俺の双子の弟は緑谷出久 ~大魔道士ポップと憑依する竜の騎士~ 作:篠原えれの
「ってえ……両腕両脚撃たれた……完敗だ…脳無もやられた、手下共は瞬殺だ……子供も強かった……平和の象徴は健在だった……!話が違うぞ、先生……」
モニター越しに、そう愚痴を零す死柄木。
『違わないよ。ただ、見通しが甘かったね。』
『うむ……なめすぎたな。ヴィラン連合なんちうチープな団体名で良かったわい。ところでワシと先生の共作、脳無は回収してないのかい?』
先生と呼ばれる声の他にもう一人老人の声が聞こえてくる。
ワープゲートの男……黒霧が話す。
「崩れ落ちて、消滅しました。消滅したものを回収するのは不可能です。」
『消滅?倒したのはオールマイトじゃないね。一体誰にやられたんだい』
息絶え絶えの死柄木が、かっと目を見開いて話した。
「ドラゴンの紋章を宿したオールマイト並のパワーを持つ子供にィ……なんだよ、あの力、意味不明すぎるだろ。メドローアとかいう意味わからない技を使ったガキもいたなぁ……次は絶対に、殺す」
『……へぇ』
「あの邪魔がなければ、脳無は圧勝だった。オールマイトが来て、オールマイトを殺せたかもしれない。ガキが……っ!」
『悔やんでも仕方ない!今回だって決して無駄ではなかったハズだ。精鋭を集めよう!じっくり時間をかけて!我々は自由に動けない!だから君のような『シンボル』が必要なんだ。死柄木弔!次こそ君という恐怖を世に知らしめろ!』
◆
USJでの激しい戦いが終わってから約1時間後。
雄英の保健室は、負傷した生徒たちで少しざわついていた。
出久は一番奥のベッドに横たわり、両腕に薄い包帯が巻かれていた。
点滴が繋がれ、疲労で顔色が悪い。
ポップはベッドの横の丸椅子に座り、弟の様子をじっと見守っていた。
カーテンが静かに開き、小さな影が入ってきた。根津校長だった。
根津はいつもの穏やかな笑顔を浮かべながら、出久のベッドの横まで近づいてきた。
「やあ、緑谷出久君。意識が戻ってよかったね。……まずは、無事で何よりだ。」
出久は驚いて上体を起こそうとしたが、ポップに肩を押さえられてそのままになった。
「校長……!あの……すみません、こんなところで……」
根津は小さく手を振って制した。
「いいんだよ、横になったままで。今日は本当に大変だったね。……それで、聞かせてほしいんだが」
根津はベッドの横にちょこんと座り、出久の右手を見つめた。
「君が戦いの最中に見せた、あの青い光の紋章についてだよ。右手の甲に浮かび上がっていた、竜のような美しい模様……
あれは一体何なのかな?」
出久はビクッと体を硬くした。
「え……あ、あの……それは……」
根津は優しく、しかし鋭い目で出久を見つめ続ける。
「隠さなくていいよ。私はただ、君の安全と、雄英の生徒たちの安全を守りたいだけだ。あの力……君の個性とは違う何か、特別な力のように見えた。もしかして、誰かから受け継いだ力……?それとも、君の中にいる『何か』が関係しているのかな?」
出久は唇を噛み、視線を少し泳がせた。
ポップが横から軽く咳払いをして、助け舟を出そうとしたが、根津は小さく手を挙げて制した。
「緑谷ポップ君も、知っているようだね。……出久君、正直に話してくれないか?あの青いドラゴンの紋章……君が『ダイ』と呼んでいる存在と関係があるのかな?」
出久は驚いて顔を上げた。
「……校長、知ってるんですか……?」
根津はにこっと笑ったが、目は全く笑っていなかった。
「USJのモニター映像は全部見せてもらったよ。君の瞳の色が変わった瞬間や、声のトーンが変わった瞬間もね。
……さて、どうかな?話してくれるかい?」
出久は少し迷った後、深く息を吸って、小さな声で話し始めた。
「……はい。僕の中に……『ダイ』っていう存在がいます。夢の中で出会って……今は時々、こうして力を貸してくれるんです。あの青いドラゴンの紋章は、ダイの力……『ドラゴンの騎士』の証で……」
出久はそこで一旦言葉を切り、ポップの方をチラッと見た。
ポップは小さく頷き、出久の肩に手を置いた。
根津校長は興味深そうに目を細めた。
「ほう……ドラゴンの騎士、ね。面白い。では、その『ダイ』という存在は、君の個性の一部なのかな?それとも……全く別の何か?」
出久は少し困った顔で答えた。
「僕も……よくわからないんです。ただ、ダイは僕の味方で……今日も、みんなを守るために力を貸してくれました……」
根津はしばらく沈黙した後、柔らかく微笑んだ。
「そうか。……ありがとう、出久君。正直に話してくれて嬉しいよ。ただし、これは非常にデリケートな問題だ。校長として、君の体と心の安全を最優先に考えるよ。……今はゆっくり休んでくれ。詳しいことは、また後で聞かせてもらうね。」
出久は小さく頭を下げた。
「は、はい……」
根津は立ち上がりながら、ポップにも声をかけた。
「緑谷ポップ君も、お疲れ様。弟君のことは、君が一番よくわかっているんだろう?何かあったら、すぐに私に連絡してくれ。」
根津は出久とポップの顔を交互に見ながら言った。
