善意の剥製   作:タロットゼロ

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序盤に名前だけ出てくるか柴親子の設定を少しだけ
個性は柴犬。
40年ほど前某会社の社員だった柴犬一郎(しば けんいちろう)は異形系個性の影響で実力はあっても昇進できず鬱屈した日々を過ごしている中オール・フォー・ワンに手助けされたことで社内の競争相手の脱落や手柄を挙げることで課長、部長、常務と昇進していきます。そして常務になった頃、息子の柴犬太郎(しば 
けんたろう)が入社してきてその一年後専務室でビデオ通話越しの面談を経てオール・フォー・ワンの、圧力に屈した犬太郎も飼い犬となるわけです。それから十年の間に親子ともども出世を重ね犬一郎は社長→会長となり、犬太郎は若くして専務に就任したわけです


拠点への到着

二十年前。

都内にオフィスを構える中堅商会の専務室で、男は深夜、デスクの上に置かれた一台の携帯電話を凝視していた。

登録のない番号から、突如として鳴り響いた着信音。男は震える手で通話ボタンを押し、耳元に当てた。

『夜分にすまないね、柴くん』

スピーカーから漏れ聞こえたのは、鼓膜を優しく撫でるような、驚くほど穏やかで知的でありながら絶対的な強者の余裕をそのまま形にしたような声音。

オール・フォー・ワン。

その声を直に聞いた瞬間、男の脳髄を焼くような恍惚が駆け巡った。自分は選ばれた。認められたのだ。光に満ちた偽りの社会の、その冷徹な裏側を支配する絶対的な王に。

『君に、ちょっとした頼み事があってね』

「は、はい……! 何なりとお命じください、先生」

『僕の名義ではいろいろと不都合が多くてね。君個人の名義で、北海道に『別荘』を一軒、建ててくれないかな』

あまりにも静かな口調。電話一本で、明日の天気でも指定するように下された、拒絶という選択肢が最初から存在しない絶対の命令。男は小さく息を呑んだ。

「……別荘、ですか」

『ああ。北海道の、少し人目につかない場所がいい。豪華である必要はないよ。むしろ、どこにでもあるような、風景に紛れる平凡な家が望ましいね』

「か、かしこまりました。すぐに土地の手配と施工会社を動かします。……ですが、差し支えなければ、何のために」

ほんのわずかな沈黙。

電話の向こうの魔王が、どのような表情を浮かべているかは分からない。だが、男の背中に冷たい汗が伝う。

しかし、魔王は怒らなかった。受話器の向こうから、若々しくも底知れない、愉しげな低い笑い声が響く。

『何時か、何かの役に立つ時も来るんじゃないかと思ってね』

それだけだった。

具体的な用途も、誰が使うのかも、それがいつ必要になるのかも、何一つ教えられなかった。

だが、男にとってはそれで十分すぎた。魔王が「役に立つ」と言ったのだ。ならば、その家は必ず必要になる。

男は表の社会において、北海道に別荘を持つ夢を叶えた『ささやかな成功者』として土地を購入した。

家族や老後の為、あるいは避暑の為ともっともらしい理由を並べ立てながら、北海道S市小璢斗(オルト)区の郊外にある府璢斗丹阿(プルトニア)山の麓に、二階建て住宅を建てた。

目を引く豪邸ではなく、物々しい警備設備もない。

どこにでもある、少し余裕のある会社員が持つ別荘にしか見えない偽装。だからこそ、警察も、ヒーローも、二十年もの間その存在を疑うことすら一回もなかった。

時の流れは、静かに世代を跨ぐ。

二十年後、家の名義は柴犬一郎から息子の柴犬太郎へと引き継がれ、男は会長となり、老いてなお会社の頂点に座っていた。息子もまた、父が遺した電話の一件と共に、その「別荘」の本当の意味を正しく理解して、毎月一日と十五日。柴家の私費によって契約された、清掃業者が家を訪れる。

