彩葉のバイト先の店長は前作主人公感漂う藤丸立香です(旧題:パン屋のぐだ子とバイトの彩葉) 作:生徒会副長
(錦の御旗……!)
歴史の授業で習ったし、土方さんや斎藤さんから直接聞いたこともある。
特異点を修正するときや、異聞帯を剪定するときも……何度も頭をよぎった単語だ。
それは、日本における絶対的な正義の在り処を示す旗。自らが天皇に仕えし官軍であるという証の旗。
これに弓を引くことは、朝敵になることを意味する。朝敵と見做されれば、日本の全てを敵に回し、征伐されるのみ──。
「くだらんな」
しかしノッブは……織田信長は、武装を火縄銃から魔王ガトリング砲に持ち替えて、悠然と立っていた。
「魔神柱モドキに錦の御旗のコスプレをさせるとか、サバフェスのすみっこでやるのがせいぜいじゃろ。まーやったとしてもフツーに不謹慎で寒いと思うがの」
「……残念デアル。
「それより先にお前が死ね」
魔王ガトリング砲が凄まじい勢いで火を噴いた。実際には火縄銃を連続で撃っているのだが、銃口が燃えているかのように見えてしまう。
『
「……手応えが無さ過ぎるのぅ」
と、ノッブが言った直後だった。
「当たり前デアル。正義の軍勢はこの程度の悪に屈シナイ!」
先程と全く変わらない声量で、
「君ガ代ハ、千代ニ八千代ニ」
歌ではない。断じて歌ではない。
『君が代』の歌詞を呪文のように唱えているだけだ。しかし……。
「サザレ石ノ、
それだけではない。私達がヤチヨ・オルタと戦う為に降り立ったクレーター……その内側で……。
「苔ノ……厶スマデ……!」
新しく……構築されるモノが……。
「きょ、
「君が代ではナイ」
マシュの報告を、私の目には
「
「
「
長門に……大和に……武蔵……?
「……艦これで聞いたような?」
「大日本帝国の軍艦ですよっ! たぶんっ!」
「宇宙戦艦ヤマトとかのせいで勘違いされがちだけどねー、当時の人々からすれば長門の方が知名度も人気も高かったんだよー」
おお。彩葉ちゃんにヤチヨ、解説ありがとう。
「
「
「
いや、まぁ……ふざけてる場合じゃ……ないな……。
「
「
「
「
これは……ヤバいな……。
時間神殿で無限に湧いてきた72体の魔神柱よりは……マシといえばマシ。
問題はこっちの戦力だ。
肝心のカルデアが──もう無い。よって魔力のバックアップは受けられないし、簡易召喚もできない。マシュ含めて味方のサーヴァントは4騎。しかもヤチヨ・オルタとの戦いで既に疲弊している……。
「藤丸立香。マシュ・キリエライト。織田信長。ダビデ。アントニオ・サリエリ。酒寄彩葉。月見ヤチヨ。FUSHI」
私達一人一人の名前を呼んでから、
「
「に……にひゃくよんじゅうまん!?」
「死ネ」
すると、君が代も含めた
「広域シールド! 展開します!!」
マシュの盾が清浄な光を放つ。輝くドームに守られて、私達には何のダメージも生じずに済んだ。
済んだ……けど……。
「マスター! 奴は英霊240万騎と言った!」
サリエリが慟哭外装を纏って声を荒げる。未だ続く銃撃の嵐は、マシュが防ぎ続けてくれている。
「アヴァンジャーとしての直感と……サリエリ先生の知識を元に進言しよう! アレはハッタリではない! 東京には、大日本帝国の将兵を『英霊』として祀る神社が存在する! 奴がその魂を弄んでいるとすれば……!」
「……持久戦じゃ、勝ち目がない!」
「……死ねば仏になれるなどと
私とサリエリとノッブがそう話していると。
「あのぅ……す、すみません……」
おそるおそる、彩葉ちゃんが手を上げた。
「実は状況全然分かってなくってぇ……。そこのカッコいい甲冑着た人と、マントを羽織った女の子と、爽やかな男性の方は……藤丸店長とどういう関係で……?」
「ヨヨヨ〜〜。実はヤッチョも全然状況分かってないのです〜〜。藤丸店長とマシュさん、イメチェンしすぎじゃない? そんな素敵なアバター、ツクヨミで見たことないけど……」
うーん……。どうせまぁ、すぐには打開策なんて浮かばないけどなぁ……。長々説明する余裕もなぁ……。
……仕方ないか。
「FUSHI! 私の頭の上に乗って!」
「えっ!? う、うんっ!」
「ここに至るまでの経緯とか私とマシュの正体とか聖杯戦争について──! 二人にざっくり領域展開!!」
さーて。今の内に打開策を考えないと。
FUSHIが「いっくぞぉぉーーーーっっ!!」って叫んで、彩葉ちゃんとヤチヨが「あばばばばば!」とか「ヨヨヨヨヨ〜〜!?」とか悲鳴を上げてるけど気にしない気にしない。
突破出来そうな方角は……。優先事項は……。
「……西方向に撤退!
