ルリハの冒険〜魔王の復活と勇者の帰還   作:nocomimi

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最強の四人

バシャァ.....ン!!

 

水を跳ね上げて何者かが沼の水面に姿を現した。

 

それは、二本の食人植物だった。いわゆるデクババだ。

 

いや、デクババと言っていいのかわからないほど巨大だ。

 

その頭の大きさはゆうに大人ひとりをすっぽり呑み込めるほど。その表皮は岩のようにゴツゴツしていて、顎には肉食獣のような牙がいくつも生えていた。

 

食人植物たちは威嚇するような音を立てて大きく口を開けると、ルリハたちを獲物と見定めたかのか、ピタリとこちらに向き直った。

 

「な....なんなの...あれ?‥‥無理!」

 

リンクルが目を丸くしながら言う。ルリハは叫んだ。

 

「壁際に下がって!近づいたら噛まれる!」

 

だが、化け物のうちの一体は沼の近くにいたルダに狙いをつけると、茎を大きくたわませて襲いかかる構えを見せた。

 

「先生!危ないゴロ!」

 

身体を岩のように丸めたドンゴが転がって突進する。

 

ギシャァ....!

 

口を大きく開けた超巨大デクババが女医に迫った。だがその横からドンゴが体当たりをぶちかます。食人植物はよろめき、顎を何度も開閉しながら元の位置に戻った。

 

「先生、早く!俺が食い止めるゴロ!」

 

ドンゴが立ち上がって両手の拳を握った。よろけて尻もちをついていたルダは頷くと、慌てて壁際に引き下がった。

 

ギシャァ....!

 

もう一匹の化け物がドンゴに襲いかかった。だがゴロン戦士は化け物の大きく開いた顎を両手で受け止める。

 

「ぬぉぉぉぉ!」

 

じりじりと後退させられた後、ドンゴは相撲の要領で相手を押し返した。だがもう一匹の化け物が顎を大きく開いて襲いかかる。

 

バグ....ン!

 

化け物の顎が、ドンゴの肩口に噛み付いた。

 

「おじさん!」

 

ルリハは剣を抜いて駆け寄った。ドンゴに噛み付いている怪物に斬り掛かる。だが刃が火花を散らすばかりで徹らない。

 

「なんの、これくらいじゃゴロンの岩肌は割れんゴロ!」

 

ドンゴは叫んだ。投げを打って一匹の巨大デクババを投げ飛ばす。さらに片手の拳を握って、自分に噛み付いている個体に思い切りアッパーカットを叩きつけた。二匹の化け物はやや怯んだように引き下がった。だが、それでも顎を開閉しながらこちらの隙を伺っている。

 

「おじさん、爆弾持ってるでしょ?」

 

ルリハはドンゴの横で剣を構えながら言った。

 

「持ってるゴロが、こんな連中相手に使うのは勿体ないゴロ」

 

ドンゴが答える。だがルリハは横目で相手を見ながら応じた。

 

「どうせ王城の予算なんだからケチらなくていいじゃん。あたしに貸して」

 

「市民の血税を無駄にするゴロ?」

 

「あたしたちの誰かが本当に血を流すよりはマシだと思うけど?」

 

言い負かされたと悟ったのか、ドンゴは鼻を鳴らしながら腰の袋に手を伸ばした。

 

その瞬間、二匹の超巨大デクババが同時に攻撃の構えを取った。

 

「俺の後ろに下がるゴロ!」

 

ドンゴが叫び、両腕を上げてガードした。ルリハは身を低くして彼の背後に転がり込んだ。

 

ドカ....ン!

 

二匹同時のぶつかり攻撃で、ドンゴはまた後退させられた。だが、どうにか凌ぐと、拳を振り上げて一匹の頭に重い一撃を叩きつける。

 

ルリハは後ろからドンゴの腰の袋に手を伸ばすと、爆弾を取り出して点火した。

 

もう一匹の化け物が再びドンゴに噛みつこうとした。だがドンゴもその顎に手をかけ、食い止めている。一方、拳を受けたほうはフラフラと揺れながらも、首を何度も振って立ち直ろうとしている。

 

ルリハはドンゴから離れながら叫んだ。

 

「化け物!こっちよ!美味いもの食わせてやるわ!」

 

立ち直った化け物が、ルリハに向き直った。

 

点火してから二秒。三秒。四秒

 

時間がない。

 

冷や汗が背筋を垂れ落ちた瞬間。

 

ギシャァァァァ!

