ……それでもいいじゃん)

 

 人間なら誰だって、隠し事もあれば嘘だってつくし、演技なんていつものこと。

 100%なんて目指さなくていい。私だって、マシュのこと100%知ってる訳じゃないし、マシュに自分の100%なんて曝け出してない……。

 ……そんなことを思っている内に、早送りが終わった。

 

『……でねー! 松(しょう)ちゃんってばせっかく脱藩できたのにもーめちゃくちゃでねー!』

 

 ん? 松(しょう)ちゃん? 脱藩? めちゃくちゃ?

 オイオイオイオイ! それもしかして松陰先生じゃないの!?

 まさか教科書にも載ってない、高杉さんからも聞けてない松陰先生エピソードを、ヤチヨが知ってるの!?

 くっそー! 特異点修復中(こんなとき)じゃなかったら、ヤチヨから直接聞かせてもらうところなのに! 絶対後で聞かせてもらおっと!

 

 しかし私の興味関心とは裏腹に、彩葉ちゃんは眠そうに船を漕いでいた。

 

『……いい加減お休みなさいよ、彩葉。もうぶっ続けで2日だよ? 死んじゃう』

 

 授業中に居眠りしていたら先生に起こされた……かのように、彩葉ちゃんは意識を覚醒させる。

 はぁ? てか2日ぶっ続け!?

 ふざけんなカルデアのマスターでも二徹なんか偶(たま)にしかやってないぞ!

 

「……言うほど“偶(たま)に”で済んだか? 異聞帯の後半戦とか二徹はザラだった気がするんじゃけど……」

 

 おっと声に出てたかな。ノッブに突っ込まれちゃった。

 まぁいいじゃん。二徹しようが活性アンプル打とうが世界は救えたんだから。

 しかし彩葉ちゃんは、世界の命運なんか背負っていないにもかかわらず……。

 

『なんの! まだ江戸じゃん! まだまだ!!』

 

 そう気丈に答える。

 すると画面の中に映っている方のFUSHIが、『ネムッテ! ネムッテ!』と言いながら飛び跳ねた。

 

『あちゃ〜。ヤッチョの方が寝る時間だ。じゃ、おやすみ〜〜』

 

 FUSHIのアラームに打ち切られ、ブッツリと糸を切られたように倒れてヤチヨは眠った。

 

『ヤチヨの活動限界は52時間だ。充電とアップデート、記憶の整理の為、定期的にスリープ状態になる必要がある』

 

 ヤチヨの身体に飛び乗ってFUSHIが言う。

 

『……ヤチヨってこんなにお喋りだったんだね。いつも聞いてもらうばっかりだったから、私なんにも知らなかったよ』

 

 ヤッチョGPTはヤチヨの分身だとされている。

 誰にも頼れない、頼る訳にはいかないとこだわっていた彩葉ちゃんが、ヤッチョGPTやヤチヨの配信を心の拠り所にしていたのは想像に難しくない。

 まさかその正体がただのAIではなく、かぐやちゃんだとは──自分がゲーミング電柱から拾って育てた女の子だとは──夢にも思わずに。

 

『ずっと、けらけら笑っちゃって。私みたいになっちゃったんだ……』

 

 ヤチヨはかぐやちゃんだけど、その笑顔はかぐやちゃんのときのものとは違って見えた。目がキラキラしていないというか、口が開き切っていないというか。

 アクセルを踏み切れていなくて、ブレーキに片足を置いているような感じ。

 彼女はまだ、ツクヨミの女神の仮面を被っている。

 彩葉ちゃんがかつて、完璧ハイスペ女子高生の仮面を被っていたように。

 

『ねぇFUSHI。ヤチヨが隠してること……あるよね』

『……ヤチヨが言わなかったなら……それは』

『だっておかしいでしょ。全国模試1位を舐めないでよ』

 

 FUSHIを問い詰めつつ浮かべた彩葉ちゃんの笑みは……自嘲の表情なのかもしれない……。

 

『戦国時代の話が、あんな楽しい話ばっかりな訳ない。南北朝の混乱、応仁の乱や禁教令、天保の大飢饉の話も全然してくれなかった。このまま話を聞き続けていたって……幕末の動乱や第二次世界大戦の話も隠されちゃう。私の歌が招いた、私に会う為に生じた結果について、私には受け止める責任がある』

 

 知りたがる気持ち自体は……分からないでもない。私も隠していた側だったから。

 

 マシュに話していないし見せていないドス黒いものが、私の中にたくさんあった。マシュがパラディーンになった折にだいぶ打ち明けたけど……それでも100%じゃない。

 私とマシュの場合は、他にカルデアの仲間がいたから問題なかった。オベロンやアルキャス。ジャンヌ・オルタや斎藤さん。エミヤや孔明。ロマニやゴルドルフ司令官やダヴィンチちゃん。書き連ねられないほどのサーヴァントのみんなと、職員のみんな……。マシュが私の全てを背負う必要はなく、その逆も然りだった。

