生まれる世界を間違えなかった男の話 作:たるぽ
剣鬼、異世界へ行く
俺は幼い頃から、『剣』というものが好きだった。
好きになったのは平日の朝からやっていた、戦隊モノのアニメ。
その主役でもある、赤いヒーローが使っていた武器が剣だったのがきっかけだ。
とにかく剣が好きだった俺は、どんな遊びでも『剣』を用いた。
それがおままごとだろうが、鬼ごっこだろうが一切関係なく、とにかく『剣』を欲した。
『剣』! 『剣』!! 『剣』!!!
剣を振って、模造剣を手にして、剣を習って。
全ての剣を見て回るために、高校生活と言うものを捨て、日雇いなどで稼ぎながら世界を回った。
時に危険なこともあったが、それはもう充実した旅で、俺は人生のほとんどをその旅へと費やした。
そして22歳。
一般人ならば大学を卒業して就職に励んだり、結婚を目前にしたような歳のとき、俺は日本へ帰ってきた。
帰ってきた……のだが。
悲しいことに、現代において『剣』というものは必要とされていない。
現代日本はそもそも戦争なんてないし、仮に戦争に出たとしても現代兵器が跋扈している。
どう足掻いても剣の出番はない。
結果として、俺が学んできたことの大半は、現代生活において何の役にも立たなかった。
だが、そんなことを認めたくなかった俺は、ある行動に出る。
それは現代でありながら剣を使え、法には触れるがバレなきゃ問題のない行い。
闇 討 ち だ。
無論、闇討ちと言っても、無辜の一般人を襲ったりはしない。
襲うのはそこら辺にいる犯罪者や、『そう言う』組織の人間などだ。
俺はそういった奴らを、鉄パイプから作り出した特製の剣で、次々とぶちのめしていった。
……刃の部分は丸めてるから、斬り殺したりはしてないぞ。
まぁ、そんなことを毎夜毎夜やってたら、遂に報復を受けることに。
とある組織……ヤクザだったか、マフィアだったか…………ともかく俺は組織の奴らの報復により、銃で胸元をズドン、一発で撃ち抜かれてお陀仏になってしまった、と言うわけだ。
あまりにも呆気ない最期。
最期まで剣を満足に振れず、道を究めることができなかった。
だからこそ死に際に、俺は願った。
願わざるを得なかった。
(生まれる時代を……いや、
果たして、そんな俺の願いが届いたのか、もしくは出会ってしまった、と言うべきなのか。
──そいつは俺の前に現れた。
「生まれる世界を間違えた剣鬼ちゃんさぁ、別の世界行ってみない?」
豪華絢爛のふかふかのソファに、肘枕をついてケラケラと笑う、褐色半裸の幼女。
右目には眼球が幾つか入っており、口から出る舌は異常に長く先が割れている。
甘ったるい匂いと、歪な気配が、この世のものではないということを知らしめていた。
「な、なんだ……お前は……」
気づけば、死に際だった俺の身体は万全に。
服はひん剥かれ、素っ裸。
周りには何もなかった。
「ケダモノっ……///」
「えぇ……なにそのキモい反応」
「だって服、剥がされてるし」
「……剣鬼ちゃんって、案外普通だね」
「なんだよ、俺を異常者みたいにいいやがって」
「異常者でしょ」
(まずいな、反論できない)
確かに異常者と言われても、おかしくない人生を歩んできた。
そんぐらいは流石の俺だって自覚している。
深夜に悪人の前へと名乗り出て、片っ端から殴り切っては剣の腕を上げようとしていた。
それを異常者と言わず、なんと言うのか。
「そ、それよりも。お前は誰だ?」
「ボク? んー……なんていうかなぁ……神様?」
「胡散臭っ」
「そーだよねぇ、そう言うよねぇ。でも状況見てから言ってくれる?」
目の前の幼女から周囲へと視線を向けると、そこは地平線の果てまで真っ白な景色が広がる謎の空間であった。
(あまりにも奇々怪々の連続で、気づくのが遅れたが……なんだ、ここ?)
