ハセオ草紙!~銀のスプーンを守る大食い美少女と同居して格ゲーで世界を救います~ 作:兵藤晴佳
紫衣里は、うつむき加減に言った。
「私ね……普通の女の子じゃないの」
思わず吹き出さないではいられなかった。
「それは知ってる」
今さら言われるほどのことでもない。
だが、紫衣里の顔は怖いくらいに真剣だった。
「じゃあ……私が1人じゃないって言っても?」
何を言っているのか、さっぱり分からない。
あたりまえのことだから、思ったままを答えた。
「だって、僕がいる」
それが気に入らないらしく、紫衣里は、僕を睨んだ。
「そうじゃなくて……私があと何人もいるっていったら、どうする?」
これだけ食う娘があと何人もいたら、とても養えやしない。
そこで、紫衣里が口を挟んだ。
「そういう意味じゃなくて」
「分かった分かった……たいへんなことなんだ、ってことまでは」
おどけた調子に、紫衣里はちょっと眉をひそめた。
仕返しのように、もったいをつける。
「そう、たいへんな身の上なの、私」
おもむろに頷いた謎の美少女は、再び豊かな胸元に手をやった。
その指先が、すっと差し出したものがある。
僕の目の前で揺れているのは、あの銀色のスプーンだった。
シラノを操る僕の反応速度をこれまでになく高めたあの音が、脳裏によみがえる。
鬼の眼をした老人との戦いのさなかに鳴り響いた、澄んだ音……。
間違いなく、このスプーンの音だ。
これが、ただのお守りなわけがない。
まっすぐな眼が、僕を見据える。
「そう……これを持ってる女の子が、何人もいるの。世界中に」
笑顔の割には低い声が、紫衣里に隠された……というか聞こうと思えばいつでも聞けたことを今、ようやく語り始めた。
僕はスプーンを見つめながら尋ねた。
「いったい、何なんだ……これ?」
紫衣里は、それを引っ込めて、再び胸元に掛けた。
「う~ん……持ってるだけで、お腹空いちゃうぐらい、かな?」
紫衣里はおどけてみせたが、たぶん、腹が減るどころの問題じゃない。
だから、その先を聞くのにも勇気がいる。
「もしかして、それ……」
「言ったら怒るからね」
キッと睨まれて、僕はすくみ上がってみせた。
「はいはい……」
たかがスプーン1つとはいえ、あれだけの力を持つ代物だ。
持ち歩いて、タダで済むわけがない。たぶん、物凄い体力と精神力を消耗するのだ。
あの大食らいは、それを補うためのものなのだろう。
そう思ったところで、紫衣里は険しい顔をすると、上目遣いに僕を睨んだ。
「私だけじゃないんだから」
「そっちかよ」
スプーンのリスクの話で怒られたのではなかったらしい。
それにしても、あれだけの大食らい娘が世界中にいるとは……。