TSミステリアスダウナーお姉さんとして少年少女を惑わし続けてきた転生者の末路 作:ソナラ
ルルアーシャに仕えるメイド、レヴィスは現実主義者だ。
この世に奇跡なんてものはないと思っている。
二十年ほど前に親を亡くして、孤児として一人で暮らしていくしかなかったレヴィスにとって、生きていくことは辛いことでしかなかった。
親戚の家に引き取られ、そこで暴力に晒されながら育った幼少期。
スラムに捨てられ、花売りになるよりはマシだと言い聞かせながら、耐え抜いた。
魔力に乏しかったレヴィスの就ける職業は、他の者より限られている。
それでもできることは何でもして、技術を身につけていった。
自分は他人よりも努力しているし、優秀なのだと信じ込んだ。
けれども、周囲に認められ出世していくのは、自分より仕事ができない人間だった。
原因はすぐに分かった、愛嬌だ。
人当たりよく、誰とでもコミュニケーションを取れるものほど、周囲に認められていく。
もうほとんど顔も覚えていないけれど、幼い頃にレヴィスを諭してくれた人が言っていたことを、レヴィスはようやく理解していた。
「誰かを嫌って強くなれる人も、きっとどこかにいるだろうけど、それは誰かを好きになって強くなるよりずっと険しい道のりだよ」
顔も名前も覚えていないのに、その言葉だけは強烈に脳裏へ焼き付いていたのだ。
だからレヴィスは気付くことができた。
致命的に、人を嫌いになる前に。
そこから、少しずつ猫を被ることを覚えていったレヴィス。
段々と周囲がレヴィスに優しくなっていて、あれだけ自分を虐めた保護者がレヴィスを自慢の子供だといい始める始末。
結局そんな保護者を好きにはなれなかったけど、嫌いになることもなかった自分を、レヴィスは少しだけ誇らしく思った。
――そうして、手先の器用さを活かして城務めになったのが今から七年ほど前のこと。
レヴィス、十六歳の頃だった。
それから色々な経験をして、最終的にレヴィスは生涯の主を見つけるに至る。
ルルアーシャ。
もとはルルという孤児だったのが、とある才能から貴族に養子として迎えられた少女。
どうしてそんなルルアーシャに忠誠を誓ったのかと言えば、面影があったから。
かつて自分に道を示してくれた女性に、似ていたからだ。
そんなルルアーシャには、恩師とも言える人物がいるという。
その人物は迷っているルルアーシャの背中を押してくれた人で、
困っている時には、いつでも相談に乗ってくれて、笑顔で話を聞いてくれた女性。
名前はミリナ――調べれば、一級冒険者で称号持ち、”流れ星”のミリナであるとすぐに分かった。
称号持ちの一級冒険者にしては活躍が地味で、最近は目立った功績を上げていない。
しかし同業者からの評判はすこぶる良いが、同時に変わり者だという声も多かった。
それはまぁ、何となく分かる。
ルルアーシャは無垢だった。
子供の作り方すら、曖昧な知識しかもっていなかったのだ。
だけど、何故かロックバードが空を飛びながら交尾するということを知っていたり、他にも様々な変な知識を蓄えていた。
原因はミリナだ。
恩師であるミリナから、とめどなく変な知識を注ぎ込まれたルルアーシャは、雑学の知識だけは超一流だった。
勉強が苦手で、それ以外のことは全く頭に入らないタイプなのに。
他にも色々と、漏れ聞こえるミリナの様子は変だった。
ミステリアスで神秘的な雰囲気が漂っているのに、朝は弱くて部屋が汚かったり。
お酒に弱くて、絡み酒で距離が近かったり。
そして何より、ルルアーシャ以外にも被害にあった人物とレヴィスは出会ってしまったのだ。
救世の旅という、世界を救う儀式の中で、それはもう大量に。
性癖の破壊と引き換えに力を手に入れたもの。
彼女がいなければ才能に目覚めることができず、どこかで死んでいたかも知れないもの。
初恋を見事にめちゃくちゃにされたもの。
なんとまぁ、色々な被害者がいたものだ。
無論、ミリナがいなければ死んでいたかも知れない者だけでなく、それ以外の人間もミリナによって人生をいい方向に進めている。
もし仮にミリナがいなければ、ここまで順調に救世の旅は進まなかっただろう。
それは解っている、解っているのだが――
それはそれとして、距離近すぎだろ、性癖破壊しすぎだろ、初恋ハンターすぎるだろ!
