TSミステリアスダウナーお姉さんとして少年少女を惑わし続けてきた転生者の末路 作:ソナラ
さて、ルルとの再会から始まった旅は、およそ十日程度で龍桜山脈へと入る。
間に幾つかの街を越え、道中土砂崩れなんかのトラブルに見舞われたりもしたけど、行程自体は順調だ。
もともと、二ヶ月くらいかけてゆっくり王都に戻る計画だそうな。
救世の御子として忙しかったルルアーシャの休暇もかねているらしい。
龍桜山脈とは、山の麓に桜の精霊が住まい、山の山頂に竜が住まうことからその名がついたという。
桜の精霊ブロッサさんは桜が大好きで、人の作った街道に勝手に桜の木をうえた結果、春になると街道は桜の名所としても賑わうようになっている。
そして今の時期は春、ちょうど桜を見ながら街道を進める非常に良い時期だ。
なおブロッサさんは花粉症なのでこの時期人前には出てこないぞ。
龍桜山脈には杉が一本も生えてないことでも有名である。
「わあ……素敵な光景ですね」
「そうだねぇ……」
「同意いたします、ずび……」
私たち三人は、そんな街道をのんびりと進んでいた。
のどかな風景、舞い散る桜の花びら、穏やかな風、花粉で鼻がずびずびになったレヴィスさん。
龍桜山脈に杉は一本も生えていないが、山脈に入るまでには結構生えている。
結果、ここ数日のレヴィスさんはだいぶ辛そうだ。
私が花粉専用の治癒魔術を使えるんだけど、丁重に断られてしまったからな。
そしてそんな長閑な光景とは裏腹に、私は内心頭を抱えまくっていた。
――どうすんだ、罪が増えてく、ねずみ算。(ミリナ心の川柳)
いやほんと、レヴィスさんの件はまぁ罪に数えてもいいとしよう。
でも、ドアルブくんの件は流石に私のせいじゃなくない……?
むしろ彼らの努力の結果というか……私の成果にするのは失礼というか……
でもでも、私の魔力が呪いに効果があるというのを知らずにお守りを販売したのは重大なインシデントだ。
こういうのが積もり積もって、大きな罪の山になりかねない。
でもでもでも、流石に四十年の間にやってきたことがあまりにも色々ありすぎて、どれが罪かなんて測りようがないし……
――うん、とにかく今は気にしないことにしよう。四十年発覚しなかったことなんだし、そうそう次の罪が発覚することはないはずだ。
なんて内心うんうんと頷きながら私はいつも通りミステリアスな笑みを浮かべる。
ふふふふふ、ふふふのふふふ、ふふふふふ……
「そういえばお姉さん、お聞きになりました? ここ最近、龍桜山脈の龍王様が、幾度となく目撃されていること」
「ふふふ、そうだねぇ。一つの角度から見れば深く聞き及んでいるとも言えるし、異なる未知が満ち満ちているとも言えるかな」
「ぼんやりとしか知らないのですね」
バッサリ。
私が曖昧な言葉で適当に濁したら、レヴィスさんに切り捨てられてしまった。
いや、ちゃんと言葉通りの意味なんですよ。
山脈の龍王くんのことはよく知っているし、今どうして目撃されるのかはよく知らない。
「私も……かの龍王には一度謁見したことがあるのですが、何故こう何度も目撃されているのかは……解りかねます」
「へぇ、ルルアーシャも彼と面識があるんだね」
龍王。
あるいはハイエルダードラゴン、個体名はレギウス。
ああいや、三十年前に代替わりして今はサクセサか。
とにかく、この龍桜山脈に住まう竜は、この辺り一帯の竜の頂点に立つ存在だ。
すごい竜だから龍王くらいの認識で大丈夫。
ただ、だからこそ彼は本来そう易々と人里に降りてはいけない存在だ。
人里に降りるなら人に変身する必要があるし、竜として動くなら人目につかない超高高度を飛行するのがマナー。
それがここ最近は、露骨に人が視認できる高度で山脈の周りを飛び回っているのだとか。
すわ凶兆か、いやしかし救世の旅で世界は救われたはず。
なんて会話を冒険者の酒場で絡み酒しながら聞いた。
「はい。かの龍王は、救世の旅において竜族の意思を私にお伝えくださりました。あの山頂で、仲間と共に間近で見たかの王の威容は今も覚えています」
「ふふふ、それは素晴らしいね」
救世の旅は、どうやら世界中の様々な国の人々と種族の協力が必要な儀式だったらしい。
その一翼をサクセサくんはになっていたわけだ。
ん、待てよ……?
