TSミステリアスダウナーお姉さんとして少年少女を惑わし続けてきた転生者の末路 作:ソナラ
私の前世は特にこれと言って特筆すべきことはない。
社畜でオタクで、出世よりも休日の方が大事、そのくせ休みはダラダラスマホを見て浪費する。
新しいアニメやゲームより、すでに展開を知っているコンテンツの方が安心してしまう。
そういう怠惰で適当なタイプの人間だったと解ってもらえれば十分だ。
この世界に転生しても私は適当極まりない存在であるとわかってもらえればそれでいい。
新しい人生において”私”、ミリナはどうやら精霊であるらしい。
魔力でできた人ならざる存在、一般的には他の種族とひとまとめにして長命種と呼ばれる。
特に私は光の精霊であるらしく、魔力を光として認識する能力に長けていた。
んで、そんな私が生まれたのが今から四十年ほど前のこと。
具体的に何年だったかは覚えていない、最初のうちは人のいない森の奥に住んでいて、そこで自身の能力把握に多分一年以上使っているから。
それから人里に降りて各地を適当にぶらぶらした。
自分は人間じゃないから、最悪食事がなくても生きていけるし、持っている力のお陰でよっぽどのことがなければ変なやつにやられたりもしないし。
そんな事をしているうちに、気がつけば二十年が経過していたわけ。
本当にあっという間に二十年経ってたのだ。
感覚的に私は人間と同じように生きていたつもりなのに、あまりにも時間の経過が早すぎる。
決して何もなかったわけじゃないし、失敗だってしたけれど、自分が人外であると実感するには十分すぎる二十年だった。
こりゃいかんというわけで、少しでも人間らしい生活をしようと思い立ち、冒険者になった。
生活レベルも上げようということで、色々と報酬の高い依頼を受けているうちに気がつけば一級の称号持ち。
一般的に一流と呼ばれる冒険者になっていたけど、まぁこれは二十年もあればなんとでもなるよね。
で、ちょうど一級で称号持ちになったころ、私は悩む人の背中を押すミステリアスダウナーお姉さんになった。
もう六年から七年くらい前になるかな?
始まりはルル――今はルルアーシャか――の背中を押したこと。
そんなルルが冒険者として成功を収め、私のことを「お姉さん、お姉さん」と慕ってくれたことが始まり。
それから一年ほどルルの面倒を見て、ある時ルルは拠点を別の街に移した。
なんか色々と理由があったそうだけど、私は深く聞かずに「頑張って」といつものようにミス姉(ミステリアスダウナーお姉さんの略)として背中を押しただけなのでよくは知らない。
それから各地で、年下の少年少女に色々とエールを送る活動を初めた。
私には光の精霊として魔力を見る”眼”がある。
これは人の体内にある魔力を測定することも可能で、この世界において魔力量はイコール強さといっていい。
だから私は、的確にその人の悩みが解決できるかどうかを判別できるのだ。
もし仮に成功の見込みがない場合は優しく諭し、そうでない場合は好きにするといいなんてもったいぶった言い方をしつつ実質背を押した。
それから人に物を教える楽しさに目覚め、ミス姉をしつつ冒険者の講師や孤児院の先生みたいなことをして、更には子塾で勉強を教えるために自分まで勉強を始めたのだ。
この時期は、本当に楽しかったなぁ。
――でも、端から見れば自分が無責任なミステリアスダウナーお姉さんであることは、ちょっとくらい自覚している。
ついに、そのツケを払う時が来た。
来てしまったのだ。
まさかあのルルがルルアーシャとして救世の御子になり、世界を救うなんて思わなかったけど。
まぁでも、このときの私は油断していた。
ちょっと会いに来ただけだと思ったのだ。
立派になった生徒が、先生に挨拶に来た、その程度のことだと――
でもまぁ、話はそう簡単ではなかったのだ。
二十年前にも色々と実感したはずなのに、どうして私はそんな当り前のことを忘れていたんだろうね――
□
あの頃、幼い少女だったルルは本当に成長した。
私を見上げる背丈だったのが、今では見下ろす背丈に。
それでも身長は女子の平均ちょい下くらいで、そこまで高くはない。
私が小柄すぎるだけだな。
ただまぁ、一部は私と並ぶくらい成長していた。
そしてドレスと鎧を組み合わせたような――戦乙女と表現するのが正確な衣装を身にまとっている。
ポニーテールの美しい金髪も相まって、ちょっと見惚れてしまいそうだ。
「まずは、お会いできて本当に嬉しいです。お姉さん」
「……そうだね、私も会えて嬉しいよルル……立場もあるだろうし、人のいる場所ではルルアーシャと呼ばせてもらおうかな?」
「はい。……お姉さんに送り出されて私、貴族のお嬢様になったんです。そこで貴族としての名前を与えられまして……」
なにそれ知らん……こわ……多分守秘義務か何かの関係で話せなかったんだろうけど。
ともかく、アレから私とルルアーシャは受付嬢さんに案内されて、ギルドの奥にある個室へ向かっていた。
「本当はお姉さんにも伝えたかったんですけど、あの時お姉さんが何も言わずに”頑張って”と送り出してくれたから、私……お姉さんはきっと解ってくれたんだと思ってて……」
まずい……!