 

化け物が顎を開いて襲いかかる。ルリハは火のついた爆弾をトスすると横に飛び込んだ。

 

バクン、と音を立てて顎が合わさったかと思うと、その中から鈍い爆発音がした。化け物のピッタリと合わさった歯の間から、煙が立ち上っている。すると、その個体は生気を失ったように萎れていった。

 

「ええい、分不相応な食事に感謝するゴロよ!」

 

ドンゴは片手で化け物を捕まえたまま、袋に手を伸ばして爆弾を取り出し、歯で着火ピンを外して相手の口の中に放り込んだ。

 

ボンッッ...!爆発音がしたかと思うと、化け物が萎れていく。

 

「やれやれ、最近の若いモンは楽したがるゴロなぁ」

 

ドンゴは溜め息をつくと両手を打ち合わせた。

 

「だって仕事は早く終わらせたほうがいいでしょ?おじさん」

 

ルリハは肩に剣を担ぎながら相棒を見上げた。

 

「一袋貸して。あたしも結構使えるのよ?」

 

「ったく子供の癖に危ない遊びに手を出すとロクなことにならないゴロよ」

 

「子供じゃないの。あたしがリーダーってアッシュさんが決めたでしょ?」

 

するとドンゴは渋々ながら爆弾袋を一つ腰から外し、手渡してきた。

 

「二人とも....!まだ終わってないわ」

 

壁際に下がっていたルダが声をかけてきた。ルリハが驚いて振り返ると、女医は深刻な表情で続けた。

 

「勇者リンクが言ってた怪物よ.....ババラント。その本体は巨大な....」

 

その瞬間だった。

 

再び水面が激しく泡立ち、揺れ動く。

 

やがて、萎れて水面に垂れた二匹の食人植物を押しのけるようにして巨大な何かが出現した。

 

――それは一輪の花のような形をしていた。

 

しかしここまでおぞましい花は想像できないというほど醜い形をしている。

 

茎の根元のほうはまるで巨大な木のような太さで、両生類生物の腹のようにぶよぶよとした皮膚で覆われている。

 

先端の花弁は分厚い肉質で、その大きさは一枚一枚が家畜一頭分くらいはありそうだ。

 

それに加えて、新手の二本の巨大デクババも左右に浮上して飛び出し、鎌首をもたげた。

 

そして中央の「花」は蛇のように体をくねらせたかと思うと、茎を曲げ先端の花弁をルリハたちのほうに向けた。

 

花弁が大きく開き、『吠え声』を上げた。その中にある巨大な目玉がこちらを見据える。

 

「う....そでしょ」

 

リンクルが呟く。ルダは叫んだ。

 

「ふたりとも早く下がって!」

 

ルリハは一瞬迷った。リーダーの自分が先に退避していいのか。

 

だが考える間もなく、ドンゴの巨大な背中がルリハの眼の前に立った。

 

「お前が先に行くゴロ!」

 

ギシャァァァァ!

 

ほぼ同時に新手の食人植物たちが襲いかかる。防御の姿勢を取ったドンゴに、巨大な顎が次々と噛み付いた。

 

「おじさん!おじさんもすぐ逃げて!」

 

ルリハは叫びながら後じさりした。いくら頑健なゴロンとはいえ、このままやられ続けていたらいつか倒れてしまう。

 

「お姉ちゃん!爆弾ちょうだい!」

 

その時壁際にいたリンクルが叫んだ。ルリハは驚いて彼女を見た。

 

「爆弾ちょうだい!うちのボウガンで飛ばせる!魔物の本体にぶつけるから!」

 

そう叫んだリンクルは立ち上がると、自分の二挺のボウガンを縦にくっつけた。

 

金属音がして、一挺ボウガンの銃尾部分がもう一挺の先端部分と噛み合うように固定された。

 

リンクルはさらに、ボウガンの横から出てきたクランクを回し始めた。だが力が必要なのか、顔を赤くして唸り声を上げている。

 

「うううううううん.....できた!お姉ちゃん、早く!」

 

ガシャンと音がして、ボウガンの弓がたわんだ状態で固定された。本体の横に飛び出したスプリングが、ギリギリ限界まで引っ張られている。

 

いっぽう、ドンゴは二匹の食人植物どもと必死で格闘していた。噛み付いてくるのを受け止め、振り払い、殴りつけている。

 

