ルリハの冒険〜魔王の復活と勇者の帰還   作:nocomimi

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勇者の行方

ルリハたち四人は苦労してダンゴロスの遺体を持ち上げると、改めて墓所の元の場所に戻した。

 

ドンゴは、しばらくの間物言わぬ兄の前にひざまずき頭を垂れていた。ルリハがふと見ると、その頬には大粒の涙が流れていた。

 

「おじさん....」

 

ルリハは思わずドンゴの太い腕に手を回した。リンクルも同じようにし、ルダは彼の背中に手を置いた。

 

「.....俺は兄貴に憧れて、兄貴の背中ばかり追いかけてたゴロ。子供の頃身体の小さかった俺にとって兄貴はスーパーヒーローだったゴロ.....」

 

ドンゴは手の甲で顔を拭いながら言う。

 

「兄貴はそんな俺を励ましてくれたゴロ。『お前も頑張れば強くなれる』って....」

 

「優しいお兄さんだったんだね...」

 

リンクルもまたダンゴロスの死に顔を見つめながら呟いた。

 

「だけど、そんな兄貴が死んで、俺は生きる目標を失ったゴロ。だから鉱山の仕事も辞めて気ままな行商で時間を潰してたゴロ。でも、何をやっても虚しかったゴロ」

 

そこまで話すとドンゴはゆっくりと身体を起こした。

 

「そんな時、お前らふたりが危険な西平原に向かっていくのを見て、なぜか『俺が守らなきゃ』って思ったゴロ」

 

ルリハはドンゴに言った。

 

「ありがとう、おじさん。あの時おじさんが守ってくれてなかったら今頃あたしたちは...」

 

「いや、お前らのためというより、俺自身のためだゴロ。何より、兄貴も生きてたらそうしろって言った気がするゴロ」

 

「お兄さんも?」

 

リンクルがドンゴの顔を見上げた。

 

「ああ。兄貴は常々言ってたゴロ。『勇者リンクはお節介な野郎だった。だがそのお節介に俺たちゴロンが救われたんだ。お前もお節介になれ』って」

 

ドンゴは初めて笑顔を見せた。

 

「ほとんどのゴロンは自分から他の種族に構ったりはしないゴロ。だけど、兄貴はそれじゃいけないって気づいてたゴロ。だから俺もそうしたんだゴロ」

 

ルダは静かに言った。

 

「お兄さんは本当のチャンピオンね。強いだけじゃなくて謙虚にもなれる....」

 

「俺は兄貴の真似をすることにしたゴロ。だから、この冒険をやり遂げるまでお前らを手伝うゴロ」

 

ドンゴは言う。ルリハたち三人は頷くと、彼の巨大な拳に自分の拳を打ち合わせた。

 

* * * * * * * * * * *

 

改めてダンゴロスの遺体の安置が終わると、四人は周辺を調査した。ドンゴが言った通り、遺体の並べられた墓所の周囲は溶岩だまりに囲まれている。だが、リンクルのコンパスの反応する先を調べると、奇妙な機械装置が見つかった。ルダは、溶岩だまりに半ば没したその装置のスケッチを取った。

 

「やっぱ変な文字が書いてあるね」

 

リンクルが言うと、ルダが答えた。

 

「....『魔導石精製....機』...。これも『影の国』の文字ね。溶岩の熱で鉱石を精製したんだわ」

 

「やっぱり博士に先を越されちゃったね。次こそは先回りしないと」

 

ルリハは唇を噛んだ。だがルダはあくまでも冷静だった。彼女はスケッチを続けながら言った。

 

「死人を復活させる技術は理論上存在はしても、実現させた人間はいない。私の個人的な見立てでは、まだ博士の計画の進捗は半分、あるいはそれ以下よ」

 

「まだまだ途中ってことなの?だったらいいけど...」

 

リンクルも不安そうに言った。ルダはスケッチを終えると言葉を継いだ。

 

「とにかくシャッド博士に情報を送りましょう。それから.....」

 

彼女はドンゴとルリハに向き直ると人差し指をつきつけた。

 

「あなたたちの治療も大事だわ。並んで座りなさい」

 

ルダは、ドンゴの皮膚の火傷と裂傷を手際よく治療し始めた。ドンゴは放っておけば治ると言い張ったが、結局女医に言い負かされ黙り込んだ。さらに、軽度の火傷を負っていたルリハは、全身を防具で覆うよう強く勧められた。

 

「ルリハ、どうして服装についてはアッシュ姉さんを見習わないの?」

 

「え....どうしてって。あの鎧暑そうだし、重そうだし....」

 

「ダメ。同じ負傷でも鎖帷子一枚で全然違うわ。私が何人の兵士を診察してきたと思ってるの?」

 

治療が終わるころにはルリハもドンゴもすっかり大人しくなってしまった。

 

「お姉ちゃん、動物病院に連れてかれた猫みたい...」

 

