彩葉のバイト先の店長は前作主人公感漂う藤丸立香です(旧題:パン屋のぐだ子とバイトの彩葉)   作:生徒会副長

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※鬱・曇らせ描写があるので「覚悟の準備をしておいてください!」


㉚サリエリと八千代と酒寄家の闇

 

 サリエリはたった今、「久しぶり」と言った。ダビデの時とは真逆だ。つまり……。

 

「カルデアのサリエリってことでいいの!? 覚えてくれてるんだ!」

「さて。私は本来なら、自分が何者かすら曖昧なサーヴァントな訳だが……。此度の現界では、あの疑似東京での人格や記憶が色濃く出ている。故に、カルデアの私と同一視してもらった方が波長を合わせやすいと判断した」

 

 ノッブに続いてサリエリも、忘却補正が良い方向に働いたみたいだ。

 

「して、そちらの状況は?」

「えーっと、話せば長くなるんだけど……」

 

 何をどこからどこまで話すか、私が迷いながらまごまごしていると、

 

「ボクに任せてくれたら、ものの一分ぐらいで終わると思うよ」

 

 私の肩に乗ったFUSHIが、そう提案してきた。

 

「ボクの能力は、記憶の読み取りと操作だ。かぐやは、天の羽衣で記憶を消されることに対する保険として、ボクにそんな機能を持たせたんだ。藤丸店長の記憶から必要な情報を読み取って、それを彼の記憶に書き込めば、一分もかからずに情報の共有は終わるはずだ」

「便利は便利じゃけどなぁ。おぬしその領域展開で失敗した結果出来たのがこの特異点じゃろ。躊躇とかしないカンジ?」

 

 ノッブ? 領域展開って呼ぶのやめよ?

 

「大丈夫、僕最強だから」

「す、凄いです、ダビデ王! ツクヨミで配信したら万バズしそうなほど“あの人”に似てました!」

「うん、まぁ……めっちゃ似てたけどさぁ!」

 

 いま問題なのはFUSHIとサリエリなんだよ!

 

「逆だよ、信長公。ボクのせいでこんなことになったんだから、手伝えることがあれば協力させて欲しいんだ」

「……私は構わない。そもそもサーヴァントは、聖杯や召喚システムから基本的知識や言語能力を与えられて召喚されるもの。よほど量や質に問題がない限り、情報を記憶に刻み込まれても問題は起こらないだろう」

 

 まぁ本人達がそう言うなら……いいか。

 

「つーか立香は構わぬのか、コレ?」

 

 ノッブが思わぬことを聞いてきたので、私は目をぱちぱちさせてしまう。

 

「フツーは記憶を読み取られることに抵抗を感じそうな気もするんじゃが……じゃが?」

「……まぁ、カルデアに居た頃は……色々なサーヴァントに筒抜けだったし……。うまく要約して話す手間が省けるのは助かるし……」

「……で、あるか」

 

 ノッブ? なんでそんな寂しげな目をしてるの……?

 別に苦しんでいる誰かを救えるんなら、私は──。

 

「じゃあ藤丸店長。サリエリに教えたい情報を思い浮かべながら、リラックスしてくれるかな?」

 

 肩に乗ったFUSHIからそう言われ、私は思考を切り替えた。

 私は二度、深呼吸。その後、FUSHIがぴょんと頭に乗っかってくる。

 

(えーっと……。サリエリに教えたい情報か……)

 

 カルデアのサリエリって、オーディールコールでお別れしちゃったよね。だから一応、南極の決戦やロストベルト・ナンバーゼロの終了について知っておいて欲しいな。

 あと藤丸ベーカリーのことと、ツクヨミのこと。彩葉ちゃんとかぐやちゃんとヤチヨのことに……この特異点が出来た経緯も知っておいてもらわないと……。

 あ、そうだ。ついでに、サリエリがカルデアを去ってから南極の決戦が始まるまでの間にアマデウスが作った『あの曲』についても知っておいてもらうべきだね。

 ……FUSHI? こんな感じでいいの?

 

「……うん! 読み取り完了だ! じゃあサリエリ! こっちを見て!」

 

 サリエリの目とFUSHIの目が合った瞬間──。

 

「いっくぞぉぉーーーーっっ!!」

 

 FUSHIの眼が、ゲーミングカラーに煌めいた!

