【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉   作:生徒会副長

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⑥ヤチヨカップ決着と謎の電話

 

 

 8月18日の夕方18時過ぎ。藤丸ベーカリーの店内には、赤々と夕陽が射し込んでいる。

 その厨房で私が洗い物をしているとき、不意にレジのお客さんの声が聞こえた。

 

「この商品券使える? あと、支払いはペイモで」

 

 藤丸ベーカリーの店員は、いま3人。マシュとみおちゃんと私──藤丸立香だ。

 そしてレジに立っているのはみおちゃんだ。

 

(おーっと? これはヘルプ行った方がいいかー?)

 

 いつでもレジへ行けるよう、私はキリのいいところで洗い物の手を一旦停止する。

 (あずま)みおちゃんは、6月に入店したばかりの新人女子高生アルバイトだ。ちょっと太めの眉と、仕事の時は毛先を紐で結んだ長いウェーブのかかった黒髪が特徴の、ちょっと垢抜けない感じの子である。

 あとはちょっと……ドジっ娘属性があるぐらいカナー。

 いや、『みおちゃんってドジっ娘だよね』と言ってしまえば最後、そういう人間として完成してしまいかねないから絶対本人には言わないけど。

 肝を冷やした大きいミスとしては、転んだ拍子にピッチャーの水を丸ごとお客さんにぶっかけてしまったりだとか、お釣りの返し間違いでレジが4000円マイナスになったりだとか。

 そして今、レジに立っているお客様が望むお会計も、中々ややこしいミッションだ。

 商品券の処理をしてから電子マネー・ペイモのお会計という順番なのだが、レジ操作の順番やボタン、画面操作などが若干ややこしい。ペイモってふじゅーペイに比べると使う人少ないし。

 いやまぁ一度は教えたし、私やマシュや彩葉ちゃんなら一切の淀みなく捌けるけどね?

 みおちゃんは私をヘルプで呼ぶかもしれないと、身構えていたのだが……。

 

「はいっ! こちらの商品券はご利用頂けます。お会計変わりまして280円です。ペイモのQRコードを読み取らせて頂きます。はい、こちらレシートです。ありがとうございました、またお越しくださいませ!」

 

 私の未来予測は大ハズレだった。みおちゃんはお手本のごとく滑らかにレジ対応を終えたようだ。耳の聞こえてくる声しか判断材料はないが、それでも間違いない。

 

(へぇ〜〜。みおちゃん、ちょっと成長したかな?)

 

 私は鼻歌を洩らしながら、洗い物を再開するのだった──。

 

 ──そして、日が落ちて月が昇り、20時30分。

 

 私とマシュとみおちゃんは、無事に閉店作業を終えていた。あとはバックヤードで着替えるだけだ。

 

「いやー。けっこう早めに終わって良かったよ。今日21時から観たい番組あったからさー」

 

 私がそうみおちゃんに語りかけると、彼女は少し恥ずかしげな表情を見せた。

 

「えへへ。今日はミスなく出来ました。ちなみに何の番組ですか?」

「ヤチヨカップの結果発表! 誰が優勝するんだろうねぇ?」

「さぁ……。私はあんまり詳しくないんですけど……」

 

 そう。今日は待ちに待ったヤチヨカップの結果発表。私の願いはもちろん、かぐやちゃんと彩葉ちゃんの優勝だ。結果発表の瞬間をリアルタイムの配信で観られそうで良かった。

 着替えを始める前に、私はみおちゃんに聞いてみた。

 

「みおちゃん、閉店作業だけじゃなくて、なんか今日は全体的に仕事が早くて正確だったよね?」

「え? そうですかね……」

「私はそうだと思いますよ、店長(マスター)、東さん」

 

 私の問いにみおちゃん本人は肯定しきれなかったが、マシュは認めてくれていた。

 

「今日はレジの会計もズレていませんでしたし、私もほとんど東さんのヘルプに回っていません。掃除も早く美しく終えていると証言します」

「そ、そんな大げさな……」

 

 褒められ慣れていないのか、みおちゃんはモジモジと身悶える。これはこれで中々可愛らしい。

 

「何かきっかけとか、工夫したこととかあった? 従業員教育とか店舗経営の参考までに、教えてくれると嬉しいな」

 

 私がにこやかに訊ねると、意を決したように頷いてから、みおちゃんは答えてくれた。

 

「この前、酒寄先輩が病欠したことがあったじゃないですか」

「……うん。そうだね」

 