レヴィスは高らかにいいたくて仕方がなかった。
そしてついに、レヴィスはミリナと対面する時がやってきたのだ。
やってきたミリナを視た時、レヴィスはピンと来た。
こいつは――ヤってる!
致命的なまでに、犯罪を犯しまくっている――!
どうしてだろう、何故かわからないが滅茶苦茶その罪を償わせたい。
償わせたくて仕方がないのだ。
とはいえ、相手はルルアーシャにとって大恩ある人物。
何より救世の旅に関わったメンバーほとんどが、彼女に救われてあの旅に関わったのだ。
世界はミリナによって救われたといっても過言ではない。
流石に式典に参加するというのはいくらなんでも話が飛びすぎているが、水面下で色々と動いていることはレヴィスも知っていた。
下手したら、本当に英雄の一人として式典に参加しかねない。
けど違う、このお姉さんはただの罪深いだけのお姉さんだ。
人に性癖破壊という業を押し付けて、それを嬉しそうに戦果として誇るお姉さんだ!
絶対に救世の旅に関わったメンバー以外もヤってるに決まってる。
自分だけは惑わされない。
絶対に惑わされない、レヴィスは強く心にそう決めた
――――が、数日のうちにその決意は少し瓦解しはじめていた。
旅の道中のミリナは、とても行儀が良かった。
宿は汚さないし、食べ方もキレイだし、何より話をしている時は朗らか優しいダウナーお姉さんだ。
ルルアーシャから聞いていた、ちょっとルーズなところのある罪深いお姉さんの片鱗は見えてこない。
これは単純にミリナがよそ行きになっているだけな上に、高級宿に泊まる趣味のおかげで、泊まった宿を汚さない習慣がついているからだ。
無論、流石にそこまでレヴィスも知るよしはない。
そして何より、立ち往生の際にルルアーシャへ伝えた案は実際妙案だった。
アレは単純にルルアーシャの希望を叶えるだけでなく、ルルアーシャとアルシュタイン家の名声を高めることにも繋がる。
なにせルルアーシャは色々あって今後アルシュタイン家の当主となる人物なのだが、養子な上に元平民であったため知名度が足りない。
他にも色々理由はあるし、一番の問題は救世の旅にあるのだが、あまりにも複雑なので一旦置いておこう。
ともかく、ミリナのしてくれたことが、ルルアーシャにとって最高のアシストだったのは間違いないのだ。
だから心を許しそうになって――すぐに改めた。
一瞬目を離した隙に、あの女またやらかしやがった!
幼い子供のところへ行って、寂しそうにしている子供を慰めていたのだ。
それがまた、なんとも手慣れているのなんの。
一体どれほど場数を踏めば、あんな口八丁が育つのだ?
絶対もっとやってるでしょ!
強くレヴィスはそう思った。
しかし――その話の内容で、レヴィスはミリナに何も言えなくなってしまった。
あの子の両親はすごい、あの子は両親のことが大好きだ。
そんな言葉に――かつての自分を思い出してしまったから。
もう顔も声も思い出せない両親、しかし優秀な人だったということはかすかに覚えている。
両親が亡くなった後、声をかけてくれた女性も、そんな両親をすごいんだねといってくれたことを、覚えている。
もう顔も声も覚えていないのに。
そんなことばっかり覚えている自分を、現金なものだと思いながらも、どうしても胸の奥に生まれた感情を、レヴィスは抱えきれない。
それでも何とか、己の矜持にかけて涙だけは堪え、鋭い視線をミリナに向ける。
――絶対に、私だけは惑わされないのだから、と。
なお。