息をする様に人を助ける友が……
全く持って反吐が出る。
真実は、常にシンプルである。ただし、それは決して安易ではない。
巡る物語は走れメロス、もしもセリヌンティウスが弱かったら。
ーー演技正ーー
私は、人を疑うことを知らぬ男であると思われていた。
ーーそう思われる様努力した。
唐突だが、私には無二の友が居る。
まだ互いに小さな頃。夕焼けを見ながら交わした、小さな約束。
――互いに、何時までも親友で居よう。
その約束を、今になっても律儀に守り続けている男だ。
ある日、突然羊肉を持ってきたと思ったら、十年も前の約束を守りに来たこともあった。
そして、正義の信奉者だった。
何でもないかのように落し物を拾い持主を探し
困ってる人が居たら牧師かの様に奉仕をする
幼い頃。道端で、私達より五つは歳上の人間が暴力を振るっていた時。
私は恐怖で、何も無いかの様に振る舞っていた。
その時、友は真っ直ぐに向かい、説教を始めたのだ。
私は慌てて後を追い、加勢したが……
結局、暴力には勝てず、二人で夕日を見た。
そんな友が。
朝方、城の兵士がやって来て、私に言った。
「お前の友が王に不敬を働いた。
即日処刑だったが、妹の結婚式にどうしても出たいから、担保としてお前を差し出した」
私は、理解出来なかった。
何故、私なのか。
誰が指定したのか。
そう思い、兵士に訊ねた。
「わかりました。ですが、その私の友の名前を教えて頂きたいです」
名前を聞いた瞬間、酷い目眩がした。
嗚呼、遂にか、と。
あの正義感を拗らせたバカが、やらかしたのだ。
そして同時に、都合が良いと思ってしまった。
昔から、ただ漠然と「良き人で在りたい」と思っていた私には、
これはあまりにも理想的な最後だった。
石工として尽くし、良き隣人であった私の――
そのイメージを守れる。
処刑場に連行され、まるで殉教者の様に吊るされる。
さぞ滑稽な景色だろう。
何せ貼り付けにされる人間は、
友など欠片も信じていないのだから。
処刑場には人々が集まり、見世物にしていた。
私は、ぼんやりと思った。
美しい最後を後世に遺せそうだ、と。
太陽が沈みかけた頃、王は私に言った。
「彼奴は来ないぞ。お前は生贄にされたんだ」
もし、この場に居たのが友なら。
きっとこう言うだろう。
そう思いながら、笑いそうになるのを堪えて――
「私は、友を信じています」
とだけ言った。
果たして、友を利用したのはどちらなのか。
分からない。
私は、理想に溺れることが出来るのだろうか。
夕日が沈みきる、その瞬間。
処刑場の外がざわめいた。
知らぬ間に唾を飲み込み、耳を澄ます。
死人の様な、それでいて確かな足音。
友は、処刑寸前で辿り着いた。
来るはずが無いと思っていた私は、
自分が酷く矮小に思えて仕方がなかった。
その中で、友は――
頭を下げた。
「すまない。こんなに待たせてしまった」
その言葉を聞いた時。
打算的な考えが浮かんだ。
――今なら、「揺らいだことに出来る」と。
嗚呼、私は何故こんなにも醜いのだろう。
そう思いながら、
欠片も悪びれない友の顔を張り倒した。
少しでも、この友に歪みを与えたかった。
嗚呼。
この友の事が、心底妬ましい。
⸻
ーー陽影ーー
私は、血を吸った砂の上で倒れていた。
無二の友であり、担保として残した男に殴られたからだ。
「友よ。私は信じていた。
君は約束を守る。曲がった事が嫌いな人だ。
だから、来ると分かっていた。
これで、私を身代わりにしたことは許そう。」
そう言って、無二の友は抱擁してきた。
嗚呼、神よ。
この様な理想の友を、ありがとう。
ーーーーーーー
この街の王は、暴君であり邪智暴虐の限りを尽くしている。
