貞操観念逆転なR-18ゲームの世界でロマン求めて何が悪い 作:匿名希望
この世界がゲームの世界だと言われたら、きっと俺は笑えるだろう。マジにせよジョークにせよ、だ。
ただ、もしこの世界がエロゲの世界なんだって言われたら、俺は笑えるだろうか。
そんな問いが現実になるなんてないだろうから、きっと意味のない考えだろう……なんてこの前は思ってた。
「ねぇ坊や、お姉さんと遊びましょう」
「……ぐっ、僕は淫魔なんかに屈しません!」
即堕ち2コマの前振りみたいなセリフを宣う美少年が9割方全裸の変態女に馬乗りになられて襲われそうになっている姿を見るまでは。
「……なぁにあれ」
唖然としていた俺をよそに事態は転がっていく。女が俺を見た。少年も俺を見た。
「あら? 他にもオスが……いや、この鉄臭さ……アナタまさか」
「逃げて! こいつは淫魔で──」
「──淫魔?」
敗北CG一直線な状態の少年が健気にも俺に逃げろと叫んでいたが、俺は妙な既視感に首を傾げていた。映像ばかりがはっきり浮かんで言葉が見つからない。モヤモヤとした気分だ。
「まあ、いい。どうせ人を襲うモンスターでしかない」
だから乱入しよう。『挑戦者があらわれた!』ってな感じで。
「その姿、騎士の格好でモンスターを釣っては狩る、モンスター狩りのモンスター……っ!」
どうやら俺の姿はモンスター界隈でも有名らしい。
どうせなら人間に知って欲しいところだったが、人間から見ればどちらもモンスターでしかない為か、そちらの知名度はさっぱり。
この世界のモンスターは皆美しい女の姿をしているが、それでも畏怖の対象には違いないという事だ。
「モンスター狩りの、モンスター? 一体、何を」
「聞き流しても構わんぞ少年。どの道君を助ける以外は考えてないからな」
淫靡かつ麗俐、矛盾した美しさを纏う魔性の獣、サキュバスを見据え、俺は背負う臼砲を片手に取った。
「何……その馬鹿みたいな武器は」
ただの臼砲でない事は彼女のリアクションが示す通り。砲身下部に取り付けられた黒鉄の斧が血みどろの革命の気風を感じさせるこの一丁──名をギロチン銃という。臼砲と処刑人の斧を組み合わせるという、ひと目見てわかる取り回しの悪さに銃剣の比ではないロマンが溢れる一丁だ。
「『オオワシ』、この臼砲の名前だ。冥土の土産に持っていくと良い」
さて、臼砲で何を撃ち込むか。少年を巻き込むので榴弾は使えない、ここは徹甲弾の出番だろう。
「『リロード』」
そう短く詠唱すれば、俺の中を魔力が流れ、砲身内部には一発の砲弾が生成される。金属に関係するモンスターである俺は、こうした金属や火薬の生成がこの世界に生まれた時から得意だった。
「じゃあな」
その流れのまま、砲身を女に差し向け引き金を引く。
「なっ……」
炸裂音の後に残るのは僅かな呻き声と静寂。
高速で発射された円錐は見事に彼女の胸部を貫通している。
「注意一秒、怪我一生だ。来世では活かしてくれ」
彼女はメトロノームの様に数回揺れてから地面に倒れた。馬乗りになられていた少年は解放されたが、何が起きたかわからないのか、硬直していた。
生命を絶たれたモンスターは、身体の端から塵になって消えていく、後に残るのは魔石などのドロップアイテムだけ。実にゲームしてるな。
塵の山の上に残された紫色の石……魔石をを拾い上げ、少年の方へ振り返ると、呆然とした様子で尻餅を突いている少年が居た。
「あ、あなたは一体?」
「気になるよな。だがまずは起きてくれ、近くに他のモンスターが居ないとも限らん」
「は、はい……」
少年がおずおずと差し出した手を引き起こす。長い髪と端正な顔は少女と見まごう程で、背丈は俺の半分も無い。俺がデカい方だからというのもあるが、それでも少年の幼さを否定は出来ない。
