彩葉のバイト先の店長は前作主人公感漂う藤丸立香です(旧題:パン屋のぐだ子とバイトの彩葉) 作:生徒会副長
【まえがき】
ぶっちゃけ本作は、『星が生まれた刻』の回のあと、2040年の東京に場面が移って終わりでもいいと思っていました。
しかしまぁ何とか紆余曲折を経て、この展開にまで持ってきました。
この回を書けたことを、本当に嬉しく思います。
ぜひお楽しみください。
それは──在りし日のノウム・カルデアでの思い出。
ストームボーダーで最終物資補充作戦をしていた頃のことだ。
「えっ! アマデウス……私とマシュの為に、新曲作ってくれたの!?」
「あぁそうとも! といっても、ボク一人で作った曲じゃないぜ?」
そんな会話を廊下で、私とマシュとアマデウスはしていた。
「ほら。サリエリのヤツ、オーディールコールとかいうヤツでカルデアからいなくなっちまっただろう? それでマリアと一緒にサリエリの荷物を整理していたら、ワンコーラスしか書かれてない楽譜を見つけてね。例の『レクイエム ニ短調』に対する意趣返しの意味も込めて、勝手に完成させちゃったのさ」
生前のアマデウスは、『レクイエム ニ短調』の作曲中に病死している。そのエピソードこそが、アマデウスという英霊の宝具や、サリエリを無辜の怪物たらしめる原因の、根幹にある……。
今回は、まさにその逆のことが起こった訳だ。
「ありがとう、アマデウス!」
「ありがとうございます、アマデウスさん!」
「いやぁ、礼には及ばない。僕だって作ってて楽しかったし……完成の決め手になったのは君だよ、マシュ」
「えっ……?」
驚きで目を丸くするマシュに、アマデウスは言う。
「オルレアンの僕が出した宿題……ちゃんと出来たじゃないか。」
オルレアンのアマデウスと、カルデアのアマデウスは別人だ。記憶を共有していない。
マシュが話してくれた内容を
オルレアンのアマデウス曰く──。
人間には、何かを好きになる義務があるのだと。
何を好きになり、何を嫌いになり、何を尊いと思い、何を邪悪と思うか。
それは──マシュが自分で決める事だと。
「はい。私は……好きなものを選び取りました。嫌いなものと向き合いました。その結果が今の私──シールダー・パラディーン、マシュ・キリエライトです!」
「ふーん♪ 素晴らしい、マシュ! 僕とサリエリの曲をバックミュージックに、その美しい盾を手に、藤丸君と共に戦う限り、君は宇宙最強の女の子さ!」
「あったり前じゃん、アマデウス! 私の後輩でファーストサーヴァントだもん!」
マシュの成長を、色彩を、私もアマデウスも心から歓んでいた。
「じゃあアマデウス! 今から素材集めなんだけど……アマデウスも来てよ! ちょうど1枠決めかねてたんだ」
「あぁ、いいとも! 戦闘では役に立たないだろうけど、応援ぐらいはできるからね」
「はい。この新曲は……何よりの応援歌になると思います。私とマスターにとって!」
楽譜を手に、三人で並んで歩き出す。
その足取りには、この歌が共に在った──。
「まだ戦ってると──♪」
「嵐の向こう側に──いると──♪」
「あなただけに届けばいい──♪」
モノクロ映画のように、色彩なき瓦礫の街の特異点──無彩色廃棄孔イド・ツクヨミ。
「オオオオォォォォ────ッッッッ!!」
その特異点全体に響くのではないかという程の声量で、サリエリは吼えた。慟哭外装を、燃え盛る焰のように震わせながら。
「マスターァァァァ……。貴様貴様貴様ァァァァ!! 本気で言っているのか!! 我は死だ! あの男の名誉、楽曲、痕跡──全てを殺し尽くすものだ!! そのオレに……弾けというのか! 吹けというのか! 奏でろというのか!! 私が作りかけ、アマデウスが完成させた……あの曲を!! 『逆光』を!!」
深く、力強く、私は頷いた。
「その憤怒や憎悪こそ、友愛や恩讐こそ……今の私が欲しいものなんだ」
ヤチヨ・オルタを指差し、言葉を続ける。