「おっ? なんだい?」
「彩葉ちゃんとヤチヨの護衛よろしく! 傷一つつけないように!」
「OK! さすがは歴戦のマスターだね! アビシャグの為なら幾らでも頑張れる僕の気質をよく分かってる!」
よし! ダビデが冗談を言える内はまだ大丈夫だな!
「さぁアビシャグ達、一緒に逃げよう!」
「うん……。はい……。……えぇっ!? あのっ……ダビデさんって……あの世界史で習った古代イスラエルのダビデ王ぉ!? それに女の子の織田信長ァ!?」
「おー。それにサリエリさんが着てる甲冑もめっちゃカッコいいねぇ〜。まー藤丸店長とマシュが実はタイムパトロールだった──なんて話が、一番インパクトあるかにゃー☆」
FUSHIの領域展開が終わり、彩葉ちゃんとヤチヨも状況を把握してくれているようだ。
マシュが展開するシールドを傘のようにして、ノッブを先頭に西へ向かう。ノッブが時折数発の銃弾でかすり傷を負うけれど、止まる訳にはいかない。
「うはははは! 人間が相手なだけ金ヶ崎や本能寺の方がマシだったとワシは思うぞ!!」
「ならば諦めるか、魔王」
「んな訳あるまい! いくぞサリエリ! おぬしが先にやれ! ワシが合わせる!」
「心得た!」
西方向にも当然
サリエリが使い魔を召喚し、宝具を展開した!
「我は死だ、我は神に愛されしものを殺すのだ! 『|至高の神よ、我を憐れみたまえ《ディオ・サンティシモ・ミゼルコディア・ディ・ミ》!!』
殺意を込めた、破滅の楽曲が響く。その音色を聞いた
そこへすかさず、第六天魔王・織田信長の宝具が展開される。
「波旬変生──。一天四海に覇道を開く!」
宝具発動と同時に、ノッブは長身の美女の姿へと変身していた。
「破壊せよ! 三千大千天魔王!!」
銃弾を撃つのではなく、火炎の砲撃で敵を貫き、火柱で敵を滅ぼす宝具が放たれる。轟音と共に
「──朝敵の抵抗により
やっぱり魔神柱と似てる。何度倒しても復活されるっぽいけど、倒すことで動きを止めることは出来る。
「流石だね! ありがとう、サリエリ! ノッブ!」
「フン……今のうちに抜けるぞ、マスター!」
「ふはは、まぁ立香の支援あってこそよな! 是非もなし!」
確かに宝具発動時に、私は礼装でサリエリやノッブの宝具威力を強化していたけれど、それはそれ。今は一刻も早く包囲を抜けないと!
「マスター! 追っ手として……
マシュの声を聞いてチラリと振り返ると、弾幕はかなり薄くなっている。その代わりに、かぐやちゃんの卒業ライブで見たのと同じ──頭部が提灯でできた、月人の
ヤチヨが不意に、タブレット画面をスワイプするような仕草を見せた。しかし何も起こらない。
「……やっぱり管理者権限が、あの
「クレーターから脱すれば、多少は振り切れるはずだ! 急げ!」
サリエリの言うとおりに、必死に足を動かす。
あぁそうだ。ただ平地を駆け抜ければ済む話じゃない。
クレーター外縁部分の──坂を登る必要がある!
「マスター! 私がシールドを展開している間に登ってください!」
マシュはそう言いながら、盾を振り回してリョウサン型数体を打ち払った。
「マシュ! でも……!」
「ご安心を! マシュ・家老・キリエライト、立派に
そう言ったマシュの顔が……あまりにも綺麗で……。
「うむ。生き延びたら長浜城をくれてやってもよいぞ」
「ありがとうございます、信長さん。藤丸ベーカリー2号店の物件に丁度いいです」
「ふふ。さて──一気に駆け上がるぞ!」
しかし、私の不安を余所に、撤退戦は進む。
サリエリが彩葉ちゃんを、ダビデがヤチヨを、そして魔王信長が私を腕に抱えて……。
「呆けている場合ではないぞ立香! 舌を噛むなよ!」
サーヴァントの脚力で、一気に坂を駆け上がる。私達を銃撃から守る
クレーター外縁部を登り終えて、下を見下ろすと……。
「マシュっ! 無理しないで! 早く上がって!」
私はそう叫ばずにはいられなかった。
次々にリョウサン型が軍配を手に、四方八方からマシュに飛びかかる。まるで餌に群がる魚のようだ。遠巻きのものまで含めれば……その数は百人近い。マシュが展開する広域シールドでは軍勢の動きまで制限することはできない。ゲーティアの光帯を真正面から受け止めて背後の私を守ったときとは、訳が違うのだ。
「
「喰らえ、
マシュを窮地から救おうと、ダビデとノッブが投石と射撃でリョウサン型を蹴散らす。しかし数が多過ぎる!
