【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉   作:生徒会副長

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⑧世界でいちばんお姫様

 

 

「神々のみんなー! ヤオヨロ〜!!」

 

 仮想空間ツクヨミにある中央ライブステージでは、電子の粒子が楼閣を形作っている。そこに立つ3人の歌姫の一人、銀髪のAIライバー・月見ヤチヨが、数万人の熱狂を秘めた観客席に向けていつもの挨拶をする。それは画面を隔てて、全てのツクヨミユーザー、更には世界中の人々に向けても。

 

「「ヤオヨロ〜〜!!」」

 

 観客席にいる全員が、そう挨拶を返す。その群衆の中に、私とマシュもいた。私とマシュの声も他の人々の声と混じって歓喜の叫びとなる。私とマシュの笑顔は、他の人々の笑顔と共に夜空の星のように煌めく。

 普段の私やマシュは、月見ヤチヨのライブで観客席に座ることなどない。競争率が高過ぎるし、パン屋の都合もある。何より私もマシュも、そう熱狂的な月見ヤチヨファンではない。せいぜい普通のファンといったところで、月見ヤチヨを拝む神棚を買った彩葉ちゃんなどには足元にも及ばない。

 しかし、今日観客席に座っているのには訳がある。抽選に運よく当たったのはもちろんだけど、そもそも今回抽選に挑んだのは──。

 

「かぐやっほー! みんなー! 今日は来てくれてありがと〜〜!! ヤチヨカップで優勝したかぐやだよ〜〜!!」

 

 そう、今日──2030年8月30日のライブは、かぐやちゃん&いろPとのコラボなのだ。

 “人並み程度には”かぐやちゃん推しだし、彩葉ちゃんは一緒に働く仲間だし、このライブは絶対見届けたいと思っていた。今日の仕事がちゃんとライブに間に合うように終わったのも含めて、本当に今日来られて良かった……!

 

「かぐやちゃーん!」

 

 私やマシュ、多くの観衆が、彼女の名前を呼びながらペンライトを振る。

 左一本のサイドテールに銀髪を纏めたヤチヨと、右一本のサイドテールに金髪を纏めたかぐやちゃん。片方が電脳世界の支配者で、もう片方がそこに舞い降りた新人ライバー……とは思えないほど、二人は釣り合っているように見えた。例えるなら、別々の道を歩みつつも心は通じ合っていた生き別れの姉妹だとか。夏に輝く海と太陽だとか。対照的な面と似た面が見事に噛み合っている風に見える。

 

「かぐやちゃん可愛い〜〜!!」

「キュートな悪童〜〜!!」

「かぐやちゃん結婚して!!!」

 

 観客席から、そんな熱烈な声がいくつも上がった。

 いや、にしても結婚て。いくら竹取物語が元ネタとはいえ。

 かぐやちゃんの年齢は知らないけど多分99%犯罪では?

 

「い、いろっぴ〜……。かぐやのプロデューサーの、いろPで〜〜す……」

 

 ガチガチに表情が硬く、まるでロボットのようになってしまっているいろP(彩葉ちゃん)が、そう挨拶する。するとヤチヨが、よく懐いた猫のような自然さで、いろPの傍に寄った。

 

「いーろは♡ そんな緊張しないで〜。ヤッチョGPTでもよく言ってあげてたでしょ? まず深呼吸してみようか?」

「や、ヤチヨっ!? ヤッチョGPTの内容バラさないでよ!」

 

 観客席からワッと笑い声が響いて、昂り過ぎたファンの灼熱やいろPの緊張を和らげていく。

 ステージに立つ3人が深呼吸を終えると、いろPは改めて挨拶を述べた。

 

「皆さん。今日は本当にこのコラボライブを見に来てくれて、ありがとうございます。今ここに立って、スターが観客を導く光ってだけじゃなく、観客の皆さん一人一人もまた、スターを照らす星空みたいなんだなって、実感してます」

 

 観客の拍手が響き渡り、その中にいろPを応援する声も流星のように流れていく。

 

「いろP最高〜〜!」

「幸せになれよいろPーー!!」

「いろかぐてぇてぇ過ぎる〜〜!!」

「好き!! いろP結婚して!!」

 

 いやいやいや、結婚て。そりゃ彩葉ちゃんは可愛いけどさ。

 彩葉ちゃんは現役JKだから確実100%犯罪だよ? しかも今の声、成人女性だったような……?

