――――――――塚内直正side――――――――
警察署の一室で私はコンビニ弁当を取り出すと、その向かいでオールマイトも弁当箱を机に置いた。今日も騒動を解決してくれたNo.1ヒーローは、やせ細ったトゥルーフォームで〝塚内君と一緒にご飯を食べるのも、久しぶりだね〟と微笑む。
「そうですね。そういえば最近は報告書が早くて助かってますよ。どなたか秘書でも雇われたんですか?」
弁当包みを解いているオールマイトに、私が割り箸をパチンと割りながら訊ねた。
ヒーロー活動には報告書の提出が付いてまわるのだ。だから常に多くの事件へ駆けつけるオールマイトは、その量がとんでもないのであった。
すると彼は少し恥ずかしそうにしながら、〝実は……〟と切り出した。
「イト少女が手伝ってくれているんだよ」
「えぇ!?」
予想外の真実に、私は思わず唐揚げを箸で掴み損ねてしまう。
八木イト、眼前の人物が先日引き取って養女にした女の子である。
私も彼女のことは知っている。なぜなら身辺調査をオールマイトに請われ、少女の身寄りがオール・フォー・ワンの事件により奪われ、以降は孤児院暮らしであることを彼に伝えたのは私だった。少女のプロフィールは頭に入っているが……確かまだ小学生のはず。
「まだ小学生ですよね?」
「うん、そうなんだ……でも、私なんかよりもずっとしっかりしているんだよ」
弁当をつつきながらオールマイトは、養女が複数の人形を操ってテキパキと掃除をこなし、難解な書類もスピーディに片付けることを嬉々として話す。
「私が書類仕事をもたもたとやっているとね、イト少女不は機嫌そうに私から書類を取り上げるんだ。まあ、そんな様子も微笑ましいんだけどね」
困惑しながらも相槌を打つ私に、にっこりと笑う彼の顔は完全に親バカのそれである。
〝……でも〟と続けるオールマイト。
「帰ったときに、おかえりなさいって言ってもらえることが、こんなにも嬉しいなんて私は初めて知ったよ」
それを聞いた時、思わず胸が締め付けられた。
平和の象徴には訪れるのことない平和、束の間かも知れないそれを彼は今享受しているのである。警察としても彼の力になりたいと常々願ってはいるが、如何せん彼でなければ解決ない場面が多かった。
「それを聞いて安心しました。というよりむしろ、嬉しく思います。ヒーローにだって、そういう幸せはなくちゃダメですよ」
「そうだね、ありがとう。でも、ワン・フォー・オールを託そうとしたのに、イト少女には断られちゃったんだけどね」
〝ぶほッ〟と唐突に訪れた衝撃に私はむせてしまった。
少女に……ワン・フォー・オールを継がせる? 彼が個性を譲渡する先を探していることは知っていたが、まさかそれが養女だったとは……
「……ど、どうするんです?」
「もちろんこれからも探すよ。雄英高校の根津校長も協力してくれる。もしかしたらその内、高校の方で教員もやることになるかも知れないね」
まるで何でもないことのように話すオールマイトは、〝む、山菜の辛子漬けが美味しい!〟と弁当に舌鼓を打っている。
見れば、彩り鮮やかながら滋味深そうなおかずが詰められているそれは、今までの男飯弁当とは明らかにちがう。
「もしかして、それも娘さんが?」
「……うん、イト少女が作ってくれるんだ。彼女は食べている私を見て、トップヒーローを餌付けしているなんて征服感があるわ、ってよくニヤニヤしているよ」
あの、その娘さん……ちょっと変では? そう感じたが、あえて彼には言うまい。
満足げに平らげたオールマイトは弁当箱の蓋を閉じ、〝僕の方は、満腹感があるね〟と上手いことを言って、機嫌よさそうにお茶を啜る。
訂正……この人たち、ちょっと変です。
――――――――塚内直正sideここまで――――――――