――――――――トガヒミコside――――――――
イトちゃんが八木のおじさんの子どもになってから、私たちの特訓場所が変わった。
大きなビルの中の訓練場を使わせてもらえるようになったのだ。こんな立派なところを使っていいのかな、といつもためらってしまう私の手を引くのはイトちゃんだ。
イトちゃんとの特訓はハードだ、彼女はどんどん力をつける。
人形に気をとられていると、いつの間にか糸が体にめぐらされているのである。それを急いで切らなければ、糸でそのまま放り投げられてしまうのだ。以前はもっと競《せ》っていたんだけど、イトちゃんも攻撃方法が増えて、最近では私の手が届くところまで近寄るのも一苦労。
私も上達しているし、個性も強まってきたと感じる。
だって今の私は仲良くなった人の血を飲むと、変身だけじゃなく、その人の個性もちょっぴりとだけ使えるようになるのだ。今日は、もらっていた血で炎を出してイトちゃんの攻撃を逃れたら、彼女はびっくりしていたっけ。
特訓の合間、訓練場を出て自販機へと向かって歩く。
私は見つめていた自身の手のひらを握り拳にした。
……でもイトちゃんとの差が……開いていっているような気がする。
――本当にこのままで、いいのだろうか? イトちゃんの隣に立つのにふさわしい自分になれるんだろうか?
そんなことを考えていたら、〝やあ、トガ少女。訓練お疲れ様〟と声が掛けられた。
顔を上げると、その出どころは八木のおじさんである。
「こんにちは。おじさん」
にこやかに手を上げたおじさんに、私は会釈を返す。
思えば、おじさんは謎めいた人だ。
以前、〝訓練場を使わせてくれて、ありがとうございます〟とお礼を言ったときに、彼は〝うん、オールマイトにそう伝えておくよ〟と優し気に笑った。そうなのだ、ここはオールマイトの事務所がある、マイトタワーの一画。おじさんはオールマイトの何なんだろう……マネージャーさんなのかな?
「あの、オールマイトに会うことって、できますか? 聞きたいことがあるんです!」
「うーん……彼は忙しいからね」
腕組みして〝サインならすぐもらって来てあげられるんだけど……〟と唸るおじさんに、〝伝言でもいいのです!〟と詰め寄る私。すると彼も、〝まあ、それくらいならできると思うよ〟と微笑んだ。
「私、イトちゃんの隣にこれからもずっと立っていたいんです! どうすればいいですか?」
懸命に問う私に向けていたおじさんの眼差しが、不意に真剣みを帯びる。
〝本気なんだね?〟とおじさんが質《ただ》すと、途端に周囲の空気がずっしりと重くなった。私はその圧迫感に喘ぎながらも、心を奮い立たせて頷いた。
「……常に人に優しくありなさい。そしてその優しさを貫き通せるよう、強くなりなさい。雄英高校に入って、よく学びよく鍛えなさい」
そう私の肩を叩いて、おじさんは去っていく。
細い背中を見送りながら、私は〝……雄英高校〟と呟いた。私の中でただの憧れが終わった瞬間だった。
その言葉は空気中に溶けるとともに、私の心の中で目標として明確な像を結んだのだ。
――って、あれ……伝言は?
――――――――トガヒミコside ここまで――――――――