 その魂の叫びはいろPやかぐやちゃんにも届いていたらしく、いろPは目を点にし、かぐやちゃんは「いろPはかぐやのー!」と言いながら彼女に抱きついている。

 そしてもちろんヤチヨにも聞こえていた。

 

「おぉ〜! いいねいいね〜! その熱量、ちゃんと届いてるよ〜! でもね〜? 推しは推せるときに全力で推すもの、現実の婚姻届は一回ポッケにしまっとこっか〜! おいたはダメだよ〜?」

 

 軽やかに茶化しながらも、その声には不思議と棘がない。むしろ、場を包み込むような柔らかさがあって、笑い声はさらに大きく、あたたかく広がっていく。

 誰かを否定するでもなく、ただ少しだけ軌道を整えるようなその一言で、場の空気は心地よくほどけていった。

 

「みんなー! 生きるのはどうですかー?」

 

 ほどけて海のようになだらかになった観客席に対し、ヤチヨは定番の口上で呼びかけた。すると思い思いに、人々は呟く。

 ヤチヨはこの口上で人々に定型句を強要しない。答えが日によって変わり、人によって変わるのだと、知っているんだと思う。

 

「良い事あった? それとも泣いちゃいそう?」

 

 最近泣きそうになったことと言えば、アレかなぁ。

 同窓会に行ったら、酔っ払った同級生からこんなことを言われてしまった。

 

『飲食業なんて不安定な底辺職で大変だろ?』

『藤丸がウチの会社の営業部に来れば、倍は稼げるしすぐ幹部になれるぜ? 俺より仕事できそーだもん! もったいねぇなぁ〜』

 

 いや、それぐらいのことで泣くほどヤワじゃないけどね? 『営業部なんてケチなこと言わずに経営顧問で!』ってすぐ返す余裕ぐらいあったけどね?

 でも私だって人間だ。いま自分が歩んでる道が間違っていると言われれば、傷つきもする。実際、『金を稼ぐ』という観点だけで言えば、自らパン屋を経営するのは割に合っていないんだろうな、きっと。

 しかしヤチヨは優しく、私も含めた沢山の人々に語りかける。

 

「よしよし、全部大丈夫。どんなに孤独な道のりでも、楽しかったなーって記憶が、足元を照らすよ」

(……そうだよね)

 

 ちらりと私は、隣にいるマシュと目を合わせる。マシュはにこりと微笑んでくれて、目だけで会話が出来た。

 2015年の夏に、イギリスから観光に来ていたマシュと東京駅で出会ったこと。

 そこから連絡を取り合うようになって、大学では本当の意味で先輩と後輩の関係になったこと。

 一緒にパン屋さんを開く為に修行したり、資格の勉強をしたりしたこと。

 パン屋さんを経営して今年で3年目。お客さんや従業員、取引先や業者さん……色々な人と出会いと別れを繰り返して、歩んできたこと。

 今日、一緒にこのライブが観られたこと。

 それらの記憶(おもいで)はきっと、今後の私の人生という旅路を照らしてくれる。いつの日か、マシュと別れる日が来てしまうとしても。

 そこまで私が思いを巡らせたところで、マシュの笑顔は一層深まった。全てを頼もしく受け止め、護ってくれるかのように。

 

「この時間も、忘れられない思い出にしたいから……。どうか、一緒に踊ってくれる?」

 

 ぜひともと言わんばかりに、拍手喝采が鳴り響く。

それこそ、世界が注目するライブの開幕、その祝砲だった。

 月見ヤチヨの深く透き通った歌声で始まる、コラボライブの一曲目は──。

 

「世界で……いちばんおひめさま☆ そういう扱い……心得て────よねっ!!」

『ウォォオオオオオ──っっ!!』

 

 マシュのようにきっちり曲名や歌詞を予習してから観に来た層は『待ってました!』と言わんばかりに、私のようにネタバレを踏まずに観に来た層は予想の斜め上をぶち抜かれた衝撃で、共に大歓声を上げた。

 

(な、なにーーーーっっ!? ワールドイズマイン!!? 2030年に!!?)

 

 『ワールドイズマイン』は初音ミクの名曲だ。一番流行ったときの様子を、私は詳しく知らない──というぐらいの、『懐かしの名曲』ポジションにいる曲。友達とのカラオケやツクヨミの配信で聴いたことがある曲。その歌詞は──。

 

「その(いち)! いつもと違う髪型に、気がつくこと☆」

 

 可愛くてワガママで、可愛くて自信に溢れていて、可愛くて素直になれないお姫様の曲──。

 

(あああああああーーーーっっ♡♡♡ 合う! めっちゃこの3人に合うじゃん!!)

 

 ステージ上では、ワガママなかぐやちゃんがキーボードを持つお姫様に駄々をこね、自信に溢れた歌姫ヤチヨも同じお姫様を誘惑する。そしてそのお姫様──真ん中のいろPは、二人に迫られつつもキーボードの演奏に必死で、素直になれない──。

 

(これはもう、初音ミクの曲でもなければ懐かしの名曲でもない!!)

 

 たった今この宇宙に生まれた超新星。

 空前絶後にして前人未到の『恋愛歌劇(ラブ・ストーリー)』だ……!