 彩葉ちゃんが16時からのシフトを休んだあの日。12時からシフトに入っていた田中君に無理を言って閉店まで残ってもらい、事なきを得た。

 しかしみおちゃんからすれば、それだけでは済まなかったようだ。

 

「完璧に見えた、憧れの先輩だった酒寄先輩がお休みって聞いて、ちょっと不安になって。そんなぐらいのことで動揺して、酒寄先輩のフォローもできない自分が、情けなくて、悔しくて……」

 

 それはまぁ、みおちゃんはあの日10時からシフトに入っていたからで、閉店まで残ってもらうのは人件費(残業代)やみおちゃんの体力から考えて『最終手段だな』って考えただけなんだけど……。

 

(それは今、言わなくていいな……)

 

 この悔しさは今、みおちゃんの成長に必要なものだから。

 

「なので私、決めたんです。今度酒寄先輩が困ったときは、私が助けるって。酒寄先輩に守られる私で終わりじゃなくて、酒寄先輩を守れる私になりたいって。だから、マシュ副店長や酒寄先輩にもう一度仕事の仕方やコツを聞いて、家で何度もイメージトレーニングをしたら……今日は、うまくできました!」

「え? マシュ知ってたの?」

 

 隣に立つマシュを、私は見遣る。

 

「仕事について聞かれたことには答えましたが、心の内は初耳です。良い心掛けですね、東さん。先輩を守る為に戦う後輩は強いのです。控えめに言って最強です」

「うんうん。私の最高の後輩であるマシュが言うんだから間違いないね!」

 

 私とマシュが平然と最強とか最高とか言うものだから、みおちゃんは「えぇ……?」と戸惑ってしまっていた。

 

「みおちゃんを雇ってよかったよ」

「そ、そうです、か……? でも私、今まで散々失敗して……」

「歓びでも悲しみでも、成功でも挫折でも、たくさんのタスクをこなすのが、善なる人生ってヤツじゃないかな? 正解や勝利を選び続けられる人も尊いとは思うけど……より善くあろうと努力し続ける人も素晴らしいって、私は思うから」

 

 褒められ慣れていないのか、恥ずかしいのか。みおちゃんは顔を少し紅くして頬を掻いていた。

 

「これからも一緒に、この店を守ってね」

「は、はいぃぃ……。あ、ありがとぅ……ございます……。えぇっと、じゃあ! お、お疲れ様でしたーっ。明日もまたよろしくお願いしますっ!」

「うん。よろしく……って……」

 

 そのままバックヤードを去って、足早に店から出てみおちゃんは帰宅しようとする。手を振って見送ろう……と思ったところで、私は慌てて彼女を呼び止めた。

 

「みおちゃん! 荷物も着替えるのも忘れてるよ!? 制服のまま帰っちゃダメーーッ!!」

 

 それが今日唯一の、みおちゃんのミスだった。

 ……やっぱりドジっ娘なのかなぁ……?

 

──※──

 

 翌日、8月19日の12時50分。

 昼のピークが終わろうとする時間帯。日によっては昼のピークを捌いた疲れと昼の空腹でヘトヘトになるところだが、今日の藤丸立香(わたし)は絶好調だった。

 今日の元気の源泉はズバリ、昨日のビッグでグッドなニュースだろう。

 果たして凱旋のつもりなのか、そのニュースの主役二人が店に入ってきた。

 レジとホールを受け持っていた私は、受付も兼ねてその二人に声を掛ける。

 京風美人の血を引く黒髪の美少女と、お姫様の清楚さとギャルの派手さを併せ持つ金髪の美少女の二人だ。

 

「いらっしゃい、彩葉ちゃんにかぐやちゃん! もう隠さなくていいのかな? ヤチヨカップ優勝おめでとう!」

 

 声量は常識的な範囲で押さえつつ、精一杯の身振り手振りと笑顔で私は2人を祝福する。

 そう──かぐや&いろPチームが、ヤチヨカップで優勝したのだ。

 昨日仕事を終え、みおちゃんが退勤した後。私とマシュも大急ぎでLIVE映像を視聴し、その瞬間を目撃した。

 

「おーっす! 店長さん、この前はビデオチャットありがとう!」

「やぁやぁかぐやちゃん。あの時は中々の名演技だったよ」

 