………………………………竜族の意思を彼が伝えた?
それって……あの時の約束を彼が果たしたってことじゃないか?
◽︎
ダラダラと冷や汗が流れそうになる中、私は今から三十年ほど前のことを思い出す。
当時私は龍桜山脈の桜を見たくて、精霊仲間のブロッサさんのところへやってきていた。
鼻ずびずびのブロッサさんのために花粉症専用治癒魔術を開発して使用。
結果、めちゃくちゃ感謝したブロッサさんに連れられて、とっておきの花見スポットを私は訪れた。
そこで出会ったのが先代龍王レギウスさんと、その息子サクセサくんだ。
その場所は山脈の超高地にあって、人々は存在を知らない。
ブロッサさんが魔力を使って森林限界を突き抜けて咲かせた桜は非常に美しかったことを、今でも覚えている。
当時、レギウスさんは老齢で、次代の王として息子のサクセサくんを龍王にしたがっていた。
けどサクセサくんは竜としては驚くほど臆病で、王としての資格を満たしていなかったのだ。
実力は間違いなく王にふさわしい物を持っていたが、どうしても度胸が足りない。
そこで私は、サクセサくんにこう提案したわけ。
「じゃあ私と本気で戦ってみないかい?」
当時の私は天狗になっていて、自分のチートをひけらかしたくて仕方がないお年頃だった。
しかし周りには私の全力についてこれる者がおらず、力を持て余していたのである。
レギウスさんとブロッサさんはちょっと目を丸くしていたけれど、あの手この手で私はサクセサくんを説得し、ガチバトルと相成った。
そして圧勝した――
相手はこの世界最高峰の種族ハイエルダードラゴン、若いとはいえその王になる存在。
まさかここまで実力差があるとは思いませんでした……
レギウスさんでも、少なくとも老いた今の自分じゃ勝てないらしいし、全盛期でもやってみないとわからないそうな。
そんなこんなで、いい勝負をしてサクセサくんの自信になればと思ったけど、大失敗。
ただ、どうにもサクセサくんはあの蹂躙としか言えない戦闘でも、色々と学ぶところがあったみたい。
一皮むけた様子で、自信を手に入れた様子だった。
んで、私に対して顔を擦り付けてくるわけだ。
『くるるるぅ』
なんて言って猫なで声みたいな感じで、アレは可愛かったなぁ。
ただ、これを私が撫でて返したのが大問題。
後で知ったことなんだけど、どうもあれ――
――雌に求婚する時の行動……らしいんだよねぇ。
どーりでレギウスさんは大爆笑していたし、ブロッサさんは大丈夫かなぁという表情で見ていたわけだ。
竜は知能こそ人間並みに高いけど、レギウスさんみたいな一部の竜を除いて人語は介さない。
何よりサクセサくん自身が自分のしている行動の意味を理解していなかった。
だからまぁ、その時は若い子の衝動的な行動として、一旦流すことにしたんだろう。
私がわかっていないっていう問題もあるし。
しかし、気づいた。
気づいてしまった。
数年前に教師としての勉強をしている際に何気なく知った知識と、過去の記憶がこの時初めて結びつくことで、私は自分の罪を自覚した。
たとえ記憶力がやばくてもさー、知識を結びつけられないと意味ないんすよマジで。
というわけで、どうしよう。
あの時私は確かに言った。
「君が龍王として竜たちを取りまとめ、王にふさわしい存在となったら、また会おう」
なんて。
かっこつけて。
お互い長命種なんだから、いい感じのタイミングで会う機会もあるだろう、なんて思っていった言葉。
サクセサくんは、まさにこの間、龍王として救世の御子の前に姿を現し竜族の意思を伝えた。
竜を取りまとめる王にふさわしい存在となったわけだ。
そのタイミングで私が近くを通りかかろうとしている。
こりゃあ、会うしかないでしょう。
会いたいなぁ、そわそわ。
……ってことなわけかーーーーっ!
しかも、ルルアーシャたちはサクセサくんが私の被害者だと知らない。
なら……
ルルアーシャとレヴィスさんにバレる前にサクセサくんとの罪を償う。
そうだ、それしかない。
なぜなら、罪は償ってしまえば罪じゃないのだから――――!
何回か続きます。