しかも敵の射撃だってまだ続いているのだ。サリエリが慟哭外装で攻撃を受け止めて、私と彩葉ちゃんとヤチヨを庇ってくれているけど……。
「ぬぅぅぅん……! 我の音楽ではマシュまで巻き込んでしまうとはいえ……この役割分担は……!」
「サリエリ!」
「サリエリさん!」
絶望の闇が、心を蝕むようだった。
事実としては、生命力と魔術回路が戦闘によって蝕まれている。
このまま人海戦術に抗い切れず、圧し潰されて──死滅──終幕──バッドエンド──。
そんな昏い思考が、頭を掠めたとき──。
『……さん! ……マスPさん!』
声が聞こえた……ような気がした……。
『私を喚んでください、マスPさん!』
声がする方に目を向けると……星が輝いている。
私達がこの特異点を探索するにあたって、勝手に“北”の目印にしていた星だった。この色彩なき特異点で唯一、色彩ある光。私達を励ましてくれていた星。
もしかして……あの星の正体は……。
「……第二の令呪を以て、ここに命ずる──!」
右手の甲の令呪が、紅く輝く。
ねぇ……ミス・クレーン。
貴女が手紙と霊衣を遺して退去してしまったのは……すごく悲しいことだったけれど……すごく辛いことだったけれど……。
今も昔も……貴女が紡いで残した希望は──。
絶対に、無駄じゃなかった!!
「来て! 謎のアイドルXオルタ! 私のアイドル──えっちゃん!!」
令呪の紅い光と、空に煌めく星の光。2つの光が繋ぐ道を、彼女は流星のような速さで翔んできた。浮遊ポッドでエンクロージャーユニットの黒騎士くんとやらで空を駆ける、ぶっ飛んだ世界観から!
「マスPさん! 状況はよく分かりませんが……とりあえずマシュさんをお助けします!」
そう一言かけてから、アッシュグレーの髪にメガネの下から覗く金色の瞳がトレードマークの彼女はマシュが居る方へ航路を曲げる。
「オルトリアクター全開! アイドリウム最大出力! これが私のオルタ
マシュを取り囲んでいたリョウサン型達が、赤い光の奔流によって地面ごと吹き飛ばされる。
突然現れたえっちゃんを見て、マシュは目を丸くしていた。
「えっ!? あのっ……えっちゃんさん!?」
「おぉマシュさん、お久しぶりです。詳しい話は後! 飛びますよ!」
えっちゃんはそのまま、マシュを抱えて浮遊ポッドを作動させる。
緩やかではあるけど、坂を登るより早いフライト。それが終わって間もなく、マシュとえっちゃんが私達の傍に着地した。
「マシュっ! 無事で良かった!」
「マスター! ご心配をおかけしました!」
戦いはまだ続いているけれど、
「うむ。援軍大義である、えっちゃん」
「ふわっ! 大きい方の信長さん、お久しぶりです。水着でロックな方の信長さんは……?」
「カルデアのバックアップなしだと水着
えっちゃんとノッブがそう話してる中、サリエリの「ぬぅぅん……!!」という苦悶の声が聞こえた。
あーヤバい! 敵の軍勢と砲撃、いまサリエリとダビデが辛うじて押し留めてくれてるんだ!
「話の途中だけどワイバーンだ! 一旦地の利を活かして落ち着ける状況を作ってから、えっちゃんの話を聞かせて!」
「どう見てもワイバーンではありませんが、了解です。なんなら戦いながらでも、掻い摘んでお話しましょう!」
私とマシュは抱擁を解き、えっちゃんも改めて剣を握る。
まだまだ──私達の意地を見せるのは、これからだ!
【あとがき】
旭聖碇《きょくせいてい》は全体的に大日本帝国をモチーフにしています。名前の元ネタも大日本帝国海軍の戦艦。
戦艦の名前のチョイスは本当にこの10隻で良かったのかなぁと若干不安を抱いているところ(あんま軍艦に詳しい訳ではないので)。
さて、今回のサブタイが『錦の御旗』だったなら、次回のサブタイは……?
来週の更新もご期待ください。
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