俺の双子の弟は緑谷出久 ~大魔道士ポップと憑依する竜の騎士~   作:篠原えれの

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入学当日

 雄英高校、1年A組教室。

 入学式を終えたばかりの朝。教室はすでにざわついていた。新入生たちが自分の席を探したり、互いに話したりしている。僕とポップ兄ちゃんは一緒に教室に入った。

 ポップ兄ちゃんは周囲の視線を少し感じながらも、平然と僕の隣を歩いている。

 「緊張すんなよ、出久。ここが1-Aだ」

 ポップ兄ちゃんが小さく声をかけてくれた。

 「う、うん……なんかみんな個性が強そうで……」

 僕が自分の席に向かおうとした瞬間、教室の後ろの方から聞き覚えのある声が飛んできた。

 「てめえ……デク」

 爆豪勝己だった。

 いつもの不機嫌そうな顔で、足を机に投げ出してこっちを睨んでいる。

 ポップ兄ちゃんがすぐに僕の前に軽く立った。

 「よお、爆豪。同じクラスか」

 爆豪はポップ兄ちゃんを一瞬見てから、すぐに僕に視線を戻した。

 「うるせえよ、ポップ。問題はこっちのクソデクだ。お前、無個性じゃなかったのかよ?入試で派手に飛んで黒い鞭みたいなの出してたって聞いたぞ。ふざけんじゃねえよ。急に個性が出たとか、ありえねえだろ」

 爆豪が立ち上がり、僕の方へ近づいてきた。

 教室の空気が一瞬でピリッと張りつめる。僕は少し後ずさりながら、必死に答えた。

 「か、かっちゃん……僕もよくわからないんだけど……入試の直前に、なんか……力が使えるようになって……」

 「はあ? ふざけんなよ!!」

 爆豪が突然机を蹴って近づき、僕の胸ぐらを掴もうとした。

 その瞬間、ポップ兄ちゃんが素早く僕の前に割り込み、爆豪の手を軽く払った。

 「おい、爆豪。ここは教室だぞ。弟に絡むのはやめろ。お前も同じクラスなんだから、いい加減にしろ」爆豪はポップ兄ちゃんを睨みつけた。

 「うるせえよ、ポップ!てめえは余裕こいてるからいいけどよ!俺はこいつのこと、ずっと無個性のクソデクだと思ってたんだよ!急に個性が出たとか、ありえねえだろ!何か隠してんじゃねえのか!?」

 

 周りの生徒たちがざわつき始めた。ポップ兄ちゃんはため息をつきながら、冷静に言った。

 「隠してねえよ。出久は本当に頑張ったんだ。お前が何を思ってようと、それは出久の努力の結果だ。

 雄英に入ったんだから、過去のことは一旦置いとけ。これからは同じクラスだろ?」

 爆豪は舌打ちをして、僕を睨みつけたまま言った。

 「ちっ……てめえら兄弟、揃ってムカつくんだよ。特にデク。お前、俺より目立とうとしてんじゃねえぞ。次に絡んできたら、ぶっ飛ばすからな」

 そう言い残して、爆豪は自分の席に戻っていった。

 ポップ兄ちゃんは小さくため息をついて、僕の肩を軽く叩いた。

 「大丈夫か、出久。爆豪の奴、相変わらずだな。でもここは雄英だ。お前はもう、無個性のデクじゃねえ。自分の力で証明していけよ」

 僕はまだ胸がドキドキしていたけど、ポップ兄ちゃんの言葉に小さく頷いた。

 「うん……ありがとう、ポップ兄ちゃん。僕、頑張るよ……」

 その時、教室の前の方から眠そうな声が聞こえた。

 「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 イレイザー・ヘッドが寝袋のような姿で教室に入ってきた。ポップ兄ちゃんが小さく笑って言った。

 僕は深呼吸をして、自分の席に座った。1-Aクラスでの初めての朝。

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 少し変な先生が来たけれど。ポップ兄ちゃんが同じクラスにいてくれて、少しだけ心強かった。

 

 ◆

 

「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」

 相澤が体操服を皆に着るように指示する。

 「入学式、俺等だけどっかに消えたなこれ」

 

 体操服に着替えながら困惑するポップや他の生徒達。

 

 「個性把握テストをする。雄英は自由な校風が売り文句だ。そしてそれは先生側もまた然り。ソフトボール投げ、立ち幅とび、50m走、持久走、握力、反復横とび、上体起こし、長座体前屈。中学の頃からやってるだろ、「個性」禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けてる合理的じゃない。まあ、文部科学省の怠慢だよ」

 相澤先生は淡々と説明を続けた。

「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった」

「67m」

「じゃあ「個性」を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。思いっきりな」

「んじゃまあ、死ねえ!!」

 爆豪の爆破が炸裂し、ボールがものすごい勢いで空高く飛んでいった。

 「爆豪らしいな」

 ポップ兄ちゃんが感心したように空を見上げた。

 相澤先生は結果を表示しながら言った。

 「まず、自分の『最大限』を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段だ」

 

 表示された数字は 705.2m。

 他の生徒たちがざわつき、興奮した様子で「面白そう!」と声を上げ始めた。

 個性を存分に使ってテストできることに、みんな期待を膨らませている。

 

「………面白そうか。」

 

 相澤先生の声が急に低くなった。

「ヒーローにたる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう。」

 

 はああああ!?

