すみません。
今、作者の私生活が忙しく、しばらくの間は亀投稿が続くと思います。
ボロボロの教室の中で二人の男が相対する。
「拘束させていただきますよ、マヒトさん」
「そういう契約ですから」
契約___互いを拘束し、定義づけるキヴォトスの概念。
黒服が指を鳴らす。すると、大量の武装した人型の機械オートマタと重火器を携えたドローンが扉から侵入する。
「用意周到だね…」
「えぇ、研究成果であるあなたを穏便に回収するためですよ」
「さて、マヒトさん抵抗は無意味です。大人しくついてきてもらえますか?」
(もっとも戦力差など関係なくあなたは抵抗できないでしょうが…)
先刻、結んだ観測対象になる契約。
マヒトは逃げることも、逃げるための行動も封じられる。
はずだった。
マヒトは机を掴み、軍勢へ叩きつける。
砕けた机が視界を塞いだ。
オートマタの動きが一瞬止まる。
「ふん!」
その隙に、腕を膨張させる。
異様に肥大化した腕が、オートマタを叩き潰した。
「……ありえない」
「契約はたしかにしたはず、それでもなお、動きますか」
「しかし、興味深い」
黒服が端末を操作する。
「えぇ、外にいる部隊も投入してください」
「では、武力をもって拘束しましょう」
□
マヒトは自身の肥大化した腕を見る。
……無為転変できちゃった。
正直、ダメ元で自身の底から溢れ出る何か、おそらく呪力を腕へと流した。なるべく多くの敵を巻き込める形をイメージして。そしたら、変形できた。
…この感覚、忘れないようにしないとな
無為転変ができる事実を確認し、現状を把握する。
前線のオートマタは潰した。だが、さっきの黒服の発言からしてまだオートマタは大量に存在する。
俺の最終目標はこの場から逃げること。
どうしようか
「まぁ…とりあえず」
俺は呪力を両腕に流し、右腕を刃へと、左腕に目玉を作り出す。
「数を減らそうか」
俺はオートマタの軍勢に突貫する。
__まただ。
俺の視界はより鮮明に、時間が遅くなったように思考が加速する。
前線のオートマタが機械腕を動かす。おそらく俺に照準を合わせるつもりだろう。
ならば、俺は攻撃範囲を広げるだけ。
刃に変えた腕に呪力を流し込む。
刃を伸ばし、そのまま振り抜く。
オートマタが上下に断たれ、バラバラと崩れ落ちた。
__気持ちいい。
「…近距離の方が良さそうですね」
黒服は手元の端末を操作する。すると一斉にオートマタたちはこちらに向かってくる。
拳が迫る。
受ける。流す。切る。
金属が裂ける音が連なる。
その応酬に俺はある種の快楽を感じていた。
__あぁ、そっか。俺はこれが、戦闘が好きなのか
マヒトの口角が上がる。
腕を増やし、斬撃の数を増やし続ける。
金属が裂ける音が加速する。
気づけば、数が減っていた。
終わりが見えてきた…。
「対応力も素晴らしいものですね。ですが…」
教室の扉が蹴り飛ばされ、そこからオートマタの増援が押し寄せる。
「これで終わりです。」
入ってきたオートマタたちが照準を合わせ、発砲する。
これは避けられない。
__いいね。被弾後はどうしようか
だが、
「?」
次の瞬間来たのは痛みではなくただの衝撃だった。
「あぁ、そっか呪霊は呪いじゃないと祓えないんだっけ……」
無双ゲーはつまらないんだけどな……でも、好都合。
俺は呪力を溜める。
__捨て身でもいいなら…!
オートマタの軍勢の中心に飛び込み、自身の身体を針山のように変形させ、大量の針をオートマタの軍勢に突き刺す*1。
「クックック…まさか、ここまでの変形ができるとは…」
「ですが、格好の的です」
ドローンたちが俺に向けて銃弾を放つが、構わずに体を膨張させ、破裂させる。
「…破裂、ですか」
辺りにはオートマタであった破片の山のように積み上がる。しかし、オートマタの軍勢も終わりが見えない。
「クックック、オートマタの数も十分。今度は何を見せてくれますか?マヒトさん」
黒服がそう問いかけるが反応がない。
「……マヒトさん?」
そこで黒服は気づく、教室の窓の一つが割れていることに
「クックック、破裂は囮、針山になったときに割れた窓から逃走ですか…」
黒服が懐からタブレットを取り出し、先ほどの戦闘記録を見ようとする。
「逃げられましたが、戦闘記録は取れました。いずれ捕縛する機会が…」
だが、タブレットに映し出されたものは砕け散るオートマタとドローンのみ、マヒトの姿は映し出されなかった。
マヒトは呪霊、負のエネルギーの集積。故に電子機器では姿を映すことができなかったのだ。
「クックックククク、あなたは非常に…非常に興味深い…!まさか、無生物であり、肉体を持たなかったとは!」
「ならば、契約が成立しなかったことも、銃弾による欠損が確認されなかったことも納得できます。」
