【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉 作:生徒会副長
閉店作業が終わった、夜の藤丸ベーカリー。
私はスマホを片手に、アルバイトの彩葉ちゃんに声を掛けた。
「彩葉ちゃん、見て見て〜」
「なんですか藤丸店長?」
ごくごく小さな鼻歌を漏らしつつ着替えを始めようとしていた彩葉ちゃんが、私の座る机の傍に寄る。
私はある動画を再生した。
それは、店の前でマシュがうさぎをモチーフにしたダンスを踊っている動画だ。
動画のタイトルは「藤丸ベーカリーの副店長が『私は、わたしの事が好き。』を踊ってくれたよ!」というもの。
「やっぱりマシュは何をやらせてもかわいいよね〜。あとこのかぐやちゃんの曲好き〜」
かぐやちゃんとは、最近ツクヨミで人気急上昇中のライバーさんだ。空虚でつまらない月から楽しい地球へ遊びに来たという凝った設定、現実でもツクヨミでも可愛い容姿と声、新人でありながら『ヤチヨカップで優勝して月見ヤチヨとコラボライブをする』という高い目標意識で、人々を魅了しつつある。
マシュにはかぐやちゃんのオリジナル曲『私は、わたしの事が好き。』のサビを踊ってもらったのだが、中々再生数が伸びている。コメント欄も盛り上がっているようだ。
『かわいい。いつも副店長さんの笑顔と藤丸ベーカリーのパンに元気を貰ってから出勤してます』
わかる〜。私もマシュの為なら頑張れるもんね。ついでにパンのことも褒めてくれて嬉しいなぁ。
『この動画でかぐやちゃんのこと知った。ヤチヨカップ優勝して欲しい』
そうだよね〜。私も最近かぐやちゃん推してる!
『マシュは俺の嫁!』
は?? マシュは私の嫁で後輩で副店長で家老でファーストサーヴァントなんだが??
ん……? ファーストサーヴァントって……なんだっけ……?
まぁいいか。
「彩葉ちゃんはヤチヨカップどうなると思う? ヤチヨ推しの彩葉ちゃんとしては、誰が優勝するか気になるところじゃない? 私はかぐやちゃん推してるんだよね〜」
ここから彩葉ちゃんが、熱くヤチヨ愛を語り始める……と思いきや。
「ハハ……。かぐやも、まぁ……いいんじゃないですかね? 結果は最後まで分かりませんよ、ねぇ……はは……」
ん? なーんか違和感が……。
いつもの──いや、今までの彩葉ちゃんなら「ヤチヨとコラボライブをして解釈一致なライバーは〜」と語り始めたり、「まぁ事前に内々で結果は決められているんでしょう」と諦観するようなことを言ったりしそうなものだ。
あぁ、諦観と言えばだ。
「彩葉ちゃんそういえば最近、ちょっと表情が明るくなったよね」
「え? そうですか?」
「うん。なんか今まではお人形さんみたいな完璧スマイルって感じだったけど……。今は笑顔が自然な感じがするし、仕事が終わるのが楽しみって感じが出てるよね」
さっきも鼻歌が漏れてたし……。
まぁ経営者としてはね? お人形さんみたいに笑顔も仕事も完璧な従業員も、それはそれで助かるけどね?
人と人の関係として見れば、自然な笑顔や日々の歓びを同じ店で働く仲間が見せてくれるのは嬉しいものだ。
「なになに? 恋人でもできた?」
「いやぁ……そんなのじゃない……ですよ?」
……うん? 微妙に歯切れが悪いな?
かといって恋人を隠している風でもない。
私の直感によると──友達以上恋人未満の誰かがいる?
「ええー? ほんとにござるかぁ?」
「ホントでござるよ〜〜」
嘘だね。
目を逸らしながら言ってるし。
今までの彩葉ちゃんだったら、私の小粋なトークにこんな上手い返しをしてくる余裕なかったはずだし。
「藤丸店長? もう着替えに戻っていいですか?」
「あぁ。ごめんごめん! 引き止めちゃって」
でも気になるな……。
かぐやちゃんを支える謎の天才プロデューサー『いろP』の正体と同じぐらい気になる……!
