――――――――轟冷side――――――――
最近、長男の様子が変わった。
燈矢の思いつめていたような顔が、明るくなったように思う。
それに隠れて個性の練習をしなくなったのも喜ぶべきことだ。
でも、依然として炎司さんが他の子たちを顧みず、焦凍に行き過ぎた訓練を押し付けていた。
良くない……そんなことは分かっているのに、私は炎司さんを止められない。それは私が炎司さんの夢を応援したいと願っていたからかも知れない。
……でも、いつしか私が手にしていたものは、ただ彼への恐怖心だった。
ある時、燈矢が〝付いてきて欲しい場所があるんだ〟と言って私を導いた。
そこはオールマイトの事務所であるマイトタワー。〝大丈夫だからさ〟と笑う燈矢に手を引かれ、私はするすると上層フロアまでに来てしまっていた。
「……燈矢。ここは勝手に来てはいけない場所よ」
息子を制しようとした私の前で、燈矢の姿がどろりとほどけ、次いで少女の姿が結ばれる。
息を呑んで見つめる私に少女は〝いらっしゃ~い♪〟にこりと笑った。
――――――――轟冷sideここまで――――――――
トガちゃんが連れてきたのは、トウヤ君ママである。
トウヤ君は、少し前から特訓を見て上げている中学生の男の子。何でも家は居心地が悪いらしい。そう不満を零す彼を見咎めて、私は保護者の呼び出しに踏み切ったのだ。
彼によれば、父親は兄弟を無視して、末っ子の特訓ばかりをしているらしい。
しかもそれを家族に強いるなんて、まるでエンデヴァーみたいなしょうもない父親である!
なら、そんな家にちょっかいを掛けたってかまいやしないさ……だって私はヴィランになるんだからね。
「えぇと、燈矢はオールマイトに稽古をつけてもらっているのかしら? それでオールマイトが私に御用があると……」
不思議そうにしているトウヤ君ママを、私は不敵な笑みを浮かべて見返した。
「いいえ、私たちがトウヤ君の特訓してあげてるの。そして今日、あなたに用があるのは私!」
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〝言いたいことがあるから来てもらったのッ!〟と睨んでくる小さな女の子に、私はよく分からず〝は、はぁ〟と気の抜けた返事をしてしまう。
すると少女はキッと目を吊り上げ、我が家の至らない点をビシビシと指摘してくるのである。全くもって言い返すことのできない私は、辛うじて微笑みながら〝心配をかけて、ごめんなさいね〟と大人の対応でお茶を濁してしまう。
すると、それが火に油を注いだようで、少女はさらに激昂したように叫んだ。
「もう、全然分かってない! あなたのそういうところがダメなのよ!」
正面きって指を突き付けられ、私は言葉を飲み込んでしまう。
「いい? よく聞きなさい。私の経験上、そういう直情的な男ははっきり言ってポンコツなの。あなたは夫を立てようとするタイプでしょ。だから夫がポンコツだと家族はダメになるの……」
まるで豊富な人生経験を誇るように、幼げな少女は淀みなく語る。
でも、彼女の意見には確かにと思わせられている自分がいた。
「……で、夫をのさばらせておくあなたがダメなのッ!」
再度、その鋭い舌鋒が私に向けられた。
――わ、私のせい……
〝だからやり方を教えてあげるわ〟と言って、少女は険しい表情を解いた。
「良くないと思ったら、睨んで蹴っ飛ばすのよ。ちゃんと怒りをぶつけて、血祭にあげなさい。ポンコツな男はね、躾をしないとダメなのよ! 相手がオールマイトだろうが、エンデヴァーだろうがね」
凶悪な笑みを浮かべる少女に、私はそんな乱暴なと思ってしまうのだった。
――――――――轟冷sideここまで――――――――