私、ヴィランを目指します!   作:Sano / セイノ

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死神の確度

では、個性把握テストの光景をかいつまんで見てみよう。

50 m走ではエンジン音を響かせ2秒台で爆走した飯田君が、クールダウンしていた切島君に突っ込み、立幅飛びでは梅雨ちゃんが単純なジャンプ力で、青山君がレーザー噴射で数十mぶっ飛んだ。握力測定では佐藤君や障子がふんッと力を込めると500kgを優に超え、反復横跳びでは両サイドに設置したモギモギの弾性で、峰田君が分身すら見える速度を生んでいる。そしてソフトボール投げでは爆豪君とお茶子ちゃんが建物を超える遥か彼方まで球を放り、緑谷君もワン・フォー・オールで指を破壊しながら凄まじい記録を叩き出していた。

 

 

それぞれ冗談のような人外スペックを誇っているが、私もこの中の一員。

どうせ除籍がないことは原作知識から知っているので、高を括ってしまう。肩の力を抜いて、糸の個性で何とかできる種目は上位に付けるくらいで抑えておいたのである。

 

 

そして全員の体力テストが終わった。

集まった皆を前に〝残念だが、言わなければならないことがある……〟と相澤先生が告げた。

生死の判決を言い渡される直前の空白。その緊張感に、唾を飲み込む皆……私も空気にあてられて、ちょっと緊張してきちゃうよ。

 

 

「お前ら全員、除籍だ!」

そして、その死の宣告にも等しい一言で全員に衝撃を走る……あれ、そんなはずでは!?

 

 

「何でだぁ!」

食ってかかる爆豪君を捕縛布で即座に縛り上げながら、〝理由が知りたいか?〟と先生は皆に問いかける。

「先生、お願いします。このままでは納得できません」

全員を代弁する形で声を上げたのは飯田君だ。

 

 

「じゃあまずはお前だ、飯田。加速はいいが、止まり切れずに走り終わった前の走者にぶつかっていただろ。ただの体力テストですら安全に配慮できないでどうする。俺はお前らのヒーロー適性を見ると言った、能力を誇れとは言っていない」

「!?」

はっとしたように目を剥いた飯田君。先生の指摘は彼の痛いところを突いていた。飯田君は悔しさを滲ませながら、拳を握る。

 

 

「次に爆豪と麗日、そして緑谷、ソフトボール投げの記録は見事だ。だが、そのボールの落下地点周辺に人がいないか事前に確認してないだろ。それに緑谷はパワーの代償が大怪我では話にならん……」

 

 

滔々とヒーローにあるまじき不注意の数々が相澤先生の口から語られていく。

容赦ない正論でばっさりと切られてゆくクラスメイトたち。誰もが反論できないのは、その指摘は妥当で、こういった些細な油断が大きな事故に繋がりかねないと分かっているからだ。

 

 

「そして八百万に八木、おまえらは俺の目からみても十分だ。だが、上品過ぎて足掻きが足りない。もっと強引に、がむしゃらにでも限界へ手を伸ばせ。プルスウルトラの精神が不足している者に、大きな進歩はない」

 

 

ヤオモモちゃんが悔し気に唇を嚙んだ。

そして先生のダメ出しは私にとっても間違いなく金言だった。どこか慢心していた私は気を引き締めなければならない、と気づかされる。だって最強で最凶で最恐のヴィランを目指しているのだもの!

 

 

誰もが後悔に佇む中で、その暗い雰囲気を破ったのも相澤先生だ

「そして、もう一つお前らに言わなければならないことがある…………除籍は嘘だ」

 

 

……は?

「はあぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!????」

束の間の静寂、そしてそれを裂いて怒号の雄たけびが皆から上がった。

 

 

 

×    ×    ×

 

 

 

「除籍は嘘か。やられたぜー」

「冗談だとは思っていましたが、先生の演技には肝が冷えたましたわね」

相澤先生の背中を見送りながら安堵の息を吐いた切島君に、ヤオモモちゃんも頷いてみせる。安心した空気が徐々に広がっていく中、〝いや、先生の仰ったことはもっともだった。それを糧にしてこれから頑張って行こう!〟と、飯田君が眼鏡を光らせながらまとめたのだった。

 

 

教室に戻る途中、私はヤオモモちゃんに呼び止められる。

「八木さん、そういえばお礼を言えていませんでしたわ。推薦入試の時はありがとうございました。糸で手助けして下さったのは八木さんですわね」

「別にいいわよ、怪我が無くてよかったわ」

彼女はマラソンで一緒だったのである。しのぎを削る受験者の個性と衝突しそうだった彼女を、密かに糸でずらして上げたのだ。私に気づくとは、流石の観察眼である。

 

 

〝それで……お願いなのですが〟とヤオモモちゃんは、気恥ずかしそうに切り出した。

「八木さん、ちっちゃくて可愛いらしいからギュってしていいですか?」

…………は? 

 

 

〝ごめんなさい、母性が溢れてしまって〟と、私はお人形よろしく同級生に後ろから抱きかかえられながら頭を撫でられている。

その様子は端から見たら、完全に姉に可愛がられている妹のそれだ。最強で最凶で最恐のヴィランになるはずが、まるで威厳もへったくれも無い。我がカリスマを完膚なきまでにブレイクしたヤオモモちゃん。

私は憮然としながら、内心彼女に〝この発育の暴力め!〟と思ってしまうのだった。

 

 

「もっとちっちゃくて、可愛いかも知れない俺もいるぞ!」

女子同士のフレンドシップにすかさず現れて、アピールするのは峰田君。

そんな彼には、八つ当たり気味な怒りを込めて私は蹴りをプレゼントした。〝ぎゃぁぁぁぁあああ〟と汚い声を上げながら、虚空に美しい放物線を描く峰田君の矮躯に、〝ツッコみのキレがすごいわ〟と梅雨ちゃんが感心したように拍手する。

どうやら私は、その後ツッコみの師匠と彼女に仰がれていたらしい……なんでやねん。

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