【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉   作:生徒会副長

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ヤチヨカップで彩葉とかぐやが優勝した翌日、藤丸ベーカリーに酒寄紅葉が電話を掛けてくる。どうやら彼女は、彩葉の働きぶりや、配信活動などについて疑念を抱いているようで……?
更に、距離を詰めにかかった立香に対しても、紅葉は詰問を……!?

最後のハッピーエンドの為には必要な話だろうと思って書きました!

ちなみにぐだマシュは記憶を取り戻す方向でプロット考案中です!
初期構想から変わってしまってすみません!


⑦酒寄紅葉VS藤丸立香

 

 ヤチヨカップで彩葉ちゃんとかぐやちゃんが優勝した翌日というタイミングで掛かってきた、彩葉ちゃんのお母さんからの電話。

 彼女──酒寄紅葉さんが『大した用ではない』と先に言った以上、事務連絡や火急の知らせではないのだろう。

 

(さーて、どんな“楽しい”お喋りが出来るかなー?)

 

 そんなことを思っていると、紅葉さんからの質問が受話器から飛び出した。

 

「最近ウチの彩葉が、お店にご迷惑をおかけしてはいないかと心配しておりましてねぇ。働いてお賃金を頂くなんて経験、ウチの娘は初めてですから。ほら、遅刻したりだとか、勝手に休んだりだとか……しとりませんか?」

 

 うーむ、さすが弁護士。口調だけで『お前の考えは全て読めている』と言わんばかりだ。

 事実は事実として伝えるしかないな。

 ──と、ここまで思考するのに0.1秒。

 

「そうですね……。8月10日に病欠の連絡があったぐらいですね。他は無遅刻無欠勤でよく働いてくれていますよ」

「……病欠、ねぇ……」

 

 裏付けを取ってから連絡したんじゃなくて、これが初耳って感じの、呆れが混ざった声色だった。

 

「それに対して藤丸さんは、どのようなご指導・ご鞭撻を?」

 

 おー。まるで法廷のやり取りのような威圧感が、受話器越しからも伝わってくる。

 並みの胆力しか持っていない人なら、これだけで気圧されて縮こまってしまいそうな迫力だ。しかし──。

 

「病欠自体は仕方ないこととして、身体を壊さないように、程々に休むようにと、伝えました」

 

 私はきっぱり、堂々と返事をした。

 生憎私は、クソ度胸とド根性だけが取り柄なので、この程度の圧では怯まないのだ。

 

「休んだ従業員に、更に休むように言うたんですか? ほぉ……」

 

 明らかに不満そうな声。マシュや彩葉ちゃんのような真面目で優しい子なら、つい謝罪を口にしそうなところだ。

 まぁ私は謝らないけどね? 私は自分が悪い指導をしたとは思ってないし? ここで謝ったら付け入られる脚本(シナリオ)は目に見えてるし?

 

「はっきり申し上げますね? ウチ、あんたみたいな甘ちゃんのことは嫌いですわ」

「そうですか? 私は紅葉さんのこと好きになれそうですけどね?」

 

 間髪を入れずに私が言い返すと、紅葉さんは初めて「ハ……ア?」と動揺を見せた。

 好きの反対は嫌いではなく無関心──と、よく言う。話して間もないのに『嫌い』と明言するのは、それだけ関心がある証拠だ。

 これに対して『好きになれそう』と言い返すのは『私も貴女に関心はありますが、貴女のイエスマンになる気はありません』という意思表示だ。

 相手の動揺に付け込んで、すかさず私は紅葉さんを褒め殺す。

 

「彩葉ちゃんほどの可愛くて優秀なお子さんを育てられたお母様ですから、紅葉さんもさぞ優秀な方なのだろうとお見受けします。弁護士の友人も数人しかいないので、ぜひお近づきになりたいなぁと思いますよ」

「は。あいにくウチは友達料金なんかやってまへんで」

「そんなぁ。じゃあお近付きの証として『紅葉ちゃん』って呼んでいいですか? 紅葉ちゃん」

 

 すると受話器の向こうから、咳払いの声が聞こえた。これで受話器の向こう側でイライラしてたり赤面してたりしてたら面白いんだけど、あいにく見えないんだよね……。

 

「はっ……あ゛っ!? 何を爆速で距離詰めてんねん。えらい気安いなアンタ!」

「申し訳ないです。では、紅葉さんと呼ぶのは構いませんか?」

「ふん……。それは……まぁええやろ。『酒寄さん』やと、彩葉とどっちかどっちかこんがらがるさかいね……」

 

 決まったね。交渉術の基本、『ドア・イン・ザ・フェイス』。

 『友達料金』や『紅葉ちゃん呼び』といった高い要求が通らないのは最初から分かっていた。それを敢えて断らせることで、『酒寄さん』や『彩葉さんのお母さん』より親密な呼び名を通すことができた。

 この後に私が紅葉さんの名前を忘れると悲惨なことになるが、私に限ってそれはない。私は昔から人の名前を覚えるのは得意で、中学校の同級生の名前も全員覚えているぐらいだ。

 

「どうやら口も頭も中々回るようやね。ますます気に入らんわ」

「ついでにお店も元気にくるくる回っておりますよ」

「ほぉ……?」

 

 ん? なんか空気が変わった? なんかスイッチ踏んじゃった?