「おじさん、もう少し....!」

 

ルリハはそう叫びながら取って返した。噛みつき攻撃でドンゴの肩や背中の装甲が削られていくのが見えた。

 

「ほ‥‥ほんとにこれで飛ぶの?」

 

リンクルに駆け寄ると、ルリハは爆弾を一つ取り出しながら尋ねた。リンクルのボウガンは普通のものよりかなり小さい。

 

「パパが言ってた。『グレネードランチャーモード』だって」

 

リンクルは矢を装填すると、その先端に爆弾を装着しながら言った。

 

「でも三回以上は連続で使うなって。壊れるから」

 

「ルリハ、ここはリンクルに任せましょう。あなたはドンゴさんを援護して」

 

ルダが言う。ルリハは頷くと爆弾袋を渡した。

 

「ああいう魔物は目玉が弱いってパパが言ってた」

 

リンクルは呟きながらボウガンを両手で上げ、狙いをつけた。その顔色は蒼白く唇は緊張で震えている。だが、口調に迷いはなかった。

 

「ぬぉォォォッ!」

 

ドンゴが雄叫びを上げながら巨大デクババたちと格闘している。

 

――おじさん、死なないで――

 

ルリハは念じた。

 

「リンクル、点火するわよ!」

 

ルダが叫ぶと、爆弾の点火ビンを外した。たちまち火花と煙が上がる。

 

「いけぇぇぇ!」

 

リンクルは狙いをつけると引き金を引いた。

 

ドヒュンッ‥‥‥‥!

 

反動でリンクルはのけ反った。同時に、爆弾矢が放物線を描いて飛んでいく。

 

爆発音がした。魔物がよろめく。

 

その目玉に爆弾がぶち当たったのだ。

 

次の瞬間、そいつは前のめりに傾くと、こちら側の地面に向かって首をうなだれるようにして曲がり、地響きを立てて倒れた。

 

ルリハは考えるより先に飛び出した。ダッシュして駆け寄ると、「花」の花弁の間にある目玉に躍りかかる。

 

気合いの声を上げると、その目玉に向かってジャンプ斬りを叩きつけた。

 

手ごたえがあった。その瞬間怪物花は苦し気な吼え声をあげ、目を覚ましたかのように体を起こし、先端を高く上げた。

 

まだ生きている。だが傷を与えたのは確からしい。

 

「お前ら、グッジョブだゴロ!」

 

ドンゴは噛まれた肩をさすりながら振り返る。巨大デクババたちも、痛みを感じたのか引き下がり始めた。

 

「みんな、気をつけて!」

 

そのとき、ルダの叫ぶ声がした。

 

見ると、怪物花が体を大きく膨らませ、何かを吹き出した。

 

花弁から放たれた毒々しい紫の液体が、一直線を描くようにしてルリハに向かってくる。

 

彼女は横に転がって避けた。だが、怪物花は他の誰でもいいと思ったのか、向きを変えてそこらじゅうに毒を撒き散らし始めた。

 

ドンゴが顔を両手で覆った。リンクルとルダも逃げ惑った。部屋の中に霧が立ち込める。

 

「な....ッなにこれ?」

 

ルリハは口を手で押さえながら咳込んだ。鼻と喉が焼けるように痛い。

 

「ルリハ!吸い込んじゃだめよ!」

 

ルダが口にハンカチを当てながら言う。もう一枚のハンカチをリンクルの口に押し当てていた。ドンゴも咳き込みながら叫んだ。

 

「ゲホッ...!俺の労働環境を悪化させやがって、許さんゴロ!」

 

やがて毒を全て吐いてしまったのか、怪物花は一瞬動きを止めた。

 

「うち......負けない!絶対に!」

 

そう叫んだリンクルは眼からボロボロ涙を流しながらも、再びボウガンのクランクを回した。矢を装填し爆弾を装着する。

 

「先生、点火して!」

 

リンクルの合図でルダがピンを抜いた。火花と煙が飛び散る。

 

「当たれぇ〜ッ!」

 

リンクルが引き金を引き、再び爆弾矢が飛んだ。怪物花の目玉に直撃する。

 

「よっしゃッ!」

 

ルリハは立ち上がると、全速力で走った。こちらに倒れてきた怪物花に殺到すると、その先端にある目玉に縦斬りを叩きつけ、余った勢いで回転斬りを浴びせる。

 

怪物花が再び悲鳴を上げて跳ね起きた。だがドンゴが指をさした。

 

「見ろゴロ!」

 

見上げると、怪物花の茎の根本からみるみるうちに葉脈のようなものが駆け上っている。それが先端にまで達すると、傷だらけになっていた目玉が綺麗になっていく。

 

「か....回復してるわ...」

 

ルダが唖然として呟いた。だがドンゴは振り向くと合図してきた。

 

「ルリハ!次は俺が押さえるからお前がとどめを刺すゴロ!」

 

「.....わかった。..リンクル!」

 

「了解ッ!最後の一回、決めるから!」

 

合図を受けたリンクルはボウガンを両脚ではさみ、クランクを回し始めた。

 

だが、怪物花の両側にいる巨大デクババたちも勢いづいたのか、顎を開閉しながら獲物を探し始めた。

 

「点火するわ!」

 

リンクルが矢を装填し爆弾を装着すると、ルダが叫ぶ。爆弾が点火されるとリンクルは狙いをつけて引き金を絞った。

 

ドヒュ...ンッ!

 

飛んでいった爆弾矢が花弁の真ん中の目玉に命中した。爆発音がして、またも怪物花がぐらつき、倒れた。

 

「観念するゴロ!」

 

ドンゴは突進すると、怪物花の花弁の首にしがみついて地面に押さえつけた。

 

ルリハもダッシュした。毒水で湿った滑りやすい床で転びそうになりながらも、ドンゴが押さえている花弁めがけて殺到する。

 

―――とどめを刺すんだ。

 

走りながら無意識のうちに剣を逆手に持ち換える。

 

だがその瞬間、その『目玉』がギョロっとこちらを向いた。

 

化物花の茎がビクンと震えた。力を失っていたデクババたちも気を取り直したようにこちらを向く。

 

あと三メートル。二メートル。

 

茎が激しく暴れる。ドンゴが歯を食いしばってそれを押さえつけていた。デクババたちが身体をたわめて攻撃態勢をとるのが見えた。一瞬の間にさまざまな考えが頭に浮かぶ。

 

――もし外したら....

 

――いや、外さない!

 

その瞬間、ルリハは地面を蹴って飛び上がった。

 

柄に左手を添え目玉に向けて落下する。

 

ズシ....ッ!

 

思い切り突き立てた切っ先が、相手を貫き通し地面にまで達した。

 

グオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!

 

化け物花が地響きにも似た断末魔の声を上げる。ルリハは剣の柄に全体重をかけた。だが化け物花は茎をうねらせる。まるで大蛇のようだ。

 

次の瞬間、嫌な音がした。剣に刺されたままの怪物花が暴れ過ぎて、目玉が胴体から千切れてしまったのだ。

 

怪物花は苦し気に上を向くと、身体に残っていた毒液の残りを吐き出しながら、右、左と大きく体を振り回し始めた。

 

ひとしきり暴れたあと、化け物はやがて動きを止めた。見ると、下のほうから急速に枯れ始めている。先端までが枯れてしまうと、その体色がみるみるうちにどす黒くなっていった。

 

「お....終わったゴロ?」

 

ドンゴがようやく立ち上がった。ルリハは剣を地面から抜くと、荒い息をつきながら答えた。

 

「終わった...ね」

 

彼女は片手の拳を上げた。するとドンゴは自分の巨大な拳を軽く突き出してルリハのそれにそっと当てた。

 

* * * * * * * * * * * 

 

「やったぁ!うちら、最強のパーティだね」

 

リンクルが嬉しそうにガッツポーズした。ルダは苦笑しながら魔物の死骸に近づくと調べ始めた。

 

「沼の水質が浄化されてるわ。この化け物が『魔』の源だったってことね」

 

「ルダ先生、あの字....読める?」

 

ルリハは博士が立っていた祭壇に刻まれた文様を指さした。

 

「あれは....『影の国』の文字ね」

 

ルダは言うと、眼を細めてそれを見つめた。

 

「....魔生物の力を用いて....胚を培養す....」

 

「凄い!先生読めるの?」

 

リンクルが声を上げた。ルダは肩をすくめて微笑んだ。

 

「少しはね。父が一時期凝ってたのよ」

 

「あっと忘れてた。点呼。ルリハ」

 

「ドンゴ」

 

「リンクル」

 

「ルダ」

 

ルリハは全員の顔を見回し、そして呟いた。

 

「...確かに最強だね。この四人」

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