彩葉のバイト先の店長は前作主人公感漂う藤丸立香です(旧題:パン屋のぐだ子とバイトの彩葉) 作:生徒会副長
彩葉ちゃんの廃棄孔にできた特異点を巡る私達。
頼光さんの姿をしたシャドウ・バーサーカー、徐福ちゃんの姿をシャドウ・キャスターを順調に倒していき……。
ついに七騎目!
「うははははは! 騎乗スキル持ちでセイバーならワシの独壇場よ! え? アヴェンジャーのワシは騎乗特攻持ってない? 細かいことは気にせず『
ノッブが召喚した大量の火縄銃が、敵に向かって一斉に弾幕を放つ。
敵とは、柳生さんの姿をしたシャドウ・セイバーだ。柳生さんは一騎打ちにおいて極めて強力なサーヴァント。しかし4対1で、しかもシャドウ・サーヴァントとなれば話は別だ。
マシュの攻撃を捌くのに手一杯だったところに銃弾を浴びせられ、シャドウ・セイバーは黒い霧となって霧散した。
「いやー、ワシってば最強すぎて是非もないわー」
「確かに。私のような無辜の怪物と、戦国武将・織田信長では、一味も二味も違うだろう」
などと戦闘後に話しているのは、ノッブとサリエリだ。
「みんなお疲れー。一応回復するね」
「僕の竪琴も、一応ね。いよいよ後はラスボスを残すのみだし」
私の礼装による魔術とダビデの竪琴によって、皆の傷が癒えていく。
「ありがとうございます、マスター」
元々そんなに傷は負ってなかったけど、髪や鎧の色艶が戻って、
「うん。最終バトルを前に、ばっちり最高に可愛くてかっこいいマシュになったね」
ふふっ。頬を染めるマシュもかわいいなぁ。
彩葉ちゃんやかぐやちゃんに化粧を施す芦花ちゃんとか、こんな気分だったのかもしれないね。
さて、マシュをからかうのはこれぐらいにして。
「FUSHI、それじゃあいよいよ、彩葉ちゃんやヤチヨと会える?」
「会えるけど、今すぐじゃない。ハッキングに少し時間がかかるよ」
私の肩に乗っていたFUSHIが、そう答えながら目を青く光らせていた。例えるなら、パソコンのブルースクリーンのような色。
「ならば、このシャドウ・セイバーが遺した記憶も見ておくべきだろう。酒寄彩葉や月見ヤチヨを元に戻す手掛かりがあるかもしれない」
サリエリの意見に、皆が同意する。
さっそく私は、シャドウ・セイバーが残した赤黒い炎に手を近づけてみる。
七回目ともなれば慣れたものだ。この赤黒い炎が視界に広がって、スクリーンのようになる光景も──。
──※──
映像の主役は、おそらく小学3年生ぐらいであろう彩葉ちゃんだ。
広々とした廊下を歩く彼女と、その母親──紅葉さんが映っている。どこかの劇場、あるいは音楽ホールの廊下だろうか。
『お母さん、見て!』
首から提げた銀メダルを、彩葉ちゃんは笑顔で紅葉さんに見せる。
すると紅葉さんは、
『何わろてはるの』
ぴしゃりとそう言い放ち、歩みを止めた。
完成された氷人形のように冷たい表情で、紅葉さんは続けて言う。
『今日のコンクール、勝ちにいきって言うたやんな? どうせ目指すなら一番やないとアカン。はなから二番三番を狙うんやったら、なんの努力もいらん平地を素通りで通った方がマシや』
キツイ……キツイなぁ……見てるだけでも……。
笑顔で銀メダルを見せに来た子どもを相手に言うことではない。
『でも……お父さんが……音楽は楽しむもんて……』
幼い彩葉ちゃんでは、そう小さな声で言うのが限界だったらしい。
そこへ容赦なく、紅葉さんの言葉のナイフが振り翳される。
『形無しで成功するんはホンマに一握りや。楽しんでる場合やあらへん。お父さんからもらったもん、楽しく遊んで食い潰すんか』
その台詞を最後に、映像内の人物は黒いシルエットとなる。まるで影絵のように。
そして、彩葉ちゃんの心の声が響く。
──お母さん、笑わなくなっちゃったな。
──お父さんが死んでから、ずっとこんな感じ。
──私はただ、“頑張ったね”って、一言言ってほしかっただけなのに。
──完璧じゃなきゃ無駄になるんだ。一位じゃなきゃ意味ないんだ。
──そうじゃないと見捨てられる。見限られる。世界はそう出来てるんだ。
──なんか嫌だな……こんな世界……。
──こんな世界を……私は愛せない……。
──いっそ皆が完璧で、全員が一位のほうが、いいんじゃないかな……。
──いっそ皆の心が……。
──全部同じで、ずっと一緒だったらいいのにな……。
──※──
映像が終わると、私達5人ともが悲しげで寂しげな表情になってしまう──というこの流れも、これで本日7回目である。