「アイツは……私達の! 貴方の! アマデウスの色彩を否定した!! 虚ろな正義を掲げて、神を気取って──人間の葛藤を消し去ろうとしている!! そんなものを──アヴェンジャー、アントニオ・サリエリが、許せるはずがない!!」
「知ったような口を聞くな!! アントニオ・サリエリは死んだ! その魂は似姿としてさえ──地上に蘇ることはあるまいよ!!」
「違う! アントニオ・サリエリは生きている!!」
あの歌詞を思い出しながら、私は叫んだ。
「
「うおおおおぉぉぉぉーーーーーーっっっっ!!」
一際強く、かのアヴェンジャーは咆えた。自身の身をも焼き滅ぼしかねない程の葛藤……自分自身との戦い……。
その果てに、彼は肩で息をしながら──ついに──。
「あぁ弾いてやる! 吹いてやる! 奏でてやるとも!! ゴッドリープ・モーツァルトォォォォ……! 我は……あの男を殺す闇! 燎原の火! 故にこそ私は──ヤツを、ヤチヨ・オルタを──絶対に赦さん!! 音楽が正義に滅ぼされ、色彩を失った世界では……この愛憎も恩讐も! 存在意義を失ってしまうが故に!!」
「サリエリ……ありがとう……!」
「我らアヴェンジャーのマスター……藤丸立香! ああ! 我らはッ! お前のそういうところがッ! 抱き締めたいほど嫌いでッ! 殺してやりたいほど好きであったとも!!」
私の選択を、サリエリの決断を、信長も笑顔で歓迎してくれた。
「ふはははは! 『逆光』か! アレこそカルデア最後の名曲にして、最高の名曲よな! であれば──!」
ノッブの──織田信長の身体が、業火に包まれる。古今東西の人々の嘆き、怨嗟の憤怒が──織田信長の霊核を、深淵に至らしめる──!
「天魔来たりて六天滅す。我が往くは神仏衆生が無尽の屍。八千年の正義を掲げるヤチヨ・オルタ──何するものぞ! 恩讐の旋律が届く道を、我が切り拓かん!」
炎の中から現れた彼女こそ──。
「我こそ第六天魔王波旬──織田信長ぞ!!」
ダビデを超える長身から私達を見据え、紅蓮の髪を靡かせて名乗りを上げた。
「ふむ。僕も竪琴で演奏したいのは山々だけど、あいにく『逆光』がどんな曲か知らないんだよね」
私の礼装による治療が終わったダビデはそう言う。でも……。
「それなら問題無し! FUSHIっ!」
私の呼びかけに応じたFUSHIが、頭に乗っかってくる。『逆光』の歌詞とメロディーと楽譜を素早くインストールし終えたFUSHIは、ダビデを見つめた。
あとはFUSHIの能力で……。うん……。この言い方面倒臭いな!
「──FUSHI! 領域展開だ!」
「そのネーミングはどうかと思うけどっ! いっくぞぉぉぉぉおおおおーーーーっっ!!」
FUSHIの目が輝き、ダビデの
「──くっ……! なる……ほど……。『逆光』……素晴らしい曲だね! よし! 最後の演奏──全力でやらせてもらうよ! 虚空の彼方へ旅立ってしまったアイツにも届くぐらいの演奏を……お見せしよう!」
「ありがとうダビデ! あとは……マシュ……行けるね……?」
私が令呪を切ってからというもの、小刻みに震えていたマシュは、深く頷いて、綺麗な涙を一粒零した。
「はい……はいっ! 私達の旅を成果を全て──酒寄さんと、かぐやさん……ヤチヨさんに、見せつけてやりましょう!」
「……無駄な話し合いは済んだかな?」
ヤチヨ・オルタがそう言って、黒い魔力を滾らせる。
「いい加減──死んでくれる? あなた達は……間違っているんだから……。仮想宝具──アメアラレ」
ヤチヨオルタが二本の薙刀の内、一本を空へ放り投げる。するとその薙刀が分裂し、黒い刃の雨が振り注ぐ。
落下し、迫りくる黒い殺意を前に、マシュが躍り出た。
「お断りします! たとえ間違いでも──消えゆくうたかたの夢だったとしても──構いません! それでも私は……! あの旅路を、あの戦いを選びました! 私が欲しい未来は、この人の隣にこそある! 酒寄さんッ! かぐやさんッ! あなた達にも──そんな選択の刻があったはずです!」
星のように、宝石のように美しく煌めく盾が、私達を守り導く光となる!