 一瞬で凍りついた。

 ポップ兄ちゃんは腕を組んだまま余裕の表情だったし、僕もこの一週間の特訓の成果を思って、意外と落ち着いていた。個性を使って本気でやれば、どうにかなるという自信が少しずつ芽生えていたからだ。相澤先生は薄く笑った。

 

 

 「生徒の如何は先生たちの自由。ようこそ。これが雄英高校ヒーロー科だ。」

 

 

 

 個性把握テストは、予想以上に波乱に満ちたものとなった。

 

 50m走では、ポップ兄ちゃんが「ルーラ」で1.03秒、僕はワン・フォー・オールで0.52秒という常識外れのタイムを記録した。

 爆豪がすぐに「ふざけんなよ!」とツッコミを入れてくるのも、いつものことだった。

 

 握力では、ポップ兄ちゃんが最近頑張って覚えた「バイキルト」を二重に重ねて124.8kgを出し、僕はワン・フォー・オールで握力計の上限を超える999.9kg(∞)を叩き出した。

 

 立ち幅跳びでは、二人とも「トベルーラ」を使って**∞(無限)**を記録。

 ポップ兄ちゃんは「よくやったな」と僕の頭を軽く撫でてくれた。

 

 反復横跳びでは、峰田実がブドウを連発して頑張っている横で、ポップ兄ちゃんはバイキルト二重で安定した記録を出し、僕はフルカウルで動きを加速させてまたも∞を出した。

 

 ソフトボール投げでは、麗日お茶子が無重力で∞を記録した後、僕はワン・フォー・オールで全力投げて∞、ポップ兄ちゃんはバイキルトで力を高め、メラゾーマを纏わせた炎の派手な軌道で∞を叩き出した。

 

 相澤先生はすべての結果を終えて、淡々と言った。

 

 「緑谷兄弟は特に目立つ結果だったな。ただ、派手なだけじゃヒーローにはなれない。

 これからが本番だ。……最下位は除籍と言ったが、今回は見逃してやる。次に同じような結果になったら容赦しないぞ」

 

 爆豪は悔しそうに舌打ちしながら僕たちを睨んでいた。

 

 「チッ……緑谷兄弟、揃ってムカつくんだよ……」

 テストが終わった後、ポップ兄ちゃんが僕の肩を軽く叩いて、小さく笑った。

 「まあ、いいスタートだったろ、出久。これからもっと大変になるけど……一緒に頑張ろうぜ」

 

 僕は頷きながら、心の中で強く思った。

 

 「うん……!ポップ兄ちゃん、ありがとう。僕も、ちゃんと強くなるよ」

 

 1-Aでの初めてのテストは、緑谷兄弟の存在感を強く印象づける一日となった。

 

 

 

 個性把握テストがすべて終了し、1-Aの教室に戻った直後。

 まだ興奮が冷めやらぬ生徒たちが自分の席に着いた頃、爆豪勝己が突然立ち上がった。

 

 「おい、デク!」

 

 爆豪の声が教室に響き渡り、空気が一瞬で張りつめた。

 

 「てめえ……さっきから∞ばっか出しやがって。ふざけんなよ。無個性だったクソデクが、急にそんな力出してんじゃねえよ!何か隠してんだろ!?」

 

 爆豪が僕の席に向かって大股で近づき、胸ぐらを掴もうと手を伸ばした。

 ポップ兄ちゃんが素早く立ち上がり、僕の前に割り込んだ。

 

 「爆豪、落ち着け。テストは終わったけど、ここはまだ教室だぞ」

 

 しかし爆豪は止まらない。掌から小さな爆発がパチパチと火花を散らし始め、苛立ちが頂点に達していた。

 

 「うるせえよ、ポップ!てめえもだ! 推薦のくせに調子こいてんじゃねえ!俺が一番になるはずだったのに、てめえら兄弟が邪魔しやがって……!」

 

 爆豪の個性が本格的に暴発しそうになったその瞬間——相澤先生が無言で立ち上がった。次の瞬間、先生の髪が逆立ち、目が赤く輝いた。一瞬で、爆豪の掌から出ていた爆発の火花がぴたりと消えた。

僕の体に流れていたワン・フォー・オールの力も、ポップ兄ちゃんのフバーハの効果も、すべて消し飛んだ。教室が静まり返った。爆豪が驚いて自分の手を見つめ、声を震わせた。

 

 「……は? おい、何だこれ……!?個性が……使えねえ……!?」

 

 相澤先生は赤い目で爆豪を冷たく見据えたまま、静かに言った。

 

 「個性を消すと、こんなにも無力になる。お前が今感じている苛立ちと無力感……それが本当の自分だ。個性に頼りきりのヒーローなど、俺は認めない」

 

 爆豪は歯を食いしばって相澤先生を睨んだが、個性が消えている今は何もできない。

 相澤先生はゆっくりと個性を解除し、髪を元に戻した。

 

