TSミステリアスダウナーお姉さんとして少年少女を惑わし続けてきた転生者の末路   作:ソナラ

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8 お姉さん、「めっ」をする

 罪は償わなくてはならない。

 ルルアーシャは私に感謝してくれたけど、誰もが過去を肯定してくれるわけじゃない。

 サクセサくんのように、”若さ”を悔いるものだっているだろう。

 じゃあどうやって私は、サクセサくんへの罪を償うのかって話。

 少なくとも、一方的に怒りを受け入れるのが正しいわけじゃないのは――確かだ。

 

『るぉおおおおおおッ!!』

 

 勢いよく、サクセサくんが突っ込んでくる。

 全長数十メートルのクソデカドラゴンは、私一人簡単にパクっとしてしまいそうだ。

 それに対して私は、サクセサくんを優に上回る速度で突進を回避して後ろに回る。

 こちとら光の精霊、速度という舞台で私と競うことは基本不可能。

 しかしサクセサくんも負けてはいない。

 そのまま魔術を使って反撃に入ろうとした私へ、突進を急停止して反転しつつ攻撃を加えてきた。

 コマがスピンするかのような挙動に、思わず物理法則とは何かと問いかけたくなってしまう。

 

「ふふふ、情熱的だね」

『るるるるうぅぅぁあああああ!』

 

 私の言葉を正面から否定するかのような咆哮。

 同時に迫る鉤爪、回避もできるけど正面から反撃することも可能だ。

 ここは反撃としておこうか。

 勢いよく、鉤爪に向かって私は蹴りを叩き込んだ。

 

『るるぅ!』

「肉弾戦だってできるのは、君だって知っているはずだよ」

 

 ローブから漏れ出た私の脚が、鉤爪を弾く。

 ローブの下? 下着しかつけてないよ? どうかした?

 何にしても、そこから私たちはしばらく近接戦でぶつかり合った。

 この魔女衣装はファッションでしかないので、こうして正面から竜と打ち合うことだってできるのだ、私は。

 

「さて、ここからどうしようかな」

 

 正直、内心はめっちゃテンパっている。

 戦闘中だからこうして状況を冷静に観察してるけど、意識の一つはさきほどからどーしよどーしよの大合唱で使い物にならなくなってしまっていた。

 転生してから手に入れたマルチタスクに感謝である。

 何にしても、今は正面から打ち合うしかない。

 ただ、そうして戦っていると感じることもあるのだ。

 

「昔と比べて、成長しているね。一発一発に遠慮がない。龍の王としての振る舞いを君は身につけたんだ」

『るるるうぉおおお!』

「おおっと、本気の殺意はおっかないなぁ。背筋がゾクッとしてしまうね」

 

 こうして相手をしていると、以前戦った時と比べてなんとなく感慨深く感じてしまう。

 あの時、最初のうちサクセサくんは逃げてばっかりだった。

 私が初手から全力だったというのもあるだろうけど、サクセサくん本人の気概も大きく要因にある。

 向こうは割とガチに殺意をぶつけてきているのに、それでもなお嬉しさが勝ってしまうのだ。

 思わず笑みを浮かべて舌なめずりをすると、若干向こうの手が緩んだ。

 そこに反撃を入れつつ、言葉でもサクセサくんを煽る。

 

「でも、まだまだ情に流されてしまう部分があるんだね。怖がる私を見て、手を止めては行けないよ。最後まで勝ちきるつもりでやらなくちゃ」

『る、るううううう!』

「そう、その調子」

 

 するとサクセサくんの動きに切れが増した。

 こちらの言葉を必死に否定するかのよう。

 それにしても、そこまで怖がってるつもりはなかったんだけど、サクセサくんは何に反応して手を緩めたのかな。

 何にしても、久々に遠慮なく戦うのは結構楽しい。

 罪の清算をしている最中だっていうのに、不謹慎だけどね。

 

「――――あは」

 

 あ、また緩んだ、まぁいいか。

 その隙を逃さず、勢いよく私はサクセサくんの土手っ腹に蹴りを叩き込んだ。

 すごい勢いで吹き飛ぶサクセサくん。

 しかしすぐさま体勢を立て直すと、動きに変化を見せる。

 魔力がうねり、高ぶっているのだ。

 魔術が発動する予兆!