床を磨き、寝具を整え、配管を検査し、庭を手入れする。

住む者はなく。誰も訪れない。

それでも、いつでもあの方が望む「誰か」を最高の状態で迎え入れられるように。

そして、今。

「何時か、何かの役に立つだろう」という一言が、この北海道の静かな郊外で、真白才子という女を迎え入れるための扉になろうとしていた。

砂利を敷き詰めた私道を抜け、黒いセダンがその邸宅のビルトインガレージへと滑り込んだ。

時刻は予定通り、十八時ちょうど。夕暮れの涼烈な風が、周囲の木々を静かに揺らしている。

エンジンが切られ、ガレージ内にエアコンの駆動音だけが残る。

才子は遮光フィルム越しの窓から、二十年間手入れされ続けてきたコンクリートの壁を見上げ、静かに口を開いた。

「ここなの?」

隣に座る識が、膝の上のノートパソコンに視線を落としたまま、淀みない声で応じる。

「はい。確認が取れました。現在の名義人は柴犬太郎。表の顔は〇×商会の専務をやっている男のようです。無論、あの方の網にかかった古い遺産の一つですね」

「そう」

才子はそれだけ言うと、特に疑う風もなく、無造作に後部座席のドアを開けて外へと降り立った、

才子の動きに倣うように、反対側のドアから識もまた音もなく降りる。

羆本は、運転席のシートに身を埋めたまま、バックミラー越しにその様子を凝視していた。

目的地への無事な到着。その安堵は確かにあった。だが同時に、彼の胸を支配していたのは「役目を終えた自分は、このあと始末されるのではないか」という、冷たい、拭いきれない不安だった。あまりにも世界の裏側の深い部分に関わりすぎた。生殺与奪の権を握る二人の美女を前に、羆本はただ強張った表情のまま、成るがままの運命を待つしかなかった。

識はガレージの片隅、郵便受けの真下に設置された目立たない突起へと迷いなく指を伸ばした。裏側に精巧な磁石で貼り付けられていた暗証番号式のキーボックスを回収し、慣れた手つきで重厚な玄関ドアのロックを解除する。

カチャリ、と乾いた金属音が響き、ドアが内側へと開かれた。

二十年間、誰も住んでいなかったはずの空間からは、埃っぽさなど微塵も感じられない。完璧に管理されてきたワックスと清涼な空気の匂いが、静かに主を迎え入れる。

「レディ、どうぞ中へ。冷え込んできました」

「ええ」

識に促され、才子は迷いのない足取りで邸宅の奥へと進んでいく。

その後ろ姿を見送った識は、すぐにはドアを閉めなかった。彼女は振り返ると、ガレージで立ち尽くしている巨躯の男へと、冷徹だが、どこか事務的な視線を向けた。

「トランクの中の荷物を中へ」

それだけを告げると、識もまた才子の後を追うように家の中へと消えていった。

ただ、その去り際、彼女は玄関の扉を一杯まで開き、ストッパーで固定していくことを忘れなかった。羆本が両手に大きなトランクを抱えたままでも、身体をぶつけることなく荷物を搬入できるようにという、最低限の、しかし合理的な配慮だった。

「……」

ガレージに取り残された羆本は、大きく一つ、肺の底から溜まっていた息を吐き出した。

どうやら、今すぐこの場で首を捻り折られるような事態だけは免れたらしい。

首筋に冷たい汗が流れるのを感じながら、彼は自分の大きな手のひらを開閉し、気を取り直すようにセダンのトランクへと歩み寄った。重いバックドアを跳ね上げると、東京から運び込んできた厳重な電子機器や才子の私物が、収まっている。

本州の混乱などまるで嘘のように静まり返った北の隠れ家で、羆本は自分の生存を噛み締めながら、静かに荷物に手を伸ばし持ち前の腕力をほとんど意識することもなく使っていた。

才子の大型トランクを片手で持ち上げ、もう片方の手には識のショルダーバッグとハンドバッグをまとめて提げる。さらに腕の内側には、黒い緩衝ケースに収められた通信端末を抱えていた。

オール・フォー・ワンとの連絡に使われていた、この旅で最も厳重な管理を求められる代物。

それが何を意味するのか、羆本は深く考えないようにしていた。考えれば考えるほど、自分が運んでいる物の重さが、荷物そのものとは別のところから増していく気がしたからだ。