 「……喧嘩したいなら、個性なしでやれ。それとも、ただのガキの喧嘩で満足か?」

 

 爆豪は舌打ちをして、悔しそうに手を下ろした。

 

 「チッ……覚えてろよ、緑谷……」

 

 そう吐き捨てて、爆豪は自分の席に戻っていった。

 ポップ兄ちゃんが小さく息を吐きながら、僕の肩を軽く叩いた。

 

 「危なかったな、出久。相澤先生、無言で来るところが怖いぜ」

 

 僕はまだ胸がドキドキしながら、相澤先生の背中を見つめた。

 相澤先生はこちらを振り返らずに、ぼそっと言った。

 

 「緑谷兄弟……目立つのはいいが、クラスを乱すような真似は控えろ。特に爆豪を刺激しすぎるな」

 

 そう言い残して、先生は教室の後ろの席に座り、寝袋にくるまった。ポップ兄ちゃんが小さく笑って言った。

 

 「これが雄英か……なかなかやるじゃん」

 

 教室に残った緊張の空気の中、僕たちはようやく、今日が本当のスタートだったことを実感した。

 

 

 

 雄英高校の正門を出て、帰り道。夕陽がオレンジ色に道を染めていた。

 僕とポップ兄ちゃんが並んで歩いていると、後ろから明るい声が追いかけてきた。

 

 「出久くん! ポップくん! 待ってー!」

 

 振り返ると、麗日お茶子と飯田天哉が小走りで近づいてきた。

 お茶子は息を少し弾ませながら、笑顔で手を振った。

 

 「やっと追いついた!テストお疲れ様!今日の出久くんとポップくん、すっごかったよ!特に立ち幅跳びとソフトボール投げの∞……どうやったの?私、無重力でふわふわ飛ばしただけなのに、二人は全然違う感じで∞出しててびっくりしちゃった!」

 

 飯田天哉も背筋をピンと伸ばし、メガネを光らせながら真剣な顔で言った。

 

 「私も非常に気になっていた!緑谷出久くん、50m走の0.52秒は驚異的だ。しかも立ち幅跳びで∞……あの加速力は一体どのようなメカニズムで?緑谷ポップくんも、あの炎を纏った投げ方は非常に印象的だった!あの呪文はどのような原理で発動しているのか、ぜひ教えてほしい!」

 

 お茶子が目をキラキラさせて身を乗り出した。

 

 「そうそう! ポップくんの投げ、炎がくるくる回っててすっごくかっこよかった!出久くんは黒い鞭みたいなのも出てたよね?二人とも兄弟なのに全然違う個性で、でもどっちも強くて……なんかすごいね!」

 

 ポップ兄ちゃんは少し照れくさそうに頭をかきながら答えた。

 

 「俺のは呪文って言って、唱えないと使えないんだ。あの炎はメラゾーマを少しだけ乗せただけだよ。派手にやりすぎたかな……」

 僕は少し慌てながら手を振った。

 

 「僕は……まだ上手く説明できないんだけど、力を集中させて投げただけです。お茶子さんの無重力みたいにきれいには飛ばせなくて……ごめんね、なんか派手になっちゃって」

 お茶子がにこにこ笑った。

 

 「ううん、全然! むしろかっこよかったよ!私、無重力でふわふわ飛ばすだけだから、二人みたいに派手なの憧れるな〜」

 

 飯田天哉が真剣に頷いた。

 「確かに! 個性の多様性こそがヒーローの強みだ。緑谷兄弟の力は非常に興味深い。今後とも、切磋琢磨していきたいと思う!特に緑谷出久くん……君の加速力は、私のエンジンとどちらが優れているか、いつか本気で競ってみないか!?」

 

 ポップ兄ちゃんがくすっと笑った。

 「飯田、熱いな。出久はまだ力のコントロールが甘いから、競うならもう少し後の方がいいかもな」

 お茶子が手を叩いて笑った。

 

 「わー、楽しそう!私も混ぜてほしいな!みんなで一緒に強くなれたらいいよね!」

 夕陽が4人の影を長く伸ばす帰り道。

 

 僕はみんなの笑顔を見て、胸が温かくなった。

 

 「うん……!お茶子さん、飯田くん、ありがとう。ポップ兄ちゃんも……これからよろしくお願いします!」

 ポップ兄ちゃんが僕の頭を軽くくしゃくしゃと撫でながら、優しく言った。

 「まあ、こんな感じでやっていこうぜ。1-A、なかなかいいクラスじゃねえか」

 

 お茶子が元気よく手を振った。

 

 「じゃあまた明日ね!みんな、お疲れ様〜!」

 

 飯田天哉も丁寧に頭を下げた。

 「それでは、失礼します!明日も良い一日になりますように!」

 

 4人で別れの挨拶を交わし、僕とポップ兄ちゃんは家路についた。

 ポップ兄ちゃんがぼそっと言った。

 

 「今日は疲れたな……でも、いい感じのクラスだろ?」

 僕は頷きながら、夕陽を見上げた。

 

 「うん……すごくいい感じだった」

 




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