――――――――相澤消太side――――――――
「……せっかくだから生徒指導に関して助言をもらえないかな。酔っていないときのミッドナイト君にも、君に相談するのが良いって勧められたからね」
「助言ですか?」
〝あの人は〟と頭を掻きながら、俺は思案する。
そもそも俺には、これが良いですよ、なんてアドバイス出来ることなど無い。なぜなら全く違う人間である生徒らに対して、まとめて適用可能な万能な方法なんてものは無いからだ。
しばし悩んだ末に口を開く。
「……こうした方が良いというよりも、こうしない方が良い、ということはありますね。オールマイトさんは緑谷を贔屓しているように見えます……実際そうなんでしょうが。むしろ娘さんをその対象にしないのは意外でした。まあ、俺らも人間なので得手不得手があります。ご自身の個性とよく似ているからこそ、彼にそれだけ期待を掛けているということなんだと思います。でも、あまり良くありませんね」
「……やはり、そうかい」
渋い顔をするオールマイトに、〝ガキどもは、そこらへん敏感ですよ〟と俺は肩を竦めてみせる。
「だから、堂々と正面切って指導できるようにしませんか。それが必要だと、オールマイトは考えているのでしょう? なら、あなたと緑谷だけでなく、生徒もそして教員も、全員が納得できるやり方があればいいんじゃないですか」
――――――――相澤消太sideここまで――――――――
――――――――オールマイトside――――――――
「そうすれば、俺も保護者に連絡する手間が減って助かります」
無造作に伸ばした髪の間からニヤリと笑みを覗かせた相澤君、その意図に私は〝なるほど〟と頷いてしまう。
つまり彼は、大怪我をしないための優先すべき補習である、と緑谷少年を正当な理由のもと呼び出すよう勧めているのだ。それなら、級友らの不必要な嫉妬も生まれることはない。
それに大怪我を避けるための個性コントロールは、早く習得もらわなければ困るのだ。緑谷少年が個性を扱いきれず重傷を負う度に、リカバリーガールには迷惑をかけ、相澤君は保護者にお詫びの手紙を書いている。それらをまとめて解決する案を提示してきたわけである。
一見ズボラに見えてしまう相澤君だが、彼は生徒とその周りのことを非常によく見ている。だからこそ提案できる内容だった。
「ありがとう。同僚としてだけでなく、保護者としてもお礼を言わせて欲しい。イト少女の担任が君で本当に良かったよ」
「わざわざ感謝するようなことじゃありません。きっと娘さんも同じように、次の世代のヒーローたちを導く時が来ますよ」
そう言って、相澤君は遠くを見つめたのだった。
――――――――オールマイトsideここまで――――――――
一方その頃、マイトタワー内の訓練場。
そこではまさに私によって、次世代のヒーロー候補が導かれていたのである。
「だぁああああ!!! 止めろぉぉぉおおおお!!!」
ドップラー効果で高低を変えながら響く叫び声、その発生源は私の糸でブンブンと高速で振り回されている爆豪君だ。
俊典さんと相澤先生のエモい感じのやり取りをぶち壊しているが、しょうがない。これが私のやり方なのである。
個性による自在な機動。
その習得を目指した爆豪君は、まさに今私が操る人形と同じ要領で、尋常ならざる挙動を強いられているのである。トガちゃんの体術とはまた違ったアプローチだ。
〝いいから、動きに慣れなさい〟と見上げる私に、彼は〝くそがぁぁぁああ!〟と吼える。
そして糸から開放された爆豪君は床に大の字に伸びながら、覗き込む私を睨んだ。
三半規管を乱された恨み言か〝……ストップっつっただろ!〟と肩で息をするツンツン頭。
「あんたが、へっぽこなのがいけないんでしょ」
そんな私の安易な挑発に、彼はがばりと身を起こして〝んだと、もう一回だぁぁ!〟と目を吊り上げる。
そうしてまた、高速でぶん回される爆豪君の出来上がりだ。
未だ絶叫とともに振り回されながらも、視線が動きを追い始めている。その飲み込みの速さに、私は内心驚いてしまう。
何年もかけて身に私が付けたことを、彼は早くも掴みかけているのである……やっぱりこいつチートキャラか何かだろ。