 

「ほな聞くけど……昨日の売上なんぼやったん?」

 

 そこからは、はっきり言って銀行で働いている友人より3倍は濃い質問責めが始まった。

 

「客単価、だいたいでええけど何円くらいなん?」

「廃棄率って何%ぐらいで推移してはるの?」

「材料費、売上の何割くらい食うてる?」

「もし店長の藤丸さんが一週間寝込んだら、お店ってどうなるんやろね? 何か起こったときのマニュアルは出来てはるの?」

 

 データとしてはっきりしているモノは即答し、曖昧な質問には曖昧に返す。まるでテニスのラリーのようだ。

 そうした問答の果てに、とうとう──。

 

「ふぅん……。ほんまにお店はきちんと回せてるようやね」

「いやー。紅葉さんに褒めて貰えると嬉しいですね! その褒め言葉をおかずに食パン一斤食べられそうです」

「ウチ、見え透いたおべっかは要らんで。まったく……」

 

 そう言って、紅葉さんは一応私を一介の経営者として認めたようだった。

 明るい声を出している私ではあるが、実を言えば心臓はバックバクである。学生時代の抜き打ちテストとかを思い出す。

 

(あっぶな! マシュと普段から勉強とか経営の話とかしてなかったらちゃんと答えられなかった!)

 

 『あっ! これキリエライト・ゼミでやったところだ!』ってヤツ。基本的にこういう細かい数字とかリスク管理の話はマシュの方が得意だからなぁ……。家老マシュ様々だ。

 それにしても、こういう類いの正論パンチと質問責め、家でも彩葉ちゃん相手にやってたのかな? やってたんだろうなぁ。今まで事務手続きで話したことぐらいしかない私相手にやるぐらいだもんなぁ。そりゃ彩葉ちゃんも硬くて脆さのある完璧超人に育っちゃうワケだ。紅葉さんからすれば『豆腐メンタルよりマシ』なのかもしれないけど。

 

「で、藤丸さん? あんた、その調子でウチの彩葉に妙なこと吹き込んではらへんやろね?」

 

 紅葉さんが新たに問うてきた内容は、店舗経営とは関係なさそうだった。こっちがおそらく本命なんだろう。

 やっぱりヤチヨカップ終了の翌日って時期から見てもアレか。私が彩葉ちゃんをライバー活動に誘ったと疑ってる?

 紅葉さんはかぐやちゃんのことを知らない?

 じゃあかぐやちゃんって酒寄家の親戚じゃないの?

 私もかぐやちゃんの素性なんて知らないんだけどな。

 まぁ知らないことは知らないし、やってないことはやってないって言うしかないな。

 

「面白いことなら吹き込んでますよ」

 

 それはそれとして紅葉さんをからかいはする。実際『妙なこと』ってどこからどこまでか分からないし。

 

「ふぅーん? 具体的には?」

「飲食業の面白さとか大変さとか、私の学生時代の思い出とかですかね」

「あんた、動画配信ってやってはる?」

「ちょっとした店の宣伝と、歴史解説と、ゲーム配信ぐらいですね。あとはアカペラも少々」

「それってウチの彩葉に手伝わせました?」

「いいえ? 私と副店長のマシュが運営している動画チャンネルがあるんです。チャンネル名をお教えしましょうか?」

「いえ……。もう十分ですわ」

 

 一問一答式でサクサク答えていくと、紅葉さんは観念したようだった。

 

「お忙しいところ長々とお電話して、えらいすみませんでした」

「楽しくお話できて良かったです。またいつでも電話してきてくださいね。私の携帯電話の番号をお教えしましょうか?」

 

 先ほどまでの一問一答の滑らかさは途絶えたように、一拍の沈黙が流れた。どうやら迷っているらしい……。しかし、

 

「……いえ。結構ですわ。では、失礼します」

「はい。またよろしくお願いします」

 

 その言葉を最後に、紅葉さんとの電話は終わりを告げた。

 私も受話器を置き、そしてぐぐーっと背伸びをした。

 

「んんーーっ! 面白かったぁ!」

 

 ヒヤヒヤした一幕もあったけど、まぁあれはあれでいい復習になった。たまに人様相手に話さないと、経営者としての感覚が錆び付いてしまう。

 あとなんと言ってもだ。マシュや彩葉ちゃんのように素直で真面目な良い子ちゃんと話すのもいいけれど、紅葉さんのような皮肉屋さんと話すのも私は結構好きだ。多少の芝居は必要だけれど、遠慮はしなくていいのが痛快なのだ。

 

「あと何回話せば、お友達になれるかな〜♪」

 

 そう呟きつつ、私は『酒寄紅葉』という弁護士がどんな人物か、ネット検索を始めるのだった。

 

──※──

 

 その日の閉店作業を終えた頃。

 紅葉さんから電話が掛かってきて、“楽しく”お話が出来たことを彩葉ちゃん(16時から閉店までの勤務)とマシュに話すと、二人は珍獣を見つけたかのように目を丸くした。

 いや藤丸立香を珍獣扱いしないで欲しいんだけどな?

