私、ヴィランを目指します!   作:Sano / セイノ

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ポケットの中の戦闘訓練1

私と透ちゃんが守る爆弾、その奪取を目論むヒーロー役は障子君と轟君だ。

索敵から戦闘までこなせる障子君、そして制圧力に秀でる轟君。この二人のコンビは難敵に違いない……まあ、相手が私じゃなければね。

 

 

爆弾を押さえてヴィラン側をも一網打尽しようとするなら、初手は轟君の凍結攻撃だろう。

周囲に張り巡らせてた幻糸(見えないくらい細い糸)が、氷結を感知する……ほぅら、やってきた。

私は透ちゃんを招き、糸で自分たちを覆う何枚もの布を素早く織り上げる。

布といっても高密度の硬糸でガチガチなので、もはや壁である。布間の空気層が持つ断熱効果で、私たちに凍結は届かないのである。

外表だけが凍り付いた防殻を解いて、私はにやり笑った。

 

 

その笑みの彼方では、

ヒーロー側の二人に氷を割って伸びた硬糸が巻き付いていたのである。

太さのある硬糸は容易に見切られてしまうため、通常は幻糸を巻き付け、軟糸、硬糸と順によっていくのだが、今回はその必要がない。だって氷が、その下を這っている糸を覆い隠しくれるんだからね。

 

 

二人に巻き付いた糸は、刹那の内にさらにより合わさって、尋常ならざる頑健さを発揮する。力で抗おうとした障子君は動きを封じられ、大地に倒れ込んだ。

彼のパワーで切れない糸を、轟君が切れるはずがない。

 

 

こんな風に縛り上げれば、いっちょ上がりである。

 

 

そう思ったとき、紅炎が轟君を中心に渦巻いた。

その炎の激しさは、私の硬糸すら焼き切っていく程だ……そっか、原作と違って父親との確執がない彼は、卓越した炎熱操作を既にものにしているのである。

 

 

 

――――――――轟焦凍side ――――――――

 

「葉隠の奇襲は要注意だ、俺が索敵しよう」

「いや、一気に凍らして無力化する」

触腕を伸ばす障子を、俺は制して下がらせる。

路面に手をついて力を開放すると、氷結が地を走り、ヴィランが潜む標的のビルをたちまち氷に閉ざした。

 

 

「……すごいな」

その圧倒的な速度と範囲に、障子が隣で息を呑む。

「これで中のやつらも動けないだろ」

ヴィラン側として待ち構えている葉隠と八木には悪いが、これで決着だ。彼女達の個性で俺の凍結を防げまい。

流石に今回は炎熱の出番はないだろう。奪取すべき爆弾に向かって、火炎を使うことはできないからだ。

 

 

鼻を鳴らして踏み出した俺の足元で、氷が大きく軋みを上げた。

怪訝そうに目を凝らすと、まるでそれが合図だったかのように罅ひびが走った氷床から、無数の糸が沸き上がる。

「「なッ!?」」

目を剥いた俺たちに、瞬く間に巻き付くワイヤーのような強靭な糸……一体、何だ!?

 

 

力任せに糸を引き千切ろうとして、失敗した障子が地面に転がった。

横目でそれを見ていた俺は、警鐘を鳴らす自身の直観に従った。まとう火炎で糸を焼き切りながら、とっさに後ろ跳ぶ。

 

 

——刹那、ヒュンッと鼻先を高速で何かが掠めた。

小さな影、その正体はドールだ。

先ほどまで俺がいた場所に、三体の人形が電撃を帯びた棒を突き立てていたのである。

 

 

スタンバトンかッ!?

 

 

眼前の人形が武器を構え直す向こうでは、拘束された障子が人形にスタンバトンを突き付けられている。これでは障子は完全にダウンという判定だろう。

紫電を走らせながら鈍く光る黒鉄の得物に、俺は歯噛みしてしまう。

 

 

……相手の手数がこれだけ、ってことはないだろう。

そう踏んだ矢先、ドールの一団を率いた八木がフリフリのコスチュームを翻しながら、氷の静寂に包まれていたビルから飛び出したのだ。

刹那の内に、交わされた互いの眼光のみが火花を散らす。

 

 

そして人形たちは俺の動きを縫うように飛来する、勿論その手にはスタンバトンを閃かせて。三手、四手と攻め掛かって来るドールを躱すが、いつまでも避け続けられるものではない。

 

 

「穿天氷壁ッ」

俺は炎の噴射で加速して距離をとりながら、もう一方の手で障害となる分厚い氷の防壁を作り出した。

 

 

だが、たちまちの内に絡んだ糸によって、ギリギリと悲鳴を上げていく氷壁。

——そして、わずかな間をおいて派手に砕け散った。

陽光を弾いて散る氷塊の向こうには……八木だけしかいないッ⁉

 

 

彼女がニヤリと浮かべた笑みが、俺に自身の失着を悟らせた。

はたして、砕けて虚空に舞う氷塊の影から、次々と姿を現すドールたち。

頭上から襲い掛かるそれらを前に、俺は大きく息を吸う。

 

 

……やるか!

 

 

まさか入学早々、こんなにも本気を出さざるを得なくなるとは思わなかった。

轟と唸りを上げる灼熱の炎、その尋常ならざる熱量が手に収束していく。空気すらも焦がす紅蓮に、視界が赤く染まった。

さあ、万象を焼き尽くす業火を受けてみろ。

 

 

「赫灼熱拳ッ!」

吼えながら、俺は拳の紅炎を頭上に放つ。

炎が、空をはしった。

 

 

火炎に飲まれた人形たちは、瞬く間に超高温の熱に巻かれ、消し炭となって散っていく。

後に残るのは、大気を局所的に対流させる陽炎の揺らめきばかり。

その揺らぐ景色の彼方、俺はゴスロリ衣装の少女に百戦錬磨の不穏さを見定めていた。

 

――――――――轟焦凍side ここまで――――――――

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