「……今回の記憶も辛いものでしたが……クリスマスの手紙の記憶ほどではなかったですね」
「うん。アレは……キツいよ」
マシュの言葉に、私はそう返事をする。
紅葉さんは前に言っていた。『優しい母親として振る舞う資格は、もうドブに捨てた』と。
実際にその光景を見てみれば……納得するしかなかった……。
「……21世紀基準ならドン引きじゃろうけど、まぁ戦国基準なら、ああいう父親や母親もおるのぅ。つーかワシの父親もアッチ寄りじゃぞ。武芸の稽古やら勉学やらめっちゃ厳しかったわ。サボったりミスったりしたら殴る蹴るだの飯抜きだのは当たり前じゃったし」
ノッブの父親といえば……えーっと……。
「確か……織田信秀さん……だっけ。あの人の早すぎる病死が、織田家の骨肉の争いに繋がっていくんだよね」
「はい。信長さんが信秀さんの葬儀で焼香の抹香を位牌に投げつけたエピソードは、とても有名ですよね」
「ふむ。そんなに嫌いだった、或いは憎たらしかったのかね?」
マシュが逸話を語った後、サリエリがそう訊ねた。
するとノッブは、どこか寂しげな表情をしてから、しみじみと言った。
「さてなぁ。いっそ嫌いになれたら良かったんじゃけどなー。好きとか嫌いとかだけでは言えんわ。あーでも、さんざん祈祷した割にワシの親父を病から救えんかった神仏や坊主には腹が立ったのう」
「ふーん。まぁそれだけ複雑な感情が渦巻いているなら、僕とソロモンよりはマシな親子関係だったと言って、いいんじゃないかな」
ダビデがそう言うと、ノッブの眉がピクリと動き、彼に目線を向けた。
「僕はソロモンのことを、子供と意識したことはないからね。彼は神からの授かり物で、完成された装置だった。だから僕は彼を叱ったことも、彼と喧嘩したことも無かったのさ。カルデアでどうだったかは、知らないけどね!」
するとノッブは……織田信長は……フッと表情和らげた。憑き物が少し取れたかのように。
「まぁ……親父の躾のお陰で窮地の数々を乗り越えられて、葬儀でのやらかしで周辺大名を欺いたことが天下布武に繋がったと思えば……親父もちょっとは、浮かばれるかのぅ!」
そして最後には、笑ってすら見せた。
(彩葉ちゃんもこんな風に……紅葉さんのこと、笑って話せる日が来るかな……)
そんな日がいつか、来たらいいのにな……と思っていると、
「……ハッキングできた! 北西だ! ここから北西方向にしばらく進めば……ヤチヨと彩葉に会える!」
FUSHIが希望を見いだしたように、私の肩でそう言った。
するとマシュが訊ねる。
「FUSHIさん。ヤチヨさんと酒寄さんは今、どういった状態なのですか?」
「……ヤチヨの人格データと、彩葉の人格データの境目が……見えなかった。混ざってしまっているのかも……しれない……」
「……異なる二つの音が交わった結果、美しいハーモニーを奏でることもあるが、聴くに堪えない不協和音となることもある。特異点が実際に出来ている以上、後者を覚悟しておく必要はあるだろう」
サリエリの喩えを聞いた私は尋ねた。
「サリエリなら、2つの楽器が不協和音を出していたとして、どうやって美しい音楽に導く?」
「ふむ。楽譜を用意し、優れた指揮者を用意するべきか……。或いは、手本を聴かせるのも良いだろう」
楽譜に、指揮者に、お手本か……。
なら、この特異点や、ヤチヨや彩葉ちゃんに当てはめるなら……。
「……FUSHI、ダビデ、サリエリ。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」
私は彩葉ちゃんのバイト先の上司として、かぐや&いろPを推す身として、マスターとして……ある策を立てた──。
──※──
策の“仕込み”が終わったあと、私達は北西方向へ小走りで向かった。
時間にしてざっと10分ほど。その先にあったのは──。
「でっかいクレーターじゃなぁ……。これ第六特異点のヤツと遜色ないじゃろ」
ノッブが言うとおり。横断するにはまた10分ほどかかりそうなほど大きいクレーターが、そこに在った。
「このクレーターの中央だ。行こう」
「……降りた後に敵の伏兵が後ろから襲ってきたら詰みそうで嫌なんじゃが……。なにこれ関ヶ原?」
「それでもまぁ……行くしかないですよ、信長さん」
「じゃよなー。是非もなしじゃなー」