「真名、刻銘──。これは多くの世界、多くの夢を繋ぐ、我等の決意。証明せよ──『
マシュの宝具に護られた私達は、力強く、温かで、それでいて清廉な魔力に包み込まれていた……。
「マスター、今です!」
「ありがとうマシュ! みんな……行くよ!!」
ライブの始まりに相応しい静寂の中──私はその曲を歌い始めた──。
「──沈黙を破り──障壁を越えて──眩しすぎる向こう側へ──走れ──!」
あー……やばい……もう既に泣きそう……。
私とマシュだけじゃなく、彩葉ちゃん、かぐやちゃん、ヤチヨにもぶっ刺さる歌詞だから……。
でも……だからこそ……!
「──雨の洗礼と──泥濘んだ道──逆光を浴びて──!」
この歌だけは……絶対に届けてみせる!!
静かなプレ・イントロの後、嵐を思わせるような本イントロを、サリエリとその使い魔、そしてダビデが響かせた。
「この歌は……? し、知らない……なんだこの歌は──!」
ヤチヨ・オルタが薙刀を手に、明らかに今までと違った驚きと怒りを滾らせながら猛突してくる中、Aメロが始まる──!
「──憂鬱だった──いつも──目覚めると──同じ──天井があって……」
カルデアのマイルーム。ボロアパート。もと光る竹の中。私達には憂鬱な気持ちで、同じ天井を見つめていた時間があった……。
「……現実だって──思い知らされる──ここには──出口がない──!」
ヤチヨ・オルタが振りかざした薙刀。それを前に魔王信長が立ち塞がり……。
その薙刀を、右手一本で白刃取りしてみせた。
「な……に……!?」
「貴様が振りかざす正義の刃とやら──」
そのまま信長が力を込め、右手を焔で燃やせば──硝子細工が壊れるように薙刀の刃が砕け散った。
「──存外脆いではないか。ん?」
信長がヤチヨ・オルタを止めてくれている間に、私は更に唄う……!
「──どうやって終わらせるのっ! 完成も崩壊もっ! 永遠に訪れない物語──!」
「……ちぃ!」
新たに二本の薙刀を召喚し、信長の首を刈り取ろうと交差切りを繰り出すヤチヨ・オルタ。
「もう運命が決まってるならっ! 選べなかった未来は──想像しないと誓った……はずなのにっ!」
信長はそれを避けようとしない──かと思われたが、突然の急加速からのバク転! 二本の薙刀の交差点に長い脚でサマーソルトキックをぶちかまし、薙刀を折ってしまった。
「微睡みの淵で──私は優しい夢を見る──幻と知りながらっ!」
「ばっ……バカな……!?」
「是非もなし!」
動揺するヤチヨ・オルタの土手っ腹に、信長の燃える拳がめり込んだ!
そんな攻防の後ろで中で歌い紡ぐサビ──。
彩葉ちゃん。あなただって……お父さんの優しい夢を見た夜ぐらい、あったはずでしょ!?
かぐやちゃん。八千年の孤独の中で──何度も彩葉ちゃんとの思い出や、いつか来るコラボライブの日を、夢に見たはずでしょ!?
「あなたに駆け寄って──もうすぐ指が触れる──そして──! 微笑みながら──目覚めるの──!」
私やマシュだってそうだった!
ロマニやダヴィンチちゃん……もう会えないはずの、お別れした人の夢を何度も見て……それに励まされながら、あの旅路を駆け抜けた! ここまで来た!
「信長さん、代わってください!」
「ふむ、よかろうマシュ。いい面構えじゃな」
「はい! 私も──この曲をバックに、先輩の歌声と共に……駆け抜けたいのです! 戦いたいのです!」
1番と2番のつなぎの間に、マシュと魔王信長が入れ替わる。それを見たヤチヨ・オルタは……
「……舐めるなァァァァ!!」
憎悪を滲ませながら、薙刀で刺突してくる。投げ槍のような速さに質量が乗った突き。しかしマシュはそれを、鮮やかに、そして滑らかに盾で捌いてみせた。
「──本当に欲しい──ものが──分からない──こんなんに……飢えているのに──」
ヤチヨ・オルタは何度も薙刀を振るうが、マシュはその度に、余裕をもって盾で薙刀を弾き飛ばす。ヤチヨ・オルタは薙刀を失う度に召喚し直していた。『Remember』の時とは明確に違う。がむしゃらに暴れる子どもと、稽古をつける大人のような差があった。
「じっとしてたら──過去に──囚われる──」
「うっぐぁぁぁぁーーーーっ!! イライラする!! 仮想宝具──カミカゼ!!」
「──どうしても──行くしかない──!」
明確に感情を発露したヤチヨ・オルタ。私の歌を掻き消すように宝具を使い、大声を上げ、さらに私の歌に割り込んでくる!