 でも彩葉ちゃんとしては……。

 ヤチヨは違うと──思っているんだろう。思いたいんだろう。

 自分こそが、ヤチヨの全てに寄り添うべきだと。

 自分だけが、ヤチヨの全てに寄り添えるのだと。

 

『見せて。私はかぐやの全部を、100%を見なくっちゃ』

『……人の身体で耐えられるか分からない』

『FUSHI。私ね……。さっきかぐやに……ひどいこと言っちゃった』

 

 ポタポタと、彩葉ちゃんの目から涙が零れる。

 

『“私といたかぐやは?”って……。“私とかぐやがお別れしたのは正しいことだったの?”って……。最低だよ、私。藤丸店長から、何を教わってきたんだろう。何が正しいのか、何の意味があるのかなんてことより、やり切ることが大切って教わったのに。まずは“八千年お疲れ様”って言って、ぎゅっと抱き締めてあげなきゃいけなかったのに……!』

 

 涙でくしゃくしゃになった顔を上げて、まっすぐ彼女は言う。

 

『挽回する、チャンスが欲しい。かぐやのために出来ること、全部やり切りたい。間違えてもいい、失敗してもいいから』

 

 あぁ……そんな……。その眼は……特異点や異聞帯で、何度も見た……。

 

『お願い……FUSHI……』

 

 ──死地へ赴く者の眼だ。

 

『……ヤチヨはさっき久しぶりに、本当に楽しそうだったんだ』

 

 FUSHIはその眼に、希望の光を見たのだろう。見てしまったのだろう。その結果──。

 

『彩葉ならきっと、ヤチヨの、本当の笑顔を……』

 

 人命や人理という観点だけで見れば──。

 FUSHIは、選択を間違えた。

 

『よぉーし! いっくぞぉーーーーっっ!!』

 

 画面に映るFUSHIの目から、白いレーザー光線が放たれる。

 彩葉ちゃんを塗りつぶすように、何度も、何度も。

 

 そして……こうして……この特異点は生まれた……。

 仮に私が名前を付けるなら、こんな名前を選ぶだろう。

 

 『無彩色廃棄孔 イド・ツクヨミ』──と。

 

 

──※──

 

 

「……ごめん、ここからは言葉で説明させてほしい」

 

 画面がホワイトアウトしたところで、映像は打ち切られた。そしてFUSHIは話す。

 

「……彩葉に八千年の記憶を見せてからしばらくして、彩葉の全身から黒い泥のようなものが溢れ出て……その泥に、飲み込まれてしまったんだ。僕もヤチヨも。元光る竹も、ツクヨミも……」

 

 おそらく、聖杯の泥に近いもの──悪性情報が物質化したものだろう。

 

「廃棄孔というゴミ捨て場があったとしても、実際に悪性情報というゴミが溜まらなければ、特異点や聖杯なんぞ出来はせん。そしてそれは、たかが人間一生分の悪性情報では足りるはずもあるまいよ」

 

 ノッブが、平静を装いながら説明してくれた。

 

「八千年分の記憶の流し込みと、実際にその八千年を過ごした本人が傍にいたことが、特異点化のトドメになったんじゃろうな。つーかむしろ、廃棄孔が無かったら彩葉のヤツ死んでおったのはないか? 八千年の記憶なぞ、神霊級か冠位(グランド)級の英霊、或いはワシでもなければ耐えられんぞ?」

「それでも……それでもFUSHIさんは……悪くありませんっ!!」

 

 ノッブの声を遮ったのは……泣きじゃくるマシュだった。

 両手で抑えきれないほどの涙が、マシュの美しい瞳から止めどなく流れていた。

 

「私が酒寄さんの立場で……先輩がヤチヨさんの立場だったら……私も、同じことをFUSHIさんに頼みます! 愛する人の孤独に寄り添いたいと思うのは、当然のことじゃないですか!」

「マシュ……」

 

 一般的に言えば、その愛は重いのかもしれないけれど。

 マシュの私に対する想いが、碇(いかり)のように藤丸立香(わたし)という人間を繋ぎ止め、支えてくれたのは事実だった。

 

「うぐっ……ひぐっ……なんで……。酒寄さん……せっかく、一生懸命、かぐやさんの為に……歌を作ったのに……。かぐやさん……せっかく、八千年もかけて、酒寄さんとまた……会えたのに……。ヤチヨさんのコラボライブのお陰で……私と先輩は……婚約できたのに……ぐすっ……」

「マシュ……」

 

 そっと私は、マシュを抱き締める。味も温度も匂いも無い電脳空間の特異点。しかし魔術的な要素が作用してか、マシュの涙の温度、柔肌の感触も、はっきり感じ取れる。

 涙が少し落ち着いたマシュは、はっきり宣言した。

 

「先輩……。私……こんなバッドエンドは、嫌です!」

「……うん。もちろんだよ、マシュ!」

 

 マシュの肩を掴んだまま、私は英霊のダビデと織田信長に、改めて申し入れた。

 