「我々はあなた側のルールに従わなければならないのですね。ですが…」
「何故、オートマタとドローンに干渉できたのでしょうか?」
「何故、人格を得たのでしょうか?」
「何故、肉体の変形を自在に行えたのでしょうか?」
「何故、何故、何故?」
「……取り乱しましたね」
黒服は端末を操作し、オートマタを撤収させる。
「マヒトさん」
「私はあなたのことをずっと見ていますからね」
□
「追ってこれてなさそうだね」
…まさか、成り代わってすぐ捕縛されそうになるとは思っていなかったな
マヒトは追手の気配がないことを確認し、改めて周囲を観察する。
割れた窓、
手入れのされていない街路樹、
ヒビ割れたまま放置された道路、
退廃的という言葉が似合う街だった。
「どこだ?ここ…」
おそらくキヴォトスの何処か…それ以外の情報は分からないな…
「こうなるんだったらストーリー読むべきだったよなぁ」
…とりあえず人を探すか
そう思い、俺は歩き出す。しかし、周囲からは相変わらず人の気配がない。
キヴォトスに転生、真人の肉体に憑依、無為転変の使用、無効となった黒服との契約
誰にも邪魔されない時間、ここにきて、ぐちゃぐちゃになっていた思考の整理がされていく。
「それにしても…」
思い起こされるのは先程のオートマタとドローンたちとの戦闘。
「楽しかったなぁ」
__もっと強いやつと戦うのもいいかも…
そんなことを思いながら砕け散った道路を踏みしめる。すると、誰かがしゃがみ込んで何かを見ている少女が目に入る。
「何してるの?」
声をかけられた少女はどこか品のある所作で振り向く。
そこにはガスマスクをした淡い紫色の髪の少女がいた。
こちらを見た少女は手を巧みに動かして、コミュニケーションを試みる。
「手話か…」
それに対し、少女はコクリと頷く。
「俺、手話わからないんだよなぁ」
「「……………」」
無言、気まずい。
やばい…何かコミュニケーションを図れる方法は
筆談は紙がないからできない、ならジェスチャーだな。
伝えたいことはこの場所はどこか…
なら…!
俺は少女の前で大げさに周囲を見回し、少しその場をぐるぐると歩き、そして、頭を傾げた。
前半の動きでこの場所を伝え、後半で疑問を伝える。
つまり、「この場所どこ?」って意味だ。
渾身のジェスチャーを決めて、少女の方を見る。だが、少女は首をこてんと傾げるばかり。おれの意図は伝わっていないようだった。
……マジカ
自信あったんだけどな。
だが、今は失敗に嘆いている場合ではない。切り替えなければ、己の限界を超えるために。
伝えようとしたことが難しかったか?
そもそもジェスチャーに限界があるのでは?
無為転変を使えば、もっと伝えやすいか?
そんなことを悶々と考えていると少女が近づいて来て。一枚の紙を見せる。そこには一文
『伝わってないよ』
と書かれていた。
………
「最初から紙出せよ…」
少女は持っていた紙を裏返す。そこには
『あなたの言葉は聞こえてる』
と書かれている。
「さっきの時間まるっきり意味ないじゃん…」
マジで恥ずかしいんですけど…
まぁ、切り替えて
「じゃあ、ここはど「姫!どこに行った?姫!」……」
俺の質問を遮って凛とした声が聞こえてくる。それに対し少女は少し慌てた様子を見せながら、走り出す。
立ち去る寸前に少女はこちらに向き直り、頭を下げる。
そして、立ち去ってしまった。
今のところあの子しか見てないんだよな
「……とりあえずつけてみるか」
戦闘描写って難しいですね……。
マヒトの戦闘狂っぽい性格は、呪霊化の影響が2割、本人の気質が8割くらいのイメージです。マヒトが直ぐに術式を扱えたのは呪霊特典ってことで……。
契約の設定は、対策委員会編で黒服に囚われたホシノが動けなかった描写から、「キヴォトスの契約は範囲外の行動を許さない」と解釈して書いています。作者が勝手に解釈したためこのようになりました。
これからも作者の独自設定、独自解釈が盛り込まれると思いますが、温かい目で見てもらえると嬉しいです。
黒服「では、なんでマヒトさんは動けるのですか?」
マヒト「マジになるなよ、呪いの戯言だろ」
追記 マヒトと契約するときは縛りであることを明確にしなければなりません。今回の黒服の件は黒服が縛りの存在を知らなかったため、起こった事故です。
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マヒトが生徒を術式を使えるように作り変える展開はあり?なし?
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あり
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なし