──そうして俺たちはその場を後にした。
そうして俺達は、近くの街へ戻ってきた。
「……なるほど。この街のギルドで依頼を受けて、モンスター退治に」
ギルドへ報告に向かう道すがら、俺は少年に話を聞いていた。
兜のバイザーを下ろしたまま会話する俺は周囲からさぞ変に映っている事だろうが、そうせざるを得ない理由がある。
「はい、でもこの有様で」
幼気な少年に質問を投げかける俺の姿、一歩間違えれば『どしたん話聞こか』の構えだ。別に俺は少年の隙につけ込んで宿屋にお持ち帰りする気は無いし、そもそも男に興味はない。
「だからその身なりなんだな? 身分偽装とまではいかないが、とんだ悪ガキめ」
「……分かってたんですね」
「そりゃあな」
だが、少女と見まごう見て呉れにも納得がいった。こういったモンスター退治なんて荒事は女の仕事というのがこの世界の常識だ。だからと言って態々女装してまでやる事か。
……なんて思うのが自然なんだろう。
『いしゅっ娘クエスト』
俺は漸くこの世界の輪郭を掴んだ。目に焼き付いた既視感は確信に変わっていた。ここはとあるゲームによく似た世界なのだ。
RPG要素のあるR-18のおねショタ系の同人ゲーム。しかしながら確かな人気を獲得し、俺の知る限りでは3とスピンオフが出ていた筈だ。そして今目の前に居る少年は無印の主人公『ショウ(デフォルトネーム)』だ。
「……ごめんなさい」
「別に俺は少年の親でも何でもない。怒っちゃいないさ。その言葉は、心配を掛けたと思う相手に言うんだな」
主人公と言っても、ただの少年だ。RPGである以上最強の存在にもなれるが、あんな木っ端の淫魔にやられそうになってる時点でお察しだ。
「僕に家族は居ないんです。父は流行病で亡くなって」
「……敢えて聞くが、母親に言及しないのは『そういう事』だな?」
「そう思って貰って構いません」
知識として知ってはいる。人間とモンスターの間でも子供は生まれる。稀に住処に連れ去られた男が子供と共に脱出して、そのままシングルファザーとなる事もあれば、父に捨てられ奇特なモンスターに育てられる事もある。だが大抵は野垂れ死だ。父からすれば忌み子、モンスターの多くは子供に興味はなく、一部を除けば放任が常だ。
主人公のショウもまた、そんな混血の子どもの1人だ。その背景は俺も知るところではあるし、これ以上深掘りしても暗い話にしかならないだろう。質問はここまでにしておく。
「悪いこと聞いたな、詫びに帰ったら何か奢らせてくれ」
「だ、大丈夫です」
あわあわと拒否られた事に少しショックを受ける。俺みたいな金余りおじさんは若い子に奢るくらいしか使い道が無いんだが。
「さてはナンパか何かだと思ってるな?」
「い、いえ、そんな事は……」
「別に良いさ、男と女の間なんてそんなもんだ。そんな軟派な奴と思われてるのは、少し堪えたがな……」
涙なんて出ないが、さめざめと泣く素振りを見せると、少年はびっくりした様子で首を振った。
「そんな事無いです! 助けてくれた時は凄く格好良かったし、今こうして話してても変に意識されてないって分かりますから」
さっきまで恐怖混じりで震えてた目を輝かせ、俺の手を両手で拾い上げる少年。こんな得体の知れない奴にさ、まったく良い子だよな、ゲームじゃ殆どのルートでぐしょぐしょにされてんだぜ、滅べよモンスター。
ただ、そんな思いは俺にとって自分にも刺さるブーメランでしかない。
「そうか。ありがとよ、少年。……そうだ、名前言ってなかったな。俺の名前はアギだ」
俺の自己紹介に少年は少し思うところがある様子で首を傾げる。