 

「せ、先輩? 酒寄さんのお母さんは気難しい方だと予想していましたが……大丈夫だったんですか……?」

「ノープロブレム! 経営について根掘り葉掘り聞かれたときはヒヤッとしたけど、マシュのお陰で助かったよ!」

「は、はぁ……。もし先輩じゃなく、私がその電話を受けていたら、上手くコミュニケーション出来た気がしませんが……」

 

 そう話すマシュに続き、彩葉ちゃんも私を心配そうに問い詰めてくる。

 

「ホントに大丈夫だったんですか、藤丸店長? 正論と皮肉でぶん殴られたんじゃないですか?」

「んー。平気だけど?」

「実は今も作り笑いで取り繕ってるだけなんじゃ……」

「あははー。作り笑いなのは否定しないけど、どういう種類の作り笑いか当ててごらーん?」

 

 ケラケラと軽薄な笑顔を私は見せた。正直で優しいマシュや彩葉ちゃんの前だから遠慮してるだけで、本当ならもっと下品で悪党のような笑みを面白可笑しく浮かべたい気持ちもある。

 一応それは彩葉ちゃんに伝わったようで、「本当に大丈夫なんですね……」と呟いて、彩葉ちゃんは心配するのをやめた。

 

「……どうすれば藤丸店長みたいに、お母さんと話せるかな……」

 

 続いて零れ出た呟きに対して、私は

 

「あ、それ無理だと思うよ?」

 

 と、真顔でキッパリ告げた。

 目を丸くしながら、縋るような目線を向けてくる彩葉ちゃんに対し、続けて言う。

 

「私と彩葉ちゃんって全然違う人間だからね。私のやり方を彩葉ちゃんが模倣(トレース)しても、ぎこちなさとか歪さとかが出ちゃうんじゃないかな」

 

 彩葉ちゃんの目が迷子のように泳いで揺らぐ。

 紅葉さんと話したい気持ちと話したくない気持ち、両方が彼女の心の中にはあるのかもしれない。

 もし紅葉さんが見れば『言いたいこともまともに言えへん甘ちゃんなんやね』ぐらいのことは言っただろうか。

 

「では後学のために、コツや心構えぐらいは聞かせて貰えませんか?」

 

 そう聞いてきたのは彩葉ちゃんではなくマシュだった。本当は彩葉ちゃんの口から聞きたかった台詞だけれど、まぁマシュの頼みを断る私でもない。

 腕を組んで数秒考えてから、私は答えた。

 

「そうだねぇ……。皮肉が好きな人っていうのは、アレだね。会話のキャッチボールがしたいんじゃなくて、言葉のフェンシングで遊びたいって感じだと思うよ?」

 

 真面目なお二人が呆気に取られ、間の抜けた沈黙が流れる。沈黙を破ったのはマシュだった。

 

「言葉のフェンシングというのは、どうにも……。正しいコミュニケーションの在り方ではない気がしますが……」

「正しくはないかもしれないけど、私と紅葉さんにとって善いコミュニケーションではあったと思うよ? 言葉のフェンシングがしたい人に『それより会話のキャッチボールしてよ!』ってダメ出しするよりは、善い人っぽくない?」

 

 24時間365日、会話のキャッチボールをするのもそれはそれで疲れるし。

 彩葉ちゃんが口を開いた。

 

「……ちょっとだけ、気が楽になりました」

 

 彼女の顔は、重荷を少し下ろしたかのように、ほんの少し軽やかなものになっていた。

 

「正直、私は母とうまく会話のキャッチボールができてなかったんですけど……。どっちが悪い訳でもなかったんですね」

 

 彩葉ちゃんは自分から話そうとしないけれど、その言葉と、今までの付き合いや今日の紅葉さんの電話から分かることがある。

 まともに話が出来ないほど、酒寄母娘の仲は悪いようだ。かといって、本気で憎み合うことも出来ずにいる。

 そんな中で、一方が正しくてもう一方が悪いんだって考え方をするのは、限界があるし疲れるよね。

 

「折り合いがつけばいいね。そのうちさ」

 

 私は、『全ての母娘は仲良くなければならない』なんて綺麗事や、『親の言うことには黙って従いましょう』なんて思考放棄は、好きじゃない。

 親元を巣立つこと。棲み分けて共存すること。彩葉ちゃんと紅葉さんに必要なのは、そんな距離感ではないだろうか。

 

「……まぁ、そのうち」

 

 彩葉ちゃんはぎこちなく笑う。

 

 いつか訪れるその日、彩葉ちゃんの傍にかぐやちゃんが居た方がいいのか、居ない方がいいのか、私にはまだ分からなかった──。

 

 

 




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