 

「うっ……ぐぅぅぅぅっ!」

 

 サリエリが目を見開きながら悶えること20秒ほど。光は止み、サリエリは目を瞑ったまま立っていた。

 

「ど、どう……サリエリ? 事情は分かってもらえた?」

「……理解はした。南極の決戦から2030年の汎人類史、この特異点に至るまで……。しかしな、マスター……」

 

 そう言った直後、サリエリの全身が赤と黒の凶々しい外装に包まれる。

 慟哭外装(どうこくがいそう)。アマデウス・ヴォルフガング・モーツァルトを殺す死の力が具現化したものだ──。

 

「“あの曲”は……なんだ?」

 

 私が答えるよりも早く、サリエリは壊れたスピーカーのように言葉を紡ぐ。

 

「私は、死だ。私は、神に愛されしものを殺さねばならぬ。あの男の、全てを殺し尽くすモノである。名誉も、楽曲も、痕跡も」

 

 FUSHIが「さ、サリエリ……?」と戸惑う。しかし私は「大丈夫だから」と言って、その身体を優しく撫でた。

 

「我が非才を嘲笑うかのような経緯で生まれた楽曲を私に教えて……何を望むか? 何を殺すか? 我がマスターよ」

「何を殺すにしても……必要なことだと思った」

 

 毅然とした態度で、足を踏ん張って、私は言った。

 

「私の胸の中に秘めておくのが利口だったのかもしれない。でもそれは……誠実じゃないと思った。この曲を知った結果、あなたの中に芽生えたのが憎悪であれ愛着であれ……それは大切な……人間らしさだよ……」

「人間らしさ! おお! そうだとも! 我が身は燎原(りょうげん)の果てであり、醜き人間どもの闇である!」

 

 サリエリは咆哮する。この色彩なき世界を、血と暗黒で染め上げようとするかのように。

 

「我は死! アマデウス・ヴォルフガング・モーツァルトを殺すモノ! 私は、我は、そのように在らなくては──!!」

 

 そのとき──。

 ポロロンと、竪琴の音が響いた。

 青空を思わせるように、爽やかな音色の一小節。しかし彼の──ダビデ王の悪霊祓いの逸話を伴うその竪琴は、それだけで荒れ狂う復讐者(アヴェンジャー)を沈黙させてみせた。

 

「憎悪だの闇だのはそれでいい。うん、十分伝わったよ。で? その裏に愛や光は秘められていないのかな、サリエリ」

 

 飄々と落ち着いた声、そこに王のカリスマも乗せて、彼は告げた。

 

「僕はカルデアの記憶がないし古代イスラエルの人間だからね。アマデウスとかキミのことは全然分からない。『あの曲』とやらがどんな曲かも知らない。だからアマデウスの為に戦えなんて言われたってやる気は出ないよ。でも君は違うんだろう? アマデウスとやらを殺す為に戦えるなら──アマデウスとやらを愛する為に戦える部分だって、ちょっとぐらいはあるんじゃないのかい? マスターはそれを期待したんじゃないかなぁ」

 

 するとサリエリは、人形のように数秒固まった後……外装を解除した。

 

「……マスター」

「何?」

「認めよう。確かに『あの曲』は必要だった。モーツァルトの友人であるアントニオ・サリエリにとっても、至高の天才を殺すための闇である『灰色の男』にとっても。FUSHIの力で伝えたのも賢明な判断だ。律儀に最初から聴いていれば、聴き終える前に発狂していた可能性があった。だが……」

 

 ギョロリとした病的な眼で私を睨みながら、彼は言う。

 

「私の前で『あの曲』を口ずさんでくれるな。題名も口にするな。制御が利かないサーヴァントに背中を預けたくなければ……な」

「……わかった」

 

 私が深く頷くと、サリエリは元の……“サリエリ先生”に近い、やや柔和な表情に戻った。

 

「では、改めて契約を交わそう。酒寄彩葉とやらを救う上で障害となるノイズは、私が排除する」

「ありがとう、サリエリ! じゃあ──告げる! 汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に! 我らが縁のよるべに従い、この意、この理に従うのなら──我に従え! ならばこの命運、汝が剣に預けよう!」

「アヴェンジャーの名に懸け誓いを受ける。君を我がマスターとして改めて認めよう、藤丸立香」

 

 令呪が一瞬赤く光り、私とサリエリの間でパスが再び繋がった。

 ふー、『あの曲』については賭けだったけど……うまく収まって良かった……。

 

「うむ。ではワシら5人……FUSHIも入れれば6人で、いよいよシャドウサーヴァント退治じゃな!」

「はい! あぁでも……出発する前に、シャドウ・ライダーが炎に残した情報もチェックしておきましょう! 酒寄さんとヤチヨさんを救う手掛かりがあるかもしれませんので!」