奇っ怪な周囲の景色に困惑していると、自称神様の幼女は舌を出しながらケラケラと笑う。
「ね、どーいう状況か、わかったでしょ?」
「……まぁ、俺の理解が及ばない、と言うことはわかった」
そもそもさっきまで死んでいたというのに、ここにいること自体がおかしい。
死後の世界だって言うのであれば、奴が神様というのも変な話ではない。
(神様実在の云々はさておき、だがな)
「それさえ分かりゃ問題なしっ。じゃ本題に戻るケド……剣鬼ちゃんさ、別の世界行ってみない?」
(別の、世界……?)
あまりにも突拍子のない言葉に、俺は困惑から言葉に詰まって幼女の目を見る。
複数の眼球はギョロギョロ動いてはいたが、その目つきは本気のものであった。
俺は一先ず、次から次へと湧いてくる疑問を飲み込んで、恐る恐る聞いた。
「……と、言いますと」
「はっきり言ってさ、生まれる世界間違えちゃったよね。キミのその剣に対する執念と才能、別の世界なら天下取れちゃうよ。だからさ、その才能、別の世界で活かしてみない?」
「別の世界で活かす……? よくわからんが、剣を振らせてくれる、ってことか?」
「キミそれしか頭にないんだねぇ……でもそーいうこと。銃よりも剣が強く、戦車よりも肉体が強い。様々な強者が跋扈する、そんな世界さ」
(本当にそんな世界があるというのか?)
もしそんな世界があるとするならば、理想の世界なんてものじゃない。
俺の追い求めた全てが、そこにあると言ってもいい。
行かない理由を探す方が難しいくらいだ。
「……仮に、行くとして。俺はどういう状態で行くんだ?」
「キミ、死んじゃってるでしょ。だから肉体持ってくの無理なんだよねぇ。悪いけどさ、転生しちゃってもらうよ」
「転生……赤子からやり直せ、と?」
「そ。鍛え直してもらう必要はあるけど、記憶はそのまんまだからさ、キミが手にした剣の知識はそのまんま、ってわけ」
(肉体は鍛え直し、今の記憶はそのまま……尚良し!)
願ってもない条件だ。
今の知識を引き継いだまま、一からやり直すことができるなんて。
それならば、肉体を鍛え直し、剣を振るのに最適な身体を幼い頃から作り出すことができる。
(……だけどまだ、気になることがあるな)
一つだけ、まだ気になることがあった俺は、彼女に聞くことに。
「悪い話じゃないと思うけど。どーよ」
「……流石に、見返りもなしに、ってわけじゃないだろ」
そう言うと、彼女は嫌な笑みを浮かべて身を乗り出す。
「話が早くて助かるよ。向こうの世界で君にやってもらいたいことがあるんだよね」
「やってもらいたいこと?」
「原初の鍵、って呼ばれるものがあるんだけど。それ探してきてほしいのよ」
鍵、何故そんな物を求めるのか分からないが、なんか凄いものなのだろう。
名前が凄そうだし。
「探すだけでいいのか?」
「そそ、見つけたら、ボクの部下が回収しちゃうからさ。これはキミにとっても悪い話じゃないよ。向こうの世界にも、鍵を求めるやつはいっぱいいるからさ。探してれば強いやつが向こうからやってくるよ?」
探してればより強く、より剣の腕を磨き上げれる、と。
良いこと尽くめだ。
良いことなんだろうが、どうにも釈然としない。
俺にとって都合が良すぎる。
……だがまぁ、それを考えても仕方ないだろう。
当たって砕けろ、だな。
「……わかった。鍵を探しておこう」
「むふふ。任せちゃったよ、剣鬼ちゃん」
じゃあ──と、幼女はひたひたと歩いてきて、俺の額を小突く。
その瞬間、俺の意識がぐらりと揺らぐ。
妙な感覚に俺はもがいて何かを掴もうとするも、掴めるのは空だけで、俺は抵抗一つ取れずに倒れ行く。
「──期待してるよ。剣鬼ちゃん」
最後に見たのは、そんな事を言いながらニヤニヤと、気味の悪い笑みを浮かべる幼女の姿だった。