「ふふっ、二人とも顔色が悪いね。……それで、例の『大きなバケモノ』の件だけど」
根津は小さくカップを傾けながら、さり気なく続けた。
「あのバケモノ、完全に消滅してしまったようだね。拠がほとんど残っていないのは……少し厄介なことになるかもしれないけど、私はさり気なくフォローしておいたよ。」
出久が慌てて上体を起こしかけた。
「え……校長……!?」
根津は手を軽く振って、落ち着かせた。
「心配しなくても大丈夫。公式報告では『複数のヒーローと生徒の連携により、極めて危険な個性を持つ改造個体を無力化せざるを得なかった』と書かせておいた。……『完全に消滅』という部分は、ちょっとぼかしてあるよ。 『激しい戦闘の末、個性の暴走により本体が崩壊した』という表現にしておいたから、君たちが『意図的に消滅させた』という印象は薄れているはずだ。」
ポップが少し驚いた顔で聞いた。
「……それで、上の方は納得してくれるんですか?」
根津はにこっと笑って答えた。
「私とオールマイトの連名で報告書にサインしておいたよ。 『緊急事態下における生徒の生命を守るためのやむを得ない措置』としてね。……まあ、完全に疑いが晴れるわけではないけど、少なくとも『緑谷兄弟が危険人物だ』というレッテルをすぐには貼らせない程度には、フォローできたと思うよ。」
根津はカップを置いて、少し声を落とした。
「ただし……あの青いドラゴンの紋章と、メドローアとドルオーラの力は、今後もしばらく『要注意』として上層部にマークされる可能性はある。だから、二人はこれからも慎重にね。何かあったら、すぐに私に相談してくれ。」
出久は少し申し訳なさそうに頭を下げた。
「……すみません、校長。僕のせいで……」
根津は優しく微笑んだ。
「謝らなくていいよ、出久君。君は今日、クラスメイトたちを守るために全力で戦った。それが一番大事だ。……ゆっくり休んで、元気になったらまた話そうね。」
根津校長はそう言って、静かに保健室を出て行った。
ポップは根津が出て行ったドアを見つめながら、ため息をついた。
「……さり気なく、ってレベルじゃねえな、あの人。かなり本気でフォローしてくれてるぞ、出久。」
出久は包帯の巻かれた腕を軽く握りしめながら、小さく頷いた。
「……うん。校長、ありがとう……」
◆
事件から数時間後、保健室は負傷した1-Aの生徒たちで少しざわついていた。
出久は一番奥のベッドに横たわり、ポップがその横の椅子に座って見守っている。
二人の周りには、クラスメイトたちが次々と顔を出していた。
お茶子が一番最初に駆け込んできて、ベッドの横で手を握りしめた。
「出久くん……! ポップくんも……!本当に大丈夫? あの時、すごく怖かったよ……出久くんがあの青い光を出したとき、なんか……すごく心配だった……」
お茶子は目が少し赤く、声が震えていた。
飯田はベッドの足元に立ち、背筋をピンと伸ばしたまま真剣な顔で言った。
「出久君! そしてポップ君!君たちがあの化け物を相手に戦ってくれたおかげで、多くの生徒が助かった。
……しかし、出久君の両腕の状態を見たときは正直、心臓が止まるかと思ったぞ。無理はするな。クラス委員として、出久君とポップ君の健康を強く心配している!」
切島は腕を組んで、悔しそうな顔で立っていた。
「すげえよ、出久……ポップも。俺たち、ほとんど何もできなくて……ただ見てるしかなかった。あんなデカいバケモノに立ち向かうなんて、マジで男前すぎるぜ……でも、次は俺もちゃんと戦えるように強くなるからな!」
爆豪は少し離れたところで壁にもたれかかり、腕を組んだまま仏頂面で言った。
「……チッ。デクの分際でよくもまあ……あの化け物をぶっ飛ばしやがって。……お前ら、死ぬんじゃねえぞ。
次は俺がぶっ飛ばしてやるからな」
峰田実は目をキラキラさせながら近づいてきた。
「緑谷兄弟すげえ!あの青い光と赤青の螺旋……マジでアニメみたいだったぞ!でもマジで心配したんだからな! 特に出久の腕がボロボロになってたとき……もう二度とあんな無茶すんなよ!」
クラスメイトたちが次々と声をかける中、出久は少し照れくさそうに、でも嬉しそうに笑った。
「みんな……ありがとう。僕、みんなを守りたくて……頑張っただけなんだけど……」
ポップは弟の頭を軽く撫でながら、クラスメイトたちに向かって言った。
「悪いな、みんな。出久も俺も、ちょっと無茶しすぎたかもな。……でも、お前らが無事でよかったよ。」
お茶子がまた目を潤ませながら言った。
「うん……本当に、二人ともありがとう。 これからは……私たちももっと強くなって、みんなで守り合おうね!」
飯田は大きく頷きながら締めくくった。
「出久君、ポップ君。君たちの勇気と力に、心から敬意を表する。これからもクラスメイトとして、共に頑張ろう!」
保健室に、クラスメイトたちの温かい心配と感謝の声が溢れていた。
出久はみんなの顔を見て、静かに胸の奥で思った。
「(……やっぱり、雄英に来てよかった……)」
いやー戦闘と比べると本当にスムーズに話が進みます。AI君はすごいね