TSミステリアスダウナーお姉さんとして少年少女を惑わし続けてきた転生者の末路 作:ソナラ
ある時、ギルドでクエストボードを前に悩んでいる少女がいた。
どうやら普段よりも危険なクエストを受けるか悩んでいるようで、その顔には迷いと戸惑いが滲んでいる。
しかし私の”眼”からすると、彼女はそのクエストを十分に攻略できる実力があるように思えた。
足りていないのは、きっと自信だけだろう。
なので、私は何の気なしに少女へ声をかけていた。
「――迷ってるのかな?」
「ひゃうっ!?」
少女の、完全に不意を突かれ、驚きと恥ずかしさで少し顔を赤らめながら振り返る様はとても可憐で、何より若さに満ちていた。
前世の記憶という他の者が持たない感覚と、私個人の出自のせいか、今の人生において私は自分を若いと思ったことがない。
常にどこかくたびれて、フレッシュさのない人生を送ってきた私に、子どもたちの若さというのは眩しいものなのだ。
だから、自然と私は若者にそれっぽいアドバイスを送っていた。
「人は二つの道の前に立った時、迷うものさ。そしてその選択は、きっとどちらも正しくて正しくない。じゃあ、正しいものってどこにあると思う?」
「えっと……」
「迷って、そして自分が選んだという事実さ。結果は過程の答え合わせに過ぎない。迷ってみるといい、君がどのような選択を選んでも、その迷いだけ君は成長していくんだ」
――なんて。
正直、中身なんてあったものじゃない。
仮に挑戦を選ばなくても、安全という成果を少女は得るだろう。
そして挑戦すれば、今の少女なら多少の困難を乗り越えられるように思える。
だから、私としてはどっちでもよかった。
それっぽいアドバイスを送れば、彼女も納得して選択ができるのではないかな、と。
そう思っただけのこと。
――結局、少女は挑戦を選んだ。
そして翌日、笑顔で私に御礼を言ったのだ。
「お姉さんのおかげで、私、クエストを達成することができました!」
その顔を視た時――私は思わずぞくっとしてしまった。
なんだこれ、すっごく気持ちいい。
私はただ、彼女の背中を押しただけ。
成し遂げたのは彼女の成果。
なのに、私に御礼を言ってくれる、尊敬の眼差しを送ってくれる、――そして何より幸福に満ちた顔を向けてくれる。
嬉しい、嬉しい、嬉しい!
ドーパミンがドッバドバに湧き出すのを感じた。
こんなに楽しいことがあったなんて。
だから私は、最後までそれっぽく振る舞うことに決めた。
「でも、どうしてお姉さんは私の背中を押してくれたんですか?」
そんな少女の言葉に、ただ一言――
「だって、私はお姉さんだからね」
そんな、これからの人生で幾度となく使うこととなる言葉を、ウィンクまでして言ってのけるのだった。
――まぁ、今にして思えば、これがすべての始まりにして、過ちだったのだろうけど。
少なくともこの時の私は、未来のことなんて全く想像もしていなかったのだ。
□
私、ミリナの一日は非常にのんびりとしている。
朝は遅くにギルドへ出てきて、ゆっくり朝食を済ませてから今日の予定を決めるのだ。
冒険者として、かれこれ二十年以上活動している私だが、最近は冒険らしい冒険をしていない。
たまに気が向いた時にダンジョンで魔物をしばきに行ったり、後輩冒険者のサポートでパーティに加わった時くらいだ。
代わりに、街の中から出なくて済む依頼をその日の気分でこなすことにしていた。
はっきり言って、財産は働かなくても生きていくくらいには蓄えがある。
しかし私は長命種、そして今の人生を始めて四十年くらいの小童故、先は長い。
わざわざ貯蓄を切り崩してぐーたら生活をするには、まだまだ若いのである。
自分自身は、ぜんぜん若さなんてこれっぽっちももってないけど。
「今日の依頼は、冒険者向けの講習か……孤児院の慰問か……ああ、
子塾っていうのは、一言で説明するなら寺子屋かな?
