中学生3年生になっていた私は、いつものようにヒーロー活動の書類を片付けていた。
その時である、私の目がとある文字列に釘付けになった。ヴィラン騒動の関係者として、そこに爆轟勝己の名前があったのだ。
そうか……これって、ヒロアカの始まりを告げるヘドロヴィランの事件だ!
流動的な異形の体で爆轟勝己を操ったヴィランにヒーローたちが手出しできない中、無個性の緑谷出久だけが彼を救おうと動いた。結局はオールマイトに解決されるが、ここで孤高のヒーローは自身の後継を見出すのである。
見れば、窓辺で俊典さんは視線を暮れなずむ空に向けていた。
帰ってきてからずっとこの調子である。考え込むような表情は、まるで彼の中で何がせめぎ合っているようだ。
私は立ち上がって、物思いにふける俊典さんに声を掛けた。
「何か気になっているのね?」
「……い、いや。大丈夫だよ」
誤魔化すように笑う彼に、私は溜息を吐きながら首を振る。
「そんなわけないでしょ。当ててあげるわ……託したい人を見つけたんでしょう?」
「――ッ⁉」
驚きに一瞬目を見開き、そして彼は降参するかのように微笑んだ。
「……やっぱりイト少女は、お見通しだね。今日、出会った無個性の少年なんだけど、彼にこそワン・フォー・オールは相応しいって思えたんだ……」
無言で先を促す私に、彼は言葉を探しながら確かめるようにゆっくりと話す。
「でも……私の中ではやはりイト少女に継いで欲しいって気持ちもある……それに雄英生徒の候補者も、確かに彼ならと思わせるものがあった……それでも今日会ったばかりの少年に、力を託したいって思ってしまったんだ」
有力な候補者はいるにも関らず、未知数の人物を選んでよいものか。
端的に言えば、こういうことだ。
そんなの好きにすれば良い、誰も俊典さんの人選に文句なんか言わないよ。それに原作を知っている私からすれば、オールマイトの目が正しいことは証明されている。その巨星のような輝きを、緑谷出久はちゃんと自分のものにするのである。
「心は決まっているんでしょう?」
「でも……」
ぐずぐず躊躇う俊典さんを、私は睨みつけた。
そして、〝さっさと行きなさい!〟と思いっきり蹴っ飛ばす。
発破をかけた私に、彼は〝そうだね、目が覚めたよ!〟といつもの笑みを浮かべた。
「ちゃんと面倒みて上げるのよ」
「了解した!」
そう言って白い歯を見せた俊典さんは、窓を開けて猛スピードで虚空へと飛び出していく。
――よし、これで原作準拠のストーリーが展開される。
あとは、私が自身の思うヴィラン道を進み続ければ良いだけだ。きっと近い将来、緑谷出久、爆轟勝己、轟焦凍といったA組のメンバーたちと衝突することだってあるだろう。ニヤリと笑いながら、私は握りこぶしを作ったのだった。
× × ×
雄英高校の合格通知を持つ手を震わせ、私は雄たけびを上げた。
――だぁぁぁぁぁああ、どうしてこうなったぁぁああ!?
国立雄英高等学校、ヒーローを育成するために設立された国立学校の最高峰。
最強で最凶で最恐のヴィランを目指していたはずの私。それがいかなる訳か、綺羅星のようなヒーローたちが生まれる雄英のヒーロー科に推薦合格を果たしていたのである。
晴れて、来年から私はプロヒーローの卵となるわけだ、ヴィランを目指しているのにね!……なんてこった。