――――――――相澤消太side――――――――
生徒たちが帰った頃合いを見計らい、そこから始まるのが大人の時間だ。
校内の食堂に集まった教員を見渡して、グラスを持った根津校長が立ち上がる。
「やぁ、諸君。今日は私のお誕生会に集まってくれて、ありがとう!」
「「「違うでしょ!」」」
盛大に乱れ飛ぶツッコみに、校長は気を良くしたように笑う。
「あぁ……そうだった。今日はオールマイト先生の歓迎会だったね。活躍した教え子が帰って来てくれて、私は嬉しく思う。ほら、見てごらん、私の体は喜びにうち震えているよ……まあ、これは早く飲みたいっていう禁断症状なんだけどねッ」
根津校長はまたひと笑いさらった後、グラスを掲げた。
「それでは、新しく来られたオールマイト先生を心から歓迎しよう。乾杯!」
生徒の帰宅後に開かれたのは、教員によるオールマイトのちょっとした歓迎会だ。
ランチラッシュが用意した肴さかながテーブルを彩り、違う卓にはデリバリーでとった飲み物が並ぶ。
これ幸いとばかりに、俺は上手い飯を取り皿にとってどんどん口に放り込んでいく。
そんな俺の元に、痩身の影が〝やあ、相澤君〟と訪れた。
笑みを浮かべながら、すっとビール瓶を差し出したのはトゥルーフォームのオールマイト。俺は彼に酌をさせてしまう。
「ありがとうございます。でも、宴席の主役がそんなことしちゃダメですよ」
「はは、構わないさ」
キンッと互いのグラスを軽く当て、俺はビールを呷った。
対するオールマイトはソフトドリンクだ。この瘦せ衰えた体の原因となった激闘、それで消化器を損傷した彼はアルコールを制限されているのである。
「イト少女に聞いたよ、正論のもとクラス皆して除籍されたって」
……そのことか。
ガキという生き物には年相応の冒険心がある。そしてそれを叶えてしまう力や幸運に恵まれるがあってしまうのだ。気づかず澱のように蓄積していく驕りの欠片に、いつしかそいつは足を掬われる。
俺は親友の死という形で足を救われた本人だ。
その後悔をもう一度味わうのは嫌だったし、生徒たちにも経験して欲しくない。だから俺は生徒のその身に孕んだ驕りを、まずは殺す……それが俺のやり方だ。
内心身構えた俺を見透かしてか、オールマイトは笑みを浮かべたまま首を振る。
「別に苦言を呈したいわけじゃあないよ。むしろお礼を言いたいんだ。彼女の向き合う姿勢がどこか変わったように感じる……それで、相澤君はイト少女をどう見る?」
「……化け物ですね。轟相手に全然本気を出していません」
俺は先日の戦闘訓練の映像を見て思ったことを率直に伝えることにしたのだ。きっと彼もそれを望んでいるから、訊ねたのであろう。
「分かるのかい?」
「ええ、まあ」
こちとら常に相手の力を推し量りながらになる、捕縛布の戦いをしてきたのだ。生徒がどのくらい本気で個性を扱っているかはすぐに分かる。だからこそ彼女は扱いが難しい生徒なのだ。
しばし、八木イトについて意見を交わす俺たち。
そこに、早くも酔いが回り始めているミッドナイトが〝ちゃんと飲んでるかしら!〟と乱入してきたのである。
「オールマイト、指導で悩むことがあったら何でもイレイザーに聞くのよ!」
高らかに笑いながら、俺の背中や頭をバンバンと叩くミッドナイト。無論、酔っ払いに向けた俺の白い目など彼女は微塵も気にもしない。そして、俺の取り皿の料理をつまんで機嫌良さそうに去っていく姿は、まさに嵐のようだった。
だが、これはまだ序の口だ……酔った彼女の本領はここからなのである。
プレゼント・マイクの大声がミッドナイト警報を響かせる。
「ヘイ、盛り上がってるか、アリーナ! ご機嫌のところ悪いが今宵も出たぞ、我らが酒癖の悪いプリンセスが! ハートとストマックをぶち抜かれないように――」
――ガシッ!!
突如として掛けられたヘッドロックが、プレゼント・マイクの演説を止めた。
恐怖に歪めた顔で彼が見上げたのは、邪悪な笑みを浮かべるミッドナイトとその手に握られたグラスだ。
グラスの中で不気味に揺らめくのは、宇宙創成的な色合いの何かだ。
彼女が自作した得体の知れない何かは、胃の中でビッグバンを起こし宇宙を開闢させる。
ミッドナイトは拘束したプレゼント・マイクの口に、〝ほら、飲んでみて〟と嬉しそうにグラスを当てがった。パンパンと必死に腕を叩いてギブアップを伝える後輩を無視して、高笑いしながらその口に原初の宇宙を流し込んでいく。
ピクピクと痙攣しだす同僚に、オールマイトが心配そうな視線を向けた。
「だ、大丈夫かな?」
「いつものことですよ。それにヴィランと戦うのはヒーローの仕事です。あいつにはその仕事を全うさせてやりましょう」
〝ミッドナイトをヴィランって言っちゃってるけど〟と苦笑いするNo.1ヒーロー。それに俺は〝酔ったあの人はヴィランみたいなものでしょう〟と、肩を竦めて返したのだった。
――――――――相澤消太sideここまで――――――――