ノッブが多少尻込みしたものの、FUSHIとマシュに促され、私達はクレーターの内側へ降りていく。クレーターの外周部分は、ダッシュで駆け上がるにはキツい程度の坂になっている。撤退戦でこの坂を登ることはあまり考えたくない。
(もう
覚悟を決め、心臓をバクバク鳴らしながら、私は歩を進めていく。
──果たしていよいよ、その時は来た。
「いっくぞぉぉーーーーっっ!!」
クレーターの中心地で、FUSHIはその目から強烈な光を地面に向けて放った。
その部分の地面が黒い泥に変わり──まるでケイオスタイドのように──コポコポと不気味に泡立つ。
そして“それ”は遂に、泥の中から飛び出て、中空にふわりと浮遊し始めた……。
「ま……マスター! あの謎の女性から……聖杯の反応が感じ取れます! 間違いなく、彼女がこの特異点の核です!」
そう……マシュの言うとおり……‘彼女’は、彩葉ちゃんでもヤチヨでもなかった……。
艷やかな黒髪は彩葉ちゃんに似ている気もするが、前髪が姫カット、後ろ髪がロングヘアーな辺りは、かぐやちゃんも面影もある。
肩や太腿は出しつつ裾にボリューム感がある着物の造形はヤチヨに近いけれど……その色柄や意匠は、夜闇や白き灰、業火や流血をモチーフにしている。海の包容力をイメージさせる、ヤチヨとは絶対違う。
何より彼女の目は……血に染まったような紅と、絶望に染まったような黒のオッドアイズ。彩葉ちゃんの覚悟も、かぐやちゃんの元気も、ヤチヨの優しさも……その目は映していなかった……。
「……こんにちは。アカウント名:ぐだ子と、アカウント名:家老マシュ。あとはサーヴァント3騎に……FUSHIもいるんだ。ワタシの……邪魔をしに来たの?」
抑揚や感情の無い声で、彼女はそう言った。
少し意外だった。彼女は……FUSHIのことを覚えている……?
「君は……君は……いったい何なんだ!? 彩葉なのか!? それともヤチヨなのか!?」
FUSHIが必死に紡いだ問いに、彼女は目も表情もまるで変えないまま答えた。
「……名前がないと、分かりづらいね。そうだな……『ヤチヨ・オルタ』とか……分かりやすくていいのかな……。名前なんて、もうすぐ意味がなくなるけどね……」
どこか気怠げに、彼女はそう名乗った。
(オルタ……か……)
まさかヤチヨが黒化した存在……とでも……?
「……ヤチヨ・オルタさん。ダメ元でお聞きします。聖杯をこちらに渡して頂けませんか? この特異点もその聖杯も、汎人類史にあってはいけないものです」
「あー、それはダメだね。この聖杯は……『正しい世界』を創るために、必要なものなんだから」
「正しい世界……? それは……いったい……?」
マシュの問いに、ヤチヨ・オルタは淡々と答えていた。
「今の世界は……悪や過ちが多すぎる。争いや苦痛が多すぎる。だってそうでしょ? かぐやという個体が8000年も苦労して、やっと酒寄彩葉という個体と再会できても……その見返りは、合計24時間にも満たないKASSENとコラボライブだけ。その後に酒寄彩葉という個体がどれだけ努力しても……8000年の辛苦に見合う報酬は用意できない。かぐやという個体は極端な例かもしれないけれど……喜びより悲しみの方が多くて、希望より絶望の方が強くて、勝者より敗者が多いのは……数値として正しい事実」
……。
「ヤチヨカップだってそうでしょ。 かぐや&いろPが優勝するために、何人の願いや努力を踏み台にしたの? 聖杯戦争もそうだよね。6つの願いや命を蹂躙して、1つの夢を叶える戦いに、何の意味があるの?」
…………。
「ここから導き出される結論はね。かぐや姫は──地球になんか、来なきゃ良かったんだよ。酒寄彩葉や酒寄朝久という個体は──あんな歌、作らなきゃ良かったんだよ」
………………。
「だからワタシは、この聖杯と正しい歌の力で、人間を正しい方向に導く。もう誰も争わないし、誰も間違えない。誰も悲しまないし、誰も苦しまない。皆が平等で同じ色。味も温度も、匂いも色彩もいらない──月の世界と同じような人類史。
「ふざけるのもいい加減にしろ!!!」
吼えた。私は吼えてみせた。たぶんきっと、第六天魔王が本気を出したときよりも大きな声で。
そんな声を出せた自分を、私は誇りに思う。
だって──。
ここで吼えることができなければ──。
今まで踏みつけてきたもの。置き去りにしてしまったもの。私に未来を託してくれた人。私の後に続く誰か。
そして──。
私の大好きな彩葉ちゃんにかぐやちゃん、ヤチヨやマシュ、そして
(二度と顔向けなんか、できなくなるから!!)