「そうだ一億火の玉だ! 一人一人が決死隊──!」
「人は生まれながらっ! 誰もが平等って! 簡単に言えるほど無邪気じゃない──!」
もちろん私とて──譲ってやる気はない!
どんな過去があろうとも……。どんな正義を掲げようとも……。
人間一人一人が持つ可能性を、色彩を、恩讐を否定するような、駒として使い潰すような敵や正義や歌なんかに──。
──負ける訳には、いかないんだ!!
「痛むのは一瞬だけ──すぐに慣れてしまうわ──」
そうだ……。それに……。
どれだけ出会いと別れを繰り返したって、血と泥と涙に塗れたって──。
「──そう割り切れた方がずっと楽だったっ!!」
割り切ることなんて……ちっとも出来なかった!
だから……私は……!
「絶望の畔っ! 懐かしい人の名を──叫ぶっ! それは遠雷のように!!」
サビを歌う私は、マシュの盾で完璧に護られている。
至近距離からあの分身を自爆させる仮想宝具を使われても動じないほど、マシュの守りは揺るぎなかった。
「まだ戦ってると──! 嵐の向こう側に──いると──!」
爆発の嵐を防ぎ続ける、私の大事なマシュに。
望まざる戦い、愛なき正義に囚われた、彩葉ちゃんとかぐやちゃん──ヤチヨに。
どうか──どうか──この歌声が──!
「──あなたにだけに届けばいい──!」
いよいよCメロ! この歌も大詰めだ!
仮想宝具カミカゼを放った後のヤチヨ・オルタは……何故か項垂れていた。力尽きた人形のように……。
今なら届くかもしれない……そんな希望と想いを一層強く込めて……私は歌う!
「沈黙を破り──!」
黙って人の言うことを聞くだけの、空っぽな優等生の時間はもう終わりだ!
「障壁を越えて──!」
誰かが書いた筋書き、誰かが決めた境界なんて──ぶち壊せばいい!
「眩しすぎる向こう側へ……走れっ!」
たとえ手が届かないとしても……輝く星に手を伸ばせ! 彩葉ちゃん、かぐやちゃん──ヤチヨ!!
「雨の洗礼と──泥濘んだ道──!」
この世界には、辛いことや悲しいことだって山程あるけど──!
「──逆光を浴びてっ! 泥だらけになれ──」
大丈夫! 大丈夫だ……!
だって、だってだってあなたには……藤丸ベーカリーで帰りを待つ──!
「──
最初の所長のときは手が届かなくって──。
「あなたに駆け寄って──もうすぐ指が触れる──」
最後の所長のときは腕を持ち上げられなかったけど──。
今日は……違う!!
「そして────」
選ぶべき
「────選びたかった
もはや涙を隠す余裕もないまま、私は歌う。
「絶望の畔っ! 懐かしい人の名を──叫ぶっ!」
彩葉ちゃんだって……あの曲を完成させたとき、月に向かって叫んだはずでしょ!?
かぐやちゃんはそれを聞いたはずでしょ!?
そしてツクヨミを創って、月見ヤチヨとして、『Remember』を歌ったんでしょ!?
「──それは遠雷のように!!」
私達の
「まだ戦ってると──! 嵐の向こう側に──いると──!」
どうか──どうか──この歌声は──!
正義の為ではなく!
悪を討つ為でもなく!
いま苦しみ悲しむ、あなたを救う為に──!
「──あなたにだけに届けばいい──!」
ボーカルの役目は終わり、アウトロをサリエリとその使い魔、そしてダビデが奏でる。
未だ嵐が吹き荒びつつも、その隙間から青空が覗くような。
戦いの高揚感と、ここまで辿り着けた清々しい達成感が同時にあるような……そんな旋律。
その調べが消えゆくのと──ほぼ同時の出来事だった。
「……昨日の続き──。喋りたかった──」
メドレーを繋ぐような滑らかさで……その声が聞こえたのは──。
【あとがき】
この場面(逆光を歌う)に至るまでには、それなりに順序や伏線、過程や論理は積み重ねてきたつもりです。
作品と関係ある(←ここ重要)感想はぜひ欲しいところです!
……作品と無関係、日本語の文章として成立していないなどの問題点のある感想はご遠慮ください……。
書き続けるか(コンティニューか)、打ち切るか(ゲームオーバーか)、割と迷っているんですよ……。
立香やアルキャス、彩葉やかぐやほど、私はメンタル強くないのでねぇ……。