生まれる世界を間違えなかった男の話 作:たるぽ
「ふぅ──……」
息を吐いて、目の前に吊るした木の破片を見つめる。
風に吹かれゆらゆらと揺れる中、俺は木剣を構えて飛び出す。
斬りつけにより弾かれた木片が飛び、即座に踏み込みから振り向きざまに木剣を振り抜いて、反対へ弾き飛ばす。
勢いづいて大きく飛んだ木片を、再度踏み込んで下から突く。
俺の一撃によって上に突き上げられると同時に、木剣を逆手に持ち直すと同時に振り下ろし追撃、そこから更に数度の攻撃を加えて、木片を完全に破壊した。
(こんなもんか……身体の感覚もだいぶ戻ってきたな。全盛期には程遠いが……)
俺は神を名乗る幼女の案内によって、異世界へとやってきた。
転生先は、こっちの世界のとある小さな村に住む、死にかけていた幼児の身体。
生まれたばかりで病気に掛かり、もはや意思は消え去っていた。
そこに俺は入ったらしい。
らしい、と言うのはこっちに来たあとで、かの幼女神から教えられたことだ。
頭の中で囁かれたときは、ビビって泣き出してしまったのを思い出す。
幼子の反射行動とは言え、恥ずかしい。
ともかく。
こっちの世界に転生してきた俺は16年生きてきた。
立てるようになったときから、剣を振ることだけを考え、そのためだけに鍛え続けて。
こっちの世界は凄まじい。
魔力と呼ばれるものが、目に見えない空気中に存在しているらしく、それを用いて身体能力を上げることができるとのことで。
それで軽々と人間の限界を超えることができる。
ちなみに俺は、本に書いてあることを実践したのだが、未だに上手くいっていない。
(上手く行けば、より剣の高みに近づけるとは思うのだが……まぁ、そう簡単に行くものでもないか)
魔力に関しては練習を繰り返しつつも、今は半分放置という形になっている。
それで今、俺がやっていることはシンプルな剣術の練習だ。
前世での勘と動きを取り戻すべく、村外れの森でとにかく毎日鍛えて剣を振り回している。
それも今終えて、片付けしていたところだが。
「セオ! こんなところにいたんだね」
「よっ、アッシュ」
俺が片付けをしていると、木陰の奥から鈍い金色の髪と狼の耳を生やした、赤パーカーの少女が姿を現した。
春も終わりを告げるというのに、少し寒そうにしている。
「もうお昼の時間だよ……って、あー! また一人で剣振ってるー!」
「悪かったって。朝忙しそうにしてたから、呼ぶのもどうかなって思って」
「もー……」
彼女はアッシュ、と俺が呼んでいるだけで、本名はアシュリー・クレイベル。
俺の幼馴染であり、この村で唯一の獣人である。
獣人と言うのは獣の耳や尻尾などと言った、獣の特徴を持って生まれた人に近しい種族のことを指す。
魔力無しでも身体能力が高い一方、本能に抗えないことも多いとか何とか。
そんな彼女をひと言で表すとするならば、ちっちゃい頃から俺について回っているから……くっつき虫みたいなもんだ。
酷い言い方をするな、と思うだろうが、実際くっつき虫みたいな毎日を送っているのだから、仕方ないだろう。
何処に行く時も後ろをついて回り、気づけば俺の行く場所に先回りしていることもあれば、先に俺のベッドに潜り込んでいることもある。
まさにくっつき虫だ。
まぁそんなわけだから、こうやって練習を始めたときも彼女は付いてきて、俺に剣を教えてくれとせがんできたものだ。
その時から彼女は共に剣を振る、剣術仲間となっている。
「ね、ね、セオ。まだやる気あるでしょ」
そう言うと、彼女は腰にぶら下げていた、木で出来た二本の直刀を手に持つ。
アッシュ、彼女の武器は二振りの直刀。
と言っても、長さはそんなに長くなく、マチェットを少し長くしたような感じだ。
どちらも片手で持てるように俺が調整した特注品であり、彼女のためだけに調整した武器。
彼女はこの二振りの直刀で、俺が教えた剣術を扱う。
「無型流、双刀──行くよ」
深く息を吸って吐くと、アッシュは二振りの直刀を構える。
それに対し、俺も息を吐いて直剣を構える。
「無型流、直剣──来い、アッシュ」
彼女はゆっくりと前のめりになると、体を深く落として強烈な踏み込みを放つ。
両腕を交差し、一瞬の隙で懐に潜り込むと、そのまま斬りつけようと振り切ろうとする。
そこに俺は一歩下がると、剣を真っ直ぐ下向きにして振り抜こうとしたところに、俺の剣を振り上げて挟み込む。
そうして軽く双刀を弾くと、アッシュの姿勢が後ろに崩れ、懐が空いたところに、頭に向けて振り下ろす。
アッシュは咄嗟に、右手の直刀を逆手に持ち直すと、振り切って俺の振り下ろしを受け止め、その側面で剣を受け流す。
と、同時に、その力の流れを利用して、身体に回転をかけ、左手に握った直刀を俺に向けて突くように振る。
それを頭を軽く下げることで、顎すれすれで避けると、構え直して袈裟斬りを放つ。
再度、逆手に持った直刀をぶつけ、俺の攻撃を防ごうとするが、想像よりも重たい一撃だったのか、姿勢を崩して少しよろける。
更に追撃を入れるべく、斜め下、左からの切り払いと次々に攻撃。
そんな連撃に、アッシュは何とか対応を決める。
技術面では俺のほうが上のはずだが、そこは獣人の身体能力でカバーされているのだろう。
(戦闘において、種族差はなかなか大きそうだな……)
アッシュがまだ魔力を使えないだけで、獣人も魔力が使えないわけではない。
それを考慮すると、遥かに高い身体能力差で戦うことになるだろう。
それについては考えて行かなくてはならない。
「ぐっ……こ、こぉっ!!」
アッシュは無理な動きで、逆手に持った直刀を持ち直すと、突きと斬りつけを繰り返し、踏み込みからの踏み込みで、俺に一撃を叩き込もうとした。
攻撃を繰り替えして、隙を与えないようにしてるのだろう。
が、流石に敵を無理に追い詰めようとしたときの単調な動きはよくわかる。
(こういうときは必ず息切れの瞬間が訪れる)
俺の読み通り、アッシュが強く踏み込んで、右手に握った直刀を振り切った瞬間、一瞬だけ息が乱れる。
そこに向けて剣を振るい、手を叩き剣を落とさせ、足を叩き姿勢を崩し、前のめりになったところへ、頭に軽く一撃。
「いてっ!」
これで終いだ。
動きも良いし技量もある、獣人の身体能力で俺よりも遥かに動ける。
未来に満ち溢れているな。
(剣に限るけども……)
「これでまた俺の勝ちだな」
「ぐぬぬ……はぁ、行けると思ったんだけどな」
「攻撃と、息を吸うタイミングは考えるべきだな。まぁ、確かにトドメ刺すことを考えてたなら、あの連撃も悪くはないんだけど」
「難しいなぁ……」
「練習あるのみだな。それよりも、昼飯の時間だろ? 行こうぜ」
「うん!」
俺たちはその場の後片付けをサクッと済ませると、共に村へと向かって行くのだった。