ハセオ草紙!~銀のスプーンを守る大食い美少女と同居して格ゲーで世界を救います~ 作:兵藤晴佳
第2ラウンドが始まると、クレルヴォは逞しい脚で地を蹴って突進してくる。
「
……まずい!
怒りを収束した突きのあまりの速さに、スティックを反対方向に入れて普通のガードを取ることしかできない。
だが、そこにためらいがあった。
……回さなきゃいいんだよ!
そう思いながらも、反応が遅れる。
狩猟刀がガードを貫き、ジークフリートは大きく退くしかなかった。
そこへ、黒い狼が走り込んでくる。
「
2頭の狼が無数の分身を率いて食らいつき、ジークフリートの足を止めるが、反撃の方法はある。
「
竜の幻影の吐く炎が、狼たちを消滅させる。
だが、残った狼の本体とクレルヴォの捨て身の連撃に、ジークフリートは地に伏した。
体力ゲージをわずかに残して生き残ったクレルヴォは、膝をつきながら呟く。
「……Kohtalo…(運命よ……)」
またしても、観客席は重い沈黙に抑え込まれた。
……紫衣里は?
どんな顔をしているか見ている余裕などない。
第3ラウンドが始まっていた。
クレルヴォは肩を弾ませて、ジークフリートの様子をうかがっている。
僕は「強」ボタンで先制攻撃に出た。
「
開始と同時に、黒い狼が走る。
さっきの咬みつきを警戒したが、それはフェイントだった。
「
クレルヴォがジークフリートの首元を掴んで跳躍する。
叩き落したところで、初めて2頭の狼が食らいついた。
地面に叩きつけられたジークフリートはバルムンクを取り落とす。
体力ゲージも激減するが、それはこれでお互いさまになる。
投げ技を使った時点で、クレルヴォも素手なのだ。
着地の瞬間、クレルヴォの方向にスティックを入れて、「投げ」ボタンを押す。
ジークフリートが両腕で抱え上げると、竜の幻影が見るからに禍々しい翼を広げた。
「
画面端まで投げ飛ばすと、クレルヴォが真っ逆さまに落ちる。
その身体を地獄の黒煙が包むと、2頭の狼が寄り添う。
お互いの体力ゲージは、危険領域に入っていた。
気力ゲージ「憤怒」が限界にまで達するには、時間がかかる。
それは、ジークフリートの「竜の血」も同じことだ。
激突の瞬間は、同時に来る。
「
クレルヴォと狼たちとが、争うように狩猟刀と牙との連撃を繰り出してくる。
まだ使っていない返し技で、狼の牙を続けざまに跳ね返す。
「バルムンク
後に続くクレルヴォが狩猟刀を振り上げた。
その瞬間を待って、方向レバーを逆に入れる。
下から前へ。
……痛い!
そして、もう一度。
……構うものか!
「強」「中」「弱」のボタンを同時に叩くと、ジークフリートの背後に竜の幻影が立ち上った。
……行け!
「
竜の咆哮が戦場を震わせた。
炎の中、バルムンクが紅蓮の光をまとって突き進む。
英雄の一閃が黒煙を薙ぎ払い、再び襲い来る2頭の狼を斬り捨てた。
魔剣が貫いたクレルヴォの身体が、大きくのけぞる。
その最後の言葉が、画面に大きく浮かび上がった。
「……Viha… loppuu…(怒りも……終わる……)」
竜の幻影が爆散すると、衝撃波がその字幕を吹き飛ばす。
黒い狼の幻影がクレルヴォを包み込み、静かに消えた。
ジークフリートが剣を突き立てと、片膝をついて神に祈る。