【スレタイ】ネッ友とA級目指してみる   作:全智一皆

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 白い隊服を身を包み、右手には片刃のナイフを象った武器―――もとい、ボーダーが所有する攻撃手トリガーの一つ、スコーピオンを握り締めて、最上収也は眼前の敵と対峙する。

 ボーダーに入隊する為の試験は、大きく分けて二つに分類される。

 一つは仮入隊試験。文字通りこれはボーダーに仮入隊する為の試験であり、言わばボーダーに入るならば誰もが必ず―――スカウトや特例といった例外は存在する―――通る道だ。

 筆記試験と実技試験、そして最後に面接を備え、これらを通って合格通知が届けば、無事に仮入隊が完了する。

 そして次が仮入隊指導。これは試験と名が付いてはいないが、この仮入隊式で行われる様々な目標に対する成績は、秘密裏に正規の隊員達から採点されている。

 最上、賎政、歩深が現在行っているのは、その仮入隊指導の試験であった。

 仮想空間内に設置された仮想型トリオン兵を倒す、という至ってシンプルな試験内容だが、この試験は時間が測られている。時間制限があるという訳ではなく、その隊員が如何にトリオン兵を迅速に処理する事が出来るのかを知る為のタイマーだ。

 

「よし、それじゃあ始めるぞ! タイマーは測るが、時間制限って訳じゃないから、焦らないで大丈夫だからな!」

「うっす。あー……すんません、やる前にちょっと聞きたいんすけど」

「なんだ?」

「これの最速記録ってどれくらいですかね?」

「最速記録か。(みつる)、誰だ?」

「最近入った子の緑川くんですね。記録は4秒」

 

 C級隊員達の様な白い隊服とは全く異なる、派手な赤色の隊服に星のエンブレムを腕部分に刻んだ隊服姿の二人の青年―――もとい、ボーダーが誇るA級部隊の一つにして広報部隊、嵐山隊の隊長である嵐山准と補佐である時枝充は、最上の質問に真摯に答えた。

 緑川駿―――つい最近ボーダーに入り、この入隊指導で4秒という記録を叩き出した若き秀才である。

 

「4秒かぁ……タイミング次第だな。わざわざすんません、始めちゃってください」

「分かった」

 

 とん、とん―――と、短く跳ねる。

 跳ねる度に、筋肉が動いてく。関節が揺れていく。血の流れる感覚に意識が追い付いていく。

 1秒。

 合図は無い。

 

「では―――」

 

 1.8秒。

 声があがる。

 

 2.2秒。

 言葉が出かける。

 

「始めッ!」

 

 2.5秒。言葉が出た。

 2.8秒―――タイマーが動いて、0へ。

 

「―――」

 最初からそれを予期していたかの様に、最上が(はし)る。

 疾走と斬撃は、全くの同時だった。その姿が揺れたかと思えば、瞬きをして間もなく最上収也という存在の姿は、その場から消し去られていた。

 踏み込んだ白い地面は僅かな足跡を刻み、それ以上のものを残さなかった。跳ねた足の爪先が地面に着いた一瞬にして、最上の脚の筋力はその全てを爪先に注ぎ込まれ、地を蹴ったのだ。

 振り抜く腕の動作は極めて僅か。腕を前に突き出し、片刃をトリオン兵の弱点である中心部分に向けるだけの簡単なもの。

 それで、終わり。ただそれだけの行動で、最上収也は驚異(いじょう)を刻み込む。

 

 0.2秒―――大きな黒い画面の計測器には、その数字がただただ静かに表示され、沈黙を呼び覚ました。

 だが、その沈黙は他ならぬ本人とその仲間によって打ち消された。

 

「0.2か。結構良いタイム出せたかな? おーいシズ、あゆゆー! 俺0.2だぞー!」

「頭おかしいだろお前」

「ごめんね、わっくん。素直にキモイ」

「ぶち殺すぞテメェら!?」

「それは俺達の台詞だ。お前の所為でハードルに天地くらいの差が出来ただろうが」

「わっくん知ってる? 50m走の最高記録って5秒47秒くらいなんだよ? これ50mじゃないけど、今のところわっくんは世界を揺るがすバケモノだよ?」

「お前ら暴言飛ばし過ぎだろ。え、殺すよ? マジでその首刎ねちゃうよ?」

「やり直し! やり直しを要求しまーす!」

「巫山戯んな面倒くせぇ! 他の人達も待ってんだぞ考えろバーカ!」

 

 ぎゃーぎゃーと騒ぎ出すのにも反応出来ずにいた他の隊員達は、暫くしてやっとその現実を直視する。

 世の中には瞬殺という言葉が存在するが、まさしく今この状況にこそ、その言葉は当てはまるのだろう。いや寧ろ、これこそが『瞬殺』という言葉が最も強く表現されていると言っても良い。