何となく察しはつく、俺の素性という分かりやすい謎について、少年は考えているのだろう。
「アギさん、ですか? 僕はショウって言います。でもアギさんって男の人じゃない……ですよね。さっき淫魔がアギさんの事をモンスターって呼んでましたけど……」
その言葉の先を待つ様に俺は黙って少年を見ていた。
『俺はモンスターだ』
聞かれればそれを否定するつもりもない。こう返すつもりでいた。少年をまた恐怖に突き落とすとしても、そこには嘘を付けない。
だが、少年は俺の手を取ったまま、口を開いた。
「大丈夫です。あんな淫魔の言う事なんて信じてません。アギさんは良い人だと思います」
人形みたいに整った顔にニカリと満面の笑みを浮かべる少年は、そう言い切った。俺に表情筋があれば、きっと顎が外れそうな程開いていた事だろう。
実に少年らしい快活な笑い方だ。見た目だけなら黒髪ロングのお嬢様みたいなのにな。
「怖くないのか? そうだとしても俺は女って事になるぞ。こんなタッパのある女、怖いだろ?」
「いいえ、ちっとも」
「……強情だな。怖いだろう? 言うだけ言ってみろ」
「大丈夫ですっ!」
おっと、こんな事してたら時間が幾らあっても足りなくなる。
「仕方ない、目尻が少し赤い事は内緒にしてやろう」
「えっ、嘘……」
そう言って目を擦る少年の額をコツンと小突きながら帰路へ向かう。
「まんまと引っかかったな。ふはは!」
「………………っ! さっきの言葉、訂正します! アギさんはちょっと悪い人です!」
「騙される方が悪い。特に少年みたいなのはな!」
そう言って俺達はギルドへ続く道を小走りになって辿っていく。
それはもう、久しぶりに、騒がしい帰り道だった。
あの後、俺は少年と別れ、ずっと借りている宿屋の一室で夜を過ごしていた。
俺の身の上といっても大した事はない。ただの鎧を着込んだモンスターだ。正確に言えば……アイアンゴーレム。
鎧を脱いで鏡の前に立つ。
銀色ただ一色だというのに、金属の塊である筈なのに、柔らかく肉感的でエロティックなボディライン、突き出た胸と尻に対して常識外れにキュッと締まったウェスト。
ここまでは完璧だ。だが、足りないものがある。──顔だ。
目も口も鼻も耳もない。あるのは銀色の塊。まさにマネキンの様な見た目だった。僅かな凹凸があるだけだ。
それでも何故か見え、何故か聞こえ、何故か匂え、何故か喋れる。
「俺は、本当に俺なのか? 俺の記憶があるだけの何かなのか」
自分自身の顔はとうに忘れた。どう笑って、どう怒って、どう泣いていたのか、もう分からない。だがそれで困る事もない、なのにどうしてこうも大事な物を落とした様な気分になるのか。
「まあ、どうでも良いな。我思う、故に我ありだ」
こんな事考えてもモヤモヤするだけだ。もっと楽しい事を考えよう。武器屋に依頼していた新武器の事とか……この世界の事とか。
俺はベッドに立て掛けていたギロチン銃の手入れをしながら、ぼんやりと考える。
この世界、俺も度々既視感を覚えていたが、今日で確信が生まれた。
この世界は男女の貞操観念が逆転したファンタジー世界で、主人公の少年がモンスターや一部エネミーの女にめちゃくちゃにされるエロゲ、『いしゅっ娘クエスト』の世界だというこの世の終わりの様な確信が。
少年はこの先、どんな旅路を歩むのか。
彼の目的は、この大陸で最も大きなモンスターの集団『ソドム』のボスであり、自身の母でもある『淫婦ハーロット』を倒す事。それは言うには容易いが為すには難い。
何故か、本来モンスターは群れを作れない。互いが男を奪い合うライバルだからだ。だがハーロットは違う。彼女はモンスターすら魅了する事が出来る。
だからこそあの後、俺はショウ少年と分かれたが悩んでいた。これで良いのかと。