見ていたリンクルが呟く。だがルリハは聞き逃さなかった。

 

「なに?何か言った?」

 

「なんでもない!なんでもないから!」

 

* * * * * * * * * * * * * * * * 

 

鉱山を出た四人は、馬車と合流し、報告書を伝書鳩にくくり付けて飛ばした。そして礼拝所で一泊すると、補給のため王城に戻ることにした。大事をとって南ハイラル平原から大回りし、途中野営して城下町を目指した。

 

だが、南門から城下町に入ると、ルリハたちは異変に気付いた。

 

目抜き通りを奇妙な行列が練り歩いている。皆、黒い服を着て、顔には鬼のような面を被っていた。

 

御者のアレハンドロが馬車を乗り入れようとすると、兵士たちに制止されてしまった。

 

「一体全体何事だぃ?まるでお祭りみてぇじゃねぇか」

 

「今日はデモ行進の届け出が出てるんだ。悪いがここは通行止めだ。外から回り込んでくれ」

 

御者が尋ねると兵士たちは答えた。ルリハは面食らって兵士に聞いた。

 

「なんですか?デモ行進って」

 

「表現の自由って奴だよ。なんでも、魔王は悪者ではないとか、鬼にも人権がある、とか、おかしなことを唱えてる奴らがいるのさ」

 

兵士も半ば呆れ顔だった。仕方がないので、ルリハたちは馬車を置いて徒歩で王城に戻ることにした。

 

「一体なんだっていうの?『魔王は悪者ではない』とかって。頭がちょっと変になっちゃったのかな」

 

ルリハは腹立ちを感じながら込み合った道を急ぐ。するとルダが答えた。

 

「ここ数年急に取りざたされるようになった議論よ。魔王や鬼の起源についていろんな説が唱えられる過程で、『彼らも元は人間だった』とか言う人たちも出てきたの」

 

「だからって...。魔王がどれだけ悪いことをしたか、帳消しにするわけにいかないでしょ?」

 

「それが奇妙なのよ。彼らの言うには、魔王は既に一度死んだから無罪だって」

 

「はぁあ?」

 

ルリハは驚いて声を上げた。

 

「理論的には間違ってないわ。死者をもう一度裁くのはハイラルの法に反するから」

 

「でも...そんなことって...」

 

すると、行進から奇妙な唱和が聞こえてきた。

 

「...魔王さま、万歳!」

 

「...魔王さまの蘇りは近い!」

 

ルリハたちは背筋が凍るような気がして立ち止まった。そしてルリハは腕まくりして抗議に行こうとした。だがドンゴがその手を掴んで押しとどめた。

 

「やめとけ、人間と戦っても仕方ないゴロ」

 

「でも....!」

 

「人間はゴロンと違って忘れっぽいゴロ。多分奴らは本当に何も知らないんだゴロよ。魔王が恰好良い武将かなんかと同じだと思ってるんだゴロよ」

 

「そうね。先を急ぎましょう、ルリハ」

 

ルダも言う。ルリハは渋々ながら従った。

 

四人が城の入り口に着くと、兵士たちは直ぐに中に通してくれた。前庭に入ると、城の建物からシャッド博士が走り出てきた。

 

「みんな、無事で良かった....!」

 

博士は息を弾ませながら四人の前に来ると、言葉を継いだ。

 

「君たちの寄せてくれた情報を分析したんだ。博士の次の目的地の見当もついたよ。疲れているところ悪いが、すぐ来てくれ」

 

一行は以前女王と謁見した会議室に通された。前回と違い、大勢の廷臣たちの姿は見えない。

 

シャッド博士は円卓の上に散らばっていた書類をかき集めると説明を始めた。

 

「彼はフィローネ地方の『原初の森』において魔生物の力で魔王のクローン胚を育てた。次に、火山の炎を利用して魔王の額に力を与える魔導石を錬成した。だが魔王の身体を完成させるには『胚』を成体になるまで育成しなければならない。その場所として可能性があるのは....」

 

博士は地図を引き寄せるとラネール地方の北を指さした。

 

「ここだ。ゾーラの里のさらに北方にある山中の研究施設跡地だ。百年前に閉鎖されたが、まだ取り壊されずに残っていた」

 

「待って下さい...じゃあその施設って『影の王』が作ったものじゃなくってハイラル王国のものなんでしょうか?」

 

疑問に思ったルリハが尋ねると、シャッド博士は一瞬言葉に詰まった。そして苦い顔をしながら頷いた。

 

「.....そうだ。これは言ってみればハイラル王国の汚点さ」

 

「私から説明します」

 

その時、部屋の奥から声が聞こえた。目を上げると、ゼルダ女王が数名の廷臣たちを伴って部屋に入ってきたところだった。その中にアッシュも混じっていた。

 

* * * * * * * * * * * 

 

「人間と魔物のハイブリッドの研究は私の曽祖父の代まで行われていました」

 