(……ん? いろP?)
私は脳内で、かぐやちゃんが語っていたいろP情報を振り返る。
『いろPはねぇ〜。超☆天☆才なんだよ〜。学校のテストで100点連発してるんだって!』
へぇ〜、まるで彩葉ちゃんみたいだぁ。
『いろPはね。これをやるって決めたら、そのためにできることぜーんぶやってるんだよ。ホントカッコよくて綺麗で大好き!』
うーん、まるで彩葉ちゃんみたいだなぁ。
『いろP㊙情報その18! いろPには泣きぼくろがある! とってもチャーミングなんだよ〜』
そういえば彩葉ちゃんにも泣きぼくろがあるよねぇ……。
あれ?
あれれー??
(もしかして……。いろPって……)
いやいやまさか。
これがミステリー小説だったら、もうちょっとワトソン君に証拠集めをしてもらわないと断定できないでしょ。
でもなー。試すだけならいいかなー?
ハズレならまぁ単なる笑い話で済ませればいいだけだしなー。
(よし、カマかけてみよう!)
決心がついた私は、着替えを終えつつある彩葉ちゃんに訊ねた。
「ねぇねぇ彩葉ちゃん」
「はい」
「彩葉ちゃんとかぐやちゃんって同じ布団で寝てるの? 私とマシュは日によりけりだけど」
「ホントは寝室別にしたいぐらいなんですけど、部屋が狭くて狭くて。でも抱き枕代わりになる日もあっ……て……」
ペラペラと愚痴9割ノロケ1割を口走っていた彩葉ちゃんだったが、目を見開いて私の方を向き、凍りついてしまった。
いやいや彩葉ちゃん。そんなパニックホラー映画で怪物に見つかったヒロインみたいな顔しなくてもよくない? 取って食おうってワケじゃないんだから。そりゃガバガバ推理がピタリと当たった私は、化生のような笑顔を今しているかもしれないけども。
「そっかそっかー。まさか彩葉ちゃんがいろP」
「ちちち違いますよ藤丸店長っ!!」
うーん。そこでムキになって否定するのはどうかと思うよ? 彩葉ちゃんって何でもできそうに見えるけど、芝居では私の方が一枚か二枚上手みたい。
「あのですね!? 親戚の子が私の部屋に遊びに来てて、その子もたまたまかぐやって名前なんです! いやー、偶然って怖いですよね! だからライバーのかぐやと私の部屋にいるかぐやは別人なんです! はい! これでこの話はおしまいです! いいですねッ!?」
「あ、そっかそっか。勘違いしてごめんね?」
ホッと胸を撫で下ろす彩葉ちゃんだけど……まだまだ甘いね。
だって私が一旦引き下がったのは演技だもん。
油断した彩葉ちゃんに私は訊ねた。
「ところでかぐやちゃんがよく着てる黒いスケスケのネグリジェってユ●クロで買ったヤツ?」
「スケスケじゃないしネグリジェじゃなくてワンピースですよ! あとアレはセ●ストで買ったヤツで……あ」
椅子に座って不敵な笑みを浮かべる私と、膝をつく彩葉ちゃん。
(勝った! 計画通りッ!)
QED、証明完了。
(あー、スッキリした……)
さて、化けの皮を剥いじゃった後は、アフターフォローをちゃんとしなくちゃね……。
Q:ぐだ子っていろPの正体暴くようなことする?
A:アヴァロン・ル・フェの終盤、オベロンのバレンタインシナリオ、クリームヒルトのバレンタインシナリオなどを見ていると、ぐだ子の可能性の1つとしてはあり得るかと思いました。
あとはまぁ、いろPの正体というより彩葉の本心を探った結果とも言えるでしょうか。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
次回、コラボカフェ編!
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