 

 こうして本格的に特異点修復の戦いが始まり──。

 私達は、酒寄彩葉と月見ヤチヨの闇を、直視することになる──。

 

 

 


 

 

 

 シャドウ・ライダーが遺した記憶──。

 それは戦国時代にかぐやちゃんが見た、クリスマスの出来事だった──。

 

『御仏を裏切り、ご先祖様方への供養を忘れ、伴天連に下った仏敵どもめ! 成敗してくれる!』

『何を抜かすか! 寺の坊主など金を毟り取るばかりで、まるで我らを救っては下さらぬではないか! デウス様に背く者どもめ、目を覚まさぬか!』

 

 キリスト教の宣教師が日本にやってきた頃。歴史に残っていないであろう名も無き村で起こった悲劇。

 仏教徒の村人と、キリスト教に改宗した村人の争いだった。最初はお布施を払うか払わないかだとか、葬式に参列するかしないかという程度の言い争いだった。しかしその憎しみ合い、罵り合いは激化していき、やがて村が燃える程の殺し合いにまで発展してしまった。

 焼け落ちた村で、ウミウシの姿のかぐやちゃんは絶望していた──。

 

 ──なんで殺し合いなんてすることになっちゃったんだろう……。

 ──どうして止められなかったんだろう……。

 ──クリスマスって、もっと楽しいものじゃなかったの?

 ──皆でフライドチキンや苺のショートケーキを囲んで、楽しく過ごすものじゃなかったの?

 ──クリスマスを楽しむ前に月に帰っちゃったから、何か大事なことを覚え損ねたのかな……。

 ──私……どこで間違えちゃったのかな……。

 ──彩葉……ヤチヨ……。芦花……真実……。帝……藤丸店長……。

 ──誰か……教えて……。

 ──私を……皆を……助けて……。

 

 

 


 

 

 

 

 エミヤの姿をしたシャドウ・アーチャーを倒した後、見ることになった記憶──。

 

 それは、幼い彩葉ちゃんが経験した、クリスマスの出来事だった──。

 

『サンタさんへ。クリスマスプレゼントは もう もらえなくてもいいから、おとうさん を かえしてください』

 

 幼げながらも丁寧な字で書かれたその手紙を……母親の紅葉さんは、バラバラに破り捨てた。

 

『神頼みするやつは阿呆や。どこにもおらへん爺さん相手に、よくもまぁ甘ったれた手紙を書いて、ええご身分やね』

 

『一度死んだ人間が生き返る訳ないやろ。ぎょーさんの人に見送ってもらいながらきちんと葬式やったのに、なんでそれが分からへんの?』

 

『あとな、サンタさんなんて、この世にはおらへんよ。去年までのあんたのクリスマスプレゼントは、ウチとお父さんがデパートで買(こ)うてきたもんや』

 

『ちょっと計算しよか? 地球1周が4万キロメートルや。サンタクロースのそりが時速1000キロメートルのスピードを出せるとして、地球一周するのに何時間かかる? 24時間では足らんわな? サンタクロースが世界中に何人もいるとか、それ以上のスピードをそりが出せるとか考えるより、そもそもおらんと考える方が正しいやろ』

 

『泣くな。泣くんは楽をしているだけや。40000÷1000。これぐらいの算数なら、小学1年生でも出来るやろ。ウチはウチに出来たことしか言わへんよ』

 

 記憶のヴィジョンと共に、彩葉ちゃんの心の声も、私達は聞くことになった──。

 

 ──ごめんなさい。ごめんなさい、お母さん。

 ──弱い娘でごめんなさい。まちがった娘でごめんなさい。

 ──強い娘になります。正しい人間になります。

 ──だから怒らないで。嫌いにならないで。

 ──お母さんの言うとおり、神頼みなんてしません。

 ──お母さんのお手本どおり、勉強も運動もやります。

 ──でも疲れたな……。苦しいな……。楽しくないな……。

 ──私って、何のために生きてるだろう……?

 ──いっそ正解が、全部分かっていればいいのに……。

 ──いっそ苦しみなんて、全部なかったらいいのに……。

 

 

 




【あとがき】
7体のシャドウサーヴァント戦はこんな感じでカットしていきます。
戦うまでもなく勝敗が決まってる戦闘の描写なんかやっても仕方が無いと思っていますので……。

でも他の二次創作小説見てると、「戦うまでもなく勝ちが決まってる戦闘の描写」も描いて欲しいと思ってる人多いのかな……?

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