初代のいしゅっ娘クエスト、略して『イクスト』のシステムは完全ひとり旅。仲間が一切存在しないのである。もし、この世界がそんな道理に従うならば、彼の隣には誰も立つ事はない。
「……勇者ひとり旅、か」
同人ゲームは商売と違って好きなだけ時間を掛けられる強みがある。しかし、予算という現実もまたそこにある。初代イクストはゲーム性と引き換えにそれ以外に時間と予算を掛けた訳だ。
結果としてゲームはシリーズ化する程の人気を得たが、そんな
「いや、別にスポット参戦のNPCが居ても良いだろう。この世界はゲームに似た世界であって、そのものじゃない。そのものなら、俺なんて存在しない」
なら、やりたい事をやった者が勝つという奴だ。
俺は再び鎧を着込み、部屋を出る。
軋む廊下を静かに抜けて、宿の主人が眠る部屋の戸を叩く。この手に、向こう数年分の宿代を握りながら。
モンスターを殺す。
僕はその為に女装してまでもモンスターと戦える冒険者になった。人生を奪われる存在が1人でも居なくなる様に。
そして僕も、お父さんの人生を奪った。
だから、その分まで頑張らないといけない。
ベッドのサイドテーブルに置いていた銀の指輪に話しかける。寝る前と、起きた時はいつもそうしている。お父さんの形見だ。
「ねえ、お父さん。今日僕は優しい女の人に会ったんだ」
窓辺から溢れた月明かりに照らされ、銀の指輪はいつもより輝いていた。
「お父さんは女なんて狼だって言ってたけど、アギさん……あの人は良い人だよ。……少し悪戯好きみたいだけど、僕はあんな人達に幸せになって欲しいと思うんだ」
アギさん。僕を助けてくれた流離の騎士。凄く奇妙だけれど、どこか目を離せない、銃の様な大砲の様な武器で淫魔を倒した女性だ。
彼女は僕が男と分かっても態度を変えなかった。いや、最初から分かっていたのかも知れないけど、兜で顔が隠れていても、男からすれば女の目線は分かりやすい。気配で分かるから。
──彼女は真っ直ぐに僕の目を見ていた。
「……っ」
思い出すと少しだけ頬が熱くなる。彼女が着ていたのは古びて輝きを失った鎧だったけど、それがまた少しかっこいいと思えた。
優しく強く、あんな人のお婿さんになれる人は、きっと幸せなんだろう。
僕には許されない事だけど、その
僕は身支度を始めた。夜明けは間近、あの淫魔が倒された今、次の街へ向かう為だ。
──後の理由は、あの人に会ってしまったら、少し話し込んでしまいそうだから。
そうして宿屋を出た一歩目。
「……よっ、少年」
「っ、あ、アギさん!?」
その軒先に背中を預ける彼女が居た。表情は兜で見えないが、クスクスと笑っているようだった。
「ドッキリ大成功だな」
「何でここに、というか何で宿屋の場所が分かったんですか!?」
「……ま、それは置いとくとしてだな」
「置いとかないで下さい!」
アギさんは、右腕に昨日は無かった厚めのラウンドシールドを着けていた。装備を新調したのか、まるで今から街を出ようとしている様な。
「少年。旅に必要な物は何だと思う」
「……はい?」
「金、食糧、力、仲間、コネ……そしてロマンだ」
「…………はい?」
「旅は未知なるものを目指す事、故に徒労で終わる事もままある。だが、それでも良かったと思える旅があるのは、夢とロマンがあるからだ」
「な、何を言って……」
「少年。今のお前には夢とロマンが足りてねえ。このまま目的を成しても
彼女は胸をダンと叩き、手をこちらに差し出した。
「俺を連れて行かないか? 人生最高の旅にしてやる」
その言葉に僕は──
「──お断りします!!」
──背を向けて走り出す。
「あ、ちょ待てよ!」
東の空は、少し明るくなっていた。