 かぐやちゃんとは、ツクヨミの格闘ゲームで一度、彩葉ちゃんの病欠の連絡のときにビデオチャットでもう一度会って話している。しかし、リアルでちゃんと会って話したのは何気に今日が初めてだ。

 

「かぐや気安すぎ……。すみません藤丸店長、うちのかぐやが礼儀知らずで……」

「いーよいーよ。そのフリーダムな感じがかぐやちゃんの魅力だし、今はそっちがお客様なんだし」

 

 彩葉ちゃんの今日の出勤は16時からだ。今まで彩葉ちゃんは、あまり藤丸ベーカリーをお客様として利用することはなかった。「お金がないから」だとか「仕事のことがチラついて落ち着けないから」だとかと言って。

 しかし今日は違うらしい。

 

「もう身バレの心配しなくていいから、二人でご来店って感じかな」

 

 いろPは今まで、狐の着ぐるみを着て活動していた。しかしヤチヨカップの結果発表直前に行われたKASSENで着ぐるみを脱ぎ、更に自身が帝アキラの妹であることもカミングアウトした。

 この期に及んでは、天才プロデューサー・いろPと、藤丸ベーカリー店員・酒寄彩葉の関係を、殊更に隠蔽工作する必要もないということだろう。知ってる人が見れば顔で分かっちゃうもんね。

 まぁかといって? こっちも「ウチでいろPが働いてまーす!」なんて宣伝する気もないけどね。

 

「ホントはかぐや、ずっと藤丸ベーカリーに来たかったのに、彩葉が来るなって言うからさー」

「今日からは別に来てもいいけど、普通の静かなお客さんでいてね。店に迷惑だから」

 

 かぐやちゃんが鬱憤を洩らすと、彩葉ちゃんが釘を刺す。

 友達だと聞いているけれど、こうして見ると姉と妹、母親と娘のようにも見えてくる。彩葉ちゃんが大人びてるからだろうか。

 

「じゃ、そろそろ座る? 空いてる席ならどこでもいいけど……。窓際のテーブル席とか、どう?」

 

 私がそう促すと、二人は「はい!」と、嘘偽りのない、晴れやかな笑顔で答えた。

 その笑顔が眩しくて、私はついしみじみと告げてしまった。

 

「変わったねぇ、彩葉ちゃん」

 

 目を丸くして「えっ?」と彩葉ちゃんは驚く。

 

「な、なんのことですか?」

 

 少しだけ間があった。ほんの一拍。考えてから返した間だ。

 

「今までは作り笑いっていうか、無理して笑ってる感じがしてたけど……。今は、心の底から幸せって感じが伝わってくるよ」

「……そう……ですかね?」

 

 少し恥ずかしげに、彩葉ちゃんは頬を搔く。

 対して私は、わざとらしく口角だけを上げてみせた。

 

「今までも、彩葉ちゃんの接客用の営業スマイルは完璧だったよ? でもねぇ……。頬の筋肉は笑ってるのに、目だけは全然笑ってなかった。あと、目を閉じた笑顔が多かった感じかな」

「……よく見てるんですね」

「まぁ年季の差だよねー。元演劇部だし。曲がりなりにもアラサーの経営者だし」

 

 ちょっぴり自慢げに、ちょっぴり自虐的に、私は不敵な笑みを見せる。

 そんな私を見て、かぐちゃんが疑問を口にした。

 

「なんで店長さんや彩葉は、作り笑いをしなきゃいけないの?」

 

 私と彩葉ちゃんが目をパチパチさせてかぐやちゃんを見遣る。彼女は「うーん」と、顎に手を当てて考え込んでから言った。

 

「かぐやもさぁ、ワガママばっかりじゃ駄目なのはなんとなーく分かってきたつもりだけど、上手く言葉にできないんだよねぇ……。店長さんの答えが聞きたいなーって……」

 

 おぉ……。彩葉ちゃんが病欠したときに続いて、また責任重大な質問だなぁ……。

 そういえばかぐやちゃんって、配信でも全然演技とか芝居って感じがしないんだよね。本当に無垢って感じ。最高にかわいい幼稚園児が、最高に可愛いアイドルの身体と理知を乗りこなしてる、みたいな?

 今までどんな生活送ってきたんだろ?

 家族は? 学校は? 結局彩葉ちゃんとはどういう関係……?

