――――――――轟焦凍side――――――――
八木イト……上手くて、手強い相手だ。
糸で拘束して、人形のスタンバトンをフィニッシャーにするのが彼女の一連の戦術。それを担保しているのは、俺らですら容易に絡めとる程の個性の練度だ。
操る糸の変幻自在さこそ優れているが、決め手となる人形を潰してしまえば致命打を持ちえない。糸で拘束されようが、俺なら焼き切ってしまえば済むからだ。
だからこそ、頭上から襲い掛かる人形たちを瞬時に数えたとき。
チャンスの到来に、俺は拳に力を込めた……相手の攻撃手段をまとめて燃やしてやる、と。
業火に巻かれた人形たちが消し炭となって降り注ぐ彼方では、八木が不遜な笑みを投げかけている。だが一体、これから何ができるというのだろうか。
「人形は全滅したぞ。さあ、次はどうするんだ?」
次なる一手を警戒する俺に、彼女は肩を竦めてみせた。
「次なんてないわよ」
「あ?」
途端に衝撃が走り、視界がぐるりと回りながら暗転していく。
……な、何だ?
――――――――轟焦凍side ここまで――――――――
――――――――葉隠透side――――――――
「ど、どうしよう! あの二人、絶対強いよ」
「落ち着きなさい」
バタバタと慌てる私を、人形を引き連れたイトちゃんが制して作戦を語りだす。
……そうなのだ。今回のヴィラン役の仲間は、八木イトちゃんなのだ。
どこか作りものめいた美貌を持つ小柄な女の子、ドールを操る彼女自身がまるでお人形さんのようである。近寄り難いと思わせるのはその見た目のせいで、実際は勝気な尊大さで周囲を引っ張る話しやすい人柄だ。
「まず索敵力が高い障子君は、私の奇襲で行動不能にするわ。これは間違いなく成功すると思う。でも問題は轟君。轟君が初手で捕まらない場合は、私は彼の隙を作ることに専念するから――」
うんうんと相槌を打つ私に、〝――その時は透ちゃんが最後を決めてね〟と彼女はニッと笑った。
「え、私?」
「大丈夫、あなたを見つけることが出来る障子君は行動不能よ。あなたは轟君の隙をついて、一発入れてやればばいいの。自分たちが勝つと疑わない、ヒーロー達に目にもの見せてやりましょう」
「うん、頑張らなくっちゃ!」
と、私はふんすと鼻息を荒くしたのである。
× × ×
寒い、超寒い!
氷結攻撃からイトちゃんが守ってくれなかったら、ヤバかったかも……
ブルブルと体を震わせながら、私は凍りついたビルからこっそりと外に出る。
そこで私が目にしたのは、
高速で繰り広げられる、イトちゃんが操るドール達と轟君の戦いだ。
物量で翻弄する人形の波状攻撃の嵐を、轟君は辛うじて捌き躱し凌いでいく。たまらず距離をとろうと、彼は炎を吹いて加速しつつ氷壁を作り出した。
巻き付いた糸の圧迫で、たちまちの内にひびが入る氷の防御壁。
そして割り砕いた氷塊の影にドールを忍ばせて、イトちゃんは必殺の陣を敷く。
虚空に綾を描いた人形たちから逃れる術はないだろう。
だが、それすら打ち破ったのは、轟君が振るったエンデヴァーと見紛うばかりの火炎の熱拳だった。
空に大輪の爆炎が花開き、炭と化した人形たちが煙を上げながら墜落していく。
……って手に汗握って、状況を説明している場合じゃない!
ど、どうしよう、人形が全部やられちゃったよ!?
慌てて振り返った私が目にしたのは、イトちゃんが浮かべる不敵な笑みだった。
そこで、私はピンと来たのである。
こっちがピンチってことは、相手は優位になってるってことだよね……じゃあ、付け入る隙ができるじゃん!
イトちゃんに対峙して、薄く笑う轟君。
これからまるでクライマックスの一騎打ちでも始まりそうな場面である。だからこそ私はその作劇の定石を無視し、こっそりと彼に忍び寄って、ポコンとその顎に一発グーを入れたのだった。
――――――――葉隠透sideここまで――――――――