「……失礼します」

ガレージから続く廊下を抜け、羆本は慎重にリビングへと足を踏み入れた。

室内は、外観から想像した以上に整っていた。

大きな窓。磨かれた床。壁際には簡素だが質の良い家具が並び、中央には低いテーブルとソファが置かれている。生活感はない。だが、誰かが今日から住み始めても、何一つ困らない程度には整えられていた。

リビングの一角では、識がノートパソコンを開いたまま、画面に表示された間取り図を確認していた。才子はソファの前に立ち、室内をゆっくりと見渡している。

「一階は、こちらがリビングとキッチン。奥に浴室とトイレがあります」

識は画面を指先でなぞりながら、淡々と説明を続けた。

「客間は一室。二階には主寝室、書斎、それから客間が二室です」

「書斎は?」

「主寝室の隣です。外部との通信や資料の整理には、そちらを使用するのがよろしいかと」

才子は小さく頷いた。

「ええ。そうしましょう」

その時、羆本の足音に気づいた識が、ようやく画面から顔を上げた。彼女の視線が、羆本の両手に抱えられた荷物を一度だけ確認する。

才子のトランク。自分のバッグ。そして、黒い通信端末のケース。不足はない。

「羆本。ちょうどいいところに来たわね」

「……はい」

呼ばれた羆本は、反射的に背筋を伸ばした。

識はリビングの奥、廊下に面した一枚の扉を指し示す。

「あなたの部屋は、そこよ。荷物を置いたら、すぐにレディのトランクを二階の主寝室へ運びなさい」

羆本は示された扉を見た。一階の客間。

物置でも、ガレージでもない。それだけで、胸の奥に張りつめていたものがわずかに緩む。

「……俺の、部屋ですか」

「そうよ」

識は言葉を切り、隣に立つ才子へとそっと視線を巡らせた。それは声に出さない、ほんの一瞬のアイコンタクトだった。

(――これで、よろしいですか? レディ)

万が一の事態に備え、最も腕の立つ肉体労働者である羆本を一階の出入り口に近い部屋に配置し、自分と才子は二階のプライベートな空間を占有する。防犯と主従の距離感を兼ね備えたその差配に、才子は傲然と、しかし信頼を込めて小さく顎を引いた。

「ええ。それで構いませんわ。……羆本、預けた端末は私の書斎へ運んでおいて頂戴」

「はっ、かしこまりました!」

羆本は深く頭を下げた。

それが感謝なのか、あるいは、まだ生かされていることへの安堵なのかは自分でも分からなかった。ただ、一階の客間を与えられたということは、少なくとも最悪の結末だけは完全に回避されたという何よりの証拠だった。

しかし、それでもなお、腕の中に抱えたオール・フォー・ワンの通信端末だけが、妙に冷たく感じられた。

静まり返った北の隠れ家で、三人の新たな共同生活の歯車が、静かに、しかし確実に回り始めようとしていた。

 

羆本は、才子のトランクを二階の主寝室へ運び終えたあと、隣の書斎の机に黒い通信端末を慎重に置いた。

硬質なケースが天板に触れた時、かすかな音が静かな廊下へ溶けていく。

「……以上です」

羆本は短く告げ、扉の脇へ一歩下がった。

才子はまだ寝室の入口に立ったまま、彼を見ていた。何を考えているのかは分からない。ただ、その視線を受けているだけで、羆本の背筋は自然と固くなる。

「先に、休ませてもらいます」

そう言って、羆本は一階へ続く階段へ向かおうとした。

「羆本」

静かな声が、背中を止めた。

羆本が緊張で肩を強張らせて振り返ると、才子はほんの少しだけ目を細めた。いつもの微笑とも違う。命令を下す者の顔でもない。

「よく、やってくれたわ。ご苦労でした」

ただそれだけだった。だが羆本にとっては、今日一日の中で初めて与えられた、明確な労いの言葉だった。ただの使い捨ての駒ではないのだという安堵が、男の胸に静かに広がる。

