――――――――爆豪勝己side――――――――
俺は誰よりもセンスがある、だから強ぇし何だって出来る。
その作り上げた自負を手に、俺はここまで来たんだ。
だけど……だけど、あいつら強すぎる……
眼前で繰り広げられる激闘に、俺は呆然と見入ってしてしまう。それは半分頭(轟焦凍)と人形女(八木イト)、化け物同士の次元の違う対戦だ。
ひょっとして……力を誇っていた俺は、自分が思っているより全然大したことない奴なのかも知れねぇ。
その突き当たった事実に、自分の輪郭がほつれていくように感じた。
そんな時に、
ブツブツブツブツ、と独り言を帳面に書き留めるデクのいつもの姿が目に入った。
それに俺は目を疑ってしまう。
おまえ……あんなもん見せられて、何で平気なんだよ!
湧き上がる感情は、自身の輪郭を保つための身勝手な怒りだ。〝うるせぇ、クソナード!〟と、その矛先をデクに向けて俺は吼える。
そして、対人戦闘訓練の最後の組み合わせが発表される。
ヒーロー側は緑谷出久(個性:超パワー)と麗日お茶子(個性:ゼログラビティ)
ヴィラン側は爆豪勝己(個性:爆破)と飯田天哉(個性:エンジン)
その結果に、俺は歯を剥いて笑う。
ちょうどいい……相手はデクだ、ブッ飛ばしてやらぁ!
× × ×
自分でも分かってんだ。
上下関係を確かめて、力を誇示することでしか安心できない。そんな小っせぇ俺の自尊心の行きつく先は……負け犬なんだ。
俺はデクに、完全に負けた。
あいつは突っかかっていく俺を計算に入れて駆け引きし、攻撃を凌ぎながら勝利のための手を打っていた。デクが建物の一部を破壊したどさくさ紛れて、丸顔(麗日)がメガネ(飯田)の隙をついて爆弾を確保したんだ。
個々の戦闘でも、訓練の勝敗結果でも、俺には良いところが無かった。
自身の輪郭がぐにゃりと歪んだ気がした。
違う、歪んだのは視界だ。
溢れ出そうになる涙を堪えて、放課後になったことを良いことに俺は逃げるように学校を後にする。
帰り道の川沿い堤防、その草っ原に鞄を放って身を投げ出した。
憧れたヒーローの背中を傾いていく夕陽に重ね、その遠さに歯を噛み締める。見上げた空の景色が滲んでいくのは、悔しさのせいだ。
……こんなんじゃ本当に負け犬だ。
負け犬のまま終わらねぇ、絶対に勝ってやる。誰よりも強くなって、No.1ヒーローに俺はなるんだ。
日輪を仰ぎながら意地だけで誓おうとする俺に、さっと影が差した。
見れば、八木が俺を覗き込んでいやがった。
がばりと身を起こしながら、俺は素早く涙を拭って吼えた。
「何だてめぇ。俺を慰めにでも来たつもりかぁ!」
「あんた、私に慰めて欲しいの?」
そう言って、俺の隣にしゃがみ込んだ八木は〝しょうがないわねぇ〟と俺の頭に手を伸ばす。俺はその手を振り払いながら、〝いるか、ボケェ!〟とまなじりを吊り上げた。
「そうね。あんたは、そんなたまじゃないものね」
そして、そのまま腰を下ろした八木。
〝つーか、居座ってんじゃねぇ!〟と追い払おうとする俺を無視して、少女は空に視線を向ける。
「私にはね、目標があるのよ」
「あ?」
唐突に自分語りを始める八木を、俺は睨む。
ふん、他人の目標なんざ知ったことじゃねぇ。どうせ目指したいヒーローの名前が2, 3個出てくるだけだ。
「私はね、最強で最凶で最恐のヴィランになるの」
「……は?」
あまりに想定外の答えに、俺はと毒気を抜かれてポカンとしてしまう。
ヒーロー科に通ってるのに、眼前の女は将来ヴィランになると宣言する。変人奇人を通り越して、もはやとんだイカレ女だ。
「最強で最凶で最恐のヴィランはどんなヒーローにも負けないの。だから私って強いでしょ」
そう言って、にっと八木は俺に笑いかけたのだった。
――――――――爆豪勝己sideここまで――――――――