はたして張り紙の名前を確認すると、私とトガちゃんはA組に振り分けられていた。どうやら他の原作メンバーに追加された形になったようである。
そして当のA組の教室では、〝机に足をかけるのはやめたまえ!〟と注意する飯田君に、〝うるせぇッ!〟と爆轟君が吼えている。
その二人を遠巻きに、席を探し始めた私たち。
ふいにトガちゃんが、外を眺めていた男の子に呼びかけた。
「――あ、焦凍君ッ!」
ツートンカラーの頭がその端正な顔をもたげて、〝トガか、一緒のクラスだな〟とわずかに微笑んだ。言わずもがな轟君であるのだが……え、二人とも知り合い?
そして、こちらを見上げる彼の顔には火傷の跡が無かったのである。
あれ?……と内心私は怪訝に思ってしまう。彼の火傷跡は、精神を病んでしまった母親に浴びせられた熱湯に由来する。これは彼のトラウマでありつつ、轟家の不和を象徴するものだったはずだ。
「そっちは、八木イトか?」
立ち上がった轟君にトガちゃんが私を紹介すると、彼は〝轟焦凍だ。燈矢兄が世話になってるな〟と頭を下げた。
え、どういうこと?
キョトンとする私に、彼の方も訝し気に首を傾げた。
身に覚えの無いところで歯車が狂い、何かが少しずつズレ始めていた。その私が知らないことが起きていたのは、どうやら何年も前の話なのである。
――――――――轟燈矢side ――――――――
当時、弟妹たちと母さんは、父さんの影に怯えていた。
それでも俺の中では、父さんはやっぱり目指したい目標だった。だから俺はそんな父さんの目を惹くために、無茶な個性訓練を続けていたんだ……それがますます父さんの火に油を注いでいるとは知らずに。
そんな虚しい努力も今となっては過去のものだ。
あの時までの重苦しい雰囲気を偲ばせるものは我が家に何一つない。あの頃、父さんを恐れていた家族は何かの冗談のように思えてくる。
全てのきっかけは、トガヒミコと名乗った変な少女との出会いだ。
俺は昔に思いを馳せた。
――もう、父さんは俺には何も期待してないのかも知れない。
だって個性訓練をやめるように一方的に言われてしまったんだから。それでも父さんにまた認めて、そして褒めてもらうためには、俺は成果を出すしかなかった。
眦まなじりを決して火力を上げていく中、俺の頭にコツンと小石が当たった。
「ってぇな、誰だよッ!」
俺は吼えながら、周囲に視線を走らせる。
〝トガヒミコ。あなた、それじゃあ死んじゃいますよ〟と気配なく背後から掛けられた声に、俺は振り返った。見れば、幼いの少女がつまらなそうにこちらに視線を向けているのである。
「あっち行け、ガキんちょッ! 訓練の最中だ!」
突き放す俺に、〝私、あなたよりずっと強いですよ〟とトガヒミコと名乗った少女は挑発するように笑う。
「あ?」
鋭く睨もうとした瞬間に、俺は少女に組み伏せられていた。
滑るような動きで抑え込まれ、そして首元に突き付けられた刃物。その鈍い銀光に俺は戦慄してしまう。
「ねえ、良かったら、一緒に練習しません? 私、良い場所を知っているのです」
今思えば、俺があまりにも必死だったから、彼女はお節介を焼いてくれたのかも知れない。
× × ×
「イトちゃん、トウヤ君です。えぇと、苗字は……」
「呼べれば、いいわ。トウヤ君ね」
トガに連れられて訪れたマイトタワーの一画、その訓練施設を俺はキョロキョロと見回してしまう。どうやら八木イトという眼前で腕組みした少女は、ここの関係者であるようだ。
いつものようにやってみろと言われ、俺は得意げに炎の火力をどんどんと上げる。
「おバカッ!」
と、少女がいきなり俺の尻を蹴飛ばしたのである。
そして俺の皮膚を指さして怒鳴る八木イトを、俺は怪訝そうに見つめてしまう。聞けば、どうやら俺の体は個性と相性が悪く、既に火傷が生じ始めていたのである。
今更になって自身の体のことを知る。
そうすると、これまで不思議に思っていたことも明らかになってくるのである。
……そうか、だから父さんは俺の訓練を打ち切ったのか。
呆然としていた俺の前に立ち、八木イトはにやりと笑った。
「でも強くなりたいんでしょう? 火力に頼らない戦い方も教えてあげるわ」
――――――――轟燈矢sideここまで ――――――――