「……ありがとうございます」

深く頭を下げ、それ以上、余計なことは言わなかった。言えば、何かが壊れてしまうような気がした。羆本は足早に階段へ向かい、一階の客間へと姿を消した。

残された識は、書斎の入口で才子を見た。

「レディ。私は?」

「識は、少し休んでからで構いません。また後で、リビングで会いましょう」

「承知しました」

識は一礼すると、廊下を進み、二階の客間の一つへと消えていく。

家の中から、人の気配が遠ざかった。

ようやく。本当にようやく、才子は一人になった。

彼女は書斎へ入り、先ほど羆本が置いた黒い通信端末を両手で持ち上げる。まるで壊れやすいガラス細工でも扱うように、丁寧に、机の中央へ置き直した。

オール・フォー・ワンへ繋がるための端末。今はまだ、何も語らない黒い箱。才子は数秒間だけ、魔王の息吹が宿るそれを見つめていた。

やがて、ゆっくりと踵を返す。隣の主寝室へと入った。

床に置かれていた、大の大人でも持ち上げるのに一苦労する大型のトランクへ、才子は右の人差し指をそっと突き出した。

極限まで抑え込まれた、指一本分だけの繊細な出力。

ふわり、と重力を無視してトランクが床から浮かび上がる。才子はそのまま指先で空間をなぞるようにして、浮遊するトランクを従えながらベッドの脇まで歩き、最も収まりのいい位置へと静かに着地させた。

コトン、と小さな音。

それを確認し、才子は身に着けていたスーツを脱ぎ、さらにずっと頭部を締め付けていたウィッグを外した。

 まとわりついていた偽装をすべて剥ぎ取り、ようやく本来の軽い身体に戻った才子は、ベッドの端に腰を下ろした。

 背筋を伸ばしていた時間が、ようやく終わる。

 才子はそのまま、ゆっくりと身体を後ろへ倒した。仰向けになる。

 柔らかな寝具が、冷えた背中を深く受け止めた。

 それから、彼女は顔に載っていた眼鏡をそっと外した。

 視界を縛っていたフレームから解放され、シーツの上に力なく両手を投げ出す。仰向けのまま、片方の膝だけを滑らせるようにして、軽く立てて天井を見上げる。

遮音性の高い邸宅のせいで、外を揺らす風の音すらここまでは届かない。完璧な静寂。これこそが、あの偉大なる魔王が自分のため用意してくれた揺り籠なのだ。

誰の視線もない。

誰の期待もない。

ただ、静かな部屋だけがあった。

才子はしばらく、瞬きもせずに天井を眺めていた。

「……」

声にはならない息が、静かに漏れた。

それでも、才子は目を閉じなかった。今はまだ眠れない。

ただ、何も考えずに天井の白さを見つめながら、北の大地に深く沈み込んでいく自身の呼吸の音だけを、静かに聞いていた。

識は二階の客間へ戻ると、持っていた荷物を壁際へ整然と置いた。

ショルダーバッグ。

ハンドバッグ。

予備の衣類。

最低限の生活用品。

それらを数分で片付けを終わらせる、だが、彼女はベッドに腰を下ろさなかった、休息という選択肢を最初から持っていないかのようにノートパソコンを小脇に抱えた識は無言で部屋を出る。