どっちにしろ、私の受ける依頼は決まって年下の面倒を見るタイプの依頼だ。
だって……楽しいし。
自分のことを慕ってくれる相手を教え導くって、結構やりがいがあるのだ。
前世では子供なんて面倒だとすら思っていたのに、人は変わるものである。
まぁ性別すら変わってるんだし、そういうこともあるよね。
そうして考えていると――
「――ミリナさん」
私の名を呼ぶ声がする。
受付嬢さんだ、何があったのだろう。
「おはよう、どうしたのかな?」
「実は、ミリナさんにどうしてもお会いしたいという方がいらっしゃってまして……」
「ふむ、そうだねぇ。まぁ別に急ぎの用事があるわけでもないし、いいよ」
いいながら、私はふわりと浮き上がる。
ゆっくりと魔女風のローブがその後を追う。
今の私は完全に”ザ・ウィッチ”といった装いだ。
でかい魔女の帽子に、ゆったりとしたローブ。
長い銀髪は特に手入れしていなくてもウェーブを描いていて、背丈は小柄だけど胸は大きい。
顔立ちも決してあどけない少女という感じではなく、女性らしい顔立ちだ。
そのうえで、背は小さい。
二回言う必要あったかな、これ。
「しかし、一体誰がわざわざ私に? 私なんて、しがない街の冒険者じゃないか」
「謙遜が過ぎますよ、ミリナさん。この街唯一の一級冒険者で、称号持ち。超一流の冒険者じゃないですか」
「そうはいってもね、二十年も冒険者やってて特に悪いこともしてないなら、自然とそれくらいの経験は積めるというか……」
特に私は、前世の食うに困らない生活を知っているから、生活水準の要求が人より高い。
美味しいものを好きな時に食べて、好きな時に休める生活のためには、普段からの蓄えが一番大事。
そのために色々とお金を稼いでいたら、自然と冒険者としての等級も上がってしまうというものだ。
決して、名誉が欲しくて冒険者の等級を上げてきたわけじゃないのである。
まぁそんな自認はどうあれ、問題は呼び出した相手だ。
「そもそも、私みたいな実績の割に知名度が低い冒険者に、わざわざ声を掛ける理由が思い当たらないよ」
「そこはまぁ……そうですね」
私は冒険者としての実績をそこそこ持ってはいるけれど、知名度があるわけじゃない。
なぜなら自分から喧伝しないから。
どれだけ優れた人材でも、知られなければ知名度は上がらないのだ。
私のやっていることと言えば、拠点としている地方の街に引きこもって後進の育成だけ。
そんな大層なことはしていない。
本当にしていないのだ……多分。
「じゃあ、一体誰が?」
「それは……」
「うむ、ちょっとだけ
救世の御子といえば、最近話題の世界を救った少女だ。
なんでもここ最近、各地で魔物が増加傾向にあったとかなんとかで、その問題を解決するために神から選ばれた存在だという。
世界が滅ぶと困るし、いざとなったら私も動かなきゃかなーと思ってたけど、早いうちに解決してよかった。
ただまぁ、それがあんまりにも早く、しかも的確に解決したもんだから世間からは救世の御子なんて呼ばれて大変なことになってるわけだ。
そんな人物の名前を何気なく上げたわけだが――
「…………」
「ええと?」
なにやら、受付嬢さんの雰囲気が変わる。
目を見開いて、それからしばらく考え込んだ後、真面目な顔で――
「…………はい」
――――――――――――マジ?
マジだけに。
そんなくだらない冗談が思いついた直後――
「――お姉さん」
ふと、懐かしい声に呼び止められた。
その声に呼び止められたのは、果たして一つの運命だったのか。
声をかけてきたのは――
あの、クエストを受けるかどうか迷っていた、幼い少女。
しかし今はもう、そろそろ十八歳くらいになるはずだ。
そして振り返れば――そこには、私が想像した通りの少女が立っていた。
「……久しぶりだね、ルルちゃん」
「はい、久しぶりです。……本当は待つように言われていたんですけど、我慢できなくて来ちゃいました」
ああ、なんとなくそんな気はしていた。
このタイミングで、わざわざ昔の知り合いが呼び止めてくるなんて。
そういう流れにしか見えない、とか。
隣に立っている受付嬢さんの、少し慄いた様子の雰囲気なんて見るまでもない。
「でも、今はルルアーシャと、そう呼んでくださると嬉しいです。救世の御子……でも、構いませんよ? ――――お姉さん」
ああ、なんというかそれは。
報いとか、末路という言葉が正しいんじゃないだろうか。
私は何の気なしに、幼い少年少女の背中を押してきた。
無論、彼らがその挑戦を成功させられることは、私の”眼”が告げている。
それでも、やったことは無責任でろくでもない――身勝手なことだったのではないか。
いよいよこれは、観念するしかないんじゃないかい?
私の中の感情は、困惑する私すらからかうように、そう耳元で囁くのだった。
TSミステリアスダウナーお姉さんが罪を償うお話。
お前の罪をなんとやら。