そう聞いた時、私は本来の目的を忘れ、王宮へ向かった。
不思議なほど容易く王の前へ辿り着き、私は言った。
何故、国民を冷遇するのか。
何故、人々を怯えさせるのか。
立派な通りに、人が居ないではないか。
私は王の逆鱗に触れ、処刑を言い渡された。
その時になって、ようやく冷静になった。
処刑が怖い訳ではない。
だが――本来の目的は違う。
妹の結婚式の為の祭具と花束。
それを持ち帰るために、ここへ来たのだ。
……私は、一つの残酷な決断をした。
「王よ。私は処刑など怖くない。
だが妹の結婚式を終わらせたい。
その間、無二の友を担保としていただけないだろうか」
王は、嘲る様に笑った。
「いいだろう。期限は三日。太陽が沈むまでだ」
私は、事情を説明する時間も惜しみ、故郷へ戻った。
結婚式は滞りなく終わった。
宴も、全力で楽しんだ。
最後の宴として。
目を覚ましたのは、処刑の日の朝だった。
ふと、このまま妹と新郎と暖かな家で
次の日を迎えたいと思った。
だが、その私は胸を誇れない気がした。
手紙を残し、私は走り出した。
道中、様々な困難があった。
王都に近づく頃には、身体は限界だった。
それでも、辿り着いた。
そして、殴られた。
それでも私は、安心していた。
この友は、まだ私と友で居てくれる。
私は――私を守れたのだ。
なんとも、度し難いことなのに。
⸻
ーー落日ーー
余を探る者が市場に居ると聞いた時、またかと思った。
余の国であるのに、騒ぐ者は尽きない。
いい加減、黙らせようと思い――
わざと余の前まで通す様、兵に命じた。
その男は、まるで余がこの世の悪の様な顔で現れた。
理性も無く、違和感すら覚えていない様だった。
話はいつもと同じ。
余が国を腐らせる。独裁だ。邪智暴虐だ。
聞き飽きた。
処刑を告げた時、男は青ざめた。
妹の結婚式がある、と。
どうしても帰りたい、と。
そして言った。
処刑は怖くない、と。
余は、あまりの愚かさに興味を持った。
友を担保にする、という提案も受け入れた。
だが面白くないので、期限を設けた。
時間を超えれば、友を殺す。
保証人は、納得した顔で現れた。
処刑場で、余は言った。
「お前は生贄にされたのだ」
だが男は言う。
「私は、友を信じています」
そんなはずがない。
人は皆、自分の命が可愛い。
余はそう確信し――念の為、妨害も用意した。
そして、落日の時。
余は、汗を流していた。
何故か、恐怖していた。
その時、人々が騒ぎ出した。
死人の様にボロボロな罪人が、現れた。
何故だ。
何故、来た。
命が惜しくないのか。
堪らず問うた。
すると二人は、不思議そうな顔で言った。
「ただ、友を信じただけです」
嘘ではない目だった。
余は、理解出来なかった。
そして――恐怖した。
この理解出来ぬ存在を、視界から消したくなった。
気付けば、無罪としていた。
余は一人、処刑場で落日を見ていた。
あの様が人だとしたら……余は、狂って居るのだろう。
ーー宴もたけなわーー
歓声の中を、無二の友と歩く。
「ありがとう」
「怖い思いをさせて、すまなかった」
そう言って、私を支えるこの男は
眩しい笑顔を見せてくる。
嗚呼、友よ。まるで太陽の如き男よ。
何故、お前はいつも先に居る。
群衆は、私を見ていない。
見ているのは――
処刑されに戻って来た、お前だ。
嗚呼。
私はただ、隣に居ただけの誰かになる。
嗚呼、今日も――
嫌悪する日が沈む。
初投稿失礼します。
何となく、学芸会で行った走れメロスを思い出し
執筆の方してみました。
昔と比べると、色々捻くれましたが未だに好きな作品の1つです。
最後まで呼んで頂きありがとうございます。