マシュとFUSHIは涙を一筋流して、ダビデとサリエリは口角をフッと上げて、ノッブは「此奴はワシが育てた」みたいな顔をして、私を見つめていた。
(マスターに一任、って訳ね)
ありがたい! 皆の期待も背負い、ほんのちょっとの間……私の独壇場だ!
「悪も過ちも、争いも苦痛も無い世界? あーはいはい、それが救いになる人も、多少はいるかもね! でも私は──何度絶望したって、運命や神様を敵に回したって、人類最後の一人になったって叫んでやる! ここまでの旅は、人生は……最高に楽しかったって! カルデアや藤丸ベーカリーの皆……マシュや彩葉ちゃん、かぐやちゃんやヤチヨと出会えて、本当に良かったんだって!」
私の叫びにまるで動じていないヤチヨ・オルタに対して、私は問いただした。
「彩葉ちゃんと、ヤチヨになったかぐやちゃんは……こっちに返してもらう! 二人は何処にいる!?」
「ここにいるよ」
ヤチヨ・オルタは、自らの胸を指でつついてみせた。
「ワタシは、酒寄彩葉の中で8000年分の演算をした果てに導き出された……正しい答え。酒寄彩葉であると同時に月見ヤチヨでもある。もしワタシの存在を否定すれば──酒寄彩葉と月見ヤチヨも、この世界から消滅する。そんなコトよりもさ、正しい歌を歌おうよ。千代に八千代に……争いも色彩も忘れて生きようよ」
「お断りだね。私はかぐやちゃんと彩葉ちゃんを連れ帰って……二人にお腹いっぱい! さつまいも黒蜜デニッシュやクロワッサンを食べさせてあげないといけないんだから!」
口走ってから、電子の歌姫であるヤチヨにパンを食べさせることは不可能だと気づいてしまう。
(いや……それでも……まだ……!)
私は──自分で言ったじゃないか。『味覚をツクヨミで再現できる日って、意外と遠くないんじゃない?』って。
今はまだ辿り着けなくても、いつかきっと辿り着ける未来があると信じて──。
私達は──可能性を、未来に繋ぐんだ!
「マシュ! ノッブ! ダビデ! サリエリ! あの作戦でいく! 力を貸して!」
作戦に必要など武器や道具を、各々が構えた。
聖騎士の盾。火縄銃とへし切長谷部。癒しの竪琴。慟哭外装と
そして私は──首に着けているチョーカー型の礼装。これを使えば、マイクのように音声を拡張することができる。本来は軍勢や爆発音が入り乱れる戦場でも私の指示がサーヴァントに伝わるようにする為のもの。しかし今回のように──
「いくぞ! 彩葉ちゃんとかぐやちゃんの色彩を──取り戻す!」
【あとがき】
シャドウサーヴァントのラインナップは、「正義」「勝者」をテーマに選んでいます。
剣の柳生但馬守宗矩/江戸時代初期の幕臣なので正義。
弓のエミヤ/正義の味方。
槍の宝蔵院胤舜/仏法という正義の側に立つ、何らかの敗戦で死んだ英霊ではない。
殺の斎藤一/明治政府に警官として仕えたので正義。
騎の坂田金時/鬼や魔性を退治した正義の側
術の徐福/(実際にはぐっさまを死なせる研究をしていたが)伝承では不老不死を探求していた側であり、ヤチヨ・オルタの理想とシンパシーがある。
狂の源頼光/鬼や魔性を退治した正義の側
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