「二人とも。私達が人理を優先するなら、最短最速で彩葉ちゃんを犠牲に、この特異点は修正すべきなのかもしれない。でも……まだ私は、諦めたくない! 諦める訳にはいかない! 彩葉ちゃんを救った上で、この特異点を修復したい! 不器用な茨の道だけど……また力を貸してほしい!」

 

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ノッブとダビデは答えてくれた。

 

「ぐだぐだやりつつ最後はハッピーエンドを掴んでこそ、ワシとおぬしじゃろ。茨の道を切り拓くも、魔王らしいといえばらしいと言うもの。大船に乗ったつもりで、ワシに任せておれ!」

「非効率的……とは言わないとも。この戦いの最後には、ヤチヨやいろP……アビシャグたちの笑顔が待っているんだろう? 王道を征く素晴らしい戦いだ。是非協力させてくれ!」

「藤丸店長……みんな……ありがとう……!」

 

 FUSHIはそのつぶらで小さな瞳を潤ませて、そう言った。

 

「ところでFUSHIさん。具体的には、何をすればいいのでしょうか?」

 

 マシュの質問に、FUSHIが答える。

 

「身体が影で出来た強い使い魔が、この空間の管理者権限を握っているんだけど……」

「シャドウサーヴァントですね。既に2体撃破しています」

「それは心強い! その調子で、ソイツら……シャドウサーヴァントを、合計7体倒して欲しい。そうすれば、ボクが持っていたツクヨミの管理者権限を奪還して、ヤチヨや彩葉と……会うことぐらいは出来ると思う……」

 

 それなら今までの特異点修復と大差ない。私なら、私たちならやれるだろう。

 

「会った後のことは、ノープランなんだけどね……」

「なーに。彩葉とかいうのは立香のパン屋のバイトで、かぐやは立香の推し。そんでヤチヨはズッ友なんじゃろ? 立香が声を掛ければ、案外すぐに正気を取り戻すかもしれん。そんでその後に、黒くてデカくて悪いヤツをドーンとぶっ倒して一件落着! そういうもんじゃろ? 愛と希望が勝つおとぎ話というヤツは」

 

 ノッブの言い分は凄く大雑把だけれど……まぁそういう特異点も、多かったと言えば多かったかな……?

 

「うん、戦略的に見ても、僕たちはバランスが取れた良いパーティーだ。イケるイケる! 立香は支援職(サポーター)、マシュは盾役(タンク)、ノッブは魔猪(アタッカー)で、僕は回復も防御も支援も攻撃も出来る最強チートハーレム主人公! うん、素晴らしい物語だ! ぜひこの旅の記録は、◯ろうとか◯クヨムに小説として投稿して、メディアミックス展開まで見据えよう!」

「あー、メディアミックス展開するならアレも要るじゃろ。『……ダビデ、お前を追放するっ!』」

「なんだって!? 僕のような有能な男を追放するのは効率的じゃない! 考え直すべきだ!」

「うはははは! 佐久間や林もそれぐらいハッキリ文句を言えば良かったものを! いやまぁでも? それならそれで首刎ねとった可能性もあるから、是非もないよネ!」

 

 ダビデとノッブが、ぐだぐだとそんな胡乱なやり取りをしていた……そのときだった。

 

「ふむ……。ならば尋ねるが、そのパーティーに私のような音楽家が入る余地はあるだろうか。ある至高の天才を殺したという醜聞ぐらいしか逸話は無いが、廃棄孔や悪性情報については多少心得がある身だ」

 

 私達が振り向くと、そこに立っていたのは──。

 パリッとした黒いスーツを着こなす、銀髪の男性。

 隈で翳る紅い眼が積み重ねてきた感情を、私は知っている。

 殺意を、憎悪を、友愛を──。

 

「サーヴァント・アヴェンジャー。真名を、アントニオ・サリエリ。いや君は……堅苦しい挨拶を好まない生徒だったな。マスター・藤丸立香と、まし……マシュ・キリエライト。久しぶり(・・・・)だ」

 

 南極の戦いにその焰は連れていくことが出来なくて、お別れしてしまったはずの復讐者(アヴェンジャー)の一人。

 この再会が、嬉しくて嬉しくて、私とマシュは──

 

「サリエリーーーーっ!!」

「サリエリさん!」

 

 満面の笑みと共に、その胸に抱きついた。

 

 

 




【あとがき】
 やっとこさネタバラシをしますと……。
 FUSHIが彩葉に8000年の記憶を見せた際。

彩葉がフツーに耐える
→本編ハッピーエンド

彩葉が耐えられずに人格消滅or死亡
→バッドエンド

彩葉の精神世界に廃棄孔がある
→新たな特異点『無彩色廃棄孔イド・ツクヨミ』が発生。

 といった流れです。
 書き始めた頃は㉕星が生まれた刻 の後、2040年の様子を描くつもりだったので、色々手探りで執筆中です。
 面白くて素敵なハッピーエンドを目指して頑張りますので応援よろしくお願いします。
 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
 評価や感想は、ぜひドンドン送ってください!
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