相澤先生の除籍宣告、それ自体は偽りだったが私の慢心を間違いなく戒めた。
今立つ地平を超えて、限界へと手を伸ばさない者に前進はない。自身の個性の練度に、いつまでも胡坐《あぐら》をかいてはいられないのである。
だって私は最強で最凶で最恐のヴィランを目指し、オール・フォー・ワンだってやっつけてやるんだから。できることなら、何だってやっていく!
だから私は、自身の歩みを進めようと思い立ったのである。
そして訪れたのは、サポート科の工房。
ここに潜む雄英随一の天才メカニック、発明少女こと発目明を訪ねたのである。
「ヒーロー科1年八木です、発目明さんいますか?」
私を出迎えたのは、無骨な重機型のマスクを被ったパワーローダー先生だ。
そして、彼が指さしたメカの山から〝何ですか? 私、今忙しいんですけど〟と声が上がった。奇怪な機械に取り巻かれながら、こちらに一瞥も返さず応じる発目さん。
流石はサポート科をして、機械狂いの変人と呼ばれるだけはある。
やれやれと肩を竦めた先生に会釈をして、私は彼女の方に歩き出す。
「あなたの作成したどんな発明品でも、使いこなしてあげると言ったら?」
私の一言に、彼女は手を止めてこちらを見定めるように凝視する。
そして、〝……その殺し文句は効きますねぇ。私の可愛いベイビーを使ってくれる方なら大歓迎です〟と愉快そうに立ち上がったのだった。
――――――――発目明side ――――――――
「――ドールに組み込めばいいんですね?」
確認した私に、眼前の八木と名乗った小さな少女は満足げに頷いた。
「ええ。私の個性、糸ならそれらを精密かつ自在に操作できるから」
〝どんなものだって構わないわ〟と嘯く少女。
私は試しにいくつかのベイビーを渡すと、彼女はそれらを鮮やかに操るのである。
ドッ可愛いベイビーたちが少女の糸によって舞い踊る光景に、私は思わず手を叩いてしまう。
そしてそれと同時に、彼女の弱点も腑に落ちた。卓越した操作性を誇る糸の個性も、瞬間的な攻撃力という点が課題なのだろう。
逆に言えば、私がお蔵入りさせていた攻撃に転用可能なベイビーであれば、彼女は喜んで使ってくれるということだ。しかも八木さんなら十全にアイテム性能を引き出してくれそうなのである。
その期待に、思わず口角が上がってしまう。
「八木さん、良かったら体育祭で私のベイビーたちを使ってくれませんか?」
彼女の協力があれば、私自身が無理を押して体育祭に身を投じる必要がなくなるのである。すると彼女は打てば響くように、〝そう来ると思った、十分に目立ってあげるわ〟と目を細めた。
素晴らしい、この人は上客だ!
沸き起こる歓喜に、私はドッ可愛いベイビーたちを次々と紹介してしまう。きっとこれは私の悪癖なんだろうけど、オタクとはこういう生き物なんだからしょうがない。
〝やっぱり、あなたのアイテムはすごいわ〟と相槌を打っていた八木さん。
彼女は、次なる作品を手にしていた私を制して、とある仕様書を差し出した。
「ねぇ、これにも協力して欲しいの」
それはフルアーマータイプの設計仕様書。だがその奇天烈ぶりに目を疑ってしまう。
普段から奇抜だ何だと揶揄される私だが、こっちの方が余程ぶっ飛んでいる。
「発目さん。これをね、大学で研究している轟燈矢君と協力して作ってくれないかしら。勿論、彼との橋渡しはこちらがつけるから」
紙面から顔を上げた私が目にしたのは、八木さんが投げかける不敵な笑みだった。
轟燈矢、それにしたって轟燈矢ときたか……何年も前にサポート科で最優秀に輝いた先輩だ。だが、彼を有名たらしめているのは、個性を電子データとして置き換える最前線の研究だ。つまりは定量化したデータに基づけば、サポートアイテムを作りやすいのは勿論、個性そのものを技術的にも扱いやすくしたのである。
どうやら、八木さんはそんな大物の若手技術者とも知り合いのようだ。
ますますこのチャンスを見逃せないと、私の方も笑みを浮かべて手を差し出した。
――――――――発目明side ここまで――――――――