 

『るうううううぉおおぁあああああっっ!』

 

 途端、私に向けてサクセサくんから雷が叩きつけられる。

 防御をせずに構えていたから、そのまま攻撃を受けてしまった。

 だけど、この程度じゃ私にダメージは入らない。

 そもそも――

 

「私に”光”は、少し相性が悪いかもね」

 

 バッと魔力を流し込み、雷を打ち払う。

 純粋な光とはまた違うけど、光に近い現象であることは確か。

 光の精霊にぶちかますには、いささか向いていない。

 とはいえ、魔術は人が言語を用いて詠唱することで発動する技術。

 それを魔力を練り上げる行為だけで再現するのは、素直にすごい技術だと言えるけどね。

 詠唱魔術で制御を学ばずに無詠唱を使っているってことだから。

 ドラゴンは言語を発せない以上、その方法でしか魔術を習得できない、という側面もあるにしろ。

 将来的には、思念を相手に届ける魔術を習得するつもりなんだろう。

 

『るるるるぅ!』

 

 だが、流石にサクセサくんもそれはわかっていたことなんだろう。

 今度は自身の身体を光らせると、先程以上の速度で突っ込んでくる。

 身体強化魔術の一種で、”光の鋒先”というものだ。

 私みたいな光の精霊が、光に近い速度で移動するのを再現するための魔術。

 ――本命はこっちか。

 

「ふふふ――なるほどね」

『るぐぅ!』

 

 再びの肉弾戦。

 先ほどとの違いは、私の蹴りが押し負けるようになったこと。

 力任せにこちらをぶん殴ってくる鉤爪やら突進に蹴りを叩き込んでも、そのまま吹き飛ばされてしまう。

 空中だから後ろに逃げればいいけど、地上だったらとっくの昔に追い詰められてるな。

 魔術を使えば反撃もできるけど、ここはこのまま肉弾戦を続ける。

 向こうの狙いも見えてきたことだし、それに付き合うべきだと判断したのだ。

 

「――強くなったね、サクセサくん」

『るるるぅ!!』

 

 鉤爪にふっとばされて、距離を取ってから語りかける。

 すると、サクセサくんが動きを止めた。

 いや、ほんの一瞬だけだけどね。

 即座に戦闘を再開して飛びかかってくるサクセサくんに、私は言葉を向ける。

 

「アレから君が、どれだけ”強さ”を求めて努力してきたのか、私にはわからない」

 

 激しい攻防の中で、私の声だけはどうにも鉤爪と蹴りの激突音の中でも通って聞こえるように思えた。

 自意識過剰かもしれないけれど、少なくともサクセサくんには届いている。

 確実に。

 

「それを認めよう。君は強い――間違いなく、龍の王だ」

 

 ――私の蹴りと、鉤爪が交錯した。

 高く振り上げた蹴りが鉤爪を受け止め、両者は静止している。

 

「でも、だからこそ子どもみたいな八つ当たりはよくない。君の威厳が台無しだ」

『るるるぅ!』

「もちろん、私が君の純情を弄んでしまったことは、悪いと思っている。謝罪するよ」

 

 たん、と一つだけ音がした。

 私が鉤爪を蹴ってサクセサくんの頭上に飛び上がる音。

 

()()()()()、君の願いを叶えよう。――ここからは本気の本気だ。だからさ」

 

 私の体が、ゆっくりと光を帯びる。

 それは、私が()()の姿に戻ろうとしている証左。

 サクセサくんはそれを、ただただ鋭い視線で見上げている。

 

 ――違和感はあった。

 サクセサくんの戦い方は、私の影響を強く受けていた。

 私に光を伴う攻撃はほとんど効かないとわかっているのに、私の得意属性を選択して習得したのだ。

 そうして私に対抗するための手段として選んだ身体強化も、私の戦い方に近いもの。

 

 私に対する恥ずかしさはあっただろう。

 でも、それが怒りの本質じゃないだろう、というのが私の考え。

 じゃあ彼は一体誰に怒っているのか。

 答えはとても単純だ。

 

「だから――あんまり、自分に怒りを向けるものじゃないよ、サクセサくん」

 

 そしてそんなサクセサくんの根底には、初めて私と戦った時、私に対して抱いた感情がある。

 それは決して、恋心ではない。

 恋に近しい――ちょっと別のなにかだったのだ。

 それを一方的に抱かせてしまったことが、私の罪。

 故に。

 

 

「自分で自分を嫌うなんて、サクセサくんは悪い子だ。そんな悪い子には、”めっ”てしちゃうからね」

 

 

 私は、私の罪をここで清算するのだ。

 

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