廊下を抜け、階段を降り、再び一階のリビングへ戻った。

羆本はすでに客間へ入り、才子も二階から降りてくる気配はない。

ソファの前に置いたノートパソコンを開き、淡く光を放つ画面の中、通常の検索画面ではない。幾重もの認証と暗号化を通した先にある、表の社会には存在しない取引網。

必要なのは、ハンドバッグやコートのポケットの中に入る程度に目立たず。そして、いざという時に不具合を起こすことなく確実に使えるもの。

識は迷いなく指を動かす。

【注文内容】

Smith & Wesson M642 Airweight(Jフレーム・リボルバー) × 1

使用弾薬:.38 Special弾 × 50発

仕様:ハンマーシュラウド(ハンマーレス)、ステンレス仕上げ

受取希望地:札幌市内、小璢斗区〇☓〇-123。エイトトゥエルブ駐車場

数行の入力を終える。受取先は、この別荘から少し離れた場所。直接ここへ運ばせるほど、彼女は甘くなかった。

 送信。

 数秒後、画面右下に小さな通知が表示された。

【了解しました】

【受取予定:明日十三時】

【詳細は追って通知します】

 識はその文字列を確認すると、ほんのわずかに口元を緩めた。

 笑顔というには、あまりにも薄い。だが、彼女にとっては十分だった。

「……これで、最低限は整った。というところね」

 誰に聞かせるでもなく、小さく呟く。

 北の静かな別荘。才子はようやく眠りにつこうとしている。羆本は、生かされたことに安堵している。けれど識だけは、すでに次の事態を見ていた。

 ノートパソコンの画面を閉じる。暗くなったディスプレイに、自分の顔が映った。識はその無表情な顔を一度だけ見つめると、静かに立ち上がった。

 

 

十九時ちょうど。

リビングの壁に掛けられた時計の針が重なる頃、家の中にはかすかな電子レンジの駆動音が響いていた。

識はキッチンの床に膝をつき、目立たない位置にある地下収納のハッチを開けていた。暗がりに手を伸ばし、引き上げてきたのは、いくつかの缶詰とレトルトのパックご飯。さらに冷蔵庫へ向かうと、冷凍庫の引き出しから、電子レンジで温めるだけの冷凍食品の袋を取り出した。

包丁を握ることも、火を起こすこともない。徹底して手惑いを省いた、合理性だけの食卓の準備。

ふと、識は手を止め、リビングの奥にある一階の客間へと視線を向けた。

ここへ着いてから、羆本の気配が妙に静かだった。

識は足音を立てずに廊下を進み、客間の扉の前に立った。わずかに開いた隙間から、室内の様子を窺う。

「……」

部屋の中から聞こえてきたのは、地鳴りのような、しかしどこか気の抜けた高いびきだった。

ベッドに巨躯を横たえ、泥のように眠りこけている。東京からの張り詰めた長距離運転と、極限の緊張。それが解けた途端、肉体の疲労が一気に押し寄せたのだろう。

識は数秒間、その寝顔を見つめていたが、そっとドアノブから手を離した。

(起こさないでおくか……。今の彼に必要なのは、食事よりも睡眠ね)

合理的な判断を下すと、彼女は一度二階へと上がり、主寝室のドアを軽くノックした。

「レディ、お食事の準備が整いました」

「ええ、今行くわ」

中から届いた落ち着いた声の後、しばらくしてドアが開いた。すっかり私服に着替え、髪も本来の姿に戻った才子が廊下へと姿を現す。

二人は並んで階段を降り、一階のリビングへと向かった。

低いテーブルの上に並べられたのは、お世辞にも優雅とは言えない、しかし今の二人にはこの上なく機能的なメニューだった。

パックご飯のフィルムを完全に剥がし、その上に温めた冷凍の具材を直接滑り込ませる。缶詰の焼き鳥は、缶のまま直に置かれていた。箸もプラスチックの使い捨てだ。

「羆本は?」

ソファに腰を下ろしながら、才子が尋ねる。

「高いびきをかいて眠っています。相当、疲弊していたのでしょう。起こさずに寝かせてあります」

「そう。……じゃあ、私たちだけで 夕食ね」

才子はくすりと微笑み、躊躇なくプラスチックの箸を割り、器となったパックご飯を口に運んだ。

「……なかなか美味しいわ。日本の冷凍技術は、こういうところでこそ真価を発揮するわ」

「お口に合って何よりです。皿洗いすら必要ありません。食べ終えたら、このままゴミ袋に放り込むだけで済みますから」

識もまた、自分の分のパックを手にしながら淡々と応じる。

贅沢な調度品に囲まれた二十年ものの邸宅の中で、プラスチックの器をつつく二人の美女。その奇妙なアンバランスさは、彼女たちが今まさに世界の境界線に立っていることを無口に物語っていた。

カチャカチャと、軽いプラスチックの音だけが静かなリビングに響く。

窓の外は、すでに完全な夜の帳が降りていた。北の大地の冷気がガラス窓を白く濁らせていく中、二人はただ黙々と、明日への活力を静かに胃袋へと収めていった。

 

 




オルト=プルトニアはスター・ウォーズのクローン・ウォーズに出てくる氷と雪の辺境の惑星です


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