何がまずい、言ってみろ(脳内ルル)。
知らなかったそんなの……
いや本当に私は何も知らなかったんだ。
言葉にしなくても伝わる関係ってあると思うけど、言葉にしなきゃ伝わらないことだってあるはず。
でもこういう時、私にはとっておきの必殺技がある。
それは――
「――ふふふ、ルルアーシャはすごいね」
意味深に微笑む。
そして褒める。
せっかくだ、頭も一緒に撫でておこう。
「わっ……むう、私はもう子供じゃないですよ?」
「そういうところは、まだまだ子供っぽいね」
「むうう……お姉さんは相変わらずです」
よし、うまく誤魔化せたな!
私は常に適当に生きているから、具体的な話をされると弱い。
なのでこう、はぐらかすように相手を褒めると、いい感じに話が有耶無耶になってくれるのだ。
「でも、そんなお姉さんのおかげで、私はこうしてルルアーシャとして、救世の御子として役目を果たすことができました」
やがて、ルルアーシャと私は個室にたどり着き、受付嬢さんが去っていく。
部屋の中は静かで、私とルルアーシャの他には一人、背の高いメイドさんが立っていた。
長い黒髪の、スレンダーで細身な女性だ。
多分ルルアーシャに仕えているんだろう。
美人さんだなぁ。
「その御礼に、お姉さんを王都に案内したいのです」
「なるほどね」
「これから、救世の旅を終えた式典を開催しますので――」
王都かぁ、もう二十年以上訪れてないなぁ、流石にもう随分前のことだけど、未だに少し気まずい。
とか、なんとなく思っていると、不意に。
「その旅に貢献した英雄の一人として、お姉さんにも出席していただきたく」
――――ほわい?
なんて?
まって?
どういうこと?
説明ぷりず?
……いかん、顔に出してはいけない。
私はミス姉なんだ、この程度のことでは動じないぞ。
四十年もふふふ……という意味深な笑みですべてを乗り切ってきたジツリキがあれば、この程度のことで動じたりはしないのだ。
「ふふふ……そうなのかい? 少し驚きだね」
「はい! 私にとってお姉さんは大切な恩人ですし――」
いやしかし、まさかルルにとっての恩人という理由だけで式典に出席するなんて、それは流石におかしい。
きっと、これはルルの暴走なんだ。
可愛いわがままということなんだろう。
私に挨拶をして、王都の式典を視てもらうついでに、こうやって可愛らしい自己主張をしている……と。
あの弱気だったルルアーシャも成長したなぁ、なんて思っていたら――
「――一緒に旅をした”天剣”アドレアスさんは、お姉さんとの会話で剣の真髄に目覚めたといいますし」
「ああ、懐かしいね、彼か」
……いたなぁ。
剣の持ち方がぎこちなかったから、本人の魔力に適した持ち方を指導したんだっけ。
後ろから剣を握って、構えを教えたりしたな。
「同じく一緒に旅をした”魔術砲台”レイナちゃんも、お姉さんに魔術を師事したそうですね」
「ふふ、そういうこともあったねぇ」
…………いたなぁ。
魔力は膨大なのに、魔術を覚えるのが苦手で、私が魔術の使い方を体に覚えさせたんだっけ。
両手をぎゅっと握って、あの子の体の中の魔力を操作したりしたなぁ。
「旅の支援を行ってくださったシェパード卿も、実はお姉さんが初恋なんだとおっしゃっていましたよ?」
………………いたなぁ。
え、マジで?
ちょっと護衛して、一緒に夜の星をみながら話をしただけなんだけど。
「それから、それから――」
――それから、それから。
ルルアーシャはその”救世の旅”とやらに関わった人々の名前を一人ずつ上げていった。
そして、その名前に私はひとり残らず聞き覚えがあるのだ。
だって人外特有の記憶力で、人の名前って忘れないし。
十年以上前に助けた少年と成長して再会した時、覚えてた名前で呼んだら驚かれたこととかあったな……
……ええと、要するに。
「お姉さん。いえ――ミリナ様」
ルルアーシャは、どこか心酔した様子で私に呼びかける。
「この救世の旅に関わった者たちは、皆ミリナ様に導かれた者たちなのです」
つまり、すなわち――
「――この世界が救われたのは、ミリナ様のご加護あってこそ。ですから、私はミリナ様をこうして式典にお誘いしたく思うのです」
そうして、ルルアーシャは貴族らしい一礼をした。
貴賓に対する、最上位の礼。
それこそ、私がしでかしたことの大きさを表しているようで。
「……ふふふ」
ミステリアスに笑う仮面の下で、私は一体どうすればいいのか、と頭を抱えるしかないのだった。
余罪……いっぱいあります!