 

(まぁ……どうでもいいか)

 

 過去がどうであれ、私が質問に答えてあげない理由にはならないもんね。

 

「嘘っぱちの笑顔でも、自分や周りの人を前へ進める力になるときもあるんだよ。やりたくないと思うことでも、やらなきゃいけないときとか、やりたい気持ちが上回ることとか、生きてたら色々あるからさ」

 

 私だって365日、いつでもパン屋が最高と思っている訳じゃない。起き上がりたくない朝だってあるし、いっそ辞めたいと思って泣いた夜もある。

 でも、マシュや仲間やお客さんは裏切れないし、裏切りたくないし、これが自分で望んで選んだ道だから。

 だから私は今日も明日も、笑顔でパンを焼く。

 

「まぁ必要になったら、そのうち出来るようになるんじゃない? わざわざ覚えなくていいとは思うよ。かぐやちゃんの素直な笑顔や正直さに救われてる人はいっぱい居るはずだから……ねー?」

 

 私は同意を求めて彩葉ちゃんに微笑みかける。彼女は、照れくさそうに顔を逸らすだけだった。

 

「え? 何? 彩葉はかぐやの表情(かお)が好きなの?」

 

 彩葉ちゃんが顔を逸らした先に、かぐやちゃんが回り込んで顔を覗き込む。更に逸らすと更についてくる。その様子は、地球の周りを回ってる月のように見えなくもない。

 

「ま、まぁ……? ひ、人並み! 人並みにね!」

 

 観念した彩葉ちゃんがそう告白すると、かぐやちゃんは向日葵のような笑みを咲かせた。

 

「かぐやも彩葉のことだ~いすきっ!!」

「し、静かにしてってばっ……。 あと暑いっ」

 

 彩葉ちゃんに抱きついて頬ずりするかぐやちゃんと、口では文句を言いつつ突き放そうとしない彩葉ちゃん……。

 いいねぇ、実に微笑ましい。

 私もマシュに抱きつくことはあるけど、かぐやちゃんほど大胆不敵にはやらないからなー。

 問題があるとしたら、ここがパン屋の入り口であることカナー。

 

「お客様ー? いちゃつくならお席にどうぞー」

 

 私はちょっぴり皮肉を込めつつ、二人を窓際のテーブル席まで案内した。

 その後、二人を案内し終わったところでマシュから声が掛かり、私は昼の休憩に入ったのだった──。

 

──※──

 

 私がのんびり昼の休憩を取って、英気を養っている最中のこと。店内カメラで従業員やお客さん、彩葉ちゃんやかぐやちゃんの様子をぼんやり眺めているとき、藤丸ベーカリーの電話が鳴った。

 

「はい、藤丸ベーカリー店長の藤丸です」

 

 取った電話から返ってきた声の主は、意外な相手であった。

 

「こんにちは。いつも娘がお世話になっております。酒寄彩葉の母の、酒寄紅葉と申します」

 

 ……ほぅ? 彩葉ちゃんの、お母さん……?

 あのハイスペ高校生・酒寄彩葉を強く厳しく育て上げた、という?

 ついでに言えばブラック・オニキスのリーダー、帝アキラの母親ということにもなるね……?

 

「いえいえ。こちらこそお世話になっています。何か御用でしょうか?」

「いえまぁ、大した用ではありまへんねんけど……いまお時間大丈夫ですか?」

「えぇ。大丈夫ですよー」

 

 明るく返事をしつつ、私は心の内で役を羽織る。

 彩葉ちゃんが度々口にする『お母さん語録』を聞く限り、彩葉ちゃんのお母さん──酒寄紅葉さんは文武両道の完璧超人で、皮肉と嫌味と正論が好きな弁護士さん。

 彩葉ちゃんがヤチヨカップで優勝した翌日に、わざわざ娘のバイト先に電話をしてくるなど、只事ではないはず。

 “仲良く”お喋りするのは、一筋縄ではいかないだろう。しかしだからこそ、挑むのは面白い。まぁ実際仲良くなれたら、それはそれでステキなことだし。

 『楽しくてワクワクするような』お昼のお喋りが始まるのを前に、私は胸を高鳴らせるのだった。

 

 






【あとがき】

Q:いくら藤丸立香でも、あの酒寄紅葉を相手に、お喋りを楽しむことなんて出来るの!?

A:カルデアに来て半日も経っていない内からオルガマリー所長をお手玉にして、アヴェンジャー、バーサーカー、プリテンダー、ビーストなどの面々と仲良くしてた藤丸立香なら、まぁ……。

次回、酒寄紅葉 VS 藤丸立香

デュエル、スタンバイ!

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