 サビに入る直前、ツクヨミの女神たるヤチヨの指先一つで、天から枝垂れ梅のように高貴で深い赤が降り注ぐ。

 この赤は自分の愛だと、愛を抑える必要はないんだと言わんばかりに、ヤチヨは叫んだ。

 

「ねぇねぇ! 世界一好きになっちゃってもいいよーーーー!!」

 

 そこからお姫様の曲はサビへ。途中、かぐやちゃんがサングラスをかけてやんちゃをしてヤチヨを笑わせる一幕もあり……。

 

「へいベイビー♪」

 

 うっっっっ!! な、なんだ!? 今の『へいベイビー♪』の彩葉ちゃん!? かわいい……イケメン……美しい……どれでもあってどれでもない……。これが噂の『メロい』ってヤツか……!?

 なんというメロさ……。もし、マシュと出会う前にこのメロさが私の心臓に直撃していたら──。

 

「……楽しいですね! 先輩!」

「……うん!」

 

 ちょうど間奏の合間だったのもあり、マシュが私に顔を向けてくれる。何万人という観客がいて、ステージに至高の歌姫が3人いるけれど、彼女一人だけが特別な存在として私の視界で縁取られている。

 赤は情熱の色とよく言う。ライブステージから注がれる赤光を浴びてマシュは、いつも以上に魅力的に見えた。

 

(これがメロいってヤツか……)

 

 マシュ・キリエライト。私のオーダー(わがまま)に応えてくれる私だけの王子様であり、無限に甘やかしてしまいたくなる世界一のお姫様。

 そういえば、私はマシュに、まだ言えていないことが……。

 

「お次は新曲! いっくよーーーー!!」

 

 私が決断や発声をするより早く、ヤチヨは『ワールドイズマイン』の終わりを、新しい曲の始まりを告げていた。

 舞台が夜闇の如く暗転する。嵐の前の静けさで世界は包まれる。

 新時代で創られた電子音と共にステージに満ちたのは、海底のサンゴ礁や宇宙の星々のように落ち着いた色彩だった──。

 

「今は昔 誰もが知る物語……かの有名なかぐや姫はこう言った────」

「そんな結末ちっとも望んでないし! 運命だからってキミそれで頷くの!?」

 

 歌詞の解釈は人によりけりだろうけど──。

 

 人類史(リアル)でも空想(おとぎばなし)でも、世界は悲劇と理不尽に満ちている。

 

 かぐや姫なんてその最たる例で。浦島太郎や鶴の恩返しや人魚姫も、解釈次第ではきっとそうで。

 

 何なら「この物語は空想(フィクション)です。貴方の人生は嘘八百だし全ては事前に脚本家や神様が決めていたことです」という前提やシナリオこそが、最低最悪の悲劇で──。

 

 そんな運命を書き換えるんじゃなくて、超えていく。

 人様が書いた脚本の言いなりにはならないけれど、お姫様であることは諦めない。

 続きを書いて、再び巡礼の旅を始めて、愛と希望を探しにいく。そんな、人類が千代に八千代に繰り返してきた物語。そんな──。

 

「そんな──。おとぎ──ばなし──────……」

 

 一瞬で終わって、夢のように消えていくような。

 永遠に、私の網膜と脳髄に焼き付いたような。

 そんな──。

 

「さいっっっっこうのライブでしたね!! 先輩!!」

 

 大はしゃぎするマシュに身体を揺らされた拍子に、ポロポロと涙が溢れた。いや、気がつけば服の襟元が熱い涙ですっかり濡れていた。

 

「…………マシュ」

 

 ああ、可愛い可愛い、それでいて頼もしくてかっこいい私の後輩で相棒。

 私と彼女が、2015年の夏に出会ったのは、本当にただの偶然だったんだろうか。

 何かすごく壮大な御伽噺に、私達は導かれて出会ったんじゃないだろうか。

 

(……どっちでも、いいか)

 

 『ただあの日に出会って手を握っただけ』という、取るに足りない、些細な切っ掛けから始まった旅路だけれど。

 私はこの旅路の、美しい続きが見たいから。

 だから──。

 

「……結婚しよっか! 私たち!」

 

 私は涙ながらに、しかし笑顔でプロポーズした。

 

 




【おまけ・作者の言い訳フェイズ(2026/5/8)】

本作のぐだマシュは恋人同士です。
そして本作の世界観(2030年の日本)に同性婚制度はないです。

次回にその辺(立香のプロポーズの真意)について地の文で書くつもりではあります。

ここまでガチ百合にするかプロット段階では決めていなかったので、今まで物語中で説明できていませんでした。申し訳ないです……。
(まぁガールズラブのタグはつけてるし第1話時点でぐだマシュがキスしてるし大丈夫……ですよね?)

書き溜めが出来てきたので、なるべく週1更新を目指して頑張りたいと思います。感想や評価などよろしくお願いします!

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