 実戦ではトリオン兵は動くし反撃もするという前提こそあれど、この結果だけは揺るがない。トリオン兵相手に奇襲を仕掛ければ、最上収也という人間は0.2秒という人間として有り得ない速度で、トリオン兵を排除出来るという事が証明されたのだから。

 

「うわぁ……」

 

 入隊指導を行っている空間の上階―――観客席の様な場所で、その様子を見ていた青年……もとい、ボーダーに二人しか居ない(ブラック)トリガー使いのS級隊員、迅悠一は感嘆とも驚愕とも取れる複雑な表情を浮かべていた。

 最上収也―――その苗字を見た時は、思わず目を剥いた。その名前は迅にとって、最も馴染み深く、そして大切な人の名前だったから。

 最上(もがみ)宗一(そういち)―――ボーダーの初期メンバーにして、迅の師匠その人と言える存在である彼は、数年前に(ブラック)トリガーになった。

 ボーダーがまだ本格的に姿を公表する以前の活動で、最上宗一はその命を落とした。だから事の真相なんて確かめようがなく、仕方ないと判断した迅は、自分が所属している玉狛支部の支部長である林藤に尋ねた。

 

『最上さんにさ、親戚って居る? 出来たら調べてほしいんだ』

 

 結果はビンゴ。最上収也は、最上宗一の親戚―――彼の妹の息子であったのだ。

 自分の師匠の甥っ子が、数年の時を経てボーダーに入隊するなんて、迅には予想出来る筈もなく、予知()れる訳もなかった。

 

「へぇ。アイツすごいな」

「太刀川さん。珍しいね、こっち見に来るなんて」

 

 全体的に黒で覆われ、所々に赤のラインを刻んだコートの隊服に身を包んだ、髭を生やした男―――ボーダーの攻撃手(アタッカー)個人ランキング1位、太刀川慶は、面白そうに笑っていた。

 

「それはお前もだろ。アレか、お前の師匠の親戚ってのは」

「…うん。最上収也。最上さんの甥っ子だってさ」「ふぅん。中々筋が良いな。身体の動かし方を理解してるって感じだ。SEか?」

「分かんない。検査した人が言うには解析中だってさ。ただ、他の人よりも身体機能が異常に発達してるんだって。あと脳神経がちょっとおかしい」

「それ普通に病気じゃないか?」

「おれも同じこと思ったよ。でもそういう訳じゃないんだって。なんか、頭が身体の使い方を理解してるんだって。比喩とかじゃなくてまんまの意味で」

 

 結論から言ってしまえば、最上のそれはSEではない。

 どちらかと言えばフィジカルギフテッドというものに類するものであるのだが、しかしその表現もまた正確ではない。

 はっきり言ってしまえば、最上収也の身体は異常に塗れている。

 身体機能は筋力、関節可動域、神経伝達、循環機能、感覚機能の五つの要素を表す。これらが正常に動作するからこそ、人間は適切な姿勢と運動を行う事が出来るのだ。

 最上はその身体機能が、常人のそれよりも遥かに発達している。表面的な肉体変化は無いものの、彼の肉体内部は他の人間と比較すれば雲泥の差が生まれてしまう程だ。

 さらに追い討ちを掛ける様に、最上の脳もまた異常をきたしていた。

 彼の脳は『最上収也(あるじ)の身体の動かし方』をそのままの意味で理解している。どの筋肉をどう動かせば最速に至るのか、どの骨格をどう動かせば負荷が少ないか、どの関節をどう動かせば加速させられるか、それらの判断を最適に行うのだ。

 常人離れした身体機能は、他所の人間よりも様々な負荷に耐えられる。それを理解しているからこそ、脳はもはや枷など取っ払って、この肉体をどこまでも突き動かす様に、あらゆる行動において最速と剛力を叩き出す。

 それが、最上収也という人間の肉体であった。

 

「あ、0秒ジャストいったわ」

「なんでやり直しで短くなってるのっ!? きもい! やっぱわっくんキモイ!!!」

「あぁ!? 誰がキモイだぁ!? ぶち殺すぞゴラァ!!!」

「落ち着け、最上。悪いのはお前だ」

「おうフォローせえや? 記録出しただけなのになんで責められなきゃならんの俺?」

 

 前言撤回。人間ではなくバケモノであった。

 

「おいおい、アイツ結構面白いな。個人戦が楽しみだ」

「ちょちょ、あんまイジメないでよ〜」

「くすりまるとあゆふかってやつも中々だな」

「……やくまるくんとあゆみちゃんね」

 

 視るまでもなく、大変な事になりそうだなぁ。

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