席についた女王が静かに言う。四人は身じろぎもせず聞き入っていた。特に、ルリハは驚きのあまり瞬きすることも忘れていたほどだった。

 

「民間主導で、ではありません。王室が命じて行わせたのです。強力な兵器を得るために」

 

「....兵器....?」

 

ルリハは思わず生唾を呑み込みながら呟いた。女王はゆっくりと頷く。

 

「軍事的に絶対的優位を得ることは権力者にとって最大の誘惑です。そうして私の父祖たちは禁を破りその研究に手を染めました。ノクス博士は、二つあった研究所のうちの一つで働いていたのです」

 

「あのう...女王さま...」

 

リンクルが恐る恐る手を上げながら尋ねる。

 

「博士って、じゃあ今何歳なんですか?その研究所って百年前に潰れたんでしょ?」

 

「百三十歳を超えます」

 

女王が簡潔に答える。四人は驚きの余り目を丸くした。シャッド博士が引き取って説明した。

 

「博士が働いていた研究所は俗に言う『雪山の廃墟』さ。そこと、もう一か所の『氷壁の砦』―――この2か所が王室によって設立された秘密施設だったんだ。実験の失敗で閉鎖されるまでこれらの施設の活動は続いた」

 

ルリハは頭に浮かんできたある考えを口にした。

 

「シャッドさん、もしかしてノクスって....」

 

「そう。彼自身ハイブリッドさ。自らを手術させ、考えられないほどの長寿命を獲得したんだ。そして、王立施設の閉鎖後も私財を投じて研究を続けていた」

 

シャッドが心を読んだように答える。ルリハたちは背筋を寒気が上っていくのを感じた。少しの沈黙の後、女王が口を開いた。

 

「ノクス博士は、我が父祖たちの過ちにより生み出された亡霊のようなもの。それをあなたがたに対処させるのは心苦しいです」

 

女王は皆の顔を見回した。

 

「ですが...どうか....お願いします。博士を追い、その計画を突き止めてください」

 

ルリハは答えた。

 

「女王さま、あたしたちにお任せください。きっと博士を捕まえてみせます」

 

「いや、ルリハ嬢。逮捕する必要はない。ただ計画の詳細を突き止め報告するだけでいい」

 

今まで黙っていたアッシュが横から言う。ルリハは戸惑って尋ねた。

 

「え?...どういうことですか?」

 

「貴女たちの報告を受けて、既に培養場を封印するため工兵隊を派遣した。以後二度と利用できないようにな。だが博士本人を倒すには相当の兵力が必要だ」

 

アッシュは静かに続けた。

 

「奴はまだ多くの配下を抱えている。正面から戦えば犠牲は避けられん...。言ったはずだ。貴女の任務は王国のために死することではない。生きて戻ってくることだ」

 

「でも....あたしは剣士です。悪者を見て戦わずにいるなんてできません」

 

ルリハは言った。するとアッシュは首を振った。

 

「貴女は『剣士見習い』だ。違うか?」

 

「....でも、勇者は魔王を倒したとき『剣士見習い』だった...ですよね?」

 

食い下がると、アッシュは僅かに苦笑いした。

 

「リンク殿は普通の剣士ではない。それは貴女もわかっていよう」

 

「それは...そうですが...」

 

ルリハが口ごもると、アッシュは彼女の肩に軽く手を置いた。

 

「どうやら貴女はいくつかの修羅場をくぐって自信を付けたようだ。それ自体は悪いことではない。だが、用心はし過ぎるほうが不足するよりも良い」

 

するとルリハは突然気づいた。以前なら、アッシュに向かって自分の考えを述べるなんて恐れ多くてできなかったのに。自分を見つめるアッシュの目には、仲間を見るような親しみが込められているように見えた。

 

「貴女はまるで十七の時の私のようだ、ルリハ嬢」

 

「え?....今....なんて?」

 

唐突な相手の言葉にルリハはびっくり仰天して声が裏返ってしまった。

 

「そのままの意味だ。実力はある。だが危うい。私もそうだった」

 

「え....いや、あたしはそんなつもりでは.....」

 

思わぬことにルリハは舞い上がってしまい、後段を聞き損ねてしまった。するとリンクルがまた無邪気な声で尋ねた。

 

「じゃあ、博士は誰が捕まえるんですか?」

 

「....あれほどの敵を追跡し倒すにはリンク殿の力が必要だ」

 

アッシュが言う。だが、その時女王や廷臣たちの表情が沈んだ。やがて女王が口を開いた。

 

「これも、私の責任です。彼は自らにかけられた魔王の血の呪いを解くことを願っていました。その手がかりを探すために旅に出たのです。私の手で彼を癒そうと試みましたが、できませんでしたから。それで私は彼を旅に送り出しました」

 

女王の口調は沈痛だった。

 

「ええっ....?じゃあリンク兄ちゃんは....」

 

ルリハが尋ねると、女王は続けた